その「好き」はどこまで本気ですか?

沙夜

文字の大きさ
29 / 38
華やかな嘘と本当の涙

感じるはずのない胸の痛み

しおりを挟む
化粧室の重い扉が閉まると、パーティーの喧騒が嘘のように遠ざかった。訪れた静寂の中で、私は洗面台に両手をつき、鏡の中の自分を睨みつける。
マスカラが僅かに滲んだ、泣き出しそうな顔の女。ひどい顔だった。

(どうして、こんなに痛いんだろう)

私たちは、付き合っているとは言い切れない。彼が誰と親密そうにしていても、私には何も言う権利はない。頭では、痛いほど理解している。
それなのに、胸の真ん中が、まるで抉られたように、ずきずきと痛むのだ。

今まで、彼と交わしてきた「大好き」という言葉。それは、親しい友人同士の、ノリのようなものだと思っていた。本気になったところで、報われるはずがないから。そうやって、無意識に自分の心に予防線を張っていた。

――ああ、そっか。
鏡の中の女が、答えを教えてくれる。

私は、とっくの昔に、本気でサイラスのことが好きになっていたんだ。

その身も蓋もない事実に気づいてしまったら、もう、涙を堪えることはできなかった。ぽろぽろと、止めどなく涙が溢れてくる。
公園で、知らない女性にキスをされていた時も、快い気分ではなかった。けれど、今回の痛みは、比べ物にならない。相手が、あの噂の女優だから。彼の隣に立つのが、あまりにもお似合いの、美しい女性だから。

(私は彼の『本命』にはなれない)

もし万が一彼と付き合えたとしても、きっと私はこれから先、彼の周りの華やかな女性たちに、こうして心をかき乱され続けるのだろう。
そう思ったら、あの曖昧で心地よかった関係のままの方が、ずっと幸せだったのかもしれない、とさえ思えた。

しばらくして、涙は枯れた。
私はポーチから化粧品を取り出すと、崩れたメイクを、丁寧に、時間をかけて直していく。まるで、脆くなった自分の心に、上から仮面を貼り付けていくように。
鏡の中の女は、また、完璧な笑顔を作っていた。

「……よし」

小さく呟き、自分に喝を入れる。
私はもう一度パーティーの喧騒の中へと戻るため、化粧室の扉にそっと手をかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嘘コクのゆくえ

キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。 生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。 そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。 アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで…… 次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは…… 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。 作者は元サヤハピエン主義を掲げております。 アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

ひとつ屋根の下

瑞原唯子
恋愛
橘財閥の御曹司である遥は、両親のせいで孤児となった少女を引き取った。 純粋に責任を感じてのことだったが、いつしか彼女に惹かれていき――。

婚約破棄のために偽装恋人になったら、ライバル店の天才パティシエに溺愛されすぎています

草加奈呼
恋愛
大学生の佐藤天音は、 “スイーツの神の舌”を持つことで知られる、洋菓子店の一人娘。 毎年、市内のスイーツコンテストで審査を務める天音は、 そこで出会った一人のパティシエのケーキに心を奪われた。 ライバル店〈シャテーニュ〉の若きエース イケメン天才パティシエ・栗本愁。 父に反対されながらも、どうしてももう一度その味を 確かめたくて店を訪れた天音に、愁は思いがけない言葉を告げる。 「僕と、付き合ってくれないか?」 その告白は、政略的な婚約を断つための偽装恋人の申し出だった。 そして、天音の神の舌を見込んで、レシピ開発の協力を求めてくる。 「報酬はシャテーニュのケーキセットでどうかな?」 甘すぎる条件に負け、 偽装恋人関係を引き受けたはずなのに── いつの間にか、愁の視線も言葉も、本気の溺愛に変わっていく。 ライバル店×コンテストでの運命の出会い×契約恋人。 敏腕パティシエの独占愛が止まらない、 甘くて危険なシークレットラブストーリー。 🍨🍰🍮🎂🍮🍰🍨 ※恋愛大賞に参加中です。  よろしければお気に入り、いいね、  投票よろしくお願いいたします。

婚活に疲れたアラサーOLの私、癒やし的存在の弟分(高校生)に「もう待てない」と外堀を埋められています ~10年分の執着は、甘すぎて重すぎる~

ダルい
恋愛
「29歳? 子供産むならもっと若い子がよかったな」  中堅企業で働く早川結衣(29)は、婚活市場における年齢の壁と、デリカシーのない男たちにすり減らされる日々を送っていた。  そんな結衣の唯一の癒やしは、マンションの隣に住む幼馴染の高校生・瀬戸湊(16)。  両親が共働きの彼に代わって、幼い頃はお世話をしてあげていた……はずが、いつの間にか立場は逆転。 手料理を振る舞われ、愚痴を聞かれ、マッサージまでされる始末。「湊がお嫁さんならいいのに」なんて冗談を言っていたけれど。 「今の結衣姉が一番綺麗だよ。……早く、誰も手出しできない『おばさん』になってくれればいいのに」  可愛い弟分だと思っていた彼が、時折見せる『オス』の顔。 16歳の高校生と、もうすぐ30歳のアラサー。  13歳差の常識と理性に抗いながら、生意気な年下男子に外堀を埋められていく、甘くて重い現状維持(ラブストーリー)。 「俺が大人になるまで、誰とも結婚しないで」 癒やされたいすべての女性に贈る、最強の年下幼馴染による溺愛包囲網、開始。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

処理中です...