幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
142 / 183
第7章

141,お話

しおりを挟む
「ぅ……」

「どうしたのじゃ、レーネよ。妾とワタリをかけて戦うのじゃろう?」


 オレを守るようにエストリア姫――エリアの前に立ちはだかっているレーネさんだが、彼女の挑発的な言葉に若干気後れしている。
 元々レーネさんは人見知りが激しいし、強く出るようなタイプじゃない。きっとエリアと2人きりになったオレを心配しすぎて気が動転していたのだろう。
 それが今はエリアを前にして頭が冷えてきたのかだんだんと普段通りに戻りつつある。


「あー……。エリア様、あんまりレーネさんのこといじめないでください」

「わ、ワタリさん……」

「む……。そうじゃな。すまんな、レーネ。さっきのは冗談じゃ」

「ぇ、ぁの……。はぃ……」


 レーネさんの背後から顔だけ出してエリアに言ってやればさっきまでの挑戦的な言葉が嘘のように引っ込み、すぐに太陽のような笑顔で言葉が返ってきた。
 レーネさんもその違いに呆気に取られて目を白黒させつつ頷くことしかできない。
 まぁこれで一件落着だ。
 頑張ったレーネさんには悪いけど、このまま戦うとかないから。


「じゃあ私達はこれで」

「うむ。いつでもソレ・・で連絡するのじゃぞ。遠慮はいらぬぞ!」

「あー……はい」


 胸を張って満足そうに踏ん反り返っているエリアに適当に返事を返して未だに困惑気味のレーネさんの手を引いてギルドを後にした。

 ……はずなのだが、なぜかエリアが付いてくる。


「あの……エリア様?」

「うん? なんじゃ?」

「いやその……。何平然と私達と一緒にいるんですか?」

「……あれじゃ! レーネがそんなに懐いているワタリのことがもっと知りたいのじゃ!」

「懐いているって……。レーネさんは私の家族ですから、普通です」

「普通のわけないじゃろ。レーネは騎士団にいたころはグレー以外と喋れないほどだったのじゃぞ?
 そんなド人見知りがそんなに懐いているワタリはおかしいのじゃ!」


 ド人見知りって……。ドのつけるところ間違ってないですかね。
 てか、やっぱりレーネさんは騎士団ではグレーさんとしか喋れなかったのか。なんかこうすごく簡単に想像できる。ていうか今は多少マシになったけど、オレと親しい人以外には自分から喋りかけることなんて一切ないからなぁ。


「というわけで妾はワタリのことが知りたいのじゃ」

「知りたいといわれても……。レーネさんの精神の安寧のためにも帰ってください」

「な、なんかワタリが酷いのじゃ!? レーネと妾、どっちが大事なのじゃ!?」

「レーネさん」

「ワタリが酷いのじゃ!?」


 なんだろうこのコント。
 そもそもあなたとは中立であって味方じゃないんだからそんな話ではないだろうに。


「エリア様、そういうコントいらないので」

「むふふ……。やっぱりワタリはわかっておるのぅ。これじゃこれじゃ。こういうやり取りがしたかったのじゃ」

「……まったくそういうのは他所の人とやってください。うちのレーネさんを巻き込まないでください」

「ワタリはなかなか厳しいのぅ。いいではないか、レーネだって知らない仲でもないのじゃし」

「いや正直レーネさんにとっては騎士団を追い出した相手でしかないですからね、エリア様?」

「な、なんじゃと!? 妾は追い出したわけじゃないぞえ!
 レーネ、違うのじゃ! 妾は決してそんなつもりではなかったのじゃ!
 そ、そのあれじゃ! たまたまじゃ! たまたまグレーが相手じゃったから!」

「……ぇ、ぁ、ぅ……」

「はいはい、そこまでー。エリア様離れて離れて。レーネさんびっくりしてるし。近いし、離れろこら」


 触れ合いそう……というには身長差があって近くないけど、背伸びして捲くし立てているエリアの膝に軽く蹴りを入れてバランスを崩させる。カクン、と膝を突かせて落ちてきた顔面に手を当てて鷲掴みにして引き離せばワタワタ、とリアクションを返してくれる。
 なんだろう、やっぱりこのお姫様はわざとやってるよな。さっきのやり取りでも定番の、というか漫画や小説なんかにあるようなコントチックなやり取りがしたかったようだし。今もそうだし。
 ワタワタ、と手を振るリアクションなんてまんまだし。


「むふふ……。かなり過激じゃが、やはりワタリはいいのぅ。これじゃこれじゃ!」

「いやだから……。はぁもういいです」


 なんだかんだで結局付いて来てしまったエリアにため息を吐く。
 かなり強引ではあるけど、本気で嫌なほどではない。これは相手の行動がある程度理解できているのと彼女の子供っぽい無邪気さによるものだろうか。
 暴姫などと呼ばれるほどの危ない人という先入観があったから逆に今の彼女の行動が余計コミカルに映っているのかもしれないが。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 海鳥亭に戻ってくるまでにエリアは誰か――たぶん彼女の護衛か従者――にオレ達と一緒にいることを通信魔道具で伝え、その後はレーネさんをいじったり、オレを弄ろうとして返り討ちにあい、レーネさんをいじったり、レーネさんをいじったり、レーネさんをいじったりしていた。
 ほんの数分だったはずなのに、海鳥亭に着いた時のレーネさんはもう大分ぐったりしていた。
 そんなレーネさんとは対照的につやつやのお肌になったかのように晴れ晴れとしているエリアにジト目を送るがどうにも彼女はどこ吹く風だ。

 ぐったりしているレーネさんを慰めつつ、宿に入る。
 さてこのままでは本気で部屋まで着いてくるだろう。さすがにソレは遠慮してもらいたい。あそこはすでにオレのプライベートエリアだ。
 そんなところにエリアを入れる気にはならない。いくら暴姫とはとても見えないような無邪気さがあろうとまだ彼女のことは良く知らないのだ、当然だ。


「おかえり、ワタリちゃん。そっちの綺麗な子は新顔だね。泊まりかい? それとも食事かい?」

「えーと、じゃあ食事……かな?」

「ふむ? 妾は部屋でもよいぞえ」

「いや、食堂にしましょうか。そうしましょう」

「まぁよいが……」

「そうかい? ゆっくりしていっておくれ」


 案の定エリアはオレ達の部屋に行くのが当たり前みたいに思っていたみたいだ。
 むしろその思考回路がすごい。いや一応お姫様みたいだし、唯我独尊的な感じが普通だったのか?
 短い時間だけど強引な部分は結構……というか相当見てるしな。
 とにかくあっちのペースに引き込まれるのはよろしくない。なので食堂だ。さぁ食堂に行こう。
 あ、でもネーシャ達が心配するからアルは1回部屋戻ってね?

 アイコンタクトでお願いすると軽く頷くアル。さすがはアルだ。何も言わなくてもばっちりだぜ!
 念話使えばいいじゃん、とか思ったが伝わったのだから問題ない。むしろ以心伝心みたいでいいじゃない。

 宿屋から食堂に繋がるドアを潜って中に入れば多少客が居る程度で、そんなに混んではいない。
 食事時ではないタイミングだし、お昼も軽く摂るのが普通だからこの時間帯では混むことはほとんどないのだろう。


「ワタリちゃん、いらっしゃい。昼にはまだ早いけど、何か作るかい?」

「うーん、お腹も空いてないので飲み物もらえますか?」

「じゃあ絞りたての果物ジュースを作ってあげよう」

「お願いします、マスター」


 カウンター近くのテーブルを確保すると、マスターから声がかかったので飲み物を注文することにした。
 レーネさんも多少戻ったとはいえ、まだぐったりしているし何か飲ませて落ち着つかせた方がいいだろう。元凶のことは知ったことではない。

 その元凶は食堂の中を見渡して満足そうな顔をしている。


「むふふ。ワタリはどうやら満喫しているようじゃな」

「満喫……。まぁ確かに満喫してるとは思いますよ」

「妾も満喫したいところなのじゃが、意外と姫という職業は暇がなくてのぅ」


 結構好き勝手やっている印象だったけど、そうでもないのだろうか。


「36年もこっちにいるんですから、結構楽しんでるんじゃないですか?」

「それはソレじゃな。姫やってると冒険者みたいな生活はほとんどできんのじゃ。
 せいぜいが魔物と戦闘するくらいしかやれんのじゃよ。
 妾としてはこういう宿や食堂でたっぷり情緒を満喫したいのじゃ」


 お姫様も色々大変らしい。
 でも魔物との戦闘は出来るみたいだ。どういうお姫様だよ、と思ったけど漫画やゲームじゃお姫様が勇者のPTにいるなんてよくあることだったよな。きっとそれと同じようなもんだろう。どうでもいいし。


「それでじゃ、ワタリは他にはどんなことをしておるのじゃ?」


 テーブルに乗り出すようにして楽しそうに聞いてくるエリアと適当に話しているとアルも戻ってきた。
 その後はウェイトレスのお姉さんがアルを口説きに来て冷たい態度にゾクゾクしていたり、それを見たエリアが何やら感心していたりしたが人が増え始めたのでお開きにすることにした。

 まだ話をしていたそうにしていたエリアだったがもうぶっちゃけ面倒くさい。
 レーネさんはずっと喋らずにオレの隣で待機している感じになってしまっていたし、ネーシャ達も退屈しているだろうし。


「それじゃこの辺で」

「まぁ今日はこんなところじゃろう。次はいつ会えるかの?」

「……いや、次って……」

「つれないのぅ。ワタリと妾の仲ではないか」


 いったいいつの間にそんな仲になったのか理解不能だ。
 まぁこれもきっと狙った行動なのだろう。いつまでも付き合ってやることもないのでコレで終わりだ。


「はいはい、じゃあ終わりです。さっさと帰ってください」

「むぅ……。仕方ない、今日のところはコレで引くとしようかの。
 じゃあまたのぅ、ワタリ、レーネ。……それとなかなか良い目をした執事」


 なんだか最後に不穏な眼差しをアルに贈ってから強引姫は帰っていった。
 食堂から出て行ったエリアのすぐ後に馬の嘶きが聞こえたことからすでに馬車が待っていたのだろうか。
 まぁ海鳥亭の前の通りは馬車もそれなりに通るから偶然だろう。
 もしくは……エリアが終わりを察して呼んでおいたのだろうか。考えすぎかもしれないがあのお姫様は案外侮れない気がする。
 どこまでオレが許容するのかの線引きを楽しんでいたようにも感じられたのだ。

 とにかくあのお姫様はアリアローゼさんのときのように適当にあしらっているだけではだめな気がする。
 また面倒な人に目をつけられたと思いながらも、待ちくたびれているだろうネーシャとユユさんの元へと戻るのだった。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...