たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

文字の大きさ
42 / 87
斎藤福寿、守咲窓華との日々。

3 思い出づくり

しおりを挟む
僕は自室にスマホを持って入った。そして李さんに電話する。
『おはようございます。今日はちょっとした相談がありまして』
『そうだよなぁ、こんな仕事は相談することしかねぇよな』
今回は霞さんのことを話題に出さないけれど、霞さんだって僕と同じで相談とかしているのだと思う。だって、こんな異常な生活で誰かに相談できなかったら辛い。
『窓華さんが海外に行きたいって言っているんです』
『ほう、なんで?』
李さんは適当な返事をしている。これは海外旅行なんて無理なんだろうな、とマザーに支配された日本について考えていた。
『上司のことについて聞かれて、つい韓国人だと言っちゃったんですよ』
『それで?』
次の言葉を早く聞きたいらしく、李さんに急かされる。
『だから、本当は鎖国していないなら海外に行きたいって』
『それならできるよ?』
僕が想像もしなかったそっけなく返事が返ってきたのでびっくりする。海外に行くにはパスポートというものが必要らしいが、そんなものも持っていないのに本当に行けるのだろうか。僕はとりあえず、リビングのソファーに座っている窓華さんを部屋に呼んでスピーカーで話をする。

『私、守咲窓華です。電話口はすももさんですか?』
『保護人は海外に行きたいんだってね。行けるよ?』
『私達はどこに行けるんですか?』
窓華さんの声が楽しそうだ。僕はハワイのビーチも気になる。それにオーストラリアはビーチ綺麗で食べ物も美味しいらしい。ラスベガスの合法カジノだって気になるし、本場の東京にあるテーマパークも気になる。
『台湾かなぁ……』
『私は海外には行ったことないから楽しみです。台湾って言ったら百万ドルの夜景ですよね!』
『いや、そことはちょっと違うんだけど……夜景は綺麗だよ』
”百万ドルの夜景は香港ですよ”
と僕はぼそっと言った。台湾と聞いて僕の期待がちょっと薄れた。しかし指摘は窓華さんには聞こえていたようで。一緒みたいなもんじゃないと返ってきた。そして僕はスマホを自分の耳にあている。
『とりあえず二人は旅行の準備しててね。行けるようになったら手配するから』
『いつ行けるかとか分からないんですか?』
『君、日本は鎖国中って分かっている?それを俺がパスポートすらない君たちを手配するんだよ?』
台湾旅行は決まったが、これはかなり難しい計画みたいだ。喜代也ができてから日本は世界から嫌われた。でも、喜代也を打つと死ぬ可能性はなくなるため、海外では絶対に助かる見込みのない人に打つことがあると噂で聞いたことがある。どこまで本当のことなのだろうか。
『李さん、無理言ってますね。ごめんなさい』
『まぁ、他の保護人でもここまで無茶は言わないかな』
『そうですか。私だけ特別みたいですね。なっか照れるぅ』
『じゃあ、配給の衣服とかも旅行用のかばんやいろいろ、追加しておくって保護人に伝えて』
と李さんは言って電話は切られた。そういえば李さんは、窓華さんのことを名前で呼んだことはない。名前を知っている癖に保護人と呼んでいる。割り切っているのだろうかと思ったり、ただの気まぐれだとも思ったり。そして僕のことを斎藤とは呼ばなかった。この生活は楽しいと感じることはあっても仕事なのだ。

「やった!」
とリビングで窓華さんが叫んでいた。
「良かったですね」
「他人事みたいに言うね。呪と思い出を残せるんだよ。楽しみじゃん」
「僕はどうせ死ぬ人と思い出なんて作りたくないですけど……」
「素直じゃないなぁ、呪も海外は初めてでしょ?」
僕だって海外旅行なんて行くきっかけがなかった。だから、この計画にはびっくりだ。
「行ったことないなら一緒に楽しもうよ」
「そういえば、これから配給の服に旅行用の物もいろいろ入るそうですので、それとかで準備してください。足りないものがあったら言ってください」
「ありがと。やっぱりディナーは夜景が見えるちょっと高級なとこで、フカヒレとかさ日本で食べれないコース料理が食べたいわよね」
窓華さんは一人ではしゃいでいる。それを見ているとやはり楽しそうだ。僕だって海外に行ったことはないから本来なら楽しみなんだけれど、行く相手のせいで素直に楽しむことができない。家族だったら楽しめただろうけど、一緒に住むことになった保護人と海外旅行なんて。
「海外で自殺とか考えないでくださいね」
「それはもうさ、分かっているよ」
という窓華さんの言葉を信じられないまま、僕も初めての海外旅行の準備をすることとなった。それでも僕もどこか楽しみな部分はあったことも事実。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

1分で読める怖い話短編集

しょくぱん
ホラー
一分で読める怖い話を定期的に投稿しています。 感想などをいただけると嬉しいです。 応援よろしくお願いします。

【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

処理中です...