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第一章
5.いざ異世界へ──
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「さて、決心できたことですし、色々決めてしまいましょう。」
そう言って天使さんは、すっと右手で軽く空中をノックする。
出てきたのは、1枚の大きな羊皮紙とインクペンだった。
「......なんかそういうところだけファンタジー溢れてますよね…。」
「それはそうでしょう。何故なら貴方はもうファンタジーな世界に足を踏み入れて居るのですから。」
何故か嬉しそうに微笑みながら言う。
嗚呼、その眩しすぎる笑顔は、微笑みの爆弾...いや、辞めよう。ジェネレーションギャップを感じる人が殆どだ。
「それで、一体何を決めるんですか?」
そう言うと、待ってましたと言わんばかりに、天使さんはキリッとした顔で説明を始めた。
「まずは、転生する種族です。人間、獣人、魔族、悪魔、妖精、精霊の六つの種族が選べますが、基本的には魔族、悪魔、妖精、精霊には転生出来ません。」
「なんでです?」
「それは貴方の前世の種族が人間で、それらの種族は人間に近しい体の構造をしていないからです。」
成程要するに、人間としての記憶が残っている僕には、人間とは違う体に転生すると上手く魂と体がくっつかないみたいな感じか。
「そんな所でしょう。」
「僕だからなんとなく察しますけど、もうちょっとちゃんと説明して下さいよ!」
「普段『文字』などという低次元の意思疎通媒体でコミュニケーションとってないんですよ。解ればいいんです解れば!」
適当な天使だなぁ…
「それで、種族はどうしましょうか。後で決めますか?」
普通なら、全部最後まで聞いて、よく考えて答えを出すのが得策なのだろうが、僕はあえてここで決める。
「じゃあ、『獣人』で。」
僕は、前世にて不幸な運命を辿ったのだが、それでも真
っ黒だったという訳でもない。
僕には自殺する数ヶ月前まで、猫を飼っていたのだ。
少し青が混ざっている白い毛並みに、碧い瞳の雑種の猫だ。
僕にとってその猫と音楽だけが生きがいで、何度も自殺をしようと思って踏みとどまって来れたのは、僕の意思と精神が強かったということだけではないと思っている。
多分それとは全く関係ないのだが、何故か無性に『獣人』というものになりたいと思うのだ。
別にいつでも隣にモフれる対象がいるというシチュエーションを夢見た訳では無い。絶対に。
「本当んいいんですか?まあいいんですけど...」
僕の食い気味な姿勢に若干引きつも、容認してくれた。
「では、次に『権限』という名の『スキル』について説明します。それらは先天的あるいは後天的に、その世界から権限、特権が与えられます。例えば、人間だったら先天的に『顕現者』の権限を持っていますし、魔王だったら『魔王ノ覇気』、精霊だったら『霊ノ力』を持っています。その権限の効果は様々で、要するに貴方が今想像しているような『スキル』とほぼ一緒です。」
決して転〇ラを想像していた訳では無い。
「それで、僕はその『権限』とやらを選べるんですか?」
何故か心が疼く。
僕は生まれて初めて中二病患者の心がわかったような気がした。
「勿論ですが、ひとつだけですよ?あんまり選ばれると私達天使がとても困ることになるんです。.....上司に怒られるだけですが。」
「もう既にやらかしてるんだから、別に良くないですか?」
「私の上司は『それとこれとは別だから』って言うんです。理不尽ですよ全く。てめぇら上司の失態を私達天使に毎回毎回、毎回毎回押し付けて来て都合が悪い時には『コレコレは別だから』とかほざきやがって......」
怖い目で羊皮紙を睨む天使さん。
インクペンがギリギリと音を立てて曲がり始める。
ようはどの世界でも次元でも、やることはだいたい変わらないってことだ。悲しい。
僕は天使さんをなだめ、その『権限』を決めるために、権限名と大体のその効果が書かれた本を借り、ざっと読んでみる。
「......この『時空操作』って言うのはどうだろう。」
「あー、それですか。名前だけの権限六位のスキルですよ。実際には空間拡張と縮小による体感時間操作で、上手く使えば時間を止めたように早く動くことが出来る権限です。」
「どこかの吸血鬼が主のメイド長みたいですねそれ」
「実際にその感覚であってますよ。そっくりそのまま同じ能力だと思っても支障はないですし。」
名前だけと言っていたが、案外使えそうなスキルだ。
「じゃあそれにします。」
「マジですか?」
「いや別にいいじゃんか!ロマンですよ。ロマン。」
「マロン梨~、ですか。」
「何のネタですか。知りませんよそんな下らないネタ!!」
「知らないんですか?ちび〇〇子ちゃんですが。」
「......」
天使とはこう見えて結構暇なのではないか?
「では、先天的な権限も決まりましたね。」
そう言って、すっと立ち上がる天使さん。
「最後に、貴方の信念を聞かせて下さい。それで、貴方は転生の準備が整います。」
僕は少し、どきりとした。
「......もう、会えないと思いますか?」
天使さんは微笑んで、
「何言っているんですか。これからが本番なのですよ?そんな悲しい顔をしたって、私はついていけませんから。」
ついていけませんから──
その言葉に、僕は少しだけ笑った。
「仕事はサボれないですからね。」
「上司のケツ拭きも飽き飽きなんですけどね。」
ニヤリと腕を組んで笑う天使さんは、少し寂しそうだった。
「まあ、きっと会えるんじゃないですか?貴方が悟りを開いてこっちに来てくれればの話ですけど。」
それは難しいだろうな──
「まあ、そのうち悟りますよ。教名は『トヨミネ教』で決定ですかね。」
「そんなダサい名前の教団が会ってたまるものですか。もっとかっくいい名前にして下さいよ。」
そう言って、天使さんは後ろを向く。
「ほら!御託はいいので早く宣言して下さいよ!貴方の信念を!」
少しずつ僕の体が、光に包まれていく。
「アレクボライアントさん──」
彼女は後ろを向いたままだ。
「ありがとうございました。」
僕は、そう一言告げ、回れ右をする。
もう光は、僕を完全に包み込んでいる。
「僕の信念は──」
目を瞑り、
息を吸い、
吐いて
開ける──
「二度と、不幸をさせない──」
僕の視界を光が埋めつくし、そこで僕は気を失った──
そう言って天使さんは、すっと右手で軽く空中をノックする。
出てきたのは、1枚の大きな羊皮紙とインクペンだった。
「......なんかそういうところだけファンタジー溢れてますよね…。」
「それはそうでしょう。何故なら貴方はもうファンタジーな世界に足を踏み入れて居るのですから。」
何故か嬉しそうに微笑みながら言う。
嗚呼、その眩しすぎる笑顔は、微笑みの爆弾...いや、辞めよう。ジェネレーションギャップを感じる人が殆どだ。
「それで、一体何を決めるんですか?」
そう言うと、待ってましたと言わんばかりに、天使さんはキリッとした顔で説明を始めた。
「まずは、転生する種族です。人間、獣人、魔族、悪魔、妖精、精霊の六つの種族が選べますが、基本的には魔族、悪魔、妖精、精霊には転生出来ません。」
「なんでです?」
「それは貴方の前世の種族が人間で、それらの種族は人間に近しい体の構造をしていないからです。」
成程要するに、人間としての記憶が残っている僕には、人間とは違う体に転生すると上手く魂と体がくっつかないみたいな感じか。
「そんな所でしょう。」
「僕だからなんとなく察しますけど、もうちょっとちゃんと説明して下さいよ!」
「普段『文字』などという低次元の意思疎通媒体でコミュニケーションとってないんですよ。解ればいいんです解れば!」
適当な天使だなぁ…
「それで、種族はどうしましょうか。後で決めますか?」
普通なら、全部最後まで聞いて、よく考えて答えを出すのが得策なのだろうが、僕はあえてここで決める。
「じゃあ、『獣人』で。」
僕は、前世にて不幸な運命を辿ったのだが、それでも真
っ黒だったという訳でもない。
僕には自殺する数ヶ月前まで、猫を飼っていたのだ。
少し青が混ざっている白い毛並みに、碧い瞳の雑種の猫だ。
僕にとってその猫と音楽だけが生きがいで、何度も自殺をしようと思って踏みとどまって来れたのは、僕の意思と精神が強かったということだけではないと思っている。
多分それとは全く関係ないのだが、何故か無性に『獣人』というものになりたいと思うのだ。
別にいつでも隣にモフれる対象がいるというシチュエーションを夢見た訳では無い。絶対に。
「本当んいいんですか?まあいいんですけど...」
僕の食い気味な姿勢に若干引きつも、容認してくれた。
「では、次に『権限』という名の『スキル』について説明します。それらは先天的あるいは後天的に、その世界から権限、特権が与えられます。例えば、人間だったら先天的に『顕現者』の権限を持っていますし、魔王だったら『魔王ノ覇気』、精霊だったら『霊ノ力』を持っています。その権限の効果は様々で、要するに貴方が今想像しているような『スキル』とほぼ一緒です。」
決して転〇ラを想像していた訳では無い。
「それで、僕はその『権限』とやらを選べるんですか?」
何故か心が疼く。
僕は生まれて初めて中二病患者の心がわかったような気がした。
「勿論ですが、ひとつだけですよ?あんまり選ばれると私達天使がとても困ることになるんです。.....上司に怒られるだけですが。」
「もう既にやらかしてるんだから、別に良くないですか?」
「私の上司は『それとこれとは別だから』って言うんです。理不尽ですよ全く。てめぇら上司の失態を私達天使に毎回毎回、毎回毎回押し付けて来て都合が悪い時には『コレコレは別だから』とかほざきやがって......」
怖い目で羊皮紙を睨む天使さん。
インクペンがギリギリと音を立てて曲がり始める。
ようはどの世界でも次元でも、やることはだいたい変わらないってことだ。悲しい。
僕は天使さんをなだめ、その『権限』を決めるために、権限名と大体のその効果が書かれた本を借り、ざっと読んでみる。
「......この『時空操作』って言うのはどうだろう。」
「あー、それですか。名前だけの権限六位のスキルですよ。実際には空間拡張と縮小による体感時間操作で、上手く使えば時間を止めたように早く動くことが出来る権限です。」
「どこかの吸血鬼が主のメイド長みたいですねそれ」
「実際にその感覚であってますよ。そっくりそのまま同じ能力だと思っても支障はないですし。」
名前だけと言っていたが、案外使えそうなスキルだ。
「じゃあそれにします。」
「マジですか?」
「いや別にいいじゃんか!ロマンですよ。ロマン。」
「マロン梨~、ですか。」
「何のネタですか。知りませんよそんな下らないネタ!!」
「知らないんですか?ちび〇〇子ちゃんですが。」
「......」
天使とはこう見えて結構暇なのではないか?
「では、先天的な権限も決まりましたね。」
そう言って、すっと立ち上がる天使さん。
「最後に、貴方の信念を聞かせて下さい。それで、貴方は転生の準備が整います。」
僕は少し、どきりとした。
「......もう、会えないと思いますか?」
天使さんは微笑んで、
「何言っているんですか。これからが本番なのですよ?そんな悲しい顔をしたって、私はついていけませんから。」
ついていけませんから──
その言葉に、僕は少しだけ笑った。
「仕事はサボれないですからね。」
「上司のケツ拭きも飽き飽きなんですけどね。」
ニヤリと腕を組んで笑う天使さんは、少し寂しそうだった。
「まあ、きっと会えるんじゃないですか?貴方が悟りを開いてこっちに来てくれればの話ですけど。」
それは難しいだろうな──
「まあ、そのうち悟りますよ。教名は『トヨミネ教』で決定ですかね。」
「そんなダサい名前の教団が会ってたまるものですか。もっとかっくいい名前にして下さいよ。」
そう言って、天使さんは後ろを向く。
「ほら!御託はいいので早く宣言して下さいよ!貴方の信念を!」
少しずつ僕の体が、光に包まれていく。
「アレクボライアントさん──」
彼女は後ろを向いたままだ。
「ありがとうございました。」
僕は、そう一言告げ、回れ右をする。
もう光は、僕を完全に包み込んでいる。
「僕の信念は──」
目を瞑り、
息を吸い、
吐いて
開ける──
「二度と、不幸をさせない──」
僕の視界を光が埋めつくし、そこで僕は気を失った──
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