たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

文字の大きさ
11 / 87
斎藤福寿、寿管士に就職する。

11 喜代也の効かない人

しおりを挟む
「さっきも言ったけど、保護人は思ったよりたくさん日本社会に居る」
「完全には隔離されていないと言うことですか?」
「あの世間知らずのマザーが死期を教えれば良いと思いまーす」
霞さんはやる気のなさそうにマザーに頼る選択肢を出した。僕も言い方は馬鹿げていると思うが、霞さんの意見に賛成だ。
「死亡日時の特定ができているのに、死因は分からないんですよね?」
「それ、それが不思議だよねぇ!」
僕も男性にマザーがどこまで僕らに情報提供してくれるか聞く。僕らの反応に男性は困ったようにできないと言う。これって無責任じゃないだろうか。マザーの言うことを聞いて生きることが当たり前の世の中で、またマザーに頼る。でも今は一般社会にまぎれて保護人は生活している。
「保護人は自分が喜代也が効かないっていつから知ってるの?」
「良い質問だね。打ったときに腫れたでしょ?腫れない人は効かないの。それは言っちゃいけないことになってるから広まらない」
「それなら昔から死ぬ覚悟は出来ているのでは?どうして家族が僕らに丸投げするのかが疑問です」
喜代也を打ったときに利き手じゃない左手に打ったのだけれど、腕が上がらないという時期を三日ほど経験した。だから喜代也で腫れないということは、そこで決意がつくと思うのだけれども。それに最期は家族と過ごす方がきっと良い。
「そういう斎藤君の祖父母は?」
「二人とも老人ホームですね」
「ほら、喜代也が効く健康な老人でも自宅で介護しないじゃん」
僕は黙ってしまう。確かに祖父母は元気で、なんなら曽祖父母も元気だ。それでも家で介護はしていない。曽祖父母は老人ホームに居るけれど、正式なことを言えば祖父母は老人が住むシェアハウスみたいなところに居る。そこにはいつもヘルパーさんが誰か居て、何かあったら対応してくれる。家族よりも本人の立場から、そっちの選択が良いと感じた。保護人と寿管士の関係もそれに近いのだろうか。
「うん、斎藤君の言い分も分かるけど死を前にした人間は分からないからね。火事場の馬鹿力とか言うじゃない?」
「だから半年前ぐらいから私達が面倒見るのか……」
霞さんはどこか納得したようにファイルをめくっている。分厚いファイルの物件情報を見ながら、僕は人物のページを見ようとした。そして今は保護人ではないとされる女性の写真を発見した。
「死亡時期は絶対に言っちゃ駄目だからね。自殺率が増えるから」
「でも、死ぬ間際であることに変わりはないじゃない?もしかしてバスジャックとか犯罪起こされるかもしれないよ?」
気だるい様子で霞さんが聞いた。僕だってそう思う。自分が死ぬとしたら、犯罪を起こしてそれで有名になって死にたいと思う保護人も居るかもしれない。そして僕らがその保護人の寿管士で、一緒に暮らすのだ。
「いつ保護人を確保するかで、その自殺や犯罪は防げるんだ」
「マザーが被害状況を判断するのは分かりますけど、死因が分からないなんて僕はどう接したら良いか分かりませんよ」
「残念ながらな。マザーだって完璧じゃないんだ」
と男性が言う。振り袖を着たあの女の子がマザーなんだから、仕方ないだろうと僕は思う。こんな日本の未来より、お洒落に気を使いたい年頃だろう。いや、パソコンに年代も何もないか。僕もファイルをペラペラめくっていた。アパートの近くにはコンビニがあってそこにバス停がある。商店街までも近いし良い立地だ。保護人と一緒に暮らすということは詩乃は呼べないのかと残念に思った。

「ちょっと、担当の保護人が男性って……」
と同じくファイルをめくっていた霞さんが突然、声を荒げる。僕はまだアパートの間取りなどを見ていたから、担当する保護人のことはまだ読んでいない。
「まぁ、二人にはマザーが決めた保護人が担当になっているから」
僕もつられて人物が書かれたファイルを見る。すると担当することになった保護人について守咲窓華と書いてあり、どうやら女性のようだ。僕より年上で子持ちの主婦だった。どうしてこんな人が死刑になるのだろうと思うぐらい、優しい笑顔の写真が載っている。
「私が保護人に寝込みを襲われたりしたらどうするんですか!」
「そのときは首輪が危険音を鳴らすから、ね?それに寝室とか別だし、霞さんは空手を習っていただろう?」
「まぁ、習ってましたけど。でも、自殺されたり襲われたりしたらトラウマ物ですよ!どうにかならないんですか?」
霞さんはハイヒールを履いていることもあって、僕よりも身長が高い。説明をする男性と同じぐらいの一七0センチはありそうな細身の女の人だ。そうしたら喚くように騒いだ霞さんに男性はあえて静かな声で言った。
「君たちが働くこの仕事はそんな甘えは通用しない仕事だ」
僕だって、説明を聞いて頭では理解したつもりだ。でも、心では理解できていないのは事実で。それで、そんな言葉を聞いてしまったら、僕はどうしたら良いのだろうと迷いが出た。それをお見通しのように
「マザーの真実を知った今、引き返すことはできない。ごめんな」
と男性は言った。僕は本当に寿管士として生きることになってしまった。正直このときの僕はまだこの仕事の意味について理解できていなかったのだ。そして今でも意味なんてあったのかと感じる。守咲窓華の笑顔が離れない。どうしてこんな幸せそうな人に喜代也が効かなかったのだろう。
「僕は運動全く駄目だけど、なんで選ばれたんですか?」
「そうだね、君は運動できないって書いてあるね。だから、担当は今回は女性にしてあるけど、そのうち運動もある程度できるようになってもらわないとなぁ」
僕はずっと勉強で過ごし、暇なときはゲームばかりで運動なんてしてこなかった。それを職業が決まった今、反省することになる。彼女の詩乃も厚生施設で毎日働くようになってゲームの時間が取れないって言っていた。イベントでも期間限定のアイテムを逃すことも多い。そういうとき、僕に学生は良いわねと何度も言ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて490万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき90万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

処理中です...