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第4章
81,大群
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ビッグホーネットの巣跡地から少し離れた丘の上で少し遅めの昼食を摂る事にした。
この丘の上は他の場所より少し高くなっているため近づいてくるものがいればすぐにわかる。
気配察知があるとはいえ、目視ですぐに確認できるというのは非常に安心できる。
オレとアルのお昼はいつも通りマスターにお願いしておいた小さめのサンドイッチだ。
毎回サンドイッチだけど、中身が微妙に違っていて毎日でも楽しめる。
一方レーネさんは携帯食料を少しだけ。
なんだかちょっと寂しい食事だ。魔物が闊歩する場所なのだから歩きながらでもすぐに食べられてアイテムボックスの枠を埋めなくてもいいようなものになるとこうなってしまうのだろう。
ソロメインのためアイテムボックス拡張も行っているだろうが、それでも必要最低限のもので埋まってしまうのだろう。
オレ達と違って日帰りの依頼ばかりではないだろうし。
でもせっかく一緒に食事を摂っているのだし、味気ない携帯食料だけではやっぱり寂しいのでサンドイッチをレーネさんにも分けてあげることにした。
レーネさんはオレの分の食料が減ってしまうと最初は断っていたけど、なら携帯食料と交換ということにしてみた。
尚も渋るレーネさんだったが、美味しいですよ? と鼻先にサンドイッチを持っていくとついに我慢できずに首を縦に振ってくれた。
ちなみに携帯食料は所謂乾パンで、味も素っ気もないものだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
軽く昼食を摂り、残りの依頼であるハウンドドッグを探すことにした。
荒地ではそれなりの量生息しているハウンドドッグだが、まだ一度も見ていない。
単独でいることはあまりなく、ほとんど群で活動している。
つまり発見すると最初から団体を相手にすることになる。
まぁだが、奇襲さえ受けなければ接近するまでに大分数を減らせるだろうことは想像に難くない。
接近されてもアルがいるのでそこまで怖くもない。
もしアルの防御を抜けてきても正直特殊進化個体の攻撃すら避けられたオレなら問題にもならないはずだ。
だからといって油断はするつもりもないが。
途中で2組の冒険者と出会ったが、発見即方向転換だったので特に何があるわけでもなかった。
片方の組はスマッシュマウス4匹を相手に奮戦しているところだった。
大の大人が自分の膝下以下の生物を相手に憤怒の形相で剣や槍を奮っているのはちょっと引いた。
しかもなかなか攻撃が当たらずかなり焦っていたのもそれに拍車をかけた。
結局結末がどうなったのかはわからないが、冒険者側も4人居た為まず負けることはないだろうとは思う。
無傷かどうかは別としても。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ビッグホーネットの巣跡地から30分ほど探索した辺りで岩陰に12匹の反応が出た。
こちらは風上。どうやら匂いか何かでこちらを把握して待ち伏せしていたようだ。
気配察知がなかったらそのまま奇襲を受けていたかもしれない。
【ワタリさん、魔物の待ち伏せです】
オレが気づいた時にはレーネさんも気づいていたようで、すぐに教えてくれた。
気配の大きさからして中型犬くらいの大きさだ。
岩陰の奥に一匹だけ大型犬サイズのヤツもいるが恐らくこいつがリーダーだろう。
群でいるところといい、数といい、サイズといい、ハウンドドッグで間違いあるまい。
【岩を迂回するように魔法を使います。アルは零れたのが向かって来たら迎撃】
【畏まりました】
せっかく一塊になって待ち伏せてくれているので一網打尽を狙うつもりで魔法を使ってみることにした。
ハウンドドッグ達が隠れている岩は大きな卵型の岩だ。
上から曲射的に風の矢を雨あられと降らせてみようと思う。
使用魔法を初級魔法:風にしたのは当然風の矢ならば視認しづらいからだ。
威力をそこまであげず、数を念頭に置いて風の矢を合計24本作り射出する。
風を切る音が一瞬したあと予定軌道通りに進む矢が見えなくなり……複数の犬の悲鳴が一斉に響いた。
岩陰から抜け出てきたハウンドドッグの数は2。
どうやらリーダー格と運の良かった1匹以外は全滅したようだ。
だが、この2匹も追撃の風の円月輪で首を切り落とされすぐに仲間と同じ運命を辿ることになった。
こちらの被害は当然まったくなしで12匹のハウンドドッグを仕留めることが出来たので上々だろう。
念の為岩陰のハウンドドッグの死体に薄く延ばした炎の絨毯を被せてみる。
死んでいなかった場合の窮鼠の一撃を懸念してだ。追い詰められるとこの手の生物は怖いものだ。
だが炎を被せても動くものは居らずどうやら完全に全滅しているらしいことがわかった。
死体もこの程度の薄い炎では消えることもなく、アルの解体により素材になっていく。
オレはいつも通りにシートを広げて桶に水をいれて準備万端だ。
解体はポーター兼任であるアルの役目だ。仕事を奪ってはいけない。
ちなみにレーネさんからは素晴らしい攻撃でした、とお褒めの言葉を授かっている。
依頼達成まで残り8匹。
素材を綺麗にしてからアイテムボックスに回収し、探索を続ける。
しかし5分も経たないうちに前方から勢いよく団体さんが駆けて来るのが目に入った。
【なんだろあれ。アル一応警戒ね】
【畏まりました】
【あれは……恐らくブルラッシュの群ですね。この荒地では1番の強敵です。
ですがブルラッシュは移動中は刺激しなければ攻撃してきませんので無視することをお奨めします】
【ブルラッシュですか。なんか牛みたいだ。素材はやっぱり牛肉なのかな?】
【答えは是。通常の固体でもそれなりに美味な赤身肉を残します。レア素材となりますと薄く霜の入った柔らかい肉となります】
【……よし、狩ろうか!】
【畏まりました】
レーネさんが少し苦笑していたけれど、霜降り肉食べたいです。
ブルラッシュの進路はオレ達よりも大分右よりの方向だったので急いでそちらに移動して待ち構える。
砂塵を上げて突き進むその群は名前に負けない勇猛さだ。
近づくにつれ数も把握でき始める。
どうやらかなりの数で移動しているようだ。全部で20頭以上いそうだ。
この荒地で1番の強敵らしいので油断せず、かといって倒したあとの死体を轢き消されないように注意を払いながら初撃を放った。
まず群の後半に斜めに突き出すように氷の槍衾をぶち当てる。
突進のような勢いの移動から一転氷の槍衾による槍撃でバランスを崩したブルラッシュが転倒し、盛大な土煙をあげていく。
死体がダメージを受けて消滅しないことを祈りながら、群前半へと攻撃を開始する。
群後半への攻撃から若干の時間差を持って前半部分にも同じように氷の槍衾を叩き込むと大部分のブルラッシュは群後半に攻撃したときと同様に土煙を上げて転倒する。
それなりに距離があったが結構派手に土煙があがってなかなかにド迫力だった。
気配察知の50m圏外だったので土煙が晴れるまでブルラッシュがどのくらい生き残ったのはまだわからない。
だがあれだけの数の槍と相当なスピードからの転倒。
かなりの数は仕留められたはずだ。願わくば死体が消滅していないことを祈るのみだ。
荒地の乾いた風が土煙を根こそぎ払い、結果が見えてくる。
見える範囲で動いているブルラッシュは皆無。
消えた死体もなしとくれば結果は最上といってもいいだろう。
【お見事です、ワタリさん】
【さすがは我が主。このアル、感服致しました】
【いやーうまくいってよかったー】
レーネさんは拍手で、アルは優雅に一礼して戦果を褒めてくれる。
一応ブルラッシュは動かないけれど数が多いので恒例の炎の絨毯を使って確認してから解体へと移った。
20匹程度居たのだが運が悪かったのかなかなかでないからレアなのか、霜降り肉はなかった。
その代わり赤味肉や内臓系がごっそり手に入った。
すぐに洗って綺麗にしてからアイテムボックスに回収する。
今日は帰ったら焼肉かな。
いやいやアルに何か作ってもらうのもいいかもしれない。実に楽しみだ。
ちなみに食べられない素材ではブルラッシュの角なんてのもあったので、ネーシャにあげようと思う。
彫り物に使えそうな素材だったからだ。
素材を回収し終え、レーネさんが早くこの場を離れた方がいいというので移動を開始しようとしたのだが……。
ブルラッシュが転倒した時の派手な土煙などで結構騒ぎになったらしく、そのお零れに預かろうとハウンドドッグやらたくさんの種類の魔物が結構な数集まってきていた。
なるほど、レーネさんが急がせるわけだ。
死体は解体しなければそのまま残る。
ダメージを与えすぎれば消滅するが、ある程度までなら損傷しても大丈夫だ。
だから体の大きいブルラッシュなんかは相当損傷しても大丈夫らしく、死体を食らおうとする魔物が集まりやすい。
死体はダメージで消滅するとはいってもある程度離すか、食べてしまうなどすると消滅しないらしい。
だが、解体で得られるような品質の肉は死体から剥ぎ取れないそうだ。
魔物が喰い散らかす程度の肉でしかないらしい。
素材に関しては言わずもがな。品質など比べ物にならないそうだ。
そんなわけで荒地で盛大な土煙をあげるものなんて限られているのであれほどの騒ぎを起こしてしまうと、死体目当ての魔物が続々と集まってくるというわけだ。
先陣を切ってきたのは足の速いハウンドドッグと、グレージャガーの群だ。
グレージャガーは小型の灰色の豹で中型犬サイズのハウンドドッグより若干小さいが小柄な分だけ足が速い。
同じ位の距離だったのにグレージャガーの方が早くこちらにたどり着きそうだ。
当然2種類の魔物の群は違う方向から来る。
その後にも見通しのいいこの場所からは違う魔物の群が接近しているのも見える。
だがとりあえず1番近いグレージャガーから処理することにする。
どっちにしろ距離が離れすぎている相手とは戦えないしな。
結構な数が迫って来ているのもあり、先ほどまでは見学していたレーネさんも腰の長剣を引き抜き戦闘態勢だ。
アルも盾を構え接近してきた魔物からいつでもオレを守れるように待機している。
オレはといえば、当然攻撃だ。
先ほどのブルラッシュのときに使った氷の槍衾は結構消費が少ない割りに高威力だった。
駆けて来る突進力もプラスしてカウンター気味に当たっていたのも理由のひとつだろう。
なので今回も同様の戦法で行く。
そこそこ距離を詰めたグレージャガーの群に氷の槍衾を発動させ、先頭を駆ける3匹をまとめて串刺しにし、駆ける勢いが止まらずそのまま槍に突っ込んだ残りを含めてグレージャガー7匹は一瞬で全滅した。
次はハウンドドッグだ。
こちらも駆けてくるのは変わりないので同様に氷の槍衾をかます。
こっちの方が数が多いので少し範囲を広げたのだが、リーダー格がいるのか動きがグレージャガーより格段によく、先頭の6匹を仕留めただけに終わった。
残りは9匹。
槍衾を2手に別れて迂回するように接近してくる残りのハウンドドッグのうちの右翼側に氷の槍衾を盾にして軌道を隠した氷の円月輪を3つ投射する。
狙い違わず右翼側のハウンドドッグの4匹を切り裂いた円月輪はそのまま後方に待機しているリーダー格に迫る。
結果を確認せず左翼側にも同様に円月輪を投射する。
投射後すぐに犬の悲鳴が響きダメージを与えることが出来たことを確信した。もしかしたらそれで倒せているかもしれないが氷の槍衾の後ろにいたので狙いは正確ではない。
ちなみに左翼側は全滅だ。
綺麗に真っ二つになった死体が4つ分転がっている。
あれで消滅しないのだから相当喰っても大丈夫なんだろう。
一応依頼分はこれで達成だ。
まだ解体していないが第2陣の群が接近してくるのも見える。
ハウンドドッグの群のリーダー格にも一応止めを刺しておきたいので複数転移で一気に槍衾の後方に転移する。
月陽の首飾りからすぐにMPを回収して備えたが、少し大きなリーダー格は4分の1くらいになって細切れ状態だった。
陰になって見えない状態だったのによくここまで正確に当たったものだ。恐るべし器用補正。
アルにハウンドドッグの解体を指示して、オレはグレージャガーの方に単独転移する。
レーネさんもハウンドドッグの解体を手伝いにいってくれるそうだ。
グレージャガーは数も少ないのですぐに回収も済んだ。今回は時間もないので綺麗に洗っている暇がないので帰ったら綺麗にしよう。
時が止まっているアイテムボックスでも砂まみれの素材を入れておくのはどうかと思う。
転移を使わずアル達のところに小走りで戻ると素材を回収する。
そろそろ第2陣が来るかと思ったが、どうやら第1陣だったハウンドドッグとグレージャガーが瞬殺されていたのが見えていたらしく、転進してしまっていた。
「ありゃ、終わり?」
「答えは是。そのようにございます」
【ワタリさんなら大丈夫だったと思いますが、止めなかった私が言うのもなんですが、あまり無茶はいけません】
【そうですね。依頼分は終わってるし、今日はこの辺にして帰りますか】
【はい、そうしましょうか】
荒地に来るような低ランクの冒険者だったら確実に餌にされていただろう数の魔物と交戦した割には、緊張感の欠片もないオレ達はのほほんとした空気のまま荒地を後にするのだった。
この丘の上は他の場所より少し高くなっているため近づいてくるものがいればすぐにわかる。
気配察知があるとはいえ、目視ですぐに確認できるというのは非常に安心できる。
オレとアルのお昼はいつも通りマスターにお願いしておいた小さめのサンドイッチだ。
毎回サンドイッチだけど、中身が微妙に違っていて毎日でも楽しめる。
一方レーネさんは携帯食料を少しだけ。
なんだかちょっと寂しい食事だ。魔物が闊歩する場所なのだから歩きながらでもすぐに食べられてアイテムボックスの枠を埋めなくてもいいようなものになるとこうなってしまうのだろう。
ソロメインのためアイテムボックス拡張も行っているだろうが、それでも必要最低限のもので埋まってしまうのだろう。
オレ達と違って日帰りの依頼ばかりではないだろうし。
でもせっかく一緒に食事を摂っているのだし、味気ない携帯食料だけではやっぱり寂しいのでサンドイッチをレーネさんにも分けてあげることにした。
レーネさんはオレの分の食料が減ってしまうと最初は断っていたけど、なら携帯食料と交換ということにしてみた。
尚も渋るレーネさんだったが、美味しいですよ? と鼻先にサンドイッチを持っていくとついに我慢できずに首を縦に振ってくれた。
ちなみに携帯食料は所謂乾パンで、味も素っ気もないものだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
軽く昼食を摂り、残りの依頼であるハウンドドッグを探すことにした。
荒地ではそれなりの量生息しているハウンドドッグだが、まだ一度も見ていない。
単独でいることはあまりなく、ほとんど群で活動している。
つまり発見すると最初から団体を相手にすることになる。
まぁだが、奇襲さえ受けなければ接近するまでに大分数を減らせるだろうことは想像に難くない。
接近されてもアルがいるのでそこまで怖くもない。
もしアルの防御を抜けてきても正直特殊進化個体の攻撃すら避けられたオレなら問題にもならないはずだ。
だからといって油断はするつもりもないが。
途中で2組の冒険者と出会ったが、発見即方向転換だったので特に何があるわけでもなかった。
片方の組はスマッシュマウス4匹を相手に奮戦しているところだった。
大の大人が自分の膝下以下の生物を相手に憤怒の形相で剣や槍を奮っているのはちょっと引いた。
しかもなかなか攻撃が当たらずかなり焦っていたのもそれに拍車をかけた。
結局結末がどうなったのかはわからないが、冒険者側も4人居た為まず負けることはないだろうとは思う。
無傷かどうかは別としても。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ビッグホーネットの巣跡地から30分ほど探索した辺りで岩陰に12匹の反応が出た。
こちらは風上。どうやら匂いか何かでこちらを把握して待ち伏せしていたようだ。
気配察知がなかったらそのまま奇襲を受けていたかもしれない。
【ワタリさん、魔物の待ち伏せです】
オレが気づいた時にはレーネさんも気づいていたようで、すぐに教えてくれた。
気配の大きさからして中型犬くらいの大きさだ。
岩陰の奥に一匹だけ大型犬サイズのヤツもいるが恐らくこいつがリーダーだろう。
群でいるところといい、数といい、サイズといい、ハウンドドッグで間違いあるまい。
【岩を迂回するように魔法を使います。アルは零れたのが向かって来たら迎撃】
【畏まりました】
せっかく一塊になって待ち伏せてくれているので一網打尽を狙うつもりで魔法を使ってみることにした。
ハウンドドッグ達が隠れている岩は大きな卵型の岩だ。
上から曲射的に風の矢を雨あられと降らせてみようと思う。
使用魔法を初級魔法:風にしたのは当然風の矢ならば視認しづらいからだ。
威力をそこまであげず、数を念頭に置いて風の矢を合計24本作り射出する。
風を切る音が一瞬したあと予定軌道通りに進む矢が見えなくなり……複数の犬の悲鳴が一斉に響いた。
岩陰から抜け出てきたハウンドドッグの数は2。
どうやらリーダー格と運の良かった1匹以外は全滅したようだ。
だが、この2匹も追撃の風の円月輪で首を切り落とされすぐに仲間と同じ運命を辿ることになった。
こちらの被害は当然まったくなしで12匹のハウンドドッグを仕留めることが出来たので上々だろう。
念の為岩陰のハウンドドッグの死体に薄く延ばした炎の絨毯を被せてみる。
死んでいなかった場合の窮鼠の一撃を懸念してだ。追い詰められるとこの手の生物は怖いものだ。
だが炎を被せても動くものは居らずどうやら完全に全滅しているらしいことがわかった。
死体もこの程度の薄い炎では消えることもなく、アルの解体により素材になっていく。
オレはいつも通りにシートを広げて桶に水をいれて準備万端だ。
解体はポーター兼任であるアルの役目だ。仕事を奪ってはいけない。
ちなみにレーネさんからは素晴らしい攻撃でした、とお褒めの言葉を授かっている。
依頼達成まで残り8匹。
素材を綺麗にしてからアイテムボックスに回収し、探索を続ける。
しかし5分も経たないうちに前方から勢いよく団体さんが駆けて来るのが目に入った。
【なんだろあれ。アル一応警戒ね】
【畏まりました】
【あれは……恐らくブルラッシュの群ですね。この荒地では1番の強敵です。
ですがブルラッシュは移動中は刺激しなければ攻撃してきませんので無視することをお奨めします】
【ブルラッシュですか。なんか牛みたいだ。素材はやっぱり牛肉なのかな?】
【答えは是。通常の固体でもそれなりに美味な赤身肉を残します。レア素材となりますと薄く霜の入った柔らかい肉となります】
【……よし、狩ろうか!】
【畏まりました】
レーネさんが少し苦笑していたけれど、霜降り肉食べたいです。
ブルラッシュの進路はオレ達よりも大分右よりの方向だったので急いでそちらに移動して待ち構える。
砂塵を上げて突き進むその群は名前に負けない勇猛さだ。
近づくにつれ数も把握でき始める。
どうやらかなりの数で移動しているようだ。全部で20頭以上いそうだ。
この荒地で1番の強敵らしいので油断せず、かといって倒したあとの死体を轢き消されないように注意を払いながら初撃を放った。
まず群の後半に斜めに突き出すように氷の槍衾をぶち当てる。
突進のような勢いの移動から一転氷の槍衾による槍撃でバランスを崩したブルラッシュが転倒し、盛大な土煙をあげていく。
死体がダメージを受けて消滅しないことを祈りながら、群前半へと攻撃を開始する。
群後半への攻撃から若干の時間差を持って前半部分にも同じように氷の槍衾を叩き込むと大部分のブルラッシュは群後半に攻撃したときと同様に土煙を上げて転倒する。
それなりに距離があったが結構派手に土煙があがってなかなかにド迫力だった。
気配察知の50m圏外だったので土煙が晴れるまでブルラッシュがどのくらい生き残ったのはまだわからない。
だがあれだけの数の槍と相当なスピードからの転倒。
かなりの数は仕留められたはずだ。願わくば死体が消滅していないことを祈るのみだ。
荒地の乾いた風が土煙を根こそぎ払い、結果が見えてくる。
見える範囲で動いているブルラッシュは皆無。
消えた死体もなしとくれば結果は最上といってもいいだろう。
【お見事です、ワタリさん】
【さすがは我が主。このアル、感服致しました】
【いやーうまくいってよかったー】
レーネさんは拍手で、アルは優雅に一礼して戦果を褒めてくれる。
一応ブルラッシュは動かないけれど数が多いので恒例の炎の絨毯を使って確認してから解体へと移った。
20匹程度居たのだが運が悪かったのかなかなかでないからレアなのか、霜降り肉はなかった。
その代わり赤味肉や内臓系がごっそり手に入った。
すぐに洗って綺麗にしてからアイテムボックスに回収する。
今日は帰ったら焼肉かな。
いやいやアルに何か作ってもらうのもいいかもしれない。実に楽しみだ。
ちなみに食べられない素材ではブルラッシュの角なんてのもあったので、ネーシャにあげようと思う。
彫り物に使えそうな素材だったからだ。
素材を回収し終え、レーネさんが早くこの場を離れた方がいいというので移動を開始しようとしたのだが……。
ブルラッシュが転倒した時の派手な土煙などで結構騒ぎになったらしく、そのお零れに預かろうとハウンドドッグやらたくさんの種類の魔物が結構な数集まってきていた。
なるほど、レーネさんが急がせるわけだ。
死体は解体しなければそのまま残る。
ダメージを与えすぎれば消滅するが、ある程度までなら損傷しても大丈夫だ。
だから体の大きいブルラッシュなんかは相当損傷しても大丈夫らしく、死体を食らおうとする魔物が集まりやすい。
死体はダメージで消滅するとはいってもある程度離すか、食べてしまうなどすると消滅しないらしい。
だが、解体で得られるような品質の肉は死体から剥ぎ取れないそうだ。
魔物が喰い散らかす程度の肉でしかないらしい。
素材に関しては言わずもがな。品質など比べ物にならないそうだ。
そんなわけで荒地で盛大な土煙をあげるものなんて限られているのであれほどの騒ぎを起こしてしまうと、死体目当ての魔物が続々と集まってくるというわけだ。
先陣を切ってきたのは足の速いハウンドドッグと、グレージャガーの群だ。
グレージャガーは小型の灰色の豹で中型犬サイズのハウンドドッグより若干小さいが小柄な分だけ足が速い。
同じ位の距離だったのにグレージャガーの方が早くこちらにたどり着きそうだ。
当然2種類の魔物の群は違う方向から来る。
その後にも見通しのいいこの場所からは違う魔物の群が接近しているのも見える。
だがとりあえず1番近いグレージャガーから処理することにする。
どっちにしろ距離が離れすぎている相手とは戦えないしな。
結構な数が迫って来ているのもあり、先ほどまでは見学していたレーネさんも腰の長剣を引き抜き戦闘態勢だ。
アルも盾を構え接近してきた魔物からいつでもオレを守れるように待機している。
オレはといえば、当然攻撃だ。
先ほどのブルラッシュのときに使った氷の槍衾は結構消費が少ない割りに高威力だった。
駆けて来る突進力もプラスしてカウンター気味に当たっていたのも理由のひとつだろう。
なので今回も同様の戦法で行く。
そこそこ距離を詰めたグレージャガーの群に氷の槍衾を発動させ、先頭を駆ける3匹をまとめて串刺しにし、駆ける勢いが止まらずそのまま槍に突っ込んだ残りを含めてグレージャガー7匹は一瞬で全滅した。
次はハウンドドッグだ。
こちらも駆けてくるのは変わりないので同様に氷の槍衾をかます。
こっちの方が数が多いので少し範囲を広げたのだが、リーダー格がいるのか動きがグレージャガーより格段によく、先頭の6匹を仕留めただけに終わった。
残りは9匹。
槍衾を2手に別れて迂回するように接近してくる残りのハウンドドッグのうちの右翼側に氷の槍衾を盾にして軌道を隠した氷の円月輪を3つ投射する。
狙い違わず右翼側のハウンドドッグの4匹を切り裂いた円月輪はそのまま後方に待機しているリーダー格に迫る。
結果を確認せず左翼側にも同様に円月輪を投射する。
投射後すぐに犬の悲鳴が響きダメージを与えることが出来たことを確信した。もしかしたらそれで倒せているかもしれないが氷の槍衾の後ろにいたので狙いは正確ではない。
ちなみに左翼側は全滅だ。
綺麗に真っ二つになった死体が4つ分転がっている。
あれで消滅しないのだから相当喰っても大丈夫なんだろう。
一応依頼分はこれで達成だ。
まだ解体していないが第2陣の群が接近してくるのも見える。
ハウンドドッグの群のリーダー格にも一応止めを刺しておきたいので複数転移で一気に槍衾の後方に転移する。
月陽の首飾りからすぐにMPを回収して備えたが、少し大きなリーダー格は4分の1くらいになって細切れ状態だった。
陰になって見えない状態だったのによくここまで正確に当たったものだ。恐るべし器用補正。
アルにハウンドドッグの解体を指示して、オレはグレージャガーの方に単独転移する。
レーネさんもハウンドドッグの解体を手伝いにいってくれるそうだ。
グレージャガーは数も少ないのですぐに回収も済んだ。今回は時間もないので綺麗に洗っている暇がないので帰ったら綺麗にしよう。
時が止まっているアイテムボックスでも砂まみれの素材を入れておくのはどうかと思う。
転移を使わずアル達のところに小走りで戻ると素材を回収する。
そろそろ第2陣が来るかと思ったが、どうやら第1陣だったハウンドドッグとグレージャガーが瞬殺されていたのが見えていたらしく、転進してしまっていた。
「ありゃ、終わり?」
「答えは是。そのようにございます」
【ワタリさんなら大丈夫だったと思いますが、止めなかった私が言うのもなんですが、あまり無茶はいけません】
【そうですね。依頼分は終わってるし、今日はこの辺にして帰りますか】
【はい、そうしましょうか】
荒地に来るような低ランクの冒険者だったら確実に餌にされていただろう数の魔物と交戦した割には、緊張感の欠片もないオレ達はのほほんとした空気のまま荒地を後にするのだった。
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私の名前は、瀬尾あかり。
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今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
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この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~
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処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。
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