幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
102 / 183
第5章

101,ドリルドリル

しおりを挟む
【ワタリ様、魔物です】

「お?」


 ドリルのお貴族様――アリアローゼさん達の方を見てアルが警告を発しているがどうやら彼女達は気づいていないようだ。


「魔物が来ますよ!」

「なんですって!? カイト! アン!」


 オレの声にドリルを靡かせて森の方向にすぐに体を向け、腰の剣を抜き放つ。
 アリアローゼさんの武器は腰に吊ってあったのでわかっていたが刺突剣だ。
 彼女の声ですぐに片手剣使いの少年――カイトも抜剣し、右側のドリルを守るように立ち、弓使いの女性――アンは左側のドリルを守るように矢を弓に番え、いつでも打てるようにして警戒し始める。

 手馴れた動きと各々の死角を補うような陣形。
 3人で戦う事にかなり慣れているのだろう。

 ほどなくして森から現れたのはマッドベアーを2周りほど小さくした魔物――グリズリーが2匹だった。
 灰色の毛皮はそれほど防御力も高くないが爪は野生の熊よりも鋭く強力だ。


「いきますわよ!」


 だがマッドベアーを獲物として追いかけていただけあり、明らかにマッドベアーより格下の相手に臆するわけもなくアリアローゼさんは先陣を切って突っ込んでいった。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「どうですの!」

「あ、はい。お見事でした。はい、これどうぞ」

「ほほほ。もっと褒めてもいいんですのよ?」

「えぇーと、はい。すごかったですね。それじゃ私達は私達の依頼があるのでこれで~」


 もうかなり面倒くさかったのでレアアイテムだという泥熊の手は勿体無いとは思いつつも渡してしまうことにした。
 これ以上面倒にならないように適当に相手を持ち上げてみたりもしてそそくさと退散する。


「これで――」


 アル達の所まで戻ってきた所で振り返ってみると小さく拳を握っているドリルさんが何か呟いているけど小さくて聞こえない。
 傍でカイトという少年も一緒に喜んでいるけれど、弓使いの女性のアンさんはこちらに小走りに近づいてきた。


「あの、大変申し訳ありませんでした。
 ですが譲っていただいて本当に助かりました。こちらをお納めください。
 あ、あと……その……」


 てっきりこのまま終わりかと思ったらアンさんが小走りに駆け寄ってきて頭を下げたあとアルに小袋を渡している。
 オレではなくアルに渡したのは明らかにアルがオレを守る位置にいたからだ。

 恐らくお金が入っているだろう小袋を渡しても立ち去ろうとしないアンさん。
 チラチラとレーネさんを見ていることからレーネさんに声をかけたいのだろう。
 まぁレーネさんは有名人だからな。でもドリルと少年は気づいてないっぽい。
 レーネさんは有名ではあるが、常にフードを深く被っているので顔はあまり売れていないのだろう。でもそれでも知っているという事はレーネさんのファンなのかな?


「……あ、あの、ストリングス様ですよね? 白狼の」

「そうですよー。やっぱりレーネさんのファンだったり?」

「はい! 私、ストリングス様に憧れていて……。もしよければ握手していただけますか!?」

「おー……さすがレーネさんだ」

【わわわ、ワタリさん……】


 キラキラした瞳を向けられてしまってあたふたしているレーネさんが助けを求めてくるけれどこれくらいならいいリハビリになると思ってあえて助けてあげない。


【握手くらいいいじゃないですか~】

【うぅ……】


 おずおずと巨体を縮めながら握手をするとアンさんは何度も何度もお礼を言ってはキラキラした瞳をさらに輝かせている。


「アン! そろそろいきますわよ!」

「あ、はい、お嬢様。
 それではほんとうにありがとうございました」


 ドリルに呼ばれて最後に大きく頭を下げてアンさんは戻っていった。
 レーネさんの人見知りもこうやって少しずつ他者と触れ合っていけば少しは改善してくれるだろう。
 どうせなら好意の方に触れた方がいいと思うし。

 そんなことを思いながらこちらも他の依頼のために移動をしようと思ったところでまた声がかかった。


「お待ちなさい! あなた、ワタリといいましたね?」

「え、はい、そうですけど」

「もし、この先にある鉱山街――トルマネトに来る事があったらウィシュラウ家に立ち寄りなさい。
 トルマネトだけですが便宜を図ってあげる事ができますわ。
 ではごきげんよう」


 ドリルさんは言いたいことだけ言うと颯爽と2つのドリルを靡かせて森の中に入っていってしまった。

 なんというか本当にマイペースな人だった。


「まぁなんていうかちょっと疲れたけど次の依頼をこなそうか」

【私がこんなだからワタリさんに負担をかけてしまって本当にすみません……。
 本当なら年長者の私が交渉役をするべきなのですが……】

【大丈夫ですよー。
 さっきちゃんと握手も出来てたし、これからですよこれから!】


 確かに通常なら経験豊富な先輩冒険者に交渉やなんかを任せ、その技術を盗んで覚えるものだ。
 でもうちではそういうのは出来ないので、最初から交渉や話し合いはオレがやることになっている。
 アルは基本的にはオレの補佐だ。レーネさんは用心棒的な立ち位置になるんだろうか。
 なので役に立ってないわけではないのでそれほど落ち込むほどではない。
 でもレーネさんは優しいし、気も利く人なので仕方ない。

 落ち込むレーネさんをフォローして岩場を移動していく。


 次にこの岩場付近でこなせそうな依頼は黒色ウサギの討伐だ。
 この辺の岩場に大量発生しているらしいが今の所一匹も見かけていない。
 マッドベアーのようなこの辺にはいないはずの魔物が居たから散ってしまっているのかもしれない。

 そうなのだ。マッドベアーはこの辺には本来いないはずの魔物で、さっき現れたグリズリーよりも圧倒的に難易度の高い魔物だ。
 本来はもっと標高の高いところにいるそうなのだが、たまに麓のこの辺まで来る事もあるらしい。
 レーネさんから教えてもらいながらも移動していると、岩と岩の間を黒い何かが一瞬飛び跳ねたのが見えた。


【お、気配察知に引っかからないってことは黒色ウサギかな?】

【そうかもしれません。黒色ウサギの隠形はかなり優秀ですから】

【ワタリ様、前方10時から3時方向に数は6匹でございます】

【……わかったの?】

【答えは是】

【さすがです、アルさん】

【頼りになりすぎてもうほんとアルなしじゃいきてけないなー】

【来ます】


 オレもレーネさんも気配察知で発見できなかったのにアルには数どころか黒色ウサギの動きもはっきりとわかっているみたいだ。
 視界の片隅で黒い何かが動き、その姿を表すと同時に3方向から水の塊が射出される。

 この黒色ウサギは黒い毛皮で動きも素早く、その上水魔法も使ってくる。
 というか水魔法以外にはラージラビットと同じような体当たりしかできない。
 それでもラージラビットよりも遥かに素早く、気配察知に引っかからない隠形というスキルがあるため奇襲を受けやすい。
 しかも岩場などの障害物が多いところに好んで生息するので性質が悪い。

 3方向から飛んでくる水の塊は全てアル目掛けて飛んできている。
 でも相手は6匹のはずなので恐らく時間差で攻撃を仕掛けてくるだろうことは想像に難くない。

 3発の水の塊を盾で危なげなく防いだアルに更に3つの水の短剣が降り注ぐ。
 どうやら時間差を狙ったわけではなく攻撃力を高めるために遅れただけのようだ。
 だが当然ながらアルの防御技術の前には多少形状を変えて攻撃力を高めただけでは意味はない。
 全部アルに向けて撃ってしまったのが運のつきともいえる。まぁオレやレーネさんに向けて当たるとは思えなかったが。

 初撃全てを防ぎきられた黒色ウサギはすぐさま岩の陰に隠れようと逃げ出すが、ソレを待ってあげるほどオレは甘くない。
 水の塊を射出するために飛び跳ねた最初の3体はレーネさんの飛空斬とオレの火矢で討ち取られている。

 残りの3体は水の短剣を飛ばしてきたが、飛び跳ねてから撃ったわけではないけれど直線軌道なのですでに場所も割れている。
 8本ほど同時に作成された火矢は2本で最初の1匹を討ち取り、残りの6本は上空で一時待機させて軌道から算出された場所に向かって打ち出しておいた。
 小さな断末魔を3つほど残して戦闘は開始から数秒であっさりと終了したようだ。


【討伐数は確か20羽でしたよね?】

【はい、大体5~8羽程度で群を作るはずですのであと2,3回といったところでしょうか】

【よーし、さっさと狩ってしまおう!】

【黒色ウサギは見つける方が時間がかかりますけれど、アルさんがいるので大分楽になりますね】

【ほんとアル様様だね!】

【勿体無いお言葉にございます】


 アルに警戒をお願いしてさくっと解体して素材を集めてさらに岩場を移動し、隠れている群や奇襲してくる黒色ウサギを瞬殺してあっという間に2つ目の依頼は終わった。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

処理中です...