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京のかりそめ
第十話「顔面偏差値、異常アリ」
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彩花に促されるまま、私は寮の重厚な木製の扉を開けた。
玄関を抜けると、そこは暖色の光に満たされた、広々としたリビングダイニングだった。吹き抜けの高い天井からは洒落たペンダントライトが下がり、部屋の中央には大きなソファとローテーブルが置かれている。古いが手入れの行き届いた木の匂いと、誰かが淹れたのであろうコーヒーの香ばしい匂いが混ざり合っていた。
「ただいまー」
「おかえりー、彩花。早かったやん」
彩花の声に応えたのは、ソファでくつろいでいた男女四人組だった。
その四人を見た瞬間、私は息を呑んだ。
(眩し……っ)
彩花の言っていたことは、少しも大げさではなかった。
そこにいたのは、まるで雑誌から抜け出してきたかのような、美しい人たちだった。
色素の薄い髪をしたハーフのような顔立ちの男子生徒に、日に焼けた肌が眩しいスポーツマン風の爽やかな青年。そして、モデルのようにスタイルの良い、大人びた雰囲気の女の子と、小動物のように愛らしい、ふわふわした髪の女の子。
「そちらさんは、お客さん?」
関西弁のイントネーションで話しかけてきたのは、大人びた雰囲気の女の子だった。
「あ、うん。紹介するね。この子は橘美緒。私の中学の時の親友で、ご両親の仕事の都合で、しばらくここに住むことになったんだ」
「そうなんや! うちは服部茜。よろしくな、美緒ちゃん」
「私は小野寺結衣! 分からんことあったら、なんでも聞いていいけんね」
愛らしい方の女の子が、人懐っこい博多弁で笑いかける。
あまりのことに頭が追いつかず、緊張で体が固まってしまう。初対面の人と、一度にこんなに沢山……。
しかし、隣に彩花がいてくれることが、唯一の心の支えだった。私はなんとか声を絞り出す。
「あ、あの……橘美緒です。よろしくお願いします……」
その時、ガチャリと玄関の扉が開く音がした。
「ただいまー」
「お、大輝たちおかえり」
リビングに入ってきたのは、またしても二人の男子生徒だった。これで、男子は合計四人。彼らもまた、寸分の隙もなく整った顔立ちをしている。
軽く自己紹介を済ませ、ソファに腰掛けていると、茜ちゃんが「よっしゃ、ご飯にしよかー!」と立ち上がった。どうやら、この寮では朝と夜は全員で一緒に食事をとるのが決まりらしい。
大きなダイニングテーブルには、次々と手料理が並べられていく。私は彩花の隣に座らせてもらい、目の前の光景をどこか他人事のように眺めていた。
みんな、本当に仲がいいんだな。方言もバラバラで、個性も強そうなのに、まるで一つの家族のように、楽しそうに笑い合っている。
そこは、温かくて、居心地の良さそうな空間だった。
それなのに、私の心には薄い膜が張ったように、その輪の中に入りきれない。
私は、ここにいてはいけない人間だから。
皆の笑顔が眩しいほどに、私の孤独は色濃くなっていく。
賑やかな食卓の中で、私はふと、彩花が言っていた人数を思い出していた。
女子は三人。これで全員だ。
でも、男子は五人、と言っていなかっただろうか。
まだ、会っていない人が、もう一人いる。
その人物こそが、私の運命を大きく狂わせる元凶になることなど、この時の私は知る由もなかった。
玄関を抜けると、そこは暖色の光に満たされた、広々としたリビングダイニングだった。吹き抜けの高い天井からは洒落たペンダントライトが下がり、部屋の中央には大きなソファとローテーブルが置かれている。古いが手入れの行き届いた木の匂いと、誰かが淹れたのであろうコーヒーの香ばしい匂いが混ざり合っていた。
「ただいまー」
「おかえりー、彩花。早かったやん」
彩花の声に応えたのは、ソファでくつろいでいた男女四人組だった。
その四人を見た瞬間、私は息を呑んだ。
(眩し……っ)
彩花の言っていたことは、少しも大げさではなかった。
そこにいたのは、まるで雑誌から抜け出してきたかのような、美しい人たちだった。
色素の薄い髪をしたハーフのような顔立ちの男子生徒に、日に焼けた肌が眩しいスポーツマン風の爽やかな青年。そして、モデルのようにスタイルの良い、大人びた雰囲気の女の子と、小動物のように愛らしい、ふわふわした髪の女の子。
「そちらさんは、お客さん?」
関西弁のイントネーションで話しかけてきたのは、大人びた雰囲気の女の子だった。
「あ、うん。紹介するね。この子は橘美緒。私の中学の時の親友で、ご両親の仕事の都合で、しばらくここに住むことになったんだ」
「そうなんや! うちは服部茜。よろしくな、美緒ちゃん」
「私は小野寺結衣! 分からんことあったら、なんでも聞いていいけんね」
愛らしい方の女の子が、人懐っこい博多弁で笑いかける。
あまりのことに頭が追いつかず、緊張で体が固まってしまう。初対面の人と、一度にこんなに沢山……。
しかし、隣に彩花がいてくれることが、唯一の心の支えだった。私はなんとか声を絞り出す。
「あ、あの……橘美緒です。よろしくお願いします……」
その時、ガチャリと玄関の扉が開く音がした。
「ただいまー」
「お、大輝たちおかえり」
リビングに入ってきたのは、またしても二人の男子生徒だった。これで、男子は合計四人。彼らもまた、寸分の隙もなく整った顔立ちをしている。
軽く自己紹介を済ませ、ソファに腰掛けていると、茜ちゃんが「よっしゃ、ご飯にしよかー!」と立ち上がった。どうやら、この寮では朝と夜は全員で一緒に食事をとるのが決まりらしい。
大きなダイニングテーブルには、次々と手料理が並べられていく。私は彩花の隣に座らせてもらい、目の前の光景をどこか他人事のように眺めていた。
みんな、本当に仲がいいんだな。方言もバラバラで、個性も強そうなのに、まるで一つの家族のように、楽しそうに笑い合っている。
そこは、温かくて、居心地の良さそうな空間だった。
それなのに、私の心には薄い膜が張ったように、その輪の中に入りきれない。
私は、ここにいてはいけない人間だから。
皆の笑顔が眩しいほどに、私の孤独は色濃くなっていく。
賑やかな食卓の中で、私はふと、彩花が言っていた人数を思い出していた。
女子は三人。これで全員だ。
でも、男子は五人、と言っていなかっただろうか。
まだ、会っていない人が、もう一人いる。
その人物こそが、私の運命を大きく狂わせる元凶になることなど、この時の私は知る由もなかった。
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