幼女と執事が異世界で

天界

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最終章

181,因子

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 大きく膨れ上がった闇の靄が包み込むようにアルを飲み込む。
 あとほんの数歩の距離。
 しかしもう届かない。どうあがいても……。

 オレを狙っていたのではなかったのか?
 アルと融合する気なのか?

 疑問は尽きない。
 融合するとアルはどうなってしまうのかはわからない。
 魔王化するという情報しかないのだから当然だ。

 だがそんなことはどうでもいい。

 ……オレの・・・アルをおまえになんぞにくれてやるわけがないだろうが!


 広がった絶望を一気に押し返すほどの怒り。
 刹那の間にも届かないほどの一瞬で全ての感情を塗り替えるほどのものがオレを覆いつくす。
 この感覚には覚えがある。

 顎にアルを馬鹿にされた時のアレだ。


 時間が止まったようにゆっくりとゆっくりと流れていく。
 届かない。

 だからどうした。

 邪神結晶の鑑定文にも書いてあっただろう。
 オレは勇者なんだろう?
 なんとかしてみせろ、創造神!






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 加速された思考の中でゆっくりとゆっくりと目の前の靄が閉じようとしていたが、今度こそ本当に時間が止まったかのように動かなくなった。
 靄だけじゃない。オレの体も周りも全て止まっている。

 やっぱり・・・・見てやがったな。


『君には敵わないなぁ。でもこれだけの干渉をするのはボクでも辛いんだ。
 今回は本当に特別だよ?』

「御託はいい。どうしたらいい、創造神?」


 どうやらヤツの干渉により時が止まった世界でもオレは喋れるらしい。
 一方的に聞くだけにならなくてよかった。でも無駄口を叩いている暇はない。
 とっととアルを救い出さないといけないんだ。


『君はボクが選んだ勇者だ。
 ここだけの話、実は君はボクのミスで死んだわけでもなんでもない。
 純然たる寿命であり、ウイユベールへの転生も本当はなくてそのまま輪廻の輪に乗せられるはずだった。
 まぁでも君は選ばれ、因子を打ち込まれた。
 この世界の純然たる存在ではない、君には色々と必要なことだったんだよ』


 御託はいいと言っているのにまったく聞く耳を持たない創造神にかなり苛立つ。
 おまえのミスじゃなくても死んだ事には変わりないし、オレは今ここで生きているんだ。
 最早どうでもいい。

 今必要なのはアルを救えるだけの力だ。


『君を勇者とするためのお膳立ては異常なほどのスピードで整っていったよ。
 ウイユベールの勇者を軽く凌ぐ力を持ったのも君という存在故だろうね』

「その程度では今どうしようもないんだよ。
 おまえが出てきたって事は何がしかの方法によりアルを救えるんだろう?
 でなければオレは勇者じゃなくて魔王になるぞ?」

『……ふぅ。君は本当に怖いな。
 君が魔王になんてなったら本当にこの世界が終わってしまうよ。
 だから本当にやめてね?』

「なら早く教えろ」

『すでに君には因子を打ち込んであるし、熟してもいる。
 あとは君次第だよ。
 君に最初に与えたアレ・・が全てを教えてくれる』


 話は終わりだとばかりに創造神の声が途切れ、その代わりに濁流のような知識が流れ込んでくる。
 濁流は一瞬で、まるで最初から持っていた知識のようにソレはオレの中で完全に定着してすんなりと落ち着いた。

 ……あぁ、そういえば最初の最初にパニックになったときにもそんなことがあったような。


 だがやはりそんな事は今はどうでもいいことだ。
 創造神の言葉通りにアレとやらが全てを教えてくれた。

 止まっていた時間が動き出す。
 その刹那にも満たない時間でオレはウイユベールの勇者には出来なかった事を終えた。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 闇の靄がアルを包み込む最後の瞬間、全ての勇者の装備が転移する。

 アルの元へ・・・・・


 勇者の装備は所有者を自ら選ぶインテリジェンスアイテムだ。
 選ばれた者は死ぬまで勇者の装備を所有し続ける事になる。
 しかしオレはその所有者を書き換える事が出来るようだ。その上所有者の有無を問わず勇者の装備の全てを引き出し、操る事が出来る。

 あれほどの馬鹿げた性能をもっている装備を今まで以上に扱えるというのはそれだけでもおかしい力だ。
 しかし創造神が打ち込んだと言う因子とやらはそれを可能にするものだった。

 因子が開花するには条件を全てクリアする必要があったが、どうやらオレは全てクリアしてしまったらしい。
 ウイユベールの勇者にも同様にこの因子は打ち込まれているらしいが、全ての条件をクリアしたのはオレだけのようだ。

 勇者の証とされているシトポーの祝福もその条件の中の1つにしかすぎないらしい。

 強制的に書き換えられた所有者により、勇者の装備が対象者の危機を感知して集い、守る。
 これでアルの安全は確保された。
 勇者の装備がその力の最後の一欠けらまで使って所有者であるアルを守り続ける。

 実際に勇者の装備を纏っていたレーネさんとドリルさんは装備に守られていたために漏れ出た無紫刃華を浴びてもなんとか原型を留めて生きていた。
 所有者を書き換える前に装備の固有スキル――大海の祈りにより瞬間的に傷を完全に治癒され、天空の祈りにより強制的に屋敷まで転移させた。

 まったくもって勇者の装備の固有スキルは異常な性能だ。
 それを完全に自由に使えるオレも異常ということになるが、まぁいい。


 ……今はこの身を焼くほどの怒りをぶつけることだけを考えればいい。

 オレのアルに手を出した事を後悔しながら消滅しろ。


 瞬間治癒の大海の祈り。
 強制転移の天空の祈り。

 勇者の装備は7つ。
 それぞれに固有スキルである祈りがあり、それぞれに凶悪な性能を有している。

 所有者にもっとも力を発揮するこの祈りではあるが、オレはその所有者を自由に書き換える力を持っている。
 今は所有者はアルになっている。

 アルはオレの盾だ。

 オレを守り、オレを助ける。オレだけの存在。


 女神の祈りにより、靄に包み込まれ融合しようとするを無効化。
 大地の祈りにより、全ステータスを大幅に向上。
 星々の祈りにより、スタミナが尽きなくなる。
 太陽の祈りにより、火力がステータスの限界を超えて極大化。


 7つのうち6つの祈り全てを起動させると使える最後の祈り――創造の祈りにより、次元干渉が起こる。

 勇者の装備は実は封印状態にある。
 装備と言いつつ防具しかないのはこのためなのだ。

 異なる次元に封印されている最後の装備が開放される。

 それは明確な形を持たず、所有者の思いのままの形を取ることができるエネルギー体。


 アルを通して開放される装備の形はオレに相応しい槌。

 真っ白なその槌はオレの小さな体を完全に覆いつくせるような巨体。
 重量をまったく感じさせないのに、その存在だけで全てを叩き潰せそうな力を感じる。


 今まで蠢くようにアルと融合しようと躍起になっていた靄がこの白い巨体が顕現した瞬間に怯え、逃げようとする。
 すでにアルを覆っていた靄すらもないほどにただひたすらに逃げようと全速力で離れ始めていた。


「逃がすわけないだろう?」


 オークロードが持っていた転移能力。
 邪神結晶も当然持っているだろうが、逃げようとしているこの状況で使わないのにはわけがある。
 使わないのではなく、使えない・・・・のだ。

 創造の祈りは次元に干渉する固有スキル。
 転移系のスキルを無効化してしまうのは容易い。

 最早おまえはオレから逃げる事は出来ない。

 そして今この場に於いて、どんな力を使ってもそれが外へ漏れる事はない。


「オレのモノに手を出した事を後悔しながら……消滅しろ!」


 白い巨体が振るわれる。
 次元干渉により距離という概念が消失した攻撃は閉じられた空間の中でただひたすらに炸裂し続けた。

 オレやアルにその余波が届く事はない。
 全てのエネルギーが闇の靄に、邪神結晶に向かって破壊を促す。

 一撃では終わらない。終わらせない。
 オレの怒りを、消失したアルの思い出を、全てを叩きつけなければ気がすまない。


 邪神結晶が粉々になり、完全に消滅しても尚、閉じられた空間は破壊のエネルギーで満たされ続けた。

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