幼女と執事が異世界で

天界

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第5章

104,偵察

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 空中に浮かぶ少女が可愛らしく小首を傾げて見つめる相手は当然レーネさんだ。
 まるで石像のように固まってしまったのを不思議そうに見ている。
 空中に浮かんでいる事以外はこれといって人間とまったく変わらないように見えるこの少女は精霊だという。
 気配察知にはまったく引っかからないからそこも普通の人間とは違う点かもしれない。
 でも隠形系のスキルがあれば気配察知は無効化できるのでそれだけでは微妙か。
 だが他ならないレーネさんがそういうならこの子は精霊なのだろうし、別に精霊じゃなくても困らないので問題ない。


「精霊さん、魔結晶が4つっていうのはどうしてわかったの?」

「うん? そんなの霊視すればいいじゃない」

「あー……精霊ってそういうスキル持ちなのが普通なの?」


 当たり前でしょ? みたいな顔で言うものだからなんともいえない気分になってしまうが霊視なんてスキルは知らないし、図書館にあったスキルに関する本にも載っていなかったと思う。


「あ、そうか。人間にはないスキルなんだね。
 精霊は大体持ってると思うよ? 他の精霊なんか見たことないけど」

「え、そうなの? ここは精霊の小川でしょ?」

「うん、そうだよ~。でも精霊の小川だからって見える精霊が棲むと思っちゃいけないなー。
 私みたいな上位精霊以外はみんな姿形を持たずに気配だけで存在してるんだよー。
 だから私にも見れないの」

「なるほど~」


 ふふん、と鼻の穴をぷくっと膨れさせて得意げに胸を反らしてご教授してくれる精霊の少女に和まされているとレーネさんがなんとか再起動を果たしたようだ。


【わ、ワタリさん……この依頼は無理です。
 特殊進化個体モンスターは個人で討伐するものではありません】


 レーネさんが言う事はもっともだ。
 特殊進化個体モンスターを討伐するには大戦力が必要なのが常識だ。
 だが特殊進化個体モンスターと一括りに言っても元の魔物や取り込んだ魔物によってその強さは大きく変わる。

 オレが倒した特殊進化個体モンスターは魔結晶を7つも取り込んだタイプで図書館で調べた限りではラッシュの街くらいなら滅ぼせるクラスのようだ。
 精霊の少女が言うには魔結晶は4つ。3つ取り込んだタイプということは単純に戦力的には半分以下。
 だが当然そんな簡単な計算が成り立つわけではないのであくまで目安だ。
 それでも魔結晶8つ持ちに比べれば、4つ持ちは美味しい相手に思える。
 なんせ最初に魔結晶4つ持ちと言われて思ったのはBaseLvあがるかも! だし。

 状況次第ではあるが、超遠距離から魔法を連射して倒してしまうというのも可能だろう。
 レーネさんのような特殊進化個体モンスターと3回も戦った事がある実力者がいるんだしやれない事はないと思う。
 まぁ本人は断ろうとしてるけど。


【レーネさんが倒した特殊進化個体モンスターは魔結晶何個持ちだったんですか?】

【最高で5つ持ちでしたが……4つ持ちは危険どころではなく無理です!
 5つ持ちの時でも騎士団が壊滅寸前までいったのですよ!?】


 5つ持ちでそこまでの被害が出るものなのか。
 それなら8つ持ちならレーネさん達でもダメだった可能性が高いな。あそこで倒せてよかった。


【でも元の魔物と今現在の能力次第ではやれないことはないんじゃ?】

【魔結晶が3つ以上になるとほとんどの場合、異常な感知能力を必ず発揮します。
 偵察が出来る相手ではないんですよ……】


 そんな能力までつくのか。
 じゃあ8つ持ちから何日も逃げ続けていたジーナさん達ってかなりすごいんじゃ……。


「ねぇ~やってくれないの~?」

「無理です!」


 レーネさんが珍しく大声ではっきりと言っている。
 普段通りに出来ないくらいに危険な相手なんだろう。まぁ相手は大隊規模の騎士団を壊滅させられるクラスの魔物なんだから仕方ないのかな?


「まぁまぁレーネさん、落ち着いて。
 その特殊進化個体モンスターはこの近くにいるんですか? もしそうなら移動したいんですけど」

「あ~大丈夫よ~。とりあえず結界張ってあるから」

「お、その結界って近くまでよっても大丈夫な感じですか?」

「もちろんよ。相当暴れても壊されない自信あるもの。
 でも追い出すのには不向きなのよねぇ~」


 これなら偵察も出来るし、1度見てみてから決めてもいいんじゃないだろうか。
 レーネさんも精霊の少女の話を聞いて思案顔だ。


「レーネさん、どうかな?
 1度見てみてから決めるというのは?」

【……私達に見えるほどの精霊の作った結界なら信頼に値するとは思います。
 ですが念のためにいつでも帰還用魔道具リリンの羽根を使えるようにしていきましょう】


 安全策をしっかりと取り、精霊の少女に案内をお願いする。


「おっけ~。とおりゃ~」


 精霊の少女が気の抜けた掛け声を発した瞬間には視界が切り替わっていた。
 転移スキルで慣れていたのであまり驚かなかったが、精霊の少女はオレ達のPTに入っていないのにオレ達も移動できた。つまり普通の転移スキルではないのだろう。


「ほら、あれよあれ~」

「うわっ」


 スキル考察に思考が沈みそうになったところに少女の憤慨したような声に視線を向けてみると今まさに突進してきた巨大な狼が何かに激突して跳ね返されていた。
 その周りは荒れに荒れていてかなり酷いことになっている。
 樹齢何百年にもなりそうな木が圧し折れて横倒しになっていたり、草や花が生い茂っていたと思われる地面は掘り起こされたかのようにぐっちゃぐちゃになっている。


「ひどいもんでしょー? 私が何したってのよほんと~。
 いきなりやってきて私を食べようとしたのよ?
 だから閉じ込めてやったわ!」


 見えるほどの精霊を取り込んだらこの狼はどれほどの強さに成長してしまうのだろうか。
 もし彼女が食べられていたら魔王が誕生していたんじゃないだろうか……。
 もしかしたら魔王という存在は自然発生的に生み出されるものではなく、特殊進化個体モンスターのように魔結晶などを取り込んで成長した果ての存在なのではないだろうか、なんてことが頭をよぎったが今はどうでもいい。


【それでどうですか、レーネさん】


 オレ的には魔結晶8つ持ちほどの威圧感は感じず、これなら十分殺れる感じだ。
 だがレーネさんがダメだというなら勿体無いが仕方ない。


【取り込んだ魔物の種類がそれほど脅威ではないものですね。
 アサルトウルフを元にしてグリズリーとウッドバードとフライングキャットだと思われます】

【え、わかるんですか? でっかい狼だからソレ系かなぁとは思ったけど……】

【はい、背中に羽のような腕がありますよね? あれはフライングキャットの特徴です。
 グリズリーなどの熊系の魔物を取り込むと巨大化しますが、アサルトウルフは元々小さいのであの大きさまでだとするとマッドベアーなどの上位固体ではなく、グリズリーになります。
 ウッドバードは体表に木のような鱗がいくつかあるのがその特徴ですね】

【ふぇ~……。すごいなぁ。
 ……取り込んだ魔物がわかるなら大体の戦闘方法もわかるんですか?】


 8つ持ちもオークが元となっていたがオークには見られない体や能力になっていたし、見る人が見れば何を取り込んだのかわかったのかもしれないな。


【ウッドバードが風の魔法を使いますので、アサルトウルフの魔結晶持ちの魔法と合わせて中級魔法を使ってくると思います。その上フライングキャットの敏捷強化も使って元々素早いアサルトウルフが更に早くなるでしょう。
 グリズリーの頑丈さも相まってマッドベアーの体当たりよりも遥かに危険な攻撃をしてくると予想されます。
 アサルトウルフの俊敏性を更に強化され、中級風魔法も使ってくる……難しいですね】


 アルが受け流したアレよりも危険な攻撃か……。
 近接戦闘は避けた方が無難だろうか。だが元々そこそこ俊敏なアサルトウルフが魔法で強化されるとなると遠くから狙って撃っても避けられそうだ。

 あれ? こいつ8つ持ちより倒しづらくね?


【ワタリさん……もしコレを本気で倒すなら1度屋敷に戻って使える戦闘奴隷を全て動員して足止めしたところに私とワタリさんで遠距離から包囲攻撃をかけるのが成功率が高い方法です。
 魔力タンクとスタミナ回復の上位ポーションを出来る限り用意する必要がありますし……恐らく足止め役は何人か死にます】


 魔法ではないスキルはステータスで数値化されないスタミナを消費する。
 強力なスキルはそれだけスタミナを消費するので連発するにはスタミナを回復させることができるアイテムが必須だ。
 だがスタミナ回復系のポーションはかなり高い。そのくせ回復量は少ない上に入手が困難だ。普通の店では売っていないのだ。
 状態異常回復系や傷の治療用のポーションは大量販売されているのにスタミナ回復ポーションは売ってないのには当然理由がある。まぁお察しの通りに材料が希少ってだけだけど。

 だが強力なスキルが連発できるなら短期決戦を挑んだり、ここぞというときなどに非常に有用なのはいうまでもない。

 魔力タンクやスタミナポーションはお金が余ってるので集めるのは問題ないが、戦闘奴隷を使い捨てにするのは頂けない。


【その作戦はちょっと無理かなぁ。
 死人が出ないような作戦はないですか?】

【考えてみますが……難しいと思います】

「それで~?」

「えっと、ちょっと作戦を練ってみます」

「あ、ほんと? 結界は数日は維持できるけど、なるべく早くしてね~?」

「……結界が維持できなくなったらコイツは自由になっちゃいますよね?
 ここってどこでしょう?」


 結界がなくなって自由に動けるようになったらその後も精霊の少女を狙うのかどうかはわからないが、結局はどこかに移動するだろう。
 そうなると機動力があるコイツはかなり危険だ。


「ん~ここはさっきの小川からそんなに距離離れてないよ。
 位相が多少ずれてる程度でまぁコイツならすぐに抜けられる程度のところかな?」


 どうやらここでコイツを見逃すという案はなくなったみたいだ。
 ラッシュの街までそれなりに距離があるからラッシュの方は狙われ難いだろうが、すぐ近くに鉱山街――トルマネトがある。
 コイツ1匹でもかなりの被害を出す事は想像に難くない。他の魔物を従えることなんかが出来るなら目も当てられないだろう。
 幸い結界の中にはコイツ1匹しかいないのでその可能性は薄いかもしれないが。


【レーネさん】

【ラッシュの騎士団と高ランクの冒険者に応援を頼みましょう。
 今倒さなければ……後の被害は計り知れません】


 レーネさんの念話は決意の色をありありと示すだけの気迫を伴っていた。
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