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京のかりそめ
第十一話「噂の寮長」
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寮での生活が始まって、三日が過ぎた。
彩花をはじめ、寮の皆は本当に親切だった。私が事情を抱えていることを察してか、誰も深くは詮索せず、自然に輪の中へ入れようとしてくれる。
日中は一人で図書館へ行き、元の世界に帰る方法や、この世界のことを調べる。そして夜は、皆と温かいご飯を食べる。
穏やかで、優しい時間。
もし私が普通の高校生だったら、この生活を心から楽しめていたかもしれない。でも、私の心は常に、正体不明の不安と、帰れないかもしれないという恐怖に苛まれていた。
その日の夕食も、賑やかな会話が飛び交う中で、私はどこか上の空で箸を進めていた。
ふと、彩花が思い出したように口を開いた。
「そういえば最近、イオリ先輩と全然会わないね」
『イオリ』。初めて聞く名前に、私は顔を上げた。
彩花の言葉に、スポーツマン風の大輝さんが苦笑しながら応える。
「あー、寮長はなぁ。今は生徒会の仕事が立て込んでて、めちゃくちゃ忙しいらしいで」
「寮長って?」
私がぽつりと呟くと、皆の視線が一斉に私に集まった。
彩花が「あ、そっか。美緒はまだ会ってなかったね」と手を叩く。
「もう一人、ここの寮に住んでる男子がいるんだよ。西園寺伊織先輩。私たちの一個上で、高校三年生なんだけど」
すると、関西弁の茜さんが、目をきらきらさせながら話を引き継いだ。
「その人がな、『寮長』って呼ばれてんねん! 寮長は学校では生徒会長をやってて、成績は常にトップ。スポーツも万能で、おまけにあの見た目でしょ? まさに完璧超人って感じの人やねん」
完璧超人。
この寮に来てから、すでに眩しい人たちを散々見てきたというのに、どうやらその上を行く人物がいるらしい。
「まあ、ちょっと出来すぎてる分、たまに気味悪いとこもあるけどな。でも根はええ奴やから、気負わんと話したらええねん」
物静かな翔太さんが、そう付け加えた。
気味悪い。その一言が、やけに私の心に引っかかった。
「伊織先輩が淹れてくれるコーヒー、すっごく美味しいっちゃん。はよ飲みたいなあ」
結衣ちゃんが、うっとりとした表情で言う。
どうやら、彼は皆から一目置かれ、慕われている存在のようだ。
(西園寺伊織……寮長……)
会ったこともないその人のことを、私は想像してみる。
生徒会長で、成績優秀、スポーツ万能。おまけに、この寮のメンバーが敵わないほどの美形。
一体、どれだけすごい人なんだろう。
同時に、胸の奥で小さな棘がちくりと刺さった。
そんな完璧な人と、今の私が会ったとして、まともに話せるわけがない。
ますます、自分がこの場所に不釣り合いな、惨めな存在に思えてならなかった。
私は、早くこの話が終わってほしいと願いながら、黙って白米を口に運んだ。
彩花をはじめ、寮の皆は本当に親切だった。私が事情を抱えていることを察してか、誰も深くは詮索せず、自然に輪の中へ入れようとしてくれる。
日中は一人で図書館へ行き、元の世界に帰る方法や、この世界のことを調べる。そして夜は、皆と温かいご飯を食べる。
穏やかで、優しい時間。
もし私が普通の高校生だったら、この生活を心から楽しめていたかもしれない。でも、私の心は常に、正体不明の不安と、帰れないかもしれないという恐怖に苛まれていた。
その日の夕食も、賑やかな会話が飛び交う中で、私はどこか上の空で箸を進めていた。
ふと、彩花が思い出したように口を開いた。
「そういえば最近、イオリ先輩と全然会わないね」
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彩花の言葉に、スポーツマン風の大輝さんが苦笑しながら応える。
「あー、寮長はなぁ。今は生徒会の仕事が立て込んでて、めちゃくちゃ忙しいらしいで」
「寮長って?」
私がぽつりと呟くと、皆の視線が一斉に私に集まった。
彩花が「あ、そっか。美緒はまだ会ってなかったね」と手を叩く。
「もう一人、ここの寮に住んでる男子がいるんだよ。西園寺伊織先輩。私たちの一個上で、高校三年生なんだけど」
すると、関西弁の茜さんが、目をきらきらさせながら話を引き継いだ。
「その人がな、『寮長』って呼ばれてんねん! 寮長は学校では生徒会長をやってて、成績は常にトップ。スポーツも万能で、おまけにあの見た目でしょ? まさに完璧超人って感じの人やねん」
完璧超人。
この寮に来てから、すでに眩しい人たちを散々見てきたというのに、どうやらその上を行く人物がいるらしい。
「まあ、ちょっと出来すぎてる分、たまに気味悪いとこもあるけどな。でも根はええ奴やから、気負わんと話したらええねん」
物静かな翔太さんが、そう付け加えた。
気味悪い。その一言が、やけに私の心に引っかかった。
「伊織先輩が淹れてくれるコーヒー、すっごく美味しいっちゃん。はよ飲みたいなあ」
結衣ちゃんが、うっとりとした表情で言う。
どうやら、彼は皆から一目置かれ、慕われている存在のようだ。
(西園寺伊織……寮長……)
会ったこともないその人のことを、私は想像してみる。
生徒会長で、成績優秀、スポーツ万能。おまけに、この寮のメンバーが敵わないほどの美形。
一体、どれだけすごい人なんだろう。
同時に、胸の奥で小さな棘がちくりと刺さった。
そんな完璧な人と、今の私が会ったとして、まともに話せるわけがない。
ますます、自分がこの場所に不釣り合いな、惨めな存在に思えてならなかった。
私は、早くこの話が終わってほしいと願いながら、黙って白米を口に運んだ。
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