たおやかな慈愛 ~私の作る未来~

あさひあさり

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竹田詩乃、マザーを守るバイトをする。

3 不幸は群れると福寿は言ったから

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「同じ趣味とか立場の人って、自然と集まるじゃないですか」
「あんたの趣味って何だったのよ」
「いや、僕は趣味も出会いもないからここまで友達ができなかったの」
斎藤はゆっくり話しはじめる。私はそれを聞いていた。
「それで、不幸な人も不幸な人で群れちゃうんです」
「それの何が悪いの?」
「同じ趣味とかの人は高め合うことができるでしょう?でも不幸な群れはお互いに落とし合うことしか考えない。足の引っ張り合いです」
「ちょっと飛躍しすぎてて分からないんだけど……」
私は友達というか知り合いは多いつもり。それに不幸仲間なんてものは居ない。
「僕は友達が居ないけれど、余りでつるむことはしなかった」
「それを自分が不幸仲間を作らなかったと言いたいの?」
「だって、友達が居ないことは一般論として不幸ですからね。僕は僕の不幸に、他人を巻き込みたくなかったわけです」
「へぇ、あんたはあえて友達を作らなかったのね」
もし、私はひとりぼっちになったとしたら、あの日に斎藤に気まぐれで話しかけたように仲間を見つけたいと思うだろう。斎藤に話しかけることを選んだのは、私の寂しいという不幸があったからだろう。

「何度も言いますが、不幸は不幸を呼ぶんです」
「幸せと不幸は代わる代わる来るみたいなことわざあるじゃない?どんな人と居ても私がこのままずっと不幸とは限らないわよ」
「いや、不幸な人はゆとりがないんです。金銭的にも精神的にも。こんな人が不幸仲間である人を助けられると思いますか?」
私は弱い。それに心にゆとりがあるわけじゃない。だから、この言葉は身に沁みて痛いものがある。私は斎藤を不幸にするために近付いたわけじゃないのに、結局のところは不幸を願っていたのかもしれないから。
「まぁ、あんたの言う通り足の引っ張り合いになるわね」
「それに不幸仲間って、はじめから他人の不幸を喜ぶ人間の集まりですし」
「そうか、もっと不幸になった友達すら喜んで見捨てるのね」
「簡単に言うとそうです」
斎藤の言うように、幸せな人はこころにゆとりがある。だから、他人に対してもゆとりを持って接することができると思う。同じ額のお金を持っていても、不幸な人は精神的なゆとりがないため出せない。幸せな人は精神的にゆとりがある。そのお金を利用するかはここでは考えないとして、心配してきっと行動に移すことができるタイプなのだと思う。

「母さんの意見で言うと、僕を助けようと思った詩乃さんは不幸じゃないです」
「あんたよりは私は恵まれているわよ!」
「いや、詩乃さんの性根は優しいんです」
そう言われるとなんだか嬉しい。私は他人の不幸を望んでいたけれど、こいつを不幸にしかたかったわけじゃない。それが分かってもらえていた。
「そうね、私は不幸と言うより寂しかったのかも」
「詩乃さんは僕を助けたように、心にゆとりがある幸せな人間です。羨ましいと思うぐらいに」
「私って幸せなのかぁ……」
お金がすべてを解決するわけじゃない。まぁ、今回の課金騒動はお金が解決する問題だけれども。でも、不幸な考え方をする人間だったら、私は斎藤について見捨てていてこんな助けることをしなかっただろう。私はマザーに選ばれなかった未来については、選ばれた友達と比べて不幸だと感じていた。しかし、少なくともこいつからは不幸な人間だと思われていなかった。私はきっと幸せだと思われてはいなかっただろうけれど、その言葉は嬉しいものだ。

「奈々美さんはやっぱり偉大な人だなぁ……」
「僕の母さんがですか?」
「だって、私があんたの立場だとして奈々美さんが居なかったら、多分孤独でグレてるわよ」
「友達が居ないってそんなに不幸なことですか?」
こいつは友達が居たことがあったのだろうか。友達とわいわいした経験が一度でもあるというのなら、友達が居ない寂しさが分かるだろうに。斎藤は友達が居て楽しいとか言うことを経験したことがないだけかもしれない。
「私から言わせてもらうと、あんたは人生を損してる」
「まぁ、詩乃さんに教えられるまでアニメの世界も知りませんでしたし」
こいつはゲームの画面を見ながら、私の方を興味ないようにして呟く。私は斎藤の近くに言って、胸ぐらを掴んだ。こんなアニメのようなことをするなんて、自分でも思わなかった。
「決めた!あんたはちょっと私の言うことを聞きなさい」
「急にどうしたんです?僕は宇宙人でも未来人でもありませんよ。だからサークルなんて作っても面白くないですよ」
こいつはあのラノベの主人公みたいなことを、私ができると思ったのだろうか。それとも私はもう斎藤に影響を与えているのだろうか。
「もう、そういうオタクの世界と現実を混ぜないで」
「なら、何を決めたんですか?」
「今から私があんたの人生をもっと楽しませてあげようって決めたの」
言ってから恥ずかしいことを言っていると分かった。でも、斎藤は生きていて友達と遊ぶ幸せとか、普通に得られるものすら知らなかった。だから、私は斎藤に幸せだって与えることができるだけろう。こう思えるってことは私は不幸じゃない。きっとまだ幸せの側に居る方の人間だ。
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