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1の島
しおりを挟むアルバスに身体を揺すられて目が覚めた。
「おはよう。この集落は毎朝砂浜でミーティングが行われる。サカタの事を紹介するから朝飯はその後だ。」
カヌーに掴まりバタ足で砂浜へ向かうと、既に数十人の男の人だかりが出来ていた。
年寄りは服を着ておらず裸のままだ。
「アルバス、女性はいないのか。」
「あぁ、ここには居ないな。年寄りとメスは居るんだが後で説明する。」
アルバスはそう言うとカヌーを陸に上げて、集団の中へ入っていったから俺も後に続いた。
「では揃った様じゃからミーティングを始めるぞい。まず、何か変化があったら者はいるか。」
裸の長老らしき人が仕切りを行う様だ。
一体何年ここで過ごしているのだろうか。
「長老、昨日ダンジョンに新しい仲間が加わりました。名前はサカタで戦闘力は持っていません。当面の間は俺が面倒を見ます。」
「良いじゃろう。して、サカタは集落の為に何か出来る事はあるかのぅ。」
この質問がくる事はアルバスから聞いて知っていた。強制ではないが何かをしておくと発言力が出るらしい。
「俺は執事が専門ですので一通り何でも出来ます。ここではお菓子作りにチャレンジしたいと思っています。」
「ここには肝心の砂糖が無いが大丈夫かのう。まあ、失敗しても誰も文句言わんから気軽に試してみると良いじゃろう。当面の間はアルバスがサカタのサポートを頼む。その間は海草干しは免除じゃ。」
アルバスは余程海草干し免除が嬉しかったのかガッツポーズをしている。
俺は執事モードの綺麗なお辞儀をしてやり取りを締めた。
その後に狩猟担当、栽培担当、家具担当、建築担当等の様々な分野から定期報告が行われ、最後に長老の担当である本日の天気予報が報告された。
「本日は晴天じゃ。では解散。」
天気予報担当は楽でいいな。
「じゃあ、今から集落を案内するよ。これやるから好きに使ってくれ。」
アルバスがくれたのは草で編まれた袋に入っている沢山の真珠だった。
この真珠が貨幣代わりになるが、食料の貝からも真珠は出てくるから貯まる一方らしい。
しかし、ここから出て新たな生活の足しにすると言う希望が込められた通貨だから大切に使って欲しいと言われた。
「サカタはお菓子を作るんだろ。関係するところから案内するから着いてきて。」
そう言ってアルバスは海ではなく森に向かって歩き出した。
アルバスが短剣を振り回しながら森の道無き道を進むと一軒の小屋が見えてきた。
「あそこが一流の魔女サベリカさんが営む八百屋だ。サベリカさんは隙あらば俺達を実験台にするから途中で飲み食いを進められても絶対に断れよ。」
恐ろしい八百屋だ。
小屋の中に入ると普通の野菜や果物の中に物騒な物がチラホラ陳列されている。
ネズミの丸焼き、猿の頭、赤い液体が入った瓶、額に空洞がある山羊の頭等、黒魔術で使いそうな物が良くみると沢山ある。
魔法がある世界で魔術はまた別にあるのだろうか。
「いらっしゃいアルバスの坊や。またお茶でも飲んでいくかい。ひっひっひっ。」
黒いローブを着た老婆が紫色の液体が入った瓶を持って店の奥からやって来た。
「もう二度と胸がでかくなる薬なんてゴメンだよ。数日の間、夜這いにくる奴らとかいて大変だったんだからな。それより、今日は新入りのサカタを紹介しに来たんだ。」
胸がでかくなる薬、地球だったら飛ぶように売れそうだ。
「新入りかい。ならこれを飲んでからだ。」
老婆は紫色の液体が入った瓶をテーブルにドンと置くと、ぐいっと前に押し出してきたから、俺はそれを躊躇無く飲んだ。
「おいっ、サカタそんなの飲んで大丈夫か。」
「ひっひっ、威勢が良い坊やだねぇ。面白いのも中に居るみたいだし気に入ったよ。何でも相談しにきな。因みにそれは三日間ほど力が強くなる薬だ。」
神主の存在が見えているのだろうか。
「では早速ですがお菓子を作りたいので小麦を売ってください。」
「ダンジョンでお菓子作りなんて面白い子だねぇ。出来たら私にも食べさせな。真珠三個で一袋だよ。」
お礼を言い店を出ると腕が次第に熱くなり、まるで生物の様に脈打ち始めた。
その直後、三倍くらいの太さに両腕が膨張したから重さで肩が外れそうだ。
仕方無くゴリラの様に前傾姿勢をとり、両腕を地面に着ける。
「だから止めとけって言っただろ。この前なんて長老が毛生え薬を飲まされて全身毛むくじゃらになったんだぜ。帰り道に魔物と間違われて攻略組に殺される寸前だったってミーティングで言ってた。まぁ、四日目にバサっとコート脱ぐみたいに抜け落ちたけどな。」
「悪戯好きな魔女なんだな。ここに来れたって事は戦う力もあるんだろ。」
「魔術は魔法と違って在るものに変化を与えるから戦闘向きじゃないと言ってたよ。魔法は無から有に変える現象だそうだ。俺には難しくてよく分からない。」
なるほど、魔術は補助魔法的な位置取りなのかな。
魔女サベリカ、今度パーティーに誘ってみよう。
「次は森をもう少し進んだ先にある狩猟小屋に向かうけど、ここからは魔物が出るから俺から離れるなよ。1の島と言えどもここは上級ダンジョンだ。サカタは攻撃を食らったら一撃で死ぬぞ。」
ここ最近は死線を潜り抜けてばかりだから死に対する恐怖が薄れている。
戦場のカメラマンが自分だけは大丈夫と思ってしまうのが今は良く分る。
人は慣れる生き物で死の恐怖さえ慣れてしまうのだ。
「島猿に囲まれてるな。サカタは出来るだけ動かないでいてくれ。でも、いざとなったら腕を振り回して戦えよ。」
俺の目の前に上から猿が降ってきたと思ったら、口から剣を生やしている。
アルバスが振り向きもせずに短剣を投げた様だ。
振り返らないまま右肩付近でピースサインを出している。
カッコイイから丸パクリしてマリ様にお見せしよう。
猿の死体から短剣を抜いてアルバスに返そうと思ったが、押せども引けどもビクともしない。
力が強くなっているはずなのにこれだもんな。
これじゃ腕が太くなっただけだろ。
「はははっ、もう終わったぞ。サカタにとったら上級の魔物は岩よりも硬く感じるはずだ。それに刺さった短剣が抜ける訳がないよ。」
俺が短剣と格闘している間にアルバスは二匹の猿を倒していた。
圧倒的な強さじゃないかアルバス。
これが通用しない2の島はどんだけ強い魔物なんだよ。
猿は俺が三匹持って再び森の奥に進んだ。
硬いけど重くは無いんだ。
「着いたぞ。おーいロープを降ろしてくれ。」
アルバスが大木の根元で叫ぶと一定間隔に結び目が付けてあるロープがスルスルと降りてきた。
「猿を全部ロープに縛ったな。じゃあ、ロープに掴まれ。」
二人と三匹は相当な重量があるはずなのにスーッと上に引き上げられていく。
滑車があるのだろう。
三十メートル程上がって、ようやくツリーハウスが見えてきた。
複数の木にまたがって床が設置されているから想像よりも遥かに広い。
感動していると巨大な手に両肩を抱えられて引き上げられた。
すると、目の前に醜悪な巨乳のオークが現れた。
誰が着せたのか知らないが皮製ビキニを着ている。
「あらあら、かわい子ちゃんが二人も釣れたわ。怖くないからお姉さんといい事して遊びましょう。」
映画の吹き替えかと思うぐらい不自然に喋った。
しかも美人アナウンサーみたいな美声で喋りながら巨乳を押し付けてくる。
「今日は新人のサカタを連れてチハルさんに挨拶に来たんだ。猿はお土産代わりに持ってきた。」
「あらあら、ご丁寧にありがとう。偉い子ちゃんですねぇ。デッキでお話するのもなんだから家にいらっしゃい。」
俺とアルバスは両脇に抱えられて三棟ある小屋の一つに連れて行かれた。
意外にもチハルさんは獣臭が全く無く、キンモクセイの様な凄く良い匂いがする。
そんな物で俺のストライクゾーンの防波堤にヒビは入らないぞ。
小屋には花で可愛らしく装飾された大きなベッドが一つだけ置かれている。
そこに俺達はそっと置かれた。
「お茶を持ってくるから少し待っててね。」
チハルさんはウインクをして部屋を出て行った。
「アルバス・・俺達喰われないよな。」
「今は発情期じゃないから大丈夫だって長老が言ってた。集落の中にチハルさんと関係を持った奴がいて、そいつによるとチハルさんは目を閉じれば最高の女だって言ってたぞ。」
アルバスは冗談じみた感じで言っているが、この流れは洒落になってないと思う。
「お待たせぇー、今日は奮発して高級ハーブティーを入れました。」
オークが戻ってきてコップを手渡された。
可愛く花の彫刻がされた木のコップに良い匂いがするハーブティーが入っている。
アルバスは先程の戦闘で喉が渇いていたのがゴクゴクと飲み干してしまったが、俺は魔女の件があったから飲む振りをして様子を見ていた。
案の定、何かの薬効があるハーブでアルバスは頬を赤らめて頻繁に下半身を気にしている。
「すいません。お腹を壊してしまったみたいでお手洗いお借りできますか。長くなりそうなので楽しい催し物とかあったら先に始めてて下さい。」
「待てサカタァァ「トイレは出て左奥にあるわ。アルバスちゃんはこっちにお座りしましょうねぇ。」サカタァ、五分で戻れよ。」
チハルさんの膝にお座りしているアルバスへ目をギュッと閉じるジャスチャーを贈り、サムズアップして退出した。
時間潰しの為にデッキを何となく散歩していると更に上へ登る階段を発見した。
大木を中心に据えた螺旋階段でお洒落な手すりまで付いている。
チハルの女子力は結構高いぞアルバス。
登っていくと島が一望できる見晴らし台に出た。
何て美しい島なんだろう。
街の絵画店で売っているボッタクリポスターの様だ。
印刷物なのに数万円するやつね。
感動で打ち震えていると地震が発生した。
振動が長い。
怖くなったから急いで螺旋階段を降りる。
アルバスがいる小屋の扉を開ける寸前に、震源が目の前の小屋だと分かりホッとした。
振動は夜になっても収まらず、仕方なく俺は見晴台で腹の音を鳴らしながら寝た。
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