幼女と執事が異世界で

天界

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第5章

100,ドリル

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「ハッ! ヤッ!」


 鋭い踏み込みからの連続突きにより、急所を何度も貫かれた巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
 巨体が崩れ落ちる時にはすでに距離を取っていた彼女は素早く次の獲物目掛けて足を踏み出している。
 だが魔物もただではやられまいと果敢に連続で爪や牙を向けてくるがその全てを華麗にかわし、カウンターで何度も突き入れる。
 連続で攻撃が命中していても深追いすることなくすぐに引き、そこに数本の炎を纏った矢が突き刺さる。
 火矢から延焼した炎が魔物を混乱させ、そこへさらに片手剣と盾を持った少年が魔物の膝などの間接部を狙って斬りつける。
 動きが鈍った魔物に連続突きが決まった事により、見える範囲にいた全ての魔物は撃ち倒されたようだ。

 なかなかどうして素晴らしい連携だった。


「どうですの? これがわたくし達の実力ですのよ!」


 振り返ったドリルが自慢げにドリルを揺らしながらドリルっている。
 おっと、ドリルばかりに目が言ってしまって何を言ってるのかわからなくなってしまった。
 誇らしげに控えめな胸をそらしてドヤ顔をしているドリル――アリアローゼ・シャル・ウィシュラウは自分達の実力を見せ付けることができて大満足のようだ。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 時間はさかのぼる事1時間くらい前。


 オレ達は目的地についた後、一旦馬車を屋敷に戻してまた戻ってきた。
 ここからは徒歩で行動した方がいいからだ。
 街道から外れた森と山岳地帯の中間あたりの岩場のようなところが4つある依頼のうちの1つ目の目標があるところだからだ。
 1つ目の依頼は白涼草という薬草類の採取だ。
 この薬草は高品質のポーションを作成するのに必須とされる素材で繋ぎのような役割を果たす。
 これがないと素材と素材がきちんと混ざり合わず、結果として品質の悪い物になってしまう。

 白涼草はこの辺りの山岳地帯の麓にある岩場、今オレ達がいるようなところに好んで自生する。
 数も固まって生えているそうなので1度見つければ規定数にはすぐ達するだろう。
 ラッシュの街からの距離と出没する魔物を考えると低ランクの依頼としては高難易度に位置する。


「あったー」

【この量ならば十分に足りますね。さっそく採取しましょうか】


 特に魔物も出ず、岩場を少し歩いただけで岩の陰に群生していた白涼草を見つけてしまった。
 量も十分であり、アルが周辺警戒している間にレーネさんにどの部分を採取していけばいいかを教わりながら採取する。
 取りすぎなければいいわけでもなく、きちんとどの部分を採取すればその後の成長に影響が少なくなるかも結構重要だ。
 白涼草は繋ぎに使うだけあってかなり需要が高い。
 その為絶滅させるような採取方法は厳禁なのだ。


【これくらいで大丈夫です。少し多めに取りましたので多少失敗しても大丈夫ですよ】

「これで屋敷に帰ったら気兼ねなくポーション作り出来そうですね」

【はい、頑張りましょう】


 ポーションはお店に行けば在庫もたっぷりあるだろうしいくらでも買える。
 でも自分で作ってみるのも勉強になるのでレーネさんが教えてくれるそうだ。
 白涼草の採取依頼もポーション作りに必要な素材採取も兼ねているし、どの素材がどういった生態でどういったところに生えているのかという勉強も兼ねている。


「ワタリ様!」

「む! なんか来たね!」

【はい、マッドベアーですね。この辺りで出会うなんて珍しいです。気を引き締めて行きましょう】


 アルの声と共にオレとレーネさんの気配察知にも反応があり、すぐに戦闘態勢を取る。
 マッドベアーはそのまんまの泥んこ熊さんだった。
 泥んこ熊さんというと可愛い感じがするが、実際は体長が4つ足の状態で3mくらいあり、立ち上がったら5m~6mくらいあるんじゃないかという化物だ。
 その体表は泥だらけのように一見見えるが実際は硬く、凄まじい防御力を誇る。
 遠距離攻撃も持ち合わせており、泥を硬質化して弾丸のように打ち出してくる。

 彼我の距離はおよそ40m。
 だがあの巨体で速度もかなり乗っており、この程度の距離はないにも等しいだろう。


 アルが盾を構えてオレの前に出る。
 マッドベアーには遠距離攻撃があるが4つ足の状態では使ってこない。
 腕を振るう動作と共に弾丸を射出するようなので4つ足で駆けて来る状態では体当たりかのしかかりだろう。
 あれほどの巨体とかなりのスピードから繰り出される体当たりなら相当な破壊力を発揮するだろう。
 だがそこは卓越した防御技術を持つアル。
 どんな破壊力がある攻撃でも合気の理を持って受け流してしまう。

 岩場を駆け上がるように1個の弾丸と化したマッドベアーがアルを飲み込むように体当たりを敢行する。
 アルの後ろにいるオレにもわかるほどの巨体が凄まじいスピードで突撃してきたが、アルがほんの少し盾を斜めにするだけで軌道が変わりすっ飛んでいく。
 激突の音がない代わりに障壁が1枚砕けた破砕音とほぼ同時に、空気を引き裂く巨体が通過する凄まじい風切音が岩場を突っ切っていく。

 アルの防御技術は知っているけれどまさかあの突撃を音もなく逸らしてしまうなんてさすがに思考が追いつかない。
 だが思考が追いつかなくて何もできなかったのはオレだけのようだ。
 目だけでは追っていたマッドベアーの首が飛び、コントロールを失い挙動を制御できなくなった巨体が岩にぶつかりくず折れる。
 突撃時のスピードと巨体を考えればずいぶん静かにではあったが。


【さすがアルさんです。とても仕留めやすかったです。ありがとうございます】


 マッドベアーの首を飛ばしたのは当然ながらレーネさんだ。
 だが彼女はいつも使っている長剣――金剛羅刹ではなく、レーネさんの大きな体に見合った一般的には度を越した大剣――朱珠白塵を使っているし、よく見ればアルの足元の岩は皹が入っている。
 障壁の破砕音も聞こえたし、もしかしたらアルは怪我を負ったのかもしれない。


「アル、足とか大丈夫? 怪我してない?」

「答えは是。問題ありません」

「そっかぁ~。ならいいんだけど。
 それにしてもレーネさんが朱珠白塵を使うなんてアイツ結構すごい魔物なんだねぇ」

【マッドベアーはこの辺りには出没しないはずの強力な魔物ですから】


 レーネさんが朱珠白塵を使うのは相手の防御力がかなりの時か、本気の時だけだ。
 強力な魔物とはいってもレーネさんに一撃で倒されているし、アルの防御がちょっとわけわかんないくらいすごかったので印象が薄い。


【レーネさん、さっきのアルの防御ってまったく音らしい音をさせていませんでしたけど……】

【あれはそういった防御方法です。あまり大きな音を出されると他の魔物が集まってきかねませんから】

【なるほど】


 確かに言われてみればぶっ飛ばされたマッドベアーは不自然なほど静かだった。


【ですがいくら音を消す技術が高くても先ほどのようなほぼ無音になるには相当な修練が必要になります。アルさんはすごいです、とても驚きました】


 あ、やっぱりレーネさんもびっくりはしたみたいだ。
 でもびっくりしていてもきっちり自分の仕事はこなしているのが経験の違いだろうか。
 まだまだだなぁ、オレ。

 まったく役に立たなかったのを反省しながらマッドベアーを解体して出てきた巨大な熊の手を回収する。
 今の所まったく役に立っていないので率先して解体作業を志願してアルとレーネさんには周辺警戒をしてもらったのだ。

 解体を終えて戻ると森の方で気配察知が反応した。数は3。この気配は人間だろう。


「あー! あなたそれは泥熊の手ではありませんか!?」

「わぁ~……ドリルだ」

「だだだだだ誰がドリルですの!?」


 森の中から出てきたのは金髪を汚れで少しくすませたツインドリルだった。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「そういうわけですのでそのマッドベアーはわたくし達の獲物ですの」

「うん、まぁ話はわかったんだけど倒したのはうちのレーネさんだから」

「ほとんどのダメージを与えたのはわたくし達ですの」

「でもまぁ止めはレーネさんだし、こっちも攻撃されたのを返り討ちにしたわけだから」

「ですから! わたくし達の獲物なんですの!」

「えー……」


 なんでもこのドリル……アリアローゼ・シャル・ウィシュラウさんはこのマッドベアーの素材――泥熊の手は自分達の物だと主張したいそうだ。
 数日をかけてダメージを積み重ね、もう少しで討伐できたであろうところを逃してしまい、オレ達が返り討ちにしてしまったらしい。
 結構元気に走ってたし、解体したときも傷らしい傷なんてほとんどなくてあっても治りかけばかりだったんだが……。

 というか逃げられて別の人に倒されてしまった場合は、予め狙いをつけて後をつけていたりして、あわよくばお零れにあずかろうとするハイエナ行為でなければ大抵は倒した人達の物になる。
 逃げられた方が悪いし、オレ達も襲われているわけだし。
 ギルドカードにも討伐が成功した場合にしか記録が残らないので証拠も残らない。
 だがこのドリルはどうしてもこの泥熊の手が欲しいらしく、こうして交渉? している。


「ではこうしましょう! わたくし達の実力を見せますのでそれで納得してくださいまし」

「いや、意味がわからないよ?」


 そしてどうにもこのドリル、話が通じない。
 森から出てきたのは3人だったのだが、他の2人は弓使いの女性と片手剣と小盾の少年でどちらもすまなそうにしている。
 でも助けてはくれない。たぶん彼らでは止められないのだろう。話通じないし。
 それにこのドリルは結構身分が高い人なのだろうと簡単に予測がつく。
 他人の話を聞かない事といい、結構装備が豪華な事といい、なんかすごく長い名前といい……何よりドリルだし。
 後ろですまなそうにしている2人は護衛か付き人か何かなのだろう。


【レーネさん、どうしたらいいでしょう?】

【えぇと……ウィシュラウ家という名は聞いた事あるようなないような……。恐らく名前からしても貴族なので1度言い出したら聞かないですね……残念ながら。
 特にこの泥熊の手はマッドベアーのレア素材ですので……】


 どうやらレーネさんの判断的にもだめなようだ。ていうかレア素材なのかこれ。
 テンプレ通りというかそれ以上に唯我独尊な我が侭貴族なドリルはドリルを翻して背後にいた2人と共に移動を開始し始めている。


「何をしているんですの? ここには魔物はいませんわよ?」


 少し進んだ所でオレ達が着いて来ていないのに気づいたドリルが不思議そうにこちらに言ってくる。
 なんだかもう泥熊の手を渡して終わりにしたい気分だ。すごい疲れる。


「えっと、私達も私達の依頼があるのでこの泥熊の手は差し上げますよ」

「結構ですわ。わたくしは施しは受けませんの」

「えぇ~……」


 もはやげんなりするしかないドリルの態度にがっくりと肩を落とすしかなかった。
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