幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
178 / 183
最終章

177,集結

しおりを挟む
 紫の球体の中で無慈悲な華が咲き誇る。
 咲き誇る華は刹那の間でその生涯を終えるが、その際に作り出す破壊の力は致命的と言って差し支えないレベルである。
 無幻装身で作り上げているあの紫の球体がなければその威力を遺憾なく周囲に発揮し、舐めるように空間全域を焼き尽くすだろう。
 これが迷宮の最下層と思われる強固で広大な一室でさえ、そう確信させるのだ。地上で花びらの盾なしで使用したらどれだけ被害が出るかわかったものではない。

 そんな脅威的な威力を直径1メートルにも満たない領域で炸裂させ続けているのだから、筋力による火力特化構成ですら無傷でいられた邪神結晶にダメージを与えていることも不思議ではない。

 ……むしろよくもまぁ耐えているものだ。


 5回目の無紫刃華で邪神結晶の形状が球形に近くなってきたように感じる。
 だがその変化は無紫刃華を繰り返すごとに小さくなっていっているのは明らかだ。
 どうやら破壊に至るまでにはまだまだかかるらしい。スタミナ回復ポーションの残量がちょっと心配だ。

 1回の無紫刃華でスタミナ回復ポーションを複数個使用しなければいけない。
 王族の不文律プリンセス・スマイルはスタミナが半分以上回復していなければ使えないし、その半分というのは王族の不文律プリンセス・スマイルを使用した瞬間に消費される。
 さらに残ったスタミナを消費し、危険領域になると自動で解除されてしまう。

 王族の不文律プリンセス・スマイルを長く使うにはスタミナが完全回復している状態がベストということになる。
 そのためにはスタミナを回復させることができるこの不思議なポーションは必須である。
 しかしスタミナ回復ポーションは回復量がそれほど多くはない。
 作成者の腕にもよるそうで、ラッシュの街で生産されているスタミナ回復ポーションで実用範囲の回復量を超えている物は週に数個という程度でしか生産することができないのが現状だ。
 必然的に他所からも取り寄せることになるが、輸送にかかる手間の関係上まだあまり集まっていない。

 とはいってもオレの必殺技というに相応しい王族の不文律プリンセス・スマイルのためなのでかなり無理をしてでも集めている。
 アイテムボックスにもかなりの数が備蓄されているが、すでにかなりの量を消費させられている。
 はっきりいってこのままでは倒しきれないかもしれない。

 王族の不文律プリンセス・スマイルを使わずに無紫刃華を使ったとしても現状の100分の1のダメージ程度にしかならないだろう。
 王族の不文律プリンセス・スマイルを使っている現状でも時間がかかりそうなのにそれではいつになったら破壊できるのかわからなくなる。

 アルにも分散して持たせているので呼び寄せて確保しておいた方がいいかもしれない。
 ついでに足りないようならエリア姫に姫としての権力を使ってもらって国中から強引に集めてもらうのも手だ。
 国中といわずとも王都にアンカーを設置しているエリア姫なら結構な数集められるだろうし。

 現状では無紫刃華に焼かれているだけで何もできない邪神結晶が相手だ。
 念のために多少距離を取って焼いていたがさらに距離を取ってアンカーを設置することにした。
 魔道具無効化のスキルは孤槌舞姫の首飾りが機能していることから問題ない。


 当然、アンカーを設置してもすぐにアル達が来るとは思っていない。
 はぐれた際の様々な状況を想定して話をしているので帰還用魔道具リリンの羽根を連続使用して貯蓄されているMPを無駄に消費することも避けているはずだ。

 帰還用魔道具リリンの羽根はアンカーで移動先を特定しているので、まず登録しているアンカーを特殊な魔法でリンクさせる必要がある。
 このリンクをさせるのにも貯蓄されているMPを消費するし、移動の際にも莫大なMPを消費する。
 そのためアンカーが設置されたのを確かめるためにリンクを何度も行うと移動するためのMPがなくなってしまうのだ。

 だが遅くても30分以内には来てくれるはずだ。
 それまでにスタミナ回復ポーションが尽きたらチマチマとMPを回復させながら使うしかあるまい。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「ななななななんじゃこれはー!?」

「ワタリ様!」

「ワタリさん!」


 13回目の無紫刃華を炸裂させたところでエリア姫の驚愕の叫びが聞こえた。
 エリア姫の叫びとほぼ同時に聞こえたのはアルとレーネさんの声だ。
 やっぱり心配させてしまったようで声と共にすぐに駆けつけて2人共オレの前に出て何があってもいいようにいつもの陣形を瞬時に構築する。

 ちなみに今いる場所は150階層よりもずっと広い上に最下層の証拠――最下層へ未到達な迷宮ならば必ず最下層に魔石がある――となりうる大きな魔石があったり、頑丈で知られる迷宮の床が裂けていたりめくれあがっていたり……ちょっと遠い壁の一角は崩れて瓦礫の山となっていたりする。
 ついでとばかりに目の前では想像も付かないほどの威力だと瞬時に判断させられるだけのエネルギーの塊が美しい姿を晒しているのだ。エリア姫の叫びも理解できる。
 周りの状況よりもオレを優先させる2人の方がおかしいと思うのが普通だ。

 ……まぁオレの力を知っている2人だからこそ、というのもあるけど。


 ところで無紫刃華は紫電を究極的な破壊のエネルギーと化して攻撃する固有スキルではあるが、雷のように発生時に轟音を発したりはしない。
 無幻装身の花びらの盾が音を吸収しているわけではなく、元々音が発生しないのだ。実に静かなスキルである。その代わり多少眩しいけれど。

 だから炸裂中でも普通に会話は可能である。まぁ轟音が鳴り響いていても念話などの手段があるので大した意味はないが。


「アル、スタミナ回復ポーション全部出して。そろそろなくなる」

「畏まりました」


 エリア姫の顎が外れそうなほどに大きく口を開いた絶叫は無視して、アルからスタミナ回復ポーションを受け取りアイテムボックスに突っ込んでいく。
 そのまま使用するには被るか飲むかしかないのでアイテムボックスから使った方が色々な意味で楽なのだ。
 ついでに完璧に使いきれるという点でもアイテムボックスから使用した方がいい。
 被るにも零れたり、飲むにも数滴残ったりするとその分回復量が減るのだ。
 ほんの1パーセント未満程度の誤差でしかないが、今はその誤差でも重要だ。

 さらに無紫刃華を炸裂させると全てのスタミナ回復ポーションを渡し終わったアルがアイギスの盾を構え直す。
 今のところ反撃されたことはないがアルとレーネさんがいるだけで安心感が違う。


 アルが持っていた分のスタミナ回復ポーションはそれほどの量ではなかったがないよりはずっとましな量があった。


「わたりん、すごいスキルを使っているようですわね。オークロードは倒してしまったの?」

「えぇ、普通に殴って倒しました。
 でもその後に残ったのが問題で、今処理しているところです」

「そうですの。わたくしに何か出来ることは?」

「スタミナ回復ポーションを持っていたら渡して欲しいですね。あとは……反撃は今のところないのですけど、それに備えて欲しいでしょうか」

「了解ですわ」


 未だ再起動を果たせずにいるエリア姫は置いておいて、ドリルさんも持っていた数個だけのスタミナ回復ポーションを渡すとアル達と共に反撃に備える。
 ちなみに顎を外れんばかりに開けて停止しているエリア姫の側ではライリさんがおろおろしており、グレーさんがなんとかエリア姫を再起動させようと頑張っている。

 ……平和だなぁ。

 でもエリア姫にはやってもらうことがあるんだからそろそろ帰って来て貰わないといけない。

 確保したスタミナ回復ポーションをガンガン使って無紫刃華を再度咲かせてから、エリア姫の再起動を頑張っているグレーさんに声をかける。


「グレーさん、スタミナ回復ポーション持ってません?
 ついでにエリア姫の権限とかランクSの権限とか使って今すぐかき集めてこれませんか?」

「あ、あぁ……私は数個しか残っていないが使ってくれ。オークロードと戦っている間にかなり使ってしまったからな。
 王都に戻れば恐らくかなりの量は集められると思うが多少時間がかかるかもしれん」

「ではエリア姫も連れて王都に戻って集めてください。集まった分からでもいいので持って来てもらえますか?」

「了解した。この場は任せていいんだな?」

「えぇ、みんないますからなんとでもなるでしょう」


 お喋りしている間に無紫刃華が終わり、スタミナ回復ポーションを消費して次の準備に入る。


「……ちなみにその信じられないほどの威力のスキルで攻撃しているあの石は何なんだ?」

「邪神結晶っていう石です。寄生して魔王を作るそうです」

「ま、魔王……? ではオークロードがあれほどの進化を遂げたのは……」

「魔王になったからですね」


 グレーさんが愕然とした声を絞りだしたが、魔王なんてウイユベールでは絵本の中の話だ。
 だが実際に殺されかけ、凄まじい耐久性を見せていたオークロードという存在が現実として存在していた以上これほどの説得力はない。

 グレーさんとの話はコレで終わりだと言わんばかりに、無紫刃華が再度咲き誇る。


「……君は……本当に底が知れんな……」


 紫の無音の残光に背を向けて呟かれたランクSの言葉は多少の呆れと強大な畏怖がこめられていた様に感じた。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...