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第一章
3.カウンセリングの意味
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「さて。何か悩み事はありますか?」
僕はカウンセリングを受けていた。
天使という名の美少女に。
いや、美人の天使だろうか...
「そんな私が美人か美人じゃないかなんて言う話はもういいですから。何か思い悩むことはありませんか?」
思考を読まれているのか......。
「いや別に、そんな悩みとか...死んだ後ですし…」
「成程やはり...どうやら、本当に貴方は大切な人や動物などいなかったのですか...ゼロ人ですか...よくそんな最低限の愛情だけで生きてこれましたね......。」
「最低限の愛情...?」
「あれま、貴方は頭がよかったはずでは。知りませんか?」
「あー、あれですか。フリードリヒ二世のやつですか。」
「そう、それです。貴方は要するに、赤ん坊の時にまだ生きていた母親からの愛情以外に、ほとんど愛情をもらっていないのです。貴方ように先天的に意志力と精神力が強くなければ、数年で命を落としてしまう程に。」
恐ろしい話を聞いたものだ。
僕の母が亡くなったのは、僕が丁度五歳になったばかりのときだった。
それで普通なら数年で死んで(自殺)してしまうというのだから、高校三年まで生き抜いてきた僕の異常さがよくわかる。
「そうなってしまったのは、私達のミスであり、貴方のせいでも、君のクラスメイトのせいでも、ましてご自身の両親のせいでもないんです。」
「......。」
「それで、貴方は普通ならいじめてきたそのクラスメイト達に、助けてくれなかった大人達に、そして私達に憎しみを大きく抱いても仕方が無いことなのです。だから、『カウンセリング』なんてしているんですよ?」
確かに、自分にこれまでのような仕打ちをしてきた人を今すぐ許せと言われたら不可能だし、正直にいえば憎しみなんてものは、いつも僕と隣合わせだった。
「......私達にとって貴方は、とてもか弱く、この手ひとつでも簡単に捻り潰せるような存在です。穢れた魂を処分する程度私たちには造作もないのです。ですが、私達は、間違いを犯し、そして貴方には、私達を裁く権利がある。だから、問うているのです。悩みはないか、と。」
悩み、か...
「そもそも僕は、悩む暇もなかったので、別に僕の魂を破壊したっていいんです。思い残すことなんてないんですから。」
「嘘です。貴方から口にするまで、私は質問を止めるつもりはありません。」
まるで僕を監禁するような口調で、天使はそう言い切る。
「じゃあいいです。このまま永遠にここで座っていましょう。どうせ僕から話すことなんてないですし。」
「ふざけないでください。貴方のその無駄な意地で、私の有限の時間が無駄に流れていくのです。」
いい加減僕は我慢できなくなり、怒鳴り散らす。
「それはこっちのセリフだ!!もう、いいんだよ!全ては僕が勝手に死んでっただけじゃないかっ!!何にもない部屋で過ごして、何の面白みがない教室で授業して!そんでもって反吐が出るような暴力ッッ!!お前は想像した事あんのかよォ!!!もう僕は楽になりたいんだ!!なんも考えたくないし話したくもないし罪を償わせるなんてこれっぽっちも思ってないんだよっ!!!だからさっさと僕をけ消しt──」
僕は、自分が泣いていることも構わず、これまでの鬱憤を、情けない、卑屈でみすぼらしいその声で、目の前の天使にぶつけていた。
苦しかった。
息が、思うように出来なくって、吐きそうだった。
もっと、欲しかった。
優しさが。
笑顔が。
仲間が。
心が──。
なぜ、僕だけが──
なぜ、こんなにも──
世界の理不尽を訴え、自分の情けなさを呪い、
ただひたすらに、涙を流して──
そのまま、闇に落ちてしまおうと、
その瞬間
「ありがとう、和哉」
赤ん坊の頃にしか、味わったことの無い、暖かさ。
激しく病んでいた僕の心が、まるでジェンガのように崩れ落ちていく。
息が止まり、でも、涙は流れるままで──
「貴方は頑張りました。高次元の存在である私達ですら、貴方の痛みを、苦しみを、そして深い憎しみを理解することは、到底不可能です。先程も言いましたが、極楽浄土におられるゴータマ・シッダッタ様も、楽園におられるイエス様でさえも想像出来ないようなその精神的苦痛を受けた貴方に、お二方は尊敬の念を抱いております。」
「」
「貴方は、偉いのです。この年までめげずに何度も向かい、折れず最後まで貫き通すことが出来たのは、今までで貴方1人だけです。」
「私達は、慰めしかできない。貴方に癒しを与えることすらできない。だから──私の胸の中で、全て吐き出してください。」
それを聞いた僕は、耐えられなかった。
何も無い空間に一つ、男子の泣く声が響く。
これまでの不幸を全て乗せて。
優しさに触れた鬼のように。
ただ、純粋で暖かい、そんな泣き声が──
僕はカウンセリングを受けていた。
天使という名の美少女に。
いや、美人の天使だろうか...
「そんな私が美人か美人じゃないかなんて言う話はもういいですから。何か思い悩むことはありませんか?」
思考を読まれているのか......。
「いや別に、そんな悩みとか...死んだ後ですし…」
「成程やはり...どうやら、本当に貴方は大切な人や動物などいなかったのですか...ゼロ人ですか...よくそんな最低限の愛情だけで生きてこれましたね......。」
「最低限の愛情...?」
「あれま、貴方は頭がよかったはずでは。知りませんか?」
「あー、あれですか。フリードリヒ二世のやつですか。」
「そう、それです。貴方は要するに、赤ん坊の時にまだ生きていた母親からの愛情以外に、ほとんど愛情をもらっていないのです。貴方ように先天的に意志力と精神力が強くなければ、数年で命を落としてしまう程に。」
恐ろしい話を聞いたものだ。
僕の母が亡くなったのは、僕が丁度五歳になったばかりのときだった。
それで普通なら数年で死んで(自殺)してしまうというのだから、高校三年まで生き抜いてきた僕の異常さがよくわかる。
「そうなってしまったのは、私達のミスであり、貴方のせいでも、君のクラスメイトのせいでも、ましてご自身の両親のせいでもないんです。」
「......。」
「それで、貴方は普通ならいじめてきたそのクラスメイト達に、助けてくれなかった大人達に、そして私達に憎しみを大きく抱いても仕方が無いことなのです。だから、『カウンセリング』なんてしているんですよ?」
確かに、自分にこれまでのような仕打ちをしてきた人を今すぐ許せと言われたら不可能だし、正直にいえば憎しみなんてものは、いつも僕と隣合わせだった。
「......私達にとって貴方は、とてもか弱く、この手ひとつでも簡単に捻り潰せるような存在です。穢れた魂を処分する程度私たちには造作もないのです。ですが、私達は、間違いを犯し、そして貴方には、私達を裁く権利がある。だから、問うているのです。悩みはないか、と。」
悩み、か...
「そもそも僕は、悩む暇もなかったので、別に僕の魂を破壊したっていいんです。思い残すことなんてないんですから。」
「嘘です。貴方から口にするまで、私は質問を止めるつもりはありません。」
まるで僕を監禁するような口調で、天使はそう言い切る。
「じゃあいいです。このまま永遠にここで座っていましょう。どうせ僕から話すことなんてないですし。」
「ふざけないでください。貴方のその無駄な意地で、私の有限の時間が無駄に流れていくのです。」
いい加減僕は我慢できなくなり、怒鳴り散らす。
「それはこっちのセリフだ!!もう、いいんだよ!全ては僕が勝手に死んでっただけじゃないかっ!!何にもない部屋で過ごして、何の面白みがない教室で授業して!そんでもって反吐が出るような暴力ッッ!!お前は想像した事あんのかよォ!!!もう僕は楽になりたいんだ!!なんも考えたくないし話したくもないし罪を償わせるなんてこれっぽっちも思ってないんだよっ!!!だからさっさと僕をけ消しt──」
僕は、自分が泣いていることも構わず、これまでの鬱憤を、情けない、卑屈でみすぼらしいその声で、目の前の天使にぶつけていた。
苦しかった。
息が、思うように出来なくって、吐きそうだった。
もっと、欲しかった。
優しさが。
笑顔が。
仲間が。
心が──。
なぜ、僕だけが──
なぜ、こんなにも──
世界の理不尽を訴え、自分の情けなさを呪い、
ただひたすらに、涙を流して──
そのまま、闇に落ちてしまおうと、
その瞬間
「ありがとう、和哉」
赤ん坊の頃にしか、味わったことの無い、暖かさ。
激しく病んでいた僕の心が、まるでジェンガのように崩れ落ちていく。
息が止まり、でも、涙は流れるままで──
「貴方は頑張りました。高次元の存在である私達ですら、貴方の痛みを、苦しみを、そして深い憎しみを理解することは、到底不可能です。先程も言いましたが、極楽浄土におられるゴータマ・シッダッタ様も、楽園におられるイエス様でさえも想像出来ないようなその精神的苦痛を受けた貴方に、お二方は尊敬の念を抱いております。」
「」
「貴方は、偉いのです。この年までめげずに何度も向かい、折れず最後まで貫き通すことが出来たのは、今までで貴方1人だけです。」
「私達は、慰めしかできない。貴方に癒しを与えることすらできない。だから──私の胸の中で、全て吐き出してください。」
それを聞いた僕は、耐えられなかった。
何も無い空間に一つ、男子の泣く声が響く。
これまでの不幸を全て乗せて。
優しさに触れた鬼のように。
ただ、純粋で暖かい、そんな泣き声が──
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