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真実に私が混ざる
しおりを挟む「それで、どういう事なの? 説明してくれるの?」
依然として何もわかっていない私は説明を求めるしかない。
雫の方はわたわたしていて、話してくれそうにないので咲の方を見てみる。
「言ってしまったからには仕方がないので話しましょう」
ちょっと真面目な顔つきになっているけど、これから話される事に全くいいイメージがわかない。
「説明してくれるの?」とか言ってしまったけど、もうこのまま知らない方がいいんじゃないか。
知らないことは取り返しがつく。
一度知ってしまうと永遠に知らない私には戻れない。
いや、こんなのは変化を恐れる私の弱音なのだと分かってはいる。
それでも、今の美冬との距離感や関係を割と気に入っていて、それが壊れてしまうのは怖い。
なんて、今までの私には思いもよらなかったことだ。
しかし、今は聞くしかない。
願わくば笑い話にできるような話で頼む。
そんな願いを込めて姿勢を正す。
「春香のことを美冬から聞いていたのは伝わってると思うけど、その、かなり入れ込んでる感じでさ」
歯切れが悪い。
私は暗に責められているのだろうか?
友達の輪を引き裂かないで欲しいという意味を孕んでいるのかもしれない。
「誑かしたみたいに言わないでよ」
「悪い悪い、でも的は外してないと思うよ。 ね、雫」
咲が隣の雫を見たので私もつられて顔を向ける。
話が始まる前は不安そうな様子だったが、今はもう神妙な顔つきになっていた。
「入れ込んでる… 傾倒してるともいえるかも」
「いや、ますます重症になっているけど」
「そう、重症なんだよ。 だから最近変な方向に走り始めてるの」
さっきから明言を避けている、というよりは言葉にしにくいもの何とか伝えようとしている感じがする。
どうやら、美冬を案じているようだから私に不快感を持っているわけでは無いだろう。
そもそも私は最悪の事態として美冬に近づくなとか、不毛な仲の良さマウントが始まってしまうことを想定していた。
人間関係が希薄な私だが、それは人の評価を、向けられる感情を気にしないかと言われるとそれは違う。
孤高でも何でもないただのぼっちなのだから、普通に打たれ弱いし、意識的にそういったことを考えないようにすることで一歩距離を置けている節がある。
まあ、「意識的に考えない」なんてもうそれだけで矛盾しているような言葉なんだけど。
「変な方向とは?」
「それが今日に至るわけなんだよ」
「分からないんだけど」
「頼まれたって言ってたのは美冬のことを聞いてきてって頼まれたの」
やっとだよ。
やっとその話に戻ったな。
なるべく誤解がないように話そうとしてるのは分かるんだけどさすがに前置きが長い。
「自分で聞きに来ればいいのに。 というかなんでそんなの承諾したの?」
「それは私が説明します」
どうやら、雫が説明してくれるみたいなので少し向き直る。
「どうぞ」
「美冬ちゃんは優しいし、勉強もできるし、面倒見も良いんだけど、人に頼るとこって見たこと無くて。 あんまり私たちに頼ることも無いかも知れないけど、私たちに言ってきてくれることって本当に些細なことだからもしかしたら距離を置かれているかもしれないって思ってたの。でも、多分そうじゃなくて友達に対する距離感が私と咲とは違うんだと気づいて、それ以上は何もしてあげられなかったから。春香ちゃんには悪いけど、おかげで美冬ちゃんとの距離が少し縮まったようで嬉しかった」
息を吐き出すように語られた言葉には、確かな重みがあった。
忘れかけていたけど、高野美冬という人物は客観的にみてほぼ完璧に近いと言える人物像であるということを思い出す。
友達にこんな思いを抱かせてしまう美冬は罪な女ですよ。
「私も気持ち的には大体一緒かな。 雫ほど重くはないけど」
「おもっ……」
「大体わかった。 具体的に何を聞いてきてとか言われたの?」
「この紙に書いてあるけど、見る?」
それは折りたたまれたルーズリーフ。
に見せかけたパンドラの箱であることは重々承知しているけど、ここまで長々と話を聞いてきたんだ。
いまさら引くわけにはいかない。
「見る」
端的に答えを告げてその紙を受け取る。
そして中身を開いたところでそれが本当に私が見てはいけないものだと気づく。
「これは… ちょっと……」
「大丈夫、私もそう思う」
そこに書かれていたのはもちろん私に聞いて欲しいことのリスト。
一部抜粋すると、誕生日、身長、体重、星座、血液型、家族構成、休日の過ごし方、私のことをどう思ってるか、恋人の有無、交友関係、スリーサイズ。
その他ほぼ私の全てみたいな質問が書いてあった。
なんで止めてくれなかったの!
こんなもの人が見るものじゃないよ。
呆れると同時に言葉にできない不快感のようなものが胸の内に湧いてくる。
私の考えていた美冬と今見る美冬が違うからだろうか。
いや、そんな、単純な言葉では片付けられない気がする。
「なんか疲れたから、帰っていいかな」
「もう少しで美冬が戻ってくると思うから、一言言ってからにしてもらってもいい? そのまま帰っちゃうと説明に困る」
一言。
その一言にあの紙の感想を込めてしまえと言わんばかりの視線を送ってくるので率直に言ってやるか。
「分かった」
「ただいま~ ごめんね。 ちょっと遅くなった」
なんてタイミングのいい登場だろう。
ちょうどこちらの言葉も決まったところだ。
私は意識して冷たい声を出す。
「美冬」
「は、春香?」
「こういうの、私嫌いだから」
「こういうのって、え? 咲? 雫? 話したの?」
「私は帰るから」
そう言い残して私は教室から出ていく。
「まって! 私も!」
背中越しに聞こえたけど追ってくることはなかった。
多分二人に止められたのだろう。
ともあれ、分からないことが一つあります。
なぜ私はこんなにも苛立っているのでしょうか。
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