たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

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斎藤福寿、終わり始まる日々。

4 マザーと人生ゲームがしたい

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「僕は人生ゲームがやりたいですね」
「人生ゲームはないのですわ」
「でしょうね、ないと思いました」
あんな頭を使わないパーティーゲームなど、二人はしないだろう。でも僕はそんな無駄な時間をみんなで過ごしたいと思った。李さんと霞さんと僕とマザーさんでゲームができたら楽しいだろう。
「でも、人生設計を決めるマザーであるわたくしとと人生ゲームするなんて、笑えない漫才みたいですわね」
「それもそうですね」
僕はマザーさんの言葉が皮肉たっぷりだなと思った。マザーさんは負けることが嫌いなのだと思う。もしかしたら負けたことがないのかも。マザーさんが負けるということは日本が終わることだ。それはあってはならない。
「八0一番さんはこの仕事が続けられそうですか?」
「いや、分からないですね。僕に人の死を看取る価値があるのかと聞かれても、そんな価値なんてないと思います」
「それは同じです。わたくしもこの日本を仕切って良いのか不安になりますのよ」
マザーさんはオセロを片付けながらそんなことを言う。マザーさんが日本を支える存在だと言うのに、そんなに弱気では国民が困る。
「そこは自信を持ってください。日本国民が誇るマザーなんですから」
「ありがとう。わたくしだってただのパソコンですが、とっさの判断に迷うことはあるのですわ」
そういうと元あった場所にオセロを片付けている。そうして戻ってきて僕に嬉しそうに言った。

「じゃあ、次の保護人の連絡がすももさんから行くまで、待機という名前の休暇なのだわ。羨ましいですわ」
「その期間は自由ですか?」
「すももさんから聞いていませんか?友達とも会える貴重な自由時間です」
僕はそんな時間があるなんて知らなかった。これは霞さんが友達と会えることに喜ぶだろうけど、でも三ヶ月も連絡を取ってない友達はどうだろう?
「八00番さんもそこに怒っていましたわ」
「でしょうね、霞さんは怒りそうです」
心を読まれることにも僕は慣れてきた。だからマザーさんと笑った。
「マザーさんは、あの、その、ここに一人でさみしくないんですか?」
「さみしい?マザーが複数あったら日本国民が困るでしょう」
「そうじゃなくて、こうやって人並みに知識もあるのに庁舎の一室に隔離された生活って楽しいのかなって思って」
友達の居ない僕が言えたことじゃないけれど、マザーさんの生活は寂しいと僕は感じていた。どうして人間のような姿をしているのに、普通に町を歩けないのだろうと不憫に思う。ここからの花火の眺めは素晴らしいだろうけど、一緒に見る人が居ないと辛いと思うのだ。
「考えたこともなかったですわね。わたくしの頭には常に新しい人物のデータの処理が行われていて、考える隙間がありませんでしたから。それでも、オセロみたいな娯楽みたいなものは別ですわ」
「今度の任務が終わったら人生ゲームしましょう」
「はい、すももさんに言って取り寄せるのだわ」
マザーさんは胸の前で手をあわせて、小首をかしげて笑った。どうしてこんな人間らしい動きをプログラムしたのだろう。
「あと霞さんのことも名前で呼ぶべきです」
「すももさんに頼みますね」
「ちなみに人生ゲームは二人でやっても楽しくないですよ」
マザーさんのやってきた囲碁、将棋、オセロはだいたい二人で遊ぶゲームだと思っている。人生ゲームは僕は家族と正月などに父さんと母さんと三人でやった。残念ながら友達とやった経験はない。
「おもちゃのお金を使うすごろくみたいなものだと認識していましたが……」
「だいたいそれであってます。今度は僕と李さんと霞さんでやりましょう」
僕もマザーさんと今後も仲良くしたいと思っている。これからも仕事上付き合う人間なのだし、仲良くしておくべきだ。
「でも、個々の報告もありますしそれにわたくしは以外と仕事が多いのですよ?」
「分かってます」
「それなのにお遊びのために時間を裂けというのかしら?」
「機械でもずっとひとりぼっちはさみしいです」
マザーさんにひとりぼっちは寂しいと言った。それでも僕はこれからもひとりで寿管士を続けていく。これは決められた運命だと思うから。

「ところでわたくし、どこかおかしいのですか?」
「何か思い当たることでも」
僕はマザーさんにおかしいところはないと思う。頭のボールがどうして重力を無視して飛んでいるのかとか、突き詰めればおかしいところばかりだけど。
「四月にマザーだと名乗ると脳にノイズが入ります。それと、こうやってみなが仕事の完遂報告をするとき、みなから恐怖の念を感じます。八00番さんからは、死ねば良いのにって言われました。わたくしはどうせ死ねませんけど」
「そりゃあ、僕もマザーさんが女の子の形で驚きましたから」
初めてマザーを見た日。僕はマザーさんが女の子でびっくりした。多分、そこに居た他の人間も同じなのだろう。それを国民に言うと死が待っている。そのことも自分の身に起こる恐怖で怖いと感じた。
「あら、八0一番さんも?今はそういう疑心を感じませんが?」
「そうですね、マザーさんが人間だったら友達になれそうだと思うぐらいです」
「それは楽しい世界線ですこと。でも、わたくしは忘れていませんよ。今度の仕事が終わったら四人で人生ゲームをするって」
マザーさんはにこにことしている。マザーさんは僕が死んでも日本を守っていくのだし、弱気でいてもらったら困る。
「そうですか、それは良かった。あれは練習してもうまくなりませんから」
「まるで本人の意志を無視してわたくしが作る人生みたいですわね」
その皮肉を僕は笑えなかった。これ以上話すこともないと思い、僕は部屋を出ることにした。
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