100年後の賢者たち

松浦

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失われた書と守護の国

謎の人物

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 宿を出て食事に行く道すがら、二人はどこで昼食を食べるか話していた。本を買うのに夢中になって時間を忘れていたせいで、すでに昼を少し過ぎている。

「屋台に行く?」

 ティウがワクワクしながら提案していると、ふと視界の端に結界がとまった。どうやら結界の近くまで来てしまっていたらしい。

 ティウが急に黙ってしまったので怪訝に思ったジルヴァラがその目線の先を見た。彼も結界に気付いたようだ。
 ジルヴァラは慌てて離れようとしたが、すでにティウの目には気になるものが映っていた。

「待って!」

「ダメだ」

「むむっ! というか、兵士さんが触れるなと言ってた理由が分かった気がするの」

「……何?」

「ちょっと確認したいから少し近寄って見たいの。周囲の観光客みたいにしてれば良いでしょう?」

 ティウの一族はこうと決めたら勝手に行動してしまう。ジルヴァラはその事をよく分かっているので、少し間を置いて溜息を吐いた。

「…………遠くから見るだけだぞ」

「うん! ありがとう!」

 結界の端は湖の手前でもあった。どの道、そこには柵があるので結界の近くへは行けないようになっている。さらに警備中の兵士が等間隔に立っていた。

 島への入り口となる橋の手前には、大きな噴水のモニュメントがあった。
 噴水の中央には、大きな本を持った子供の像があった。どことなく親近感がある。

「あ……ちょ、ま……まさか……」

 像を見てティウは言葉が出ない。それもそのはずであった。

「ああ、ティウの像だ」

「おわああああ!?」

 赤くなったり青くなったりと、顔色を忙しく変えているティウの横で、ジルヴァラが教えてくれた。

「ティウはこの結界を施して国を守った英雄だからな。像の名前は守護の賢者・ティウだ」

「ガーン!」

「ちなみに百年経った今でも大人気。ミズガルでは子供につけたい名前の第一位はティウだ」

「ガガーン!?」

 ついに顔色を失って真っ白になっていると、ジルヴァラが笑う。

「変装にこだわる割には、偽名の話にならないと思ってはいたけど……!」

「そりゃあな。とにかくティウの名前は多いからな。この国ではあっちこっちで『ティウ』を見かける。最近だとティーウとかティーダとか、ティティとか捩ったものも多いな」

「私がいっぱいいるなんて……」

「ぶっ」
 
 呆然としながら言えば、どうやらジルヴァラのツボに入ってしまったようだ。噴き出したジルヴァラは、その後もしばらく笑いが止まらなかった。肩をふるわせて笑っている。

 時折兵士がこちらをちらちらと見ている事にジルヴァラは気付いていたが、像や結界を見ながら小さな子供に説明している姿を見て、観光客だと思われているようだ。
 笑っている二人を見て、兵士は微笑ましそうな顔をしている。

 その時、噴水の前に立つジルヴァラの後ろに、大勢の従者を連れた馬車が止まった。城へ向かう貴族なのだろうか。門番が敬礼しているのが視界の端に見えた。

(貴族もきちんと審査するんだなぁ…)

 ティウはそんな光景を横目でちらりと見た後、結界に視線を戻した。
 結界には時折流れるように文字が浮かび、そして消えていく。複数の魔法を掛け合わせ編み込まれた線を、目で追っていた。

(こんな大きな結界は魔力が足りないから無理だと思ってたけど……私、沢山の魔法を編んでつなぎ合わせてたのね)

 蜂の巣のようなハニカム構造の結界が、網のようにつなぎ合わせてあった。それら一つ一つに、衝撃吸収、反射、排除といった具合で組み込まれているのが分かった。

 自分の結界だからこそ仕組みが分かるせいか、ティウは結界から目がそらせなくなっていた。



 結界の解読に集中し過ぎているティウを、ジルヴァラは不安そうに見ていたために、二人は馬車から男性が一人降りてきた事に気付かなかった。

 男性はそのまま従者達に手を振り、そこで別れた馬車は島へと向かっていく。
 そして男性は従者を二人連れ、噴水へと向かって来る。噴水の近くにいる兵士が男性に敬礼をしていた。

 ティウは自分が作った結界だという核心がいまいち持てなかったが、近くで見たからこそ分かったことがある。

 結界を見て真剣な顔をするティウに、ジルヴァラは嫌な予感がした。その予感はすぐに当たってしまった。

「ジル……多分、この結界もうもたないよ。ボロボロだもの」

 ぼそりと呟いた言葉にジルヴァラが驚愕の顔を向けたが、彼が何か言うよりも先に、知らない男の声がした。

「なんだと? そこの君、もう一度聞かせてくれ」

 ジルヴァラとティウが驚いてそちらを見ると、従者を二人連れた身なりの良い男性がこちらを見ていた。


 ジルヴァラはその顔に見覚えがあったのか、「お前は……」と呟いて目を見開いた。
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