仮面の恋

朝飛

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「れーおん」
「うわっ!なんだ、課長ですか」
「なんだとは酷いな。とっくに昼休憩の時間過ぎてるよ?」
言われてみれば、同じ課の人間がほとんどいなくなっており、時計を見れば休憩時間を 30 分ほど過ぎていた。
一時間休憩なので、残り 30 分はあるが、あまりゆっくりはできそうにない。
それでも少しは取った方がいいだろう。
休憩をとらないとかえって効率が悪くなる。
椅子から立ち上がり、伸びをした俺に対し、矢野課長は心配そうな顔をしていう。
「いくら一時期荒れてて、仕事減らされたからって、あまり根詰めすぎたらだめだよ」
「……はい。その説は、大変ご迷惑をおかけして、すみませんでした」
私情を挟むべきではなかったというのに、自殺未遂までするほど追い込まれていた俺は、とても仕事まで手が回らなかった。
ミスが増え、課長には多大な迷惑をかけたのだが、課長は俺を責めるどころか、俺のことを気にかけてくれていた。
――君は元々、真面目な人間だから、よほどのことがあったんだろうと思うよ。今度、上司と部下としてではなく、昔みたいに先輩と後輩として、飲みに行かない?
と誘ってくれて、学生時代を思い出しながら語っていると、辛いことを考えずにすんだ。
早く立ち直れたのは、矢野課長のおかげも大きいだろう。
感謝の意味もこめて深々と礼をすると、そんな堅苦しいのはいいよと苦笑された。
「それより、休憩行ってきなよ」
「そうですね。行ってきます」
「――あ。ねえ、怜音」
「はい?」
立ち去りかけた俺を呼び止めた課長は、何を言い出すかと思えば、片目をつぶってくいっと酒を煽る仕草をした。
「今夜、一杯どう?」
「いいですね、行きましょう」
笑みを返してこたえると、課長も笑い返した。
明日もお互い仕事があるため、支障が出ない程度に軽く飲み、食事をして帰宅すると、夜 11 時くらいになっていた。
軽く体を洗って床につこうという段階で、洗濯したての白いタオルが目につく。
辻朔弥。今朝、彼に借りたタオルだ。
来週の水曜にまた行けば返せるだろうとは思うが、話しかける口実ができたことに対し、様々な想いが胸の内を渦巻いた。
それを抑え込み、俺は自分に言い聞かせる。
礼を、言うべきだ。だが、それ以上の関わりは、いらない。
そしてベッドに横たわると、深い眠りに落ちた。
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