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第5章
102,ドリルドリルドリル
しおりを挟む3つ目の依頼は採取物だ。
これは岩場では取れないのでちょっと森の中に入らないといけない。
でも本命である4つ目の依頼と並行して出来るので問題ない。
3つ目の依頼は乾き苔の採取。
これはこの辺にしか生えていない特殊な木に共生する苔だ。
乾き苔という名前通りに接触物から水分を吸い取る。吸い取った水分はあっという間に苔によって気体となり放出されてしまう。
これでは普通の木では枯れてしまうが、乾き苔と共生する木は地中に張った根を横に広くではなく縦に長く伸ばす特徴があり、その長く伸ばした根で地下水脈を探して吸収するのだそうだ。
天然の井戸のような役割があるらしく、吸い上げた水を乾き苔が空気中に吐き出しているらしい。
しかし地下水脈を探し当てるまでは乾き苔も水分を吸収しないようできちんと共生関係が成り立っている。
現象を実際に目で見てみるとまるで濃霧だ。
凄まじい霧が小さい範囲で発生している。だが広がると消えてしまっている。
霧は大気の温度が露点温度――凝結を始める温度――に達した時などに発生するのでこれは霧ではなく、わかりやすくいうと霧吹きで水を盛大に撒き散らしているようなものなのだろう。
ただ霧吹きでは範囲内が水浸しになってしまうがどうやら風にうまく乗せてどこかに運ばれていくようだ。
こうやってこの辺の森は水分を確保しているのかもしれない。森には付きものの川がこの辺にはまったく流れていないのも関係しているのかもしれない。
【乾き苔はこうやって木の皮ごと採取します。皮を削ぐ時に苔に触らないように注意してください。水分を奪われて干からびてしまいますから】
【それは怖いなぁーミイラなっちゃうね】
【はい、ですので気をつけてください】
冗談のつもりだったのだがどうやら本当に危ないようだ。
まぁあれだけ盛大に噴霧している所を採取するんだから危ないか。
ちなみに噴霧していない時の乾き苔は一般的に生えているタイプの苔に擬態してしまい、どれがどれだかわからないそうだ。
でもオレの鑑定ならわかるんじゃないだろうか。
たまたま近場にあった岩に生えている苔に鑑定を使ってみると普通の苔だった。
普通といっても乾き苔でないだけで苔に詳しいわけではないのでよくわからない。
【これで足ります?】
【いえ、足りませんのでもう少し探しましょう。今みたいに霧を出しているならわかりやすいのですがタイミング次第ですのでなかなか難しいんですよ?】
今回はたまたまのラッキーだったらしい。
アルの補足解説によると乾き苔が噴霧する間隔は一定ではなく、条件もよくわかっていないらしい。
噴霧する場所も特殊な木というだけでそれ以外の場合は違う苔に擬態しているわけだ。
しかもこの特殊な木に生えていれば乾き苔というわけではなく、別の苔もこの木に生えるそうだ。噴霧してないときはかなり判断が難しい。
まぁでもオレには鑑定があるわけだし?
というわけで木を探して生えている苔に鑑定を使うだけで簡単に判別が可能なので簡単に集まってしまった。
普通は大量に採取して数打ちゃ当たるでいくか、噴霧しているところをびしょぬれになりながら採取するそうだ。
ただこの木自体が1本生えているとその近くには生えておらず、それほど多くもないのでなかなか難しい。
苔の量もそれなりにいるので違う苔だったら足りなくなる場合が多いらしい。
この乾き苔の擬態能力はアルの眼すら欺くほどなのでかなりの専門家にならないと無理だろう。
もしくはユユさんのような鑑定の魔眼持ちくらいだろうか。
とはいっても鑑定の魔眼はレアな先天性能力なので早々いないのでそれも難しいだろう。
それに場所も場所なので魔物も結構出てくる。
必要量採取するまでにエンカウントした魔物は合計で60匹以上にも上った。
この森魔物多すぎじゃないかな?
そういえばこの辺は魔物が溜まりやすいんだったっけ。ならば納得の量だろうか。
いややっぱり多すぎ。次から次へと出てくる出てくる。
魔物は種類が違えば他の獣と同様に捕食関係が成立するので敵対関係になる場合もあるのに人間を発見するとなぜか共闘してくる。
この原理はわかっていないそうだ。わかっているのは今まさに食事にありつこうと別の魔物を襲っていた魔物がオレ達に気づくと襲われていた魔物そっちのけでオレ達に襲い掛かってくる事と、襲われている方の魔物も襲い掛かった魔物と一緒にオレ達に向かってくることだ。
なんか理不尽だろうそれ。
オレ達を倒したら、捕食されかけてた魔物は捕食しようとした魔物に食われるのだろうか?
それともオレ達を食って満腹になる可能性があるから一緒に襲ってくるのか? いやそれなら逃げた方がいいだろうに。
何はともあれ襲い掛かってくるならしょうがない。
森は視界が悪いし、木が密集しているのでグレートコーンは使えない。
まぁ元々あまりグレートコーンは使わないので問題ないのだが。
細かく魔法を使って倒して、接近を許してしまった魔物はアルがしっかりと防御する。
数が結構いっぺんに来るし、障害物が多いので接近前に殲滅するのは3回に1回くらいの頻度に低下してしまう。
だが接近されてもアルの防御技術とレーネさんの剣捌きで怪我を負うことは一切ない。
気配察知持ちが2人にアルの特殊な探知能力があるのでバックアタックはほぼないと思っていい。
なんせアルなら隠形スキル持ちでもわかるのだから心強い。
それでも絶対というわけではないのでしっかりと警戒しながら探索も戦闘も行っている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
乾き苔の採取も無事終了したので残った1つであるメインの討伐+αに集中することにした。
本日4つ目となる依頼だが、これはひたすらに数を狩る依頼だ。
魔物の量が多いのはありがたい。
ちなみに対象はアサルトウルフ。
サーベルタイガーのような牙と鋭い爪を持った小型の狼で、魔結晶持ちになると初級魔法:風を使ってくるそうだ。
逆に魔法を使ってくるアサルトウルフは魔結晶持ち確定となる。
【そういえば魔結晶それなりに持ってるのに1つも使ってないや】
【それは勿体無いです。お屋敷には魔結晶はありませんでしたけれど、もっているなら使ったほうがいいですよ?】
【でもなー……効果が微妙な物しかないんですよ。それに失敗する場合もあるんでしょ?】
【確かに装備類や道具に使う場合は失敗する可能性が高いですが、人に使う場合は失敗しませんので】
【え……。人に使えるの? だって空きスロットに装着するものじゃ……】
【空きスロット……? よくわかりませんが人にも使えますよ。
ただ効果は微々たるもので、ステータスが上昇するのは稀ですけれどしっかりと効果はわかります】
魔結晶の鑑定文にはそんなこと一切書かれていなかったがそんな使い方もあったのか。
もしかしたらトレーニングで得られる表示されない部分に加算されるのかもしれない。
というか稀にでもステータスが上昇するのならそういうことなのだろう。効果もしっかりわかるほどらしいし。
【えぇと……じゃあ魔結晶【鼠】を使ってみようかな?】
【魔結晶【鼠】は敏捷が上がるはずです。使い方は色々ありますが粉末にして飲むのが一般的ですね】
【粉末かぁ。袋に入れてグレートコーンで叩いてみるかな】
近場にあった岩の上に袋に入れた魔結晶【鼠】を置いて軽く叩いて潰してみる。
粉々にはなったがまだ飲み込むには厳しい。
何度か叩いて下の岩が割れてしまうというハプニングを経てかなり綺麗な粉にすることができた。
まるですり潰したようだ。魔結晶自体が脆いからかもしれない。
【でもこれは飲み込むのにちょっと勇気がいるなぁ】
【お湯で溶かして飲むのもいいかもしれないよ?】
【お湯で溶けるんですか……?】
【はい。なかなか溶けませんので根気よくかき混ぜれば溶けます。
水だともっと時間がかかりますので大体の人はお湯で溶かしてから飲みますよ】
水は時間がかかるみたいだ。
せっかちな冒険者達なら粉にして食べた方がいいのかもしれない。
まぁオレは粉ではちょっと抵抗が強いのでお湯に溶かしてみよう。
なので初級魔法:水で鍋に水を溜めて煮込んでみた。
ついでにお昼にすることにしたのですでに森は出ている。
アルが魔結晶の煮込みに蜂蜜やミルクなんかを入れて味を調えてくれている。
これはおいしそうだ。
水増ししたので結構量も増えてしまったので1人で飲むのは辛そうなのでみんなで飲もう。
少し残してネーシャにお土産にするのもいいかもしれない。
本当は敏捷じゃなくて器用の方がネーシャにはいいのだが贅沢は言ってられない。
「あら、いい匂いがすると思ったらあなたですの」
「あれ……ドリ……アリアローゼさん、帰ったんじゃなかったんですか?」
「ちょっと迷ったんですの」
ドリルと言いかけたがそこは華麗にスルーしてくれたようだ。
ていうか迷ったって……胸を張って言う事じゃないと思うよ?
今いるところはアリアローゼさん達と出会ったところから結構移動して岩場からもかなり遠くなっている街道付近だ。
「ちょうどいいですわ。わたくし達もお昼にいたしましょう。
この匂いは蜂蜜ですの?」
「あ、はい。ちょっと魔結晶を煮込んでます」
「魔結晶ですの!? 何の魔結晶ですの? 何個入れてるんですの?」
何やらすごい食いつきようだ。
というか、かなり長い間トレーニングしないとステータスは上昇しないので、トレーニング何ヶ月分かはわからないが一気に短縮できる魔結晶を煮込んでいると聞けば食いつきもするか。
この世界――ウイユベールではステータスは強さに直結するからな。
「魔結晶【鼠】を1個ですよ」
「まぁまぁまぁ! もしよかったらわたくしにも少し頂けないかしら?
もちろんお金は払いますわ!」
「いいですよー。水増しして結構ありますし、カイトさんとアンさんも如何ですか?」
「え……。い、いいんですか……?」
「魔結晶ってものすごく高いものですよ? しかも敏捷をあげる鼠だと1個でも金貨60枚はするはず……」
なんとこの魔結晶【鼠】は金貨60枚もするようだ。
丸々1個分入っているこの鍋で金貨60枚。海鳥亭に4年以上住めちゃうのか。すごいな。
レーネさんは結構簡単に使うみたいなこといってたけどお金でステータスが買えるなら安いもんなんだろう。
基本的にレア中のレアだから出回らないが、オレは結構持っている。
8割は特殊進化個体産だけど。
「まぁもう煮込んじゃってますし、どうぞどうぞ」
「では、アン」
「はい、アリアローゼ様。
アルさん、こちらをお納めください」
アンさんがアイテムボックスから袋に入ったままのお金をアルに渡している。
そういえば泥熊の手の代金の袋もアイテムボックスにそのまま入る収納袋だった。今もアンさんはアイテムボックスからそのまま出していたので収納袋で確定だろう。
大金だから収納袋ごとくれるというのが当たり前なのかな。荷物になるし。
代金も魔結晶1個で金貨60枚だからって60万ラードってことはないだろう。取り出した収納袋の中身も確認しないで渡してたし、きっと大目なんだろう。
まぁお金は腐るほど持ってるけどもらえる物はもらっておこう。エリザベートさん曰くそれでこそ冒険者らしいし。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ドリルさんは唯我独尊系の人でまともに相手をすると疲れると思っていたけれど、話して見ると割と話の分かる人だった。
マッドベアーの件に関しては泥熊の手は薬になるらしく、親類がこの薬がどうしても必要な病にかかってしまったためどうしても手に入れる必要性があったらしい。
泥熊の手はレアアイテムだったので市場にはなかなか出回らないらしく難儀していたそうだ。
ダメもとでマッドベアーの生息域に討伐に来たらしいがなかなか仕留められず、数日かけてダメージを蓄積させていたところでオレ達が倒してしまったらしい。
まぁつまりあの時の主張は強ち的外れではなかったようだ。ちょっとした誇張があっただけで。
お貴族様然とした態度も泥熊の手を手に入れるために強気に出なければいけないと思った故だったみたいだ。
まぁ素の今でも割と所々に見え隠れしてるけど。
「それで、道はちゃんとわかるんですか?」
「それは大丈夫ですの。この街道まで出て来れればあとはなんとでもなりますから」
「それなら安心ですね」
「えぇ、あなたも依頼がんばりなさい。
ランクが上がったらわたくしの専属にしてあげてもよろしくてよ」
こんな感じに本人は無意識なのだろうが上から目線になりがちだ。
ウィシュラウ家は鉱山街――トルマネトで1番の貴族だそうな。つまりは本物の貴族でこのドリルさんはオレみたいなぽっと出のお嬢様ではなく、本物のお嬢様ということだ。なら仕方あるまい。
というかお嬢様がお供を2人しか連れずにマッドベアーみたいなそれなりのヤツを狩りに来るというのはどうなんだろう。
普通もっと人数を連れるか、命令するだけなんじゃないだろうか。
確かにこのドリルさんはグリズリー程度なら倒せるくらいの実力はあるけれど、グリズリーとマッドベアーでは格が違う。
とはいっても数日はマッドベアーに張り付いていられたみたいだから無謀というほどでもないのかもしれない。ならばいいか。
多分これきりだろうし。深く考えても仕方ない。
「それでは、魔結晶美味しかったですわ。
特に蜂蜜がとてもよかったですわ」
ドリルさんはそう言って去って行った。
お供のカイトさんとアンさんは一礼して後を追っていった。
期せずして賑やかな昼食になり、ネーシャにもいいお土産話が出来たので満足だ。
ちなみに魔結晶煮込みはネーシャへのお土産の分は残らなかった。ごめんね、ネーシャ。
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