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失われた書と守護の国
男の正体
しおりを挟むアルドリックに案内された場所は、貴族島入り口すぐ側にある貴族御用達のレストランだった。
店の外観は一見しただけではただの豪奢な屋敷だとしか思えない。驚いたティウはぽかんとしながら、疑問が口から出てしまった。
「……お店?」
アルドリックが美味しい店だと言っていたので、てっきりレストランだと思い込んでいた。
まさか、アルドリックの屋敷に招待されたのかと困惑していると、こちらの心を読んだかのようにアルドリックが笑った。
「ここは貴族の別邸をレストランに改装した店でね。さっきの場所から近かったというのもあるが、何より個室が充実しているんだよ。マナーだとか人目を気にしなくていいし、料理もとても美味しいからぜひ食べて欲しいと思ってね。特にデザートがオススメだよ」
アルドリックはティウに向かってそう言いながら微笑んだが、ティウは首を傾げた。
「でざーとって何ですか?」
ティウが目覚める前、砂糖は王族のみが食せる貴重な品だった。昨日少しだけ街を探索してティウが何より驚いたのは、砂糖が一般にまで普及していたことだった。
世界中を旅しているゾンやサミエが、お土産と称して砂糖を持って帰ってきてくれていたが、百年でここまで普及しているとは思いもしない。
獣人の子供には縁遠いのだと理解したのか、アルドリックは優しく説明を付け足した。
「デザートはね、メインディッシュの後に出てくる飲み物と甘いお菓子の事だよ」
「食後にお菓子を食べるんですか?」
「そう。最初に食べてしまうと口の中が甘くなっちゃうだろう? そうすると他の料理の味が分かりづらくなるからね」
昼食後に数時間してからお茶の時間として焼き菓子を食べることはあったが、食後にお菓子を食べるという感覚が分からない。
(お腹いっぱいになってるかもしれないのに、お茶とお菓子まで食べちゃうの!?)
驚きが顔に出ていたようで、反応の良いティウを見てアルドリックが嬉しそうだ。
「最初はさっぱりとしたサラダ、次にスープ。魚料理と続いてメインディッシュの肉料理。そして最後にデザートと続くんだ。一番最後に出てくるから楽しみにするといい」
店によってはメインディッシュは魚と肉で別々になっている所もあるらしい。
そんな説明をしながら、アルドリックは上機嫌に笑っている。
これから尋問されると思ってはいたが、そんな感じを微塵も感じさせないほどにアルドリックの口調は軽い。
そのせいもあってか、純粋に食事に興味が出てきたティウの耳がピンッ! と立つ。
楽しみでそわそわし出したティウの様子に微笑ましかったのか、アルドリックがティウの頭を撫でようとした。しかし気付いたジルヴァラが、サッとティウの頭に手を置いて遮った。
「おっと……ああ、すまない。この子が獣人の子供だというのを忘れてしまっていたな」
「…………」
ジロリとアルドリックを睨むジルヴァラの態度に、ティウはおろおろとしながら二人を交互に見た。
「ジ、ジルお兄ちゃん」
「ふん」
ジルヴァラはアルドリックを睨み続けているが、アルドリックは笑みを絶やさない。その温度差に余裕を感じた。
確かに逃げようにも、左右どころか後ろまでもアルドリックの護衛達に囲まれていて逃げられそうもない。
ティウの結界を張れば強行突破はできるだろうが、王族相手にそんな真似をすれば、それこそ大騒ぎになって観光どころではなくなるだろう。
ティウがミズガルの観光を楽しんでいるというのもあるだろうが、ノアの魔道具を卸している国でもある。
下手な騒ぎを起こしたくないと思っているのはジルヴァラも同じようだった。
そんなティウ達の様子に気付いていない振りをしているのか、アルドリックは全く触れない。
門の左右に待機していた門番に「やあ」とにこやかに声をかけている。
「アルドリック様、ようこそ我がレストランへ。お待ちしておりました」
門番がアルドリックに丁寧にお辞儀をしてから、もう一人の門番へ合図を送った。すると、中央から門がゆっくりと左右にスライドしていく。ガコン、と凹みに金属がはまる重たい音がした。
「ご案内いたします」
どこから現れたのか、燕尾服を着た青年がアルドリックに頭を下げた。
「急にすまないね」
「滅相もございません。ようこそおいで下さりました」
「さあ、君達もおいで」
「は、はい……」
促されるまま、アルドリックの後ろをティウ達も付いていく。
平民がおいそれと入れる店ではないことは、屋敷に造りからして明らかだった。ティウは物珍しげにきょろきょろと周囲を見回す。
門から屋敷の入り口までは一本道であったが、玄関の前に噴水が設置してあり、馬車一台が噴水を一周するよう通り抜けできるようになっている。
玄関の前には馬車が通り抜ける部分と大きな屋根が繋がっており、馬車を下りた時に雨が降っていても、濡れないようにと工夫されていた。
さらに門の正面からは、噴水で人の乗り降りが見えないように工夫されている。
(ふわ~~……すごい!)
建築物に興味があるわけではないが、ミズガルに来てからというものありとあらゆる物が珍しくてティウの目にはキラキラと輝いて見えた。
もっと周囲をぐるりと見回して見ると、庭はさほど広くはないようであった。周囲は高い塀で囲まれていて、どこか閉鎖的だ。
屋敷の真っ白な壁には蔓植物が這うように覆い茂り、色とりどりのバラの花が生け垣のように植えられている。そのせいで、どこか秘密の楽園のような印象も覚えた。
歩いて玄関に入るやいなや、先ず目に飛び込んできたのは豪華なエントランスだった。執事やメイドと変わらないほどの態度の店員達がずらりと左右一列になり、お辞儀をしてアルドリック達を出迎える。
「いらっしゃいませ」
店員に一斉に言われ、驚いたティウの耳と尻尾の毛がボフンと広がった。
(本当にここ!? こんな所で食事をするの!?)
(これだから王族は……)
ティウは困惑し、ジルヴァラは呆れが隠せない。ジルヴァラいわく、このような場所に獣人を招くこと自体がありえないらしい。
そのままティウ達はとある個室へと案内された。部屋の中央には大きなテーブルがあり、庭に咲いていたと思われる色とりどりのバラが生けられ、壁には金の額縁に彩られた絵画が飾られていた。
部屋の四隅には大きな観葉植物も置いてある。その植木鉢の真下にランプが設置されていて、ティウは驚きが隠せない。
(趣向がすごい……!)
テーブルの大きさから六人から八人用だと思っていたが、三人分のカトラリーが置いてあった。
ティウとジルヴァラが横に並び、テーブルを挟んで対面する形でアルドリックのカトラリーが置いてある。
(なんか……なんか贅沢!!)
どう表現していいものか、混乱したティウの頭では言葉が出てこない。色々な意味でティウの目はぐるぐる回ってしまった。
男性の店員から椅子を引かれて、アルドリックから椅子に座る。
すでに子供用である足の長い椅子まで用意されていて、至れり尽くせりだった。
ティウ達が座ると、アルドリックが「ぜひ名前を教えてくれないか」と切り出した。
「……ジルだ」
「ティ、ティウって言います……」
ティウと聞いて、アルドリックの目が驚きに見開かれた。
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