幼女と執事が異世界で

天界

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第5章

96,迷賊と鋼の翼とガーディアン

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「金目の物を置いていけば命だけは助けてやるぜ」

「ただし奴隷としてだけどな!」

「「「ぎゃはっはは」」」


 初心者迷宮――デーイス迷宮のガーディアンの部屋のひとつ前の部屋で下品に大笑いしているこの集団は迷宮専門の盗賊――迷賊と呼ばれるヤツラだ。
 初心者迷宮に探索に来るような冒険者は決まってレベルが低い。
 レベルが低いと大抵は装備も貧弱なので大した稼ぎにもならないが、迷賊はそれでも中級冒険者のような手ごわくなった獲物よりはこちらを選ぶ。
 そういった迷賊が入り込まないように入り口を監視してはいるが、冒険者に擬態した迷賊は判別が難しい。
 特にステータスに記載されるような賞罰を受けないように殺人などをなるべくせず、傷害なども数日経てば消えることから余計判別が難しい。


「おら、ガキ共! さっさとしねぇか!」

「おっとそこのでかいのは動くなよ? 動けば俺の弓でガキを射抜くぞ」


 特に動きの無いオレ達に痺れを切らしたのか弓矢を構えた迷賊が牽制とばかりに弓を引き絞っている。
 正直なところ矢が飛んできてもアルが確実に防ぐし、打たれる前に魔法で戦闘不能にすることも容易い。レーネさんなら飛空斬でも使えばほぼ瞬殺できる。

 さてどうしようかな、と思っていると別のところから矢が飛んできた。
 その瞬間にはアルがすでにオレの前に盾を構えて移動しており、矢が突き刺さって悲鳴をあげている迷賊側の射手が傷みで手を離した事により射出された矢が万が一にもオレに当たらないようにしてくれていた。
 まぁ当然的外れの方向に矢は飛んでいったけど。


「くそっ! 誰だ!」

「そこまでだ迷賊共め! いたいけな子供達に手を出すとはなんという卑劣なヤツラだ!
 このランクC冒険者チーム『鋼の翼』が相手だ!」

「くそ! なんでランクCがいやがる!?」


 口上と共に飛び込んできたのは男4女2の冒険者の集団だった。
 名乗りどおりの初心者がつけるようなしょぼい装備ではなく、ランクCに相応しいそれなりの装備だ。
 それなりに重量のありそうな装備をつけても軽やかに入り口側を塞いでいた迷賊を蹴散らし、颯爽とオレ達と迷賊の間に割り込んできたところを見るに実力もランクに相応しそうだ。

 でも迷賊達の言う通りランクCの冒険者がソロならまだしもPTでデーイス迷宮にいるのは珍しい。


「ギルドから貴様らのような迷賊討伐の依頼を受けたのだ! 覚悟しろ!」


 後衛の女性――魔法使い然としたローブに先の丸まった杖というまんまの格好をした人が短く詠唱をし、拳大の炎の弾で先制すると同時に戦闘が開始された。

 男性陣4人が迷賊に突撃し、後衛の女性陣がフォローする形のようだ。
 女性2人は魔法使いと最初の矢を放った弓使いの人で2人はオレ達の近くに留まってくれている。
 どうやら他にも前衛の男性陣から漏れた迷賊から守る為のようだ。なかなか考えてくれている。

 男性陣が倍近くいる迷賊を圧倒している間に弓使いの女性が周囲を警戒しながらこちらに話しかけてくる。


「私達が来たからにはもう安心よ。あんなヤツラすぐに全員倒しちゃうからね」

「ありがとうございます。でも迷賊討伐の依頼なんて出てたんですねぇ~」

「えぇ、お昼近くに突然出されてね。ちょうど私達が戻ってきた所だったから急いで受けたの。こういうのは被害が出てからじゃ遅いからね。
 でもよかったわ。急いだおかげであなたたちを助けることができたもの」


 弓使いの女性がチラッとこちらを見てニッコリ微笑んでくれる。
 どうやら本当にいい人達のようだ。
 戻ってきた所ってことは依頼を終わらせて報告しに行った所ってことだろうから、疲れているだろうに。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 魔法使いの女性は時折詠唱しては炎の弾を迷賊に当てて男性陣をフォローしている。
 弓使いの女性は完全にオレ達の守護に回っているようで周囲をずっと警戒しつつ、弓をいつでも撃てるようにして待機だ。

 10分もしないうちに迷賊は半分以下になり、ガーディアンの部屋の1つ前ということもあり逃走経路が限定されていることから逃げることも叶わないようだ。
 ガーディアンの部屋の1つ前の部屋は奥へ行く大扉と入り口の通路しかない簡単な部屋だ。
 だからこそここで待ち伏せされるとガーディアンの待ち構えている奥へ逃げるか入り口の通路に逃げるしかなくなる。
 だがガーディアンのいる部屋に逃げてもガーディアンに攻撃されるので微妙だし、入り口は鋼の翼の先制攻撃ですでに確保されてしまっている。

 結局の所全ての迷賊を殺し解体するまでにかかった時間は15分くらいだった。
 初心者を狙うような迷賊相手ではランクCのPTでは無双状態のようだ。


「ふぅ、間に合ってよかった。怪我はないようだね?」

「えぇ、タイミングもよかったみたい。誰も怪我はしてないわ。そっちは?」

「僕達がこの程度の相手に遅れを取るわけないだろ?」

「ふふ、それもそうね」


 最初の名乗りをしたリーダーらしき好青年が近づいてくるとオレ達を守っていた女性陣が駆け寄りなんともお約束というか死亡フラグっぽい会話をしている。
 このあとすごい強い魔物とか出てきて死ぬんじゃないだろうなこの人達……。


「それじゃ僕達はこれで失礼するよ。君たちはこの先のガーディアンに挑みに来たんだろう?
 これまでの魔物達よりは少し手ごわいから気をつけて」

「それじゃあね~」

「気をつけて」

「頑張れよ」


 鋼の翼の面々から声を掛けられ、彼らはあっという間に去って行ってしまった。
 依頼を受けたからなのか助けたことを恩に着せることも無く、唐突にやってきて迷賊を一掃してさっさと帰っていってしまった。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「なんていうか、あっという間の展開だったね」

【はい。でも特に何かを要求することもなかっただけでも彼らは真っ当な冒険者ですね】

【あーやっぱりそうなんだ】

【はい。普通はもっとこう……金銭を要求したりしますね】

【やってることは迷賊と大差ないよねーそれじゃあ】

【そうかもしれませんね】


 ちょっとしたイベントを挟んだが本来の目的はガーディアン討伐だ。
 鋼の翼の人達によれば手ごわいらしいが、オレ達相手で手ごわいとなると最早ランクCのPTでは手に負えないものになってしまう。
 まぁ当然、そんなわけもないので特に気にすることも無く気楽に、聳え立つ大きな扉をアルが押し開ける。


 ガーディアンの部屋はちょっと広めのホールのような部屋で、中央にずんぐりむっくりとした巨体が仁王立ちで待ち構えていた。
 両手には巨大な斧。それ以外は腰布を巻いただけの様相だが、遠目からみてもわかる盛り上がった鋼のような筋肉がなかなかの迫力だ。


「よっし! まずは先制するよ!」


 まだ部屋に入ったばかりで相手も動き出していないがオレにとってはすでに射程圏内。
 言葉が終わる直前くらいにはすでに氷の槍は完成し、射出されている。
 今回の氷の槍は特殊進化個体モンスターに使ったような強力なものではなく、回転もしていない普通のタイプだがちょっと細工をしてある。
 射出された氷の槍が高速で飛来し、狙い違わずガーディアンの頭部に直撃すると氷の槍は爆散し破片を撒き散らしてガーディアンの体を引き裂いていく。

 氷の槍の直撃と破片の衝撃でひっくり返ったガーディアンはピクリともしない。


「……もしかして?」

「……答えは是。どうやら死亡しております」

【さすがワタリさんです!】


 慎重に近寄って確かめたアルから齎された言葉になんとも言えない気持ちになったが、所詮は初心者迷宮のガーディアンと思いなおすことにした。


 こうして、特に苦戦もなく迷賊に襲われて鋼の翼に助けられるというイベントがあっただけで初心者迷宮――デーイス迷宮攻略は完了した。

 ちなみにガーディアンやエリアボスを倒し、解体すると宝箱が手に入る。
 中身はランダムのようだが、今回ガーディアンから手に入った物はデーイス迷宮の魔物からも取れるしょぼい素材が3つだけだった。

 やっぱり初心者迷宮のガーディアンだけに予想通りの悲しいものだった。

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