14 / 20
6ー2
しおりを挟む
「もう、許してくれ!俺が悪かった!朱海の好きにしていい。隆平が好きなら、忘れられないなら、それで。だから!」
長い回顧から覚める時、朱海の声に抗ってあらん限りに叫ぶ。すると真也の声に被さるように、波の音がした。
目の前に、どこまでも広がり、何もかも飲み込もうとする深い闇色の水面がある。いつの間にか浜辺に来ていて、ちょうど海に向かって叫んでいたらしい。
そのままずっと回顧から抜け出せなければ、海の中に沈み込んでいたかもしれない。
手招きしているようにも見える海に吸い寄せられ、一歩、また一歩と足を踏み出していく。靴先を海水が濡らした時、ふと彼女の姿が浮かんだ。
「高藤さんだから、ですよ」
楓子の微笑んだ顔が、言葉が、真也を引き留める。
あの言葉の意味を追求しそこなったのは、とても惜しいことのように思えて。
そんなことを考える自分が可笑しくて吹き出す。とても久しぶりに心から笑った気がした。
「よし、帰るか」
一人で気合を入れて、自宅へ向かって歩き始める。
自宅が近付いたところで、そういえば、と思う。
今日はずいぶん遅くなったはずだが、朱海からのメッセージはあれから来ていないなと。
駐車場の辺りでスマートフォンを確かめるが、やはり何の通知も来ていない。メッセージは、自分が気を付けての意味を尋ねたところで止まっている。
首を傾げながら自宅に辿り着き、鍵を開けた。
「ただいま」
いつも玄関先まで出迎える朱海の姿がなく、部屋は電気が点いていない。
「朱海?」
リビングの明かりを点け、見回しても誰もいない。物音一つなく、気配さえ感じられなかった。
全ての部屋を探してもいないことを知ると、次第に嫌な予感が強くなっていく。
慌ててスマートフォンを取り出し、朱海に電話をかけたが、無機質な機械のアナウンスが鳴るばかりだ。
「朱海……?」
自分の声が静まり返った室内に響き渡った時、ようやく理解した。
朱海がいなくなったのだと。
長い回顧から覚める時、朱海の声に抗ってあらん限りに叫ぶ。すると真也の声に被さるように、波の音がした。
目の前に、どこまでも広がり、何もかも飲み込もうとする深い闇色の水面がある。いつの間にか浜辺に来ていて、ちょうど海に向かって叫んでいたらしい。
そのままずっと回顧から抜け出せなければ、海の中に沈み込んでいたかもしれない。
手招きしているようにも見える海に吸い寄せられ、一歩、また一歩と足を踏み出していく。靴先を海水が濡らした時、ふと彼女の姿が浮かんだ。
「高藤さんだから、ですよ」
楓子の微笑んだ顔が、言葉が、真也を引き留める。
あの言葉の意味を追求しそこなったのは、とても惜しいことのように思えて。
そんなことを考える自分が可笑しくて吹き出す。とても久しぶりに心から笑った気がした。
「よし、帰るか」
一人で気合を入れて、自宅へ向かって歩き始める。
自宅が近付いたところで、そういえば、と思う。
今日はずいぶん遅くなったはずだが、朱海からのメッセージはあれから来ていないなと。
駐車場の辺りでスマートフォンを確かめるが、やはり何の通知も来ていない。メッセージは、自分が気を付けての意味を尋ねたところで止まっている。
首を傾げながら自宅に辿り着き、鍵を開けた。
「ただいま」
いつも玄関先まで出迎える朱海の姿がなく、部屋は電気が点いていない。
「朱海?」
リビングの明かりを点け、見回しても誰もいない。物音一つなく、気配さえ感じられなかった。
全ての部屋を探してもいないことを知ると、次第に嫌な予感が強くなっていく。
慌ててスマートフォンを取り出し、朱海に電話をかけたが、無機質な機械のアナウンスが鳴るばかりだ。
「朱海……?」
自分の声が静まり返った室内に響き渡った時、ようやく理解した。
朱海がいなくなったのだと。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる