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斎藤福寿、2回目の花火大会。
3 星座の話と喜代也
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その日の夜は空が綺麗だった。
「呪、ちょっとベランダで話しない?」
「良いですけど、どうして?」
「夏の大三角だよ。今日みたいな日は綺麗に見えるよ」
僕と窓華さんはベランダに出る。あの台湾の夜景ほどの迫力はないが、日本でもここまで綺麗に星が見れるとは。窓華さんはお酒を持っていた。
「夏の大三角ぐらい僕も塾で習いましたよ。織姫と彦星でしょう」
「それは日本の話だね」
そう言って窓華さんはお酒を飲んでいる。
「私はわし座が可哀想だなって。彦星のアルタイルが入っている星座」
「それは確かギリシャ神話ですかね?」
僕は眼鏡に入った辞書で調べる。するといろいろな神話がヒットした。
「プロメテウスは三万年もわしに肝臓を食べられるんだよ。不死身ってつらいよね」
「夜に肝臓が再生して次の日に食べられるってありますね」
「そう、痛いだろうなぁ……」
お酒を飲みながら窓華さんは言う。僕だって痛いことは嫌いだし、それにそれが三万年も続くとしたらおかしくなるだろう。
「でも、ヘラクレスによって解放されるってありますけど」
「私って苦しんで死なないよね?桜子ちゃんは楽に死ねるって言うけど、本当なのかなって思っちゃって」
「源さんが言うなら、多分そうだと思いますよ。あの人はすごい人です」
僕はマザーさんのことを言えないし言うつもりはない。でもマザーさんにはきっとどういう風に死ぬとか見えている。それを僕に伝えない理由はなんだろう。
「良かった、私は痛いのは嫌いなんだよ。じゃあ、助けてくれる呪は私にとってのヘラクレスかぁ」
「そんな英雄になれるとは思いません。それに死は実際に経験したことないから、痛みとか分からないですよ」
「だよねぇ、呪が一二個も試練に耐えられるとは思えないもん。私を看取るだけなのに呪の方が辛くなって死んじゃいそう」
お酒を飲んでいるからけらけらと窓華さんは笑う。ヘラクレスは一二個の試練をクリアした後に死んでいる。保護人を一緒に過ごし、その人を失うことも僕の人生で与えられた試練なのだ。これはマザーが決めたことだろうけれど。
「それは言い方が酷いですよ。僕だって失ったら罪悪感はあると思います」
「なら、私は看取られて死にたくないから一人にしてね」
「どうして?僕では役不足ですか?」
「だから、これからの人生で私の死の経験で戸惑って欲しくないの」
窓華さんは死にたくないと言っていない。痛いことが嫌なのだ。それとも生きることは諦めたのか。まぁ、今の窓華さんの状況で生きるなんて考えたら駄目だ。だって窓華さんの命はあと六日なのだし、それで終わる。
「日本人も喜代也を打って、殺さなかったらどこまで生きるんだろう」
「そうですね、一八0歳になったら国が殺すみたいですけど、生きることにも限界はあると思いますよ」
「私はその喜代也が効かなかったからなぁ……」
喜代也を打ったら普通の人は死なないから、死にたい年齢を遺書に書く。そして、その年齢になったら始末する人が居る。遺書に年齢を書いていない人の寿命は一八0歳だというけれど、そんな老人はどんな姿をしているのだろう。
「まぁ、遺書は今の窓華さんには関係ない話ですね」
「いつも酷いこと言うなぁ。私は呪の人生に爪痕を残してやるつもりだから」
「前に悪い思い出として残したくないって言いませんでした?」
僕との生活で窓華さんの思いは変わったのだろうか。こんな僕でも良いから自分の人生を覚えてくれる人が欲しいのかもしれない。
「私はこの日本の負け犬だよ?最期まで食らいつくよ」
「怖いこと言いますね」
「そうかもしれないね。だって私は保護人だもん」
窓華さんはそう言って笑う。そしてお酒を持って部屋に帰っていった。僕はまた一人で夜空を眺めていた。そしていろいろな星座の情報を眼鏡で調べていた。
織姫の星であること座のベガなんて悲惨だ。冥界から妻を取り戻す神話が眼鏡に出ている。冥界から出るまで振り返ってはいけないなんて言われたら、振り返りたくなるじゃないか。七夕なんてとっくの前に過ぎたけれど、今年も曇りだった。織姫と彦星は毎年会えない。七夕で良い天気だった思い出が僕にはない。そして海外ではもっと悲惨な神話が残っている。新しい発見だ。流星群が来たことぐらいの体験は小さいときに幾度かある。家族で夜空を眺めたなと懐かしく思い出した。それから部屋に戻った。今日の窓華さんはあまり物騒なことを言わなかった。そう感じるようになったのは僕が麻痺したのかもしれない。だって、人生に爪痕を残してやるってなかなかに酷い言葉だ。
「呪、ちょっとベランダで話しない?」
「良いですけど、どうして?」
「夏の大三角だよ。今日みたいな日は綺麗に見えるよ」
僕と窓華さんはベランダに出る。あの台湾の夜景ほどの迫力はないが、日本でもここまで綺麗に星が見れるとは。窓華さんはお酒を持っていた。
「夏の大三角ぐらい僕も塾で習いましたよ。織姫と彦星でしょう」
「それは日本の話だね」
そう言って窓華さんはお酒を飲んでいる。
「私はわし座が可哀想だなって。彦星のアルタイルが入っている星座」
「それは確かギリシャ神話ですかね?」
僕は眼鏡に入った辞書で調べる。するといろいろな神話がヒットした。
「プロメテウスは三万年もわしに肝臓を食べられるんだよ。不死身ってつらいよね」
「夜に肝臓が再生して次の日に食べられるってありますね」
「そう、痛いだろうなぁ……」
お酒を飲みながら窓華さんは言う。僕だって痛いことは嫌いだし、それにそれが三万年も続くとしたらおかしくなるだろう。
「でも、ヘラクレスによって解放されるってありますけど」
「私って苦しんで死なないよね?桜子ちゃんは楽に死ねるって言うけど、本当なのかなって思っちゃって」
「源さんが言うなら、多分そうだと思いますよ。あの人はすごい人です」
僕はマザーさんのことを言えないし言うつもりはない。でもマザーさんにはきっとどういう風に死ぬとか見えている。それを僕に伝えない理由はなんだろう。
「良かった、私は痛いのは嫌いなんだよ。じゃあ、助けてくれる呪は私にとってのヘラクレスかぁ」
「そんな英雄になれるとは思いません。それに死は実際に経験したことないから、痛みとか分からないですよ」
「だよねぇ、呪が一二個も試練に耐えられるとは思えないもん。私を看取るだけなのに呪の方が辛くなって死んじゃいそう」
お酒を飲んでいるからけらけらと窓華さんは笑う。ヘラクレスは一二個の試練をクリアした後に死んでいる。保護人を一緒に過ごし、その人を失うことも僕の人生で与えられた試練なのだ。これはマザーが決めたことだろうけれど。
「それは言い方が酷いですよ。僕だって失ったら罪悪感はあると思います」
「なら、私は看取られて死にたくないから一人にしてね」
「どうして?僕では役不足ですか?」
「だから、これからの人生で私の死の経験で戸惑って欲しくないの」
窓華さんは死にたくないと言っていない。痛いことが嫌なのだ。それとも生きることは諦めたのか。まぁ、今の窓華さんの状況で生きるなんて考えたら駄目だ。だって窓華さんの命はあと六日なのだし、それで終わる。
「日本人も喜代也を打って、殺さなかったらどこまで生きるんだろう」
「そうですね、一八0歳になったら国が殺すみたいですけど、生きることにも限界はあると思いますよ」
「私はその喜代也が効かなかったからなぁ……」
喜代也を打ったら普通の人は死なないから、死にたい年齢を遺書に書く。そして、その年齢になったら始末する人が居る。遺書に年齢を書いていない人の寿命は一八0歳だというけれど、そんな老人はどんな姿をしているのだろう。
「まぁ、遺書は今の窓華さんには関係ない話ですね」
「いつも酷いこと言うなぁ。私は呪の人生に爪痕を残してやるつもりだから」
「前に悪い思い出として残したくないって言いませんでした?」
僕との生活で窓華さんの思いは変わったのだろうか。こんな僕でも良いから自分の人生を覚えてくれる人が欲しいのかもしれない。
「私はこの日本の負け犬だよ?最期まで食らいつくよ」
「怖いこと言いますね」
「そうかもしれないね。だって私は保護人だもん」
窓華さんはそう言って笑う。そしてお酒を持って部屋に帰っていった。僕はまた一人で夜空を眺めていた。そしていろいろな星座の情報を眼鏡で調べていた。
織姫の星であること座のベガなんて悲惨だ。冥界から妻を取り戻す神話が眼鏡に出ている。冥界から出るまで振り返ってはいけないなんて言われたら、振り返りたくなるじゃないか。七夕なんてとっくの前に過ぎたけれど、今年も曇りだった。織姫と彦星は毎年会えない。七夕で良い天気だった思い出が僕にはない。そして海外ではもっと悲惨な神話が残っている。新しい発見だ。流星群が来たことぐらいの体験は小さいときに幾度かある。家族で夜空を眺めたなと懐かしく思い出した。それから部屋に戻った。今日の窓華さんはあまり物騒なことを言わなかった。そう感じるようになったのは僕が麻痺したのかもしれない。だって、人生に爪痕を残してやるってなかなかに酷い言葉だ。
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