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竹田詩乃、母の日のプレゼントを選ぶ。

3 難航するプレゼント選び

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「前に行ったとき、花があったけど奈々美さんは花が好きなの?」
「そうでもないですね。普通の花は枯らすから趣味ではないと。床の間のあの百合は僕の小さい頃からある、喜代也を打ったやつですし」
「まぁ、私の存在なんて向こうからしたらやっかいなものだし、消えてなくなるという意味では薬を打っていない花もありか……」
私が大学を卒業するときにはきっとマザーの判断が降りる。やっぱり福寿との将来なんてあり得ない未来なのかもしれない。偶然なんて言葉は死語だ。今はマザーに管理されているから、必然しかない。この出会いはマザーが選んだものではないのだ。だからきっと私をもっと幸せにしてくれる人と、輝ける仕事がある。
「詩乃さんは今は僕らの家族ですから」
「それも今だけでしょう?」
だって、私は福寿の前に現れたオタクとしても中途半端で、こんな冴えない男の彼女にすらなれない。歴代の私に告白して振った全員に謝りたいとさえ思うほど、福寿は情けない男なのに惹かれてしまうことが不思議だ。
「僕だってこれからのことを考えていないわけではないんです」
「へぇ、楽しみにしておく」
「なんでそこで笑うんですか?」
あぁ、私は幸せだと思う。ここに来た選択肢は【福寿と会う】だ。【福寿の母の日のプレゼントを決める】ではない。だから、ペンダントはプレゼントのアイデアを提供しない可能性もある。

「福寿の両親ってヘルパーさんなんでしょ?」
「そうですけど、それと贈り物に何が関係あるんですか?」
「いや、体力仕事だよなぁって」
「父さんも母さんも酷いんですよ。僕にヘルパーは無理って言って、それで勉強をめちゃくちゃさせたわけですから」
喜代也のせいで老人が長生きするから、必然的にヘルパーの仕事は多くなる。良い大学に進学しても、肉体労働になることが多い。それは圧倒的に働く世代の若者が少ないから。それに老人は経済も圧迫している。税率だって高い。今だって社会保障制度が破綻している。私達が老人になった頃はどうなってしまうのだろう。
「福寿は両親に感謝しなよ」
「それは詩乃さんもでしょう?」
「だから、私は贈り物とか考えているの!福寿は何もしてないじゃない」
ぶらぶらとショッピングモールの中を歩く。食事を食べ終わってふらふらしている親子連れが多い。
「両親はマザーによる転職で国家のヘルパーになったんですよね」
「へぇ、それまでは何のお仕事してたのさ?」
「さぁ?教えてくれないので知りません」
「私のところもそうなのよ。なんで教えてくれないのか不思議よね」
今の日本は自分で判断することが愚かだという考え方なので、自分で選択した過去のことを恥じるというか、言わない親が多い。それは私と福寿の親が同じ価値観だと言うことだ。私は決められる未来よりも、自分で切り開く未来の方が格好良いような感じがする。それは私が古い映像作品が好きだからってだけの特殊な考え方だ。福寿はマザーに決められる未来についてどう思っているのだろう。こんな踏み込んだ話ができるような間柄ではないけれども。

「あぁ、本当に何が良いんだろう?って聞いてる?」
「聞いてますよ」
私達は母の日の特設コーナーも見ていた。そこには薬を打ったカーネーションがたくさんあった。私は残るものを残したくない。でも、一般的なものの方が怪しまれないし、それに喜ばれるだろうか。私はここにあるハンドクリームも良いかな?と思って見ていた。
「福寿、奈々美さんはハンドクリーム使う?」
「僕が分かるはずないですって。男ですよ」
「本当に頼りにならないわね」
「それよりこっちに来て下さいよ」
私はその言葉を聞いて、福寿の居るところに言った。そこは子ども用の食玩などが売っているコーナーだ。
「福寿はここに何を探しに来たか知ってるよね?」
「詩乃さん、そんな怖い顔しないでよ」
「というか、怒るというか呆れたわ……」
私の考えなんて聞いてくれないんだなと思っていた。でも、こういう食玩みたいなコーナーは私も好きだ。まぁ、息抜きに見るぐらいなら良いだろう。それに【福寿についていく】と選択肢がやっと表示された。【福寿と会う】からまた一歩進んだ状態に選択肢を得ることができた。これが母の日のプレゼントの行方なのか、私達の関係の延長にあるのかそれは分からない。流しそうめんをした野外学習の夜、肝試しもそのキャンプ場のある山道でした。そこには各地点でおばけ役をした先生が待ち構えていた。私は暗い道でその先生を見て安心したのだ。この道でおばけ役の先生が出るのならこの道が正しいって分かる。そんな冷めたことを考える子どもだった。
元から私はどこかおかしいのだ。だから、マザーも未来予測ができないんじゃないかと考える。これだって福寿と会って理解したこと。ペンダントの選択にだって納得できる部分もある。でも、ペンダントは福寿とどうなって欲しいのだろう。人生の分岐点になるというのがペンダントの見せた福寿と話すきっかけになった選択肢だ。私は充分に福寿から影響を受けている。いい意味でも悪い意味でも。それは私が福寿に与えてることでもある。だから、この関係についてはお互い様だと言っても良い。どうなるかなんて分からない。
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