孤灯の英雄

群青(@ultamarine0821)

文字の大きさ
6 / 12
第一章

3.カウンセリングの意味

しおりを挟む
「さて。何か悩み事はありますか?」

僕はカウンセリングを受けていた。
天使という名の美少女に。
いや、美人の天使だろうか...

「そんな私が美人か美人じゃないかなんて言う話はもういいですから。何か思い悩むことはありませんか?」

思考を読まれているのか......。

「いや別に、そんな悩みとか...死んだ後ですし…」

「成程やはり...どうやら、本当に貴方は大切な人や動物などいなかったのですか...ゼロ人ですか...よくそんな最低限の愛情だけで生きてこれましたね......。」

「最低限の愛情...?」
「あれま、貴方は頭がよかったはずでは。知りませんか?」
「あー、あれですか。フリードリヒ二世のやつですか。」
「そう、それです。貴方は要するに、赤ん坊の時にまだ生きていた母親からの愛情以外に、ほとんど愛情をもらっていないのです。貴方ように先天的に意志力と精神力が強くなければ、数年で命を落としてしまう程に。」

恐ろしい話を聞いたものだ。
僕の母が亡くなったのは、僕が丁度五歳になったばかりのときだった。
それで普通なら数年で死んで(自殺)してしまうというのだから、高校三年まで生き抜いてきた僕の異常さがよくわかる。

「そうなってしまったのは、私達のミスであり、貴方のせいでも、君のクラスメイトのせいでも、ましてご自身の両親のせいでもないんです。」
「......。」
「それで、貴方は普通ならいじめてきたそのクラスメイト達に、助けてくれなかった大人達に、そして私達に憎しみを大きく抱いても仕方が無いことなのです。だから、『カウンセリング』なんてしているんですよ?」

確かに、自分にこれまでのような仕打ちをしてきた人を今すぐ許せと言われたら不可能だし、正直にいえば憎しみなんてものは、いつも僕と隣合わせだった。

「......私達にとって貴方は、とてもか弱く、この手ひとつでも簡単に捻り潰せるような存在です。穢れた魂を処分する程度私たちには造作もないのです。ですが、私達は、間違いを犯し・・・・・・、そして貴方には、私達を裁く権利・・・・・・・がある。だから、問うているのです。悩みはないか、と。」

悩み、か...

「そもそも僕は、悩む暇もなかったので、別に僕の魂を破壊したっていいんです。思い残すことなんてないんですから。」

「嘘です。貴方から口にするまで、私は質問を止めるつもりはありません。」

まるで僕を監禁するような口調で、天使はそう言い切る。

「じゃあいいです。このまま永遠にここで座っていましょう。どうせ僕から話すことなんてないですし。」

「ふざけないでください。貴方のその無駄な意地で、私の有限・・の時間が無駄に流れていくのです。」

いい加減僕は我慢できなくなり、怒鳴り散らす。

「それはこっちのセリフだ!!もう、いいんだよ!全ては僕が勝手に死んでっただけじゃないかっ!!何にもない部屋で過ごして、何の面白みがない教室で授業して!そんでもって反吐が出るような暴力ッッ!!お前は想像した事あんのかよォ!!!もう僕は楽になりたいんだ!!なんも考えたくないし話したくもないし罪を償わせるなんてこれっぽっちも思ってないんだよっ!!!だからさっさと僕をけ消しt──」

僕は、自分が泣いていることも構わず、これまでの鬱憤を、情けない、卑屈でみすぼらしいその声で、目の前の天使にぶつけていた。

苦しかった。

息が、思うように出来なくって、吐きそうだった。

もっと、欲しかった。

優しさが。
笑顔が。
仲間が。
心が──。

なぜ、僕だけが──
なぜ、こんなにも──

世界の理不尽を訴え、自分の情けなさを呪い、

ただひたすらに、涙を流して──

そのまま、闇に落ちてしまおうと、

その瞬間



「ありがとう、和哉」



赤ん坊の頃にしか、味わったことの無い、暖かさ。

激しく病んでいた僕の心が、まるでジェンガのように崩れ落ちていく。

息が止まり、でも、涙は流れるままで──

「貴方は頑張りました。高次元の存在である私達ですら、貴方の痛みを、苦しみを、そして深い憎しみを理解することは、到底不可能です。先程も言いましたが、極楽浄土におられるゴータマ・シッダッタ様も、楽園におられるイエス様でさえも想像出来ないようなその精神的苦痛を受けた貴方に、お二方は尊敬の念を抱いております。」

「」

「貴方は、偉いのです。この年までめげずに何度も向かい、折れず最後まで貫き通すことが出来たのは、今までで貴方1人だけです。」

「私達は、慰めしかできない。貴方に癒しを与えることすらできない。だから──私の胸の中で、全て吐き出してください。」

それを聞いた僕は、耐えられなかった。

何も無い空間に一つ、男子の泣く声が響く。

これまでの不幸を全て乗せて。

優しさに触れた鬼のように。

ただ、純粋で暖かい、そんな泣き声が──


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊
ファンタジー
魔力不足、財政難、人手不足。 逃げ場のない没落領地を託された転生令嬢は、 “立て直す”以外の選択肢を持たなかった。 領地経営、改革、そして予想外の縁。 没落から始まる再建の先で、彼女が選ぶ未来とは──。 ※完結まで予約投稿しました。安心してお読みください。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

処理中です...