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ダンジョンマスター加藤

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 魔物の特徴からオタクだろうと思っていたダンジョンマスターはダンディなおじさんだった。

「マサルと申します。まさか日本人に出会えると思いませんでした。ところで、このダンジョンは加藤さんがお造りになられたんですか。」

「階層は洞窟をイメージして私が作りましたが、魔物は前任ダンジョンマスターの残骸から作られています。どのダンジョンも似たようなシステムみたいですよ。つまり、私の特徴を持つ魔物が出てくる時は私がこの世にいない時です。」

 残骸から作られるって少し残酷な印象を受ける。
 俺がもしもダンジョンマスターだったら、残骸からどんな魔物が出来るだろうか。
 頑張って捻り出そうとしたが俺には特徴が無い。
 メイド達の方が勇者よりもキャラが強いっておかしいだろ。

「加藤さん、単刀直入に言います。俺は今から漢指南所という機関を作ります。それの手伝いをして頂けないでしょうか。」
 
「手伝って上げたいのですが、入り口に透明の壁があってダンジョンから出られないんですよ。」

 そこからはメイド達が会話に参加してきた。
 最終的には国へ内緒にするならダンジョンの一部を合宿所として使用させてもらえる事になった。
 対価は必要ないと加藤は言ってくれたが、外の食べ物を報酬として渡す事で落ち着いた。

 加藤が一般冒険者に倒されて消滅してしまう可能性を無くす事は出来ないかとイチに聞くと、国王にそれを防ぐ提案が出来ると言った。
 しかし、加藤は首を横に振り、ダンジョンを維持するには人間の生命が必要だから対等の関係でいたいとの事。

 話が纏まり、合宿予定地である最下層へ加藤のワープ的な魔法で移動した。

 最下層は加藤が生前に住んでいた街を再現したとの事で、日本の一般的な住宅地であった。
 気持ちが凄く分かる。

「インフラも整備してあるから好きな所に拠点を構えて下さいね。流石にテレビは映りませんけどね。」

 お言葉に甘えて二階建ての一軒家を拝借した。
 家の中を確認し終えると、加藤は夜になったら迎えを寄越すと言って去って行った。

「これが庶民の家とは思えないですね。お風呂が付いてるなんて信じられません。」

 ハチは空の浴槽に入り、うっとりしながら感動している。
 ブルブル王国では風呂なんて貴族でもなければ入らない。
 魔法的な何かで風呂を沸かせられるらしいが、火事の原因になるからという理由で法的に難しいらしい。

「じゃあ夜まで時間があるから、順番にお風呂でも入ってゆっくりしましょう。」

 最新の湯沸かし器だったから、ボタン一つで浴槽にお湯が入り始めた。

 リビングでメイド達がマッタリしている間にお茶でも入れようとキッチンを物色するが何も無い。

「ロクさん、お茶葉有りませんか。」

「ムシシシッ、ようやくアタシの出番が来た。旅の途中でたくさんお茶葉買ってあるよ。」

 ロクは調理担当のメイドだが、この国には至る所に飲食店があるからこれまで出番は一切無かった。
 黒のショートカットが似合う明るい女の子だ。

 ロクにIH調理機器の使い方を説明し終えるとキッチンから追い出された。
 黒豆茶を出してくれた後、ガタガタ忙しなく動いているから何か作っているのだろう。

 浴槽にお湯が溜まったからイチから順番に入ってもらった。
 ニイの順番の時に一緒に入ろうと誘われたが浴槽が狭いからと言って断った。

 そして、今はナナとお風呂に入っている。
 ナナは顔こそ美少女だが魔道生命体といわれる機械の一種らしい。当然身体はツルペタで何も無い。
 関節の可動域が狭く、服を一人で脱げないという理由で連れてこられた。

「ナナさんは五感は備わっているんですか。」

「五感は人と同じ様にありますよ。人と違う点は排泄行動が必要ないというくらいです。」

 それは羨ましいな。
 俺はトイレが近いから真剣に大人用オムツを常時履くかどうか迷っていた時期があった。

 ナナの身体を洗ってあげる時、くすぐったかった様でずっとキャハハと笑っていた。
 子供がいる人は毎晩こんな感じなのかな。
 ナナに服を着せて手を繋いでリビングに戻る。
 ハチがナナにどんなだったと聞いていたが聞こえない振りをした。

「お待たせぇ。焼きドーナツ出来たよ。」

 ロクのドーナツは素朴な味で美味かった。
 ハチとロクが風呂を終えて少し経った頃、インターホンが鳴ったからカメラを確認する。

 一階層で見た土偶がいるから迎えに来たんだろう。
 ドアを開けると土偶の腹の辺りに『着いて来て下さい』と書かれた紙が貼ってある。

 五分程歩き、小さい中華料理屋へ案内されて入ると

「いらっしゃい。タイミング良く食材を沢山持った冒険者が来たので拝借しました。地球ではホテルの厨房で働いていたので料理の腕はまずまずですよ。」

 テーブルに置いてあるメニューには焼飯と焼肉定食しか載っていなかったが、どちらも好物だ。

 俺とイチが焼飯で他は焼肉定食を注文した。
 待っている間にずっと気になっていた事を質問する。

「もしも、加藤さんを倒そうとしている冒険者がやってきた場合、俺は加藤さんに加勢しても良いのでしょうか。」

 頭が切れるイチもこの質問には即答出来ず、一呼吸おいてから話し始めた。

「一般的にダンジョンは侵入者を殺しますから、悪と捉えられています。それに勇者様が加担したとなると問題にはなるでしょう。でも、お好きな様に行動して下さい。尻拭いは私達が行います。」

 基本的には止めて欲しいという事だろう。
 加藤も合宿に参加して貰えば強くなるかな。

「お待ちどうさま。ニンニクが効いてるから今夜はキス出来ませんよ。」

 俺達はそういう関係じゃ無いんだけど、普通はそう思うか。

「勇者様、私は気にしませんのでいつも通りに。」

 ハチが胸を両腕で強調しながら下ネタに乗っかるがスルーして食べ始める。

 美味いじゃないか。
 一瞬、日本に戻ったかの様な感覚になった。

「美味しい。ここに永住したいくらいです。」

「はははっ、ありがとう。でも食料は我々にとって趣向品でしかないから入手手段が無いんですよ。また、手に入れたら声掛けさせてもらいます。」

 ロクは調理人として対抗意識を持ったのか、焼飯を睨んでいる。

「では合宿の際に使わせて頂く場所の下見は明日という事で宜しくお願いします。今夜はご馳走様でした。」

 帰りは案内無しで拠点に戻り、各自自由行動という事にした。
 俺は二階にある個室で一人考え事をしている。

 パン、パン、パン、パン、パン

 ゴオを呼ぶ合図をしたのだが、随分時間が経過している。聞こえなかったのだろうか。

 トントン

「勇者様、お待たせしました。ゴオが参りました。」

「どうぞ、入って下さい。」

 色々透けているネグリジェを着たゴオが部屋に入り、いそいそと部屋の鍵を閉めた。

「まさか太っている私が最初とは思いませんでした。このネグリジェは急遽ハチに借りました。似合ってるでしょうか。」

「大変に似合ってますよ。別人かと思いました。」

 これは予想外だ。
 恐らくハチが余計な事を吹き込んだのだろう。
 興味が無い訳じゃないが、今そういう事をしたらチームワークが崩壊してしまう。
 傷つけない様に断らなければならない。
 
「ゴオさんは非常に魅力的ですが、今は急いで準備しなければならない事があります。それを手伝って欲しいのです。」

 ゴオは顔を手で塞ぎイヤイヤと首を振っていたが、最終的には俺の手伝いをしてくれる事になった。

 その作業は朝方まで掛かった。

「ようやく完成した。ありがとうゴウさん。」

 アクビをしながら気の無い返事をしてゴウは部屋を出て行った。

 迎えが来るのが昼だからそれまで眠ろう。




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