幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
104 / 183
第5章

103,精霊

しおりを挟む
 囲むように距離を詰めてくるアサルトウルフの群れに牽制のための氷柱を数本打ち込む。
 千本のような針を極太にして手の平サイズまで大きくした氷柱は消音効果も高めているためかほとんど音がしない。
 だが刺さった方はそうもいかないようで悲鳴とも断末魔ともつかない鳴き声をあげている。
 牽制目的だったのだがうまい具合に何本か命中してくれたようだ。器用様様だけどなんか釈然としない。

 鳴き声がしたところに今度は牽制ではない止めのための攻撃を打ち込んでおく。
 もう群れの包囲はほとんど意味をなしていない。
 包囲作戦が難しいと判断したアサルトウルフは同時攻撃で一気に仕留める事にしたようだ。
 少し大きめの吠え声が聞こえ、その一瞬後に藪から5つの影が飛び出した。
 しかし空中ですでに半分になってあらぬ方向に向かって墜落する影が2つ。
 氷の矢を生やして木に縫い付けられた影が2つ。

 最後の影はアルの盾に弾かれた衝撃で足の骨が折れたのか立ち上がれなくなったところを首を切り落とされた。


「これで全部だね。それにしても攻撃ワンパターンだなぁ」

「アサルトウルフは数で押すタイプの魔物でございますので、ワタリ様のお力で包囲を崩してしまえば当然の帰結でございます」

【ワタリさんが見えない位置にも正確に攻撃できるからですね。
 アレができるかできないかで大きく変わってきます】

「いやぁ……器用様様だと思うよ~?」


 アルが周辺警戒しつつ、オレとレーネさんが解体作業をする。
 普段はオレが周辺警戒するのだが、オレでは隠形スキルを見破れないのでアルに任せている。

 アサルトウルフの牙や爪、皮などがどんどんアイテムボックスに溜まっていく。
 すでに規定数のアサルトウルフは狩り終わり、+αを狩り続けている状態だ。
 +αで入る貢献度は通常より少ないけれど、この辺のアサルトウルフを殲滅する勢いでやっても貢献度が貰えるので狩れば狩るだけランクアップに近づく。
 何度も場所を移動しつつ、本当に殲滅する勢いで狩り進んでいる。

 当然他の魔物も襲ってくるのでついでに倒している。
 おかげで時間単位あたりの魔物討伐数は過去最高だ。その分アルのBaseLvもいくつか上がり、オレの職業Lvもあがった。

 でもやっぱりBaseLvは上がらない。アルが羨ましい。
 レーネさんは元から高Lvなのでこの程度の魔物では上がることはまずないらしい。
 オレのBaseLvは1桁なのになぁ。

 ちょっと落ち込んでいるとレーネさんがおろおろし始めてしまったので気を取り直して探索を続けていく。


 ドリルさん達と別れてから狩りに狩りまくってアサルトウルフの討伐数が合計で80匹を超えたところで今日の狩りは終了という運びになった。
 そろそろ陽が傾き始めているし、ネーシャのお迎えをしないといけない。
 マーカーを設置して結界を展開させ、ブッシュを一応被せておく。結界には認識阻害機能もあるので念のためだ。

 さぁ、ネーシャのお迎えだ!






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 翌日は朝のうちに冒険者ギルドに行ってアサルトウルフ狩り以外の3つの依頼を報告する。
 一応掲示板にあの辺で出来そうな依頼がないかチェックしてみたが、特にないようだ。

 エリザベートさんにアサルトウルフをもっと狩っても貢献度が貰えるのか一応聞いてみたが問題ないらしい。むしろドンドン狩ってきてしまっていいそうだ。
 魔物は絶滅することはないらしい。
 絶滅させるつもりで殲滅しても日を置くと何事もなかったかのように増えている。そして増えすぎると人里を襲いに来るそうだ。
 今回オレ達が狩場にしているところは魔物が特に溜まりやすい場所なので期待されているそうだ。

 ちなみに朝の冒険者ギルドはかなり騒がしいレベルでの賑わいだ。
 エリザベートさんは受付担当ではなかったので話していられたが受付でこんな悠長に話してたら大顰蹙物だ。
 朝っぱらから喧々囂々とすごい活気だ。
 やっぱり冒険者は強面ばかりでオレ達のような見た目子供な人達はまったくいない。
 女性もいるけど纏っている雰囲気というか見ただけで堅気ではないのがわかる。

 だがレーネさんがオレ達の傍にいるからか、いつぞやのようにアルが絡まれる事もなく、当然オレは絡まれず至って平和だ。


 ちなみに現在のアサルトウルフ討伐数だけでも貢献度的にはランクDへの昇格は間違いないらしい。
 昇格試験が本来必要なのだが実力も確かなのでギルドマスターの計らいでなしでいいらしい。
 チラッと見えたギルドマスターはずいぶんやつれてなんだか影を背負っていたように見えたけど見間違いかもしれない。


 今日も頑張って数を狩って目標のランクCへ向けての貢献度を溜めなくてはいけない。
 ちなみに当然ながら普通はこんなペースで+α系の狩りは不可能だ。
 まずさっき言ったようにランクDでも昇格試験があるし、その試験は通常3~7日程度かけて遠征して行うため一旦依頼を終わらせないといけない。
 しかも一種類の依頼で昇格させてしまうのはギルド的にも問題になる。だがオレの場合ランクSの奴隷をギルド側に売っているという貢献・・をしているので問題ないそうだ。

 ランクCの為の貢献度をアサルトウルフで換算するともちろんだが80匹では足りない。
 DからCへあげるためにはかなりの貢献度が必要なのだ。
 でも今の所アサルトウルフを討伐した方が早いので依頼は引き続き続行する。
 まだまだ狩れるだろうからあと2,3日は通う事になるだろう。


「ワタリちゃん、くれぐれも気をつけてね?
 ワタリちゃんが強いのはわかってるけど、油断は禁物だからね?
 ランクSの冒険者だってちょっとしたことで命を落としちゃうんだから、絶対無傷で帰ってくるんだからね?」

「大丈夫ですって、エリザベートさん。
 アルもレーネさんもいるんですから~」

「でもでも~」

「エリザベート。職員が呼んでいますよ」

「うぅ……。ワタリちゃぁあぁ~ん」


 オレがそれなりに強いことはもうわかっているのにやっぱりエリザベートさんの心配は止まらない。
 むしろ前よりも酷くなったように思える。
 まぁそれだけ気にしてくれているということなんだし、ここは素直に心配されておこう。


「それじゃいってきま~す」

「ぃってきます」


 縋りついて来るエリザベートさんをアルが引き剥がし、苦笑しながら挨拶して冒険者ギルドを後にした。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「とお~りゃ!」


 気分転換と近接戦闘の練習の為にグレートコーンと予備のスレッジハンマーカスタムを使い分けながらアサルトウルフを叩き潰す。
 グレートコーンなら障害物が邪魔をしてもそのまま叩き潰せるのだが、スレッジハンマーカスタムは攻撃力アップの能力を発動しながらじゃないと細い木ならまだしも、太いものになるとちょっと難しい。

 藪や潅木なんかが多いこの場所では振り回し攻撃は非常に分が悪い。
 とはいってもオレが主武器とする大型鈍器は細かい攻撃方法は不得手だ。

 それでも横ではなく、縦での攻撃に切り替えればなんとかやれないこともない。
 踏み込んでの叩き潰し。振り上げ、突き。
 レーネさんのような多彩な攻撃ではないがそれぞれが一撃必殺の威力を十分に秘めているので今の所問題ない。
 とはいっても所詮相手にしているのはもう3桁単位で倒しているアサルトウルフだ。
 たまに出てくるグリズリーでも一撃でミンチなのであまり変わらないが。


「うーん……この辺のはずいぶん少なくなっちゃいましたねぇ~」

【はい、そろそろ移動しましょうか】


 絶え間なく襲い掛かってきていた初日が懐かしい。
 ここ2日は移動を繰り返して出会った魔物を殲滅しているが、エンカウントの頻度が大分少なくなっている。
 アサルトウルフの量も加速度的に減少しているし、そろそろ限界かもしれない。
 依頼の期限はまだまだあるけれど、標的がいないのならば拘っていても仕方ない。


 アルが盾で藪を掻き分けて踏み均して歩きやすいようにしてくれる道をいつものように進むと、この山岳地帯の森には珍しく小川に出くわした。

 乾き苔が生える――地下水をくみ上げるポンプのような特殊な木が生えているこの場所には川が流れているのは本当に少ない。というかこの森をかなり歩き回っているけれど初めて見た。


「なんかなかなかいい場所だねぇ~ここ」

【ワタリさん、ここは精霊の小川ですよ】

「精霊?」

【はい、こういった森の奥地にある水場などには精霊が棲むことがよくあります。
 ワタリさんが感じられたように心地よい雰囲気になるのも特徴です。
 精霊に会えることは本当に稀ですけどね】

「へぇ~……。確かにすごく和むよねぇ~。
 ネーシャも連れてきてあげたいなぁ」


 小川のせせらぎに耳を傾けていると、なんだか精霊の楽しそうな声が聞こえてくるようだ。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「ねぇねぇあなた本当に人間? すっごく神聖な感じがするよー?」

「へ?」

「うん~?」


 靴を脱いで冷たい小川の水をパチャパチャしていたら頭の上で少女が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
 ていうか浮いてないこの子?


【わ、ワタリさん……精霊です……】

「さすがは我が主。精霊すらも魅了するその美しさは天井知らずにございます」

「確かに可愛いよね~。ていうか君もなんだかすごく変わった気配だねぇ~。
 人間じゃないのかなぁ~? こっちのおっきな子は獣族だよね~」


 アルのことも1発で見抜いているし、やっぱりこの子は精霊のようだ。
 レーネさんが驚いたように精霊を凝視している。そういえば精霊に会えるのは稀だって言ってたっけ。つまりこれはかなりレアケースなんだね。


「ねぇねぇ、もしよかったら私のお願い聞いてくれない?」

「お願い?」

「うん、難しいことじゃないと思うよ~」

【わ、ワタリさん! 是非受けましょう! 精霊に会えるだけでもものすごく幸運なのにお願いされるなんて一生に一度あるかないかですよ!?】

【そ、そうなんだ……】


 レーネさんが未だかつてないほどに興奮している。
 これは断るという選択肢はなさそうだ。精霊も簡単だって言ってるし。
 もし無理そうならちゃんとそういえばレーネさんなら納得してくれるだろうし。


「どんなお願いですか?」

「それがねぇ~私のおうちに変なヤツが住み着いちゃってそれを追い出して欲しいの!」

「変なヤツ?」

「そうなのよ~。魔結晶が体の中に4つくらい入ってるやつなのよ~参っちゃうよね~」


 あ、レーネさんが固まった。
 さすがに特殊進化個体モンスターを追い出すのは簡単なお願いじゃないよねー。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。 しかも自分は――愛され王女!? 前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。 「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」 いつも優しい両親や兄。 戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。 これは罠? それとも本物の“家族の愛”? 愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。 疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う―― じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...