100年後の賢者たち

松浦

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旅の準備

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 ミズガル国へ行くとは言ったものの、出かける準備に困っていた。
 ティウの服は定期的にサミエが入れ替えていておいてくれたそうなので大いに助かったが、旅用ではない。

 遠出した記憶が無いティウにとって、旅は全てが初めてとなる。百年後の世に出る怖さよりも、興味と好奇心が浮き立って落ち着かなかった。

「荷物は何を持って行けば良いのかな?」

「途中で調達すれば良いと思うが……」

 ジルヴァラに色々聞きながら、ティウはあれもこれもと荷物を魔道具の鞄に詰めていく。

「でもミズガルまで遠いですよね? 何日かかるのかな? ご飯いっぱい持って行きたいな。あ、途中で町とかに寄って食べるのもいいな~。うう~~迷う~~!」

「最初にあれもこれも買い込む必要はないぞ」

「そうなんですか?」

「ああ」

 そんな会話をしながらふと横を見ると、ジルヴァラも荷物をまとめているのに気付いた。

「あれ……もしかして一緒に行くんですか?」

「悪いか?」

 この百年で街並みもすっかり変わっているだろう。付いてきてくれるというなら確かに有り難いが、さすがに残されるノアの事が心配になった。

「じーちゃんが一人になっちゃうし……」

 そう言うと、ジルヴァラは片方の眉をぴくりと上げて言った。

「言っておくが、俺はノアのじーさんの側にいたんじゃない。百年前からずっとティウの側にいたんだ」

「えっ」

「俺はティウに助けてもらった時からずっと一緒にいた。……ずっとな」

 突然の告白に驚きすぎて固まっていると、ジルヴァラが目線と同じ位置まで屈み、ティウの頭を優しく撫でた。

「昔はまだ人化もできなかったからティウを見上げていたのが懐かしいな。ティウがこんなに小さかったなんて思わなかったよ」

「小さいは余計です」

 ティウが少しムッとしながら抗議するが、ジルヴァラは笑いながらティウの頭を撫でている。その手つきは優しくて、何だか懐かしい気もした。止めて欲しいとは言えなかった。

「これからも俺を側にいさせてくれ。一緒にいたいんだ」

 ジルヴァラは助けてもらった恩を感じて、ずっと側にいたのだろう。ティウが目覚めるのを百年も側で待っていてくれたという。

 記憶が無いせいで初対面の気持ちが強いティウは戸惑いが隠せない。だが、ジルヴァラの優しさと気遣いが強く伝わってきた。

「あの……ありがとうございます。本音を言うと私も助かります。……よろしくお願いします」

 少し照れながらそうお礼を伝えると、ジルヴァラの耳がピンッと立ち、尻尾がブンブンと勢いよく振られた。
 そして勢い余ってなのか、そのままがばりとティウに抱きついてきた。

「わああ!」

 驚いて押し返そうと抵抗するが、ビクともしない。さらにティウの頭に鼻を埋めてふんふんと匂いを嗅いでいる。

 獣系の種族は仲が良い者に限りスキンシップが激しいのは知っている。
 フェンリルのジルヴァラもそれに当てはまるようだが、本人は百年前と変わらず、ただティウにじゃれているだけなのだろう。
 百年前は子犬だったとしても、今のジルヴァラは成人男性。よく知らない男性に抱き着かれてる状態のティウは内心落ち着かない。

「ちょ、ちょっとちょっと!」

 両親から曾祖父に至るまで、小さいころからよく抱っこや頬ずりを受けていたとはいえ、やはり抵抗はある。
 騒ぎ声を聞きつけたノアが「どうしたの?」とひょっこり顔を覗かせ、こちらを見るなり「あっ!」と叫んだ。

「私もーー!」

 ノアも混ざろうとして体当たりを仕掛けてきたが、すかさずジルヴァラがノアの顔をむんずと片手で掴んだ。

「ひどおい」

 おちょぼ口になったノアとのやり取りを見てティウは目を白黒させていたが、片手がふさがれたジルヴァラの隙を見ていそいで抜け出した。
 
「あっ」

 ティウに逃げられたのが分かったジルヴァラの耳と尻尾がしゅんと落ちる。
 ジルヴァラの力が緩んだのを見計らってノアもすかさず逃げ出したようだ。ノアは「混ぜてくれたっていいじゃな~い」とぶうぶう文句を言いながら、ティウの左手首にパチンと何かをはめた。

「……何これ?」

「変装用の魔道具だよ。新しく改良したんだ。ティウのサイズに合わせたんだけど、どう? 丁度良いかな?」

「以前のに比べて細いね。あと軽い」

「ふふふ……小型軽量化したんだよ~。そこに小さな石が四つあるでしょう?」

「うん」

 細いバングルには、左から青、緑、黄、赤の石が並んでいた。これは石がネジのように回転する仕様になっているらしい。

 魔道具だと言われなければ分からない程に綺麗に細工が施されていた。ぱっと見た印象は、四つの色違いの小さな宝石が付いたバングルにしか見えない。

「青い石を右に回すと、髪色が変えられるよ」

 言われた通りにぐるっと右回りに回すと、ティウの髪の色がぐるぐると七色に変化した。石を回す手を止めると、ピタッと赤髪になった。

「うおっ」

 ティウの髪を見て驚いたジルヴァラの耳と尻尾が、ピンッと勢いよく立った。

「緑の石が耳とか角とか、各種族の尻尾付きで一式」

 訳も分からずただ言われるままにティウは石をぐるぐると回すと、色々な獣の耳や角が尾とセットでポンポンと代わる代わる現れた。

「黄色の石が耳とかの大きさで、赤の石が瞳の色ね」

「また……趣味に走ったな」

「えっへん」

 ノアを見るジルヴァラにはどこか呆れが滲んでいる。しかしノアは堂々と胸を張ってあれこれと説明を続けていた。

「ジル君と一緒に行くんでしょう? 行くよね? 行かせるからね? だからね、ジル君に合わせて変装してみたらどうかな?」

 しつこくジルヴァラと行かせようとするノアに、ティウは首を傾げた。

「……確かに俺と兄弟として行くのが説明が省けて良いな」

「え~っと、じゃあジルヴァラさんの髪は銀で目が青だから……」

 ティウは言われるがまま石を回してみたが、髪が短いせいでほとんど視界に入らず変化がさっぱり分からなかった。

「見えないから全然変化が分からない!」

 慌てて姿見の前でもう一度試し、ようやくティウもその凄さが分かったらしい。

「おおおお~~! じーちゃん凄ーい!」

 感動のままノアを褒めると、嬉しさに蕩けた顔をした。
 言われた通りにジルヴァラと同じ形の耳と色に合わせる。

 フェンリルの色である銀の髪と青い瞳。伝え聞くフェンリルよりも全体的に青みが強い印象があったため、ティウは気になっていた事を聞いてみた。

「ジルヴァラさんってやっぱり氷属性なんですか? あと、水属性もあります?」

「ああ。よく分かったな」

「銀でも青みが強いからそうかなって思ったんですよね。……どうかな、色」

「ぴったりお揃いだよ!」

 ノアがティウとジルヴァラを交互に見ながら、グッと親指を立てた。

「あ、でももうちょっと……」

 ティウは気になる所があってバングルの微調節をする。尻尾の端が引っかかって服がまくり上がってしまっていたのだ。この上からコートを羽織ると、おしりの部分が変に盛り上がって不格好に見えてしまうだろう。

(考えてみたらジルヴァラさんのサイズで調節しちゃってたよね)

 小柄なティウに大きな耳と尻尾は逆に悪目立ちしてしまうだろう。
 これではいけないとティウはうんうん唸りながら姿見の前でぐるぐると回って背後を確認して調節していたが、試しにコートを羽織ってフードを被ると、耳も引っかかってしまう事に気がついた。

「どうしたの? なにか不具合でもあった?」

 あーでもないこーでもないとぶつぶつ呟く微調整をしているティウを見て、ノアが首を傾げて問うた。

「違うの。フード被ったら耳と尻尾が引っかかるなって思って」

 ティウは鏡を見ながらサイズを調節していく。耳を小さくすると、尻尾も連動して同じだけ小さくなるようだ。
 さらにバングルは石を回さない限り、一度決めた姿で固定できるようになっていた。外せばすぐに元の姿になるし、着ければまた獣人の姿に変化できる。ノアの配慮が細かい。

「そっか。最初に気付けばよかったね。ごめんね」

「ううん、大丈夫だよ。バングルありがと! 壊さないように気を付けるね」

 だが本来の自分の耳も触れば確かにそこにあるのに、見えないという魔法の仕組みが気になって、ティウは自分の耳の辺りの髪をかき上げたり、頭の上にできたもふもふの耳をさわさわと撫でて確かめている。その様子をノアは微笑ましそうに見ていた。

 フードを被っても耳が収まるくらいのサイズに調節してみると、尻尾もコートをまくり上げないサイズに落ち着いてくれた。
 満足したティウがコートを脱ぐと、ちょこんと可愛らしい小さな耳と尻尾になっていた。

「小さすぎるかな? どう? ちゃんと耳と尻尾は見えてる?」

「……っ!?」

 こちらを見た彼らが口元を手で覆って仰け反っていた。

「え? 変?」

 よく分からない反応に不安になって聞いてみると、彼らはぶんぶんと首を横に振った。

「可愛い」

「え……そう、かな?」

(似合うってことかな?)

 ジルヴァラの直球の言葉に少し照れながら返事をしていたら、変装用のティウの尻尾がパタパタと喜びの表現をした。するとノアの様子がさらに変になった。「はわわわわ……」と呟きながらぷるぷると震えている。

「どうしたの、じーちゃん」

 ノアは我慢しきれないとばかりに叫んだ。

「ああああ~~! 計画通り~~! もふもふ~~~~!!」

 ガバッと抱きつかれたティウは、耳と尻尾をこれでもかと撫でられる。いきなりの事に驚いて固まってしまった。

「なななな、何事!?」

「こら!」

 ジルヴァラがノアを引きはがす。ティウの頭はぐしゃぐしゃで、ぜえはあと肩で息をしていた。

「あああ~~もふもふ~~~~!」

「ノアのじーさんは毛むくじゃらを見るといつもこうなんだ……まったく」

「じーちゃん、まさかのもふ好きだったの……?」

 予想外のノアの趣味が発覚して、ティウは呆然としながら言った。百年前は知らなかった事実に、ノアがふんぞり返って宣言する。

「私がもふ好きになったのはジル君が原因だよ! かわいい子犬が眠っていたティウにきゅんきゅんまとわりついてたんだもの。あの時はとっても可愛かったのに! ジル君、責任として獣化してもふらせて!」

「えっ、それって自信満々に言うこと……?」


 まさかのノアの発言はジルヴァラも初耳だったようで、「マジか」と青くなっていた。


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