幼女と執事が異世界で

天界

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第2章

21,トイレ

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 食堂への扉を潜ると、中は朝だというのに割と賑やかだ。
 一仕事前に食べていく人も多いのだろう。夕食の時と同じような格好をした冒険者然とした人や見るからに傭兵といった感じの強面の人で、テーブル席の半分くらいは埋まっている。
 昨日いた仕事帰りのような人は見受けられないが、それでも結構な活気だ。
 昨日と同じカウンター席に行く前に、ちょっとトイレに行きたくなったのでアルに朝食の注文を頼んでおいた。
 トイレは宿屋の方も2階に上がってすぐにもあったが、今朝は行っていない。
 昨日も結局草原でした以来だし割りと危険域だ。
 ちなみに草原でしたときは、大自然の解放感を十分に味わいながら……なんてことはない。気配察知があるとはいえ、警戒しながらだったので解放感もくそもない。ネズミの肉しか食べてないので大きい方じゃない。もちろん小さい方だった。

 食堂の方にもトイレはあり、ちゃんとトイレと書かれている。共通語だったのでばっちり読めた。
 中は普通の個室が2個だけ。
 2つ共空いていたので、手前の個室に入ると木蓋がしてあった。ずらしてみると匂いは特にしない。和式ではなく洋式の便座なのはありがたい。
 一見しただけでトイレとわかるのも嬉しい。異世界なのでトイレが一見しただけでそれとわからないような物だったら困り物だからな。ただの瓶や桶がトイレと言い張られたら泣くしかない。

 ぱっと見は汲み取り式のように見える。やはり水洗とまではいかないようだ。
 扉を閉めてしっかりと鍵をする。鍵はスライド式の簡単な鍵だ。蹴ったらすぐに破れそうな簡易すぎる扉だが、トイレを無作為に蹴り破る馬鹿はそうそういまい。
 蓋を便座の横に置いて中を覗いてみるとあまり深くない。匂いもあまりしないのは不思議だ。蓋の意味あったのだろうか。
 ズボンとカボチャパンツを下ろして便座に座って用を足す。
 女の子の体というのは……まぁアレだ。ちょっと難しい。なにが難しいかは……ほら、アレだ。うん。

 ちなみにトイレットペーパーなどと言う上等な物は当然ない。代わりに柔らかい葉っぱが何枚もおいてある。
 これで拭けということか。
 草原で用を足したときは、生えてる草で綺麗そうなのを選んで拭いてみた。
 きちんと選んだおかげでかぶれることもなかった。ちなみに何種類か選んでアルにしっかりと浄化もかけてもらってから使用したので万全だ。
 トイレすら手伝おうと着いて来ようとしたアルにはちょっとびっくりした。そこまでお世話はいらん。さすがに恥ずかしいし。

 置いてある柔らかい葉っぱは、トイレットペーパーの代わりには十分に機能する代物のようだ。拭いてみると結構いい感じ。
 きちんと拭いて蓋をするが……匂いが少しする。
 蓋をしてから気づいたが、便器の横に砂が置いてあった。
 もしかしてこれを糞尿の上にかけて置くのだろうか。
 木製のスコップのような桶のような何かもあるので、一応念の為砂をかけて見た。
 チラっと見えていた自分の汚物に砂がかかると途端にぼろぼろと乾燥していく。匂いも急速にしなくなっているような気がする。
 何この砂こわい。
 でもどっかで乾燥地帯のトイレは砂をかけて乾燥させるみたいなことを聞いたことがある。ぼろぼろに乾燥して嵩が減り、消臭効果もある便利な砂だ。
 しっかり砂をかけてから蓋を置き直して閉める。

 個室を出て、置いてあった中くらいのサイズの水瓶――オレの胸くらいまでの大きさの――から桶で水をすくって手を洗う。


 食堂に戻ってアルが座っているカウンター席に行くと、席を立って何気ない仕草でハンカチを渡してくれる。


「ん。ありがとう」

「ワタリ様の従者として当然のことです」


 ハンカチを返すとそのまま席に着く。アルもオレが席に着くと隣に腰掛けてしばしの間朝食が来るのを待つ。
 しかし、トイレの使い方はあれであっていたのだろうか。なんとなく気になってしまう。
 食事処だし、トイレの話をするのも憚られる気がしたので念話ですることにした。


【アル、質問だ。トイレの使い方なんだけど、砂が置いてあったんだけどあれは匂い消し用? 個室の外に置いてあった水瓶は手洗い用だよね?】

【答えはどちらも是。大小どちらも用を足した場合は砂をかけて乾燥させて匂いを消しておくのがマナーにございます。
 水瓶の近くに追加用の砂もあったはずですので、個室を使用する前には必ず確認するのがよろしいかと愚考致します。
 水瓶の水は使用後は、水瓶に戻さずそのまま排水する場所があるので流してしまうのもマナーでございます】

【了解ー。水洗式なんて上等な物はさすがにないよねー】

【答えは否。大掛かりな屋敷などでは稀に存在するようです。
 その他にも魔法を使って流すという方式の物もあるようです。
 ですが、そのどれも最高級の宿に泊まっても見れるかどうかは難しい物です】

【へー……。まぁいつか家とか持つ必要があったら考えるかねぇ】

【それでよろしいかと愚考致します】


 たった1日だというのに念話にもすでに違和感がなくなっている。慣れるにしてはちょっと早すぎる気もするが、そういえば贈り物の特殊スキルで1つだけ詳細を聞いていないスキルがあったのを思い出した。


  " 成長率増加Lv10 " だ。


 なんだかんだと結構忙しくて忘れてた。
 思い返してみれば、数回の戦闘で攻撃の正確さや足運びなんかが、妙に上達していた。
 たった数度短剣を実践で使用しただけで、一振りで首を切り落とすという芸当まで出来ていた。
 一度も使ったことのない羽ペンが数文字書いただけで、異常なほど上達もしていた。
 これはこの特殊スキルの恩恵と考えていいのではないだろうか。
 成長率が増加するスキルだと考えると言葉通りだがわかりやすい。
 成長率というのがどこまで作用するのかも問題だと思う。もし体の成長まで左右するのなら、今まで感じた上達速度から考えても、あっという間に育ってしまうのではないだろうか。
 それはちょっと怖い。
 念の為確認はしておくべきだろう。


【アル、質問だ。特殊スキルの成長率増加Lv10は体の成長にも影響するのか?】

【答えは否。身体の成長に関してはこのスキルは効果を及ぼしません。
 影響を及ぼすのは主に技術となります。
 成長率増加Lv10は、常人が1ヶ月かかる技術の習得を3日ほどに短縮する効果を持っています。
 もちろんワタリ様の得意分野にあたる技術に関してはそれ以上の習得速度になります】

【なるほど。成長率は技術のみなのね。
 でも約10倍の成長率か。すごいな】

【創造神様からの贈り物故、通常のスキルとは桁が違います】

【何にせよありがたいことだ。存分に活用させてもらおう】


 念話がちょうどいいところで朝食が運ばれてくる。
 昨日も夕食を運んできてくれた給仕の女性だ。朝食を受け取る時、にっこりと艶のある笑みをアルに向けていた。
 特にリアクションもしなかったアルがこちらの前に朝食を置いてくれる。
 メニューは目玉焼きと色の薄い野菜スープとウインナーが2本。あとは昨日と同じ山盛りのパンだ。
 朝食にこんなに食べられないと思うが、この世界ではお昼は軽く摘む程度だったのを思い出した。
 朝食をがっつり食べないともたないのだろう。ならばがっつり食べることにする。


「いただきまーす」

「いただきます」


 2人でしっかりと手を合わせてから食べ始める。こっちの世界での食前の作法とかは特にないのだろうか? アルもオレに合わせて両手を合わせてやっているし。

 朝食の味は普通だ。目玉焼きは何の卵か知らないけど、至って普通の卵の味で塩だけ。
 胡椒はかかっていない。オレは胡椒を少し振り掛ける派なのでちょっと物足りない。
 野菜スープは昨日の夕食のスープとは違って薄めだ。でもこれはこれで美味しい。
 割と好みの味付けで満足。
 ウインナーも何の肉かはわからなかったけど、シャクっと音が鳴るくらいの歯ごたえでネズミの肉とは違うようで結構美味しい。
 パンは夕食で出てきたクロワッサンだ。朝はトーストってイメージだったが、別にクロワッサンでも問題ない。ふわふわで美味しかった。

 朝はカウンターにはマスターの姿はなく、厨房の方にもいないようだ。
 ちなみにカウンターから厨房が少し見える。
 色取り取りの酒瓶が並ぶ棚の隙間から覗くように見えるのだ。
 夜遅くまでやっている酒場兼任のようだし、まだ寝ているのかもしれない。

 朝食をたっぷりと食べて、マスターの代わりに給仕をしていた女性からアルが鍵を受け取る。
 その時の女性の顔が何か色っぽく艶があり科を作っていた。アルに何事か言っていたけど気にする必要もない。
 まぁうちの執事君は割りとイケメンですからな。仕方あるまい。
 そういうナンパは自分で処理したまえ。オレが関知することではない。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 部屋に戻ると少し腹ごなしに休憩する。
 別に急いで買い物に行く必要性もない。のんびりしよう。
 昨日は歩いたり転移したりで結構強行軍だったし、生き急いでも仕方ない。

 ベッドに腰掛けてぼーっとしていると、アルがテーブルの上に置いてあったベルト付きポーチと短剣の点検をしている。
 点検といっても道具も何もないので、故障部位がないかどうかを軽く見る程度だ。
 続いてクローゼットに閉まった防具を取り出して同じように点検していく。
 装備用の手入れの出来る道具と縫い物用の針と糸とかも買った方がいいかなーと、買い物リストにどんどん追加していく。

 しかしこの執事君はよく働く。何も言わずとも武器防具の手入れや点検なんかもしてくれるし、体も拭いてくれる。
 扉なんかもちゃんと押さえてくれるし、部屋に入る際はまず安全を先に確かめてくれる。
 チュートリアルブックの化身なので、基礎の基礎知識なら網羅しているし忠誠心もマックスだ。
 オレのことをちゃん付けで呼んだりすると、ちょっと機嫌がよろしくなくなるところなんかはどうかと思うけど、言えばすぐに矛も収める。
 そういえば、昨日適当に脱ぎ散らかしたベルトはきちんとテーブルの上に置いてあるし、靴も揃えてあった。細かいところまでしっかりと行き届いている。
 しかも料理も出来るらしいし、つくづく出来る執事だなぁ。
 なんだかアルがいるだけで相当怠けてしまいそうだ。気をつけなければ。

 防具の点検も終え、問題なかったようでクローゼットにそれらを仕舞い直す。マントは畳まれて、ベルト付きポーチと短剣はテーブルの上のマントの上に置かれている。
 そろそろ食休みもいいかな、とベッドを下りる。


「じゃぁ、そろそろ買い物行こうか」

「畏まりました。では、失礼します」


 一言断ってから、テーブルの上に置いてあったベルト付きポーチを腰につけてくれる。
 もちろん短剣も一緒だ。マントもしっかりと着せてくれる。
 買い物に行くだけなのに武器が必要なのだろうか。まぁでも何があるかはわからない。
 ここは異世界で、元いた世界とは違うのだから。
 アルが短剣も付けてくれなかったら、置いていっただろう。
 前世では短剣なんて持ち歩いたら、銃刀法違反で職質されたら任意だけど意味わかるよな? ってなっちゃうからな。習慣がなかったのだから仕方ない。
 これからは武器は常に携帯するようにしないとな。朝食の時は宿内の食堂だったから、アルもうるさくは言わなかったのかもしれない。
 でも今度からはきちんと持っていこう。冒険者や傭兵もたくさん来る食堂だし、何があるかわからない。

 部屋を出るとアルが施錠するのを待ってから階段を下りる。
 ぎしぎしと音の鳴る階段を下りると、カウンターにはマスターが居た。


「やぁお出かけかい?」

「はい、これから買い物に行って来ようかなーと」

「そうかい。裏通りは柄が悪いのが多くて危ないから近寄らない方がいいよ」

「わかりましたーありがとうございますー」


 マスターの助言にしっかりとお礼を言うと、にっこりと微笑んでくれる。
 アルがマスターに部屋の鍵を渡すと差し出した手を掴んで宿のドアを潜り、町へと繰り出した。
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