龍の腕に咲く華

沙夜

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金色の鳥籠

優しく見えた月

そんな些細な出来事が積み重なり、二ヶ月、三ヶ月と月日が流れる頃には、私の心は恐怖一色ではなくなっていた。
夕食の席での沈黙は、もう苦痛ではなかった。時折交わす短い会話が、ぎこちないながらも心地良いとさえ感じ始めていた。

その日の夕食後、私が部屋に戻ろうと立ち上がった時だった。
「待て」
低い声に呼び止められる。ゆっくりと振り返ると、湊さんは私ではなく、控えていた従業員に視線を向けた。

「厨房から、用意させておいたものを持ってこい」

従業員が差し出したのは、小さな箱に入ったモンブランだった。私がずいぶん前にシゲさんとの車中での会話で、「最近、無性に食べたくなる時があるんです」と、ぽつりと漏らしたケーキ。

「……これ…」
「…口に合うか、わからないけど」

湊さんは私から目を逸らし、ぶっきらぼうにそう言った。
ありがとう、と言うべきなのに、言葉が出なかった。
出会った頃の彼なら、もっと違う言い方をしただろうか。「よければどうぞ」とでも言って、完璧な笑みを浮かべたかもしれない。今の無愛-想な態度は、彼の中で私が「他人」ではなくなった証なのだろうか。それとも、ただの気まぐれか。
彼の行動一つ一つに、私の心が大きく揺さぶられていることだけは確かだった。

その夜、いつものように彼の隣で布団に入る。
身体の緊張は、もうほとんどなかった。隣に眠る男は、やはり恐ろしい。けれど、それと同じくらい、目が離せない人になっていた。もっと、この人のことを知りたいと思ってしまっている自分に気づいて、戸惑う。

初めて、私は彼の穏やかな寝息を聞きながら、安心して眠りに落ちていた。
檻の中から見上げた月は、いつの間にか、とても優しく見えるようになっていた。そしてその優しさが、私がここにいる理由を、少しずつ変えていってしまいそうな予感がした。
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