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悪寒がして、鼻をすする。頭痛も酷くて体も重だるい。昨日、馬鹿みたいに雨に打たれて帰ったせいか、風邪を引いたようだ。帰宅してからはいつもより長くお湯につかり、しっかり体を温めて寝たのだが、濡れていた時間が長かったせいかもしれない。
「あ~、だりい……」
なんだか体が熱い気がするし、思考も鈍くなっている。家を出た時はなんとなくだるい気がするくらいだったが、時間が経つごとに症状が増えてきて、酷くなってきている。大学の講義はなんとか出席したが、バイトは休んだ方がいいかもしれない。
――矢野さんにも、会いたくないしな……。
携帯を取り出して、バイト先に電話をかけると、ワンコールで出てくれた。
「――あ、お疲れ様です。日比谷ですけど、今日ちょっと体調悪いんで、バイト休んでもいいですか」
「え、日比谷君も?ちょっと今日は人が足りないから、厳しいな」
「俺以外にも誰か休んだんですか?」
「うん、関口君が。ほら、彼は元々体弱いとこあるから」
「あ~確かにそうですね。てことは、他に誰か入ってもらわないと、俺は休めないんですか?」
「――うん、そうだね。体調悪い時に申し訳ないけど、誰か当たってくれる?なんか今日はお客さん多くて、私の方から声かけるのはちょっと厳しいから」
「はい、あ~、わかりました。失礼します」
電話を切った後、今日シフトが入っていないメンバーに手あたり次第にかけてみるが、運悪く誰も入ってくれそうになかった。その間にも、風邪の症状がどんどん酷くなっていき、体がふらついてきた。
――あ~やっべ。でもバイト行かないと……
なんとか気力で体に活を入れ、バイト先に向かうために歩き出す。いつも以上に道程が長く感じられた。まさに体を引きずるようにして、ようやく店の入り口が見えてきたところで、足を止める。
――よりによって、今一番会いたくない人に。
自分に気づかずにそのまま入って行くことを祈るが、この位置からでは気づかない方が無理な話だ。観念して溜息をついた時、案の定向こうも気が付いて顔を上げる。
「あ。日比谷君」
「……」
気まずげに視線を逸らすが、矢野さんはそれにも構わずに近づいて来た。
――なんで、来るな。
そう思った時、一層頭痛が酷くなり、顔を顰める。心なしか息切れもしてきた。
「大丈夫?顔色悪いけど」
霞んだ視界に、矢野さんの心配そうな顔が見えて、不覚にも嬉しいと感じてしまった。そして、ぐらりと視界が傾く。
「日比谷君!」
呼び声とともに、柔らかい何かが俺を包み、それが矢野さんの腕だったらいいなとぼんやり思いながら、意識が途切れた。
「あ~、だりい……」
なんだか体が熱い気がするし、思考も鈍くなっている。家を出た時はなんとなくだるい気がするくらいだったが、時間が経つごとに症状が増えてきて、酷くなってきている。大学の講義はなんとか出席したが、バイトは休んだ方がいいかもしれない。
――矢野さんにも、会いたくないしな……。
携帯を取り出して、バイト先に電話をかけると、ワンコールで出てくれた。
「――あ、お疲れ様です。日比谷ですけど、今日ちょっと体調悪いんで、バイト休んでもいいですか」
「え、日比谷君も?ちょっと今日は人が足りないから、厳しいな」
「俺以外にも誰か休んだんですか?」
「うん、関口君が。ほら、彼は元々体弱いとこあるから」
「あ~確かにそうですね。てことは、他に誰か入ってもらわないと、俺は休めないんですか?」
「――うん、そうだね。体調悪い時に申し訳ないけど、誰か当たってくれる?なんか今日はお客さん多くて、私の方から声かけるのはちょっと厳しいから」
「はい、あ~、わかりました。失礼します」
電話を切った後、今日シフトが入っていないメンバーに手あたり次第にかけてみるが、運悪く誰も入ってくれそうになかった。その間にも、風邪の症状がどんどん酷くなっていき、体がふらついてきた。
――あ~やっべ。でもバイト行かないと……
なんとか気力で体に活を入れ、バイト先に向かうために歩き出す。いつも以上に道程が長く感じられた。まさに体を引きずるようにして、ようやく店の入り口が見えてきたところで、足を止める。
――よりによって、今一番会いたくない人に。
自分に気づかずにそのまま入って行くことを祈るが、この位置からでは気づかない方が無理な話だ。観念して溜息をついた時、案の定向こうも気が付いて顔を上げる。
「あ。日比谷君」
「……」
気まずげに視線を逸らすが、矢野さんはそれにも構わずに近づいて来た。
――なんで、来るな。
そう思った時、一層頭痛が酷くなり、顔を顰める。心なしか息切れもしてきた。
「大丈夫?顔色悪いけど」
霞んだ視界に、矢野さんの心配そうな顔が見えて、不覚にも嬉しいと感じてしまった。そして、ぐらりと視界が傾く。
「日比谷君!」
呼び声とともに、柔らかい何かが俺を包み、それが矢野さんの腕だったらいいなとぼんやり思いながら、意識が途切れた。
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