表題はご自由に 【症例:愚か者の事件記録】

黒須共生

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開廷

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 初公判の日。開廷時間は10時であるため9時半頃から裁判所の駐車場に待機していた。9時50分に裁判所ロビーで清木先生と待ち合わせの約束だ。7時間ほど睡眠をとり朝食もしっかり済ませていたため体調は万全だ。テスト直前のように最後の最後まで想定問答に目を通す。研ぎ澄まされた感覚は時間を引き延ばした。今まで4分かかっていた見直し作業が2分足らずで終わり、時の流れが妙に緩やかだと感じた。その時そっと右手が何かに覆われるのを自覚した。
 「私が付いているから。」
 印刷した問答表と睨めっこしている私が緊張していると思ったのだろうか。母は両手で私の右手を包んで言った。
 ――ああ、ありがとう。
 こんな状況でさえ、普段通りのそっけない返事しかできなかった。声を掛けられて目の奥がざわついたが、すぐに平静を取り戻す。もうここからは気持ちの勝負だ。書類をカバンにしまい、時間までラジオを聞いてリラックスすると母には伝えておいた。
 集合場所に清木先生よりも遅い到着とあっては申し訳なかったため9時45分を確認し裁判所に入る。年季の入った建物で入り口正面に白い机1台と古いプラスチック製の椅子がいくつか並べられている。裁判所職員が数名書類を抱えて歩いているのが見える。椅子に腰を掛け待っていると清木先生が大きなリクルートバッグを携えやってきた。開廷時間まであと10分。確実に開廷時間は迫っていた。最後の打ち合わせなどは特になかったが、起訴保留になっていたもう1件は不起訴処分となったことが先生の口から語られた。これで肩の荷が1つ降りる。検察側も容赦してくれたのだ。これで刑事事件として残っているのはこの裁判のみとなった。程なくして定刻となり、裁判所職員に法廷まで案内された。私達は傍聴人入り口から入廷し、母は傍聴席に、私と被告人席に着席する。まだ検察官と裁判長は姿を現していない。先生はカバンから証拠品の書類を取り出し準備をしている。裁判官席は1席、単独事件として取り扱われるようだ。傍聴席側には裁判所職員が1名おり、傍聴人に注意事項などを伝えている。傍聴人席には母以外に中年だと思しき男女が1名ずつ座っている。被害者の関係者かもしれない。頭を下げようかという考えが頭をよぎったが、私のあらゆる行いにおいても彼らにとっては批判の材料になりえると思ったため敢えて気づかない振りをすることにした。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。あの人達がどう思っているかわからないが、仮にそのような思いでいるとすれば現時点において関わり合いにならないことがお互いのためだ。検察官は少ししてから入ってきた。これまでの捜査で顔を合わせていたため軽く会釈をする。検察官も軽くお辞儀を返すと席に着き書類を机の上に並べだす。
 開廷時刻1分前、法廷に静寂が訪れた。外から誰かの足音が響いてくる。裁判官入り口が開き、裁判長が姿を現した。
 神様、どうか今だけ私に知恵と勇気をお与えください。
 冒頭手続が始まった。まずは人定質問。私は証言台に呼ばれ氏名、住所、本籍、職業を答える。マイクの位置が低いため少々前屈みで答える。続いて検察官による起訴状朗読、その後裁判官から黙秘権等の権利告知が行われ、起訴内容に対する意見陳述に入った。私と弁護人は起訴内容を全面的に認め、冒頭手続は終了する。この裁判には争いに来たわけではない。私に相応しい刑罰を決めてもらう。ただそれだけのことを考えていた。
 証拠品調べでは冒頭陳述の後、検察官が乙号証と甲号証を用いて事実関係の説明を行う。説明はかなりスピーディに行われていたと記憶している。本件の事前知識に乏しいであろう傍聴人には付いていけなかったのではなかろうか。20点近くあった証拠品の説明が終わるまで10分程度であった。検察側の証拠提出が終わった後は弁護側だ。母が証言台に呼ばれ、証人尋問が始まった。
 承認が最初に行うのは宣誓書――良心に従い真実を偽りなく述べる旨が記載されている――の読み上げである。証人が故意に虚偽の内容を述べれば偽証罪に問われる。宣誓が終了すると弁護人からの質問が始まった。先生からの質問は事前に聞いていた通り保釈期間中に話をした内容と今後のサポートに関することであったため、事前に話し合ったことを回答している。だが問題となるのは検察側からの質問内容だ。答えられないような質問は正直に答えられないと回答すればいいのだが果たしてどのような問いを投げかけられるのだろうか。
 「検察から質問です。今回のことを家族で事件内容を話したと伺いましたが細部まで聞いたのですか。」
 ――いいえ。本人にも話しにくい事があるでしょうから、無理に聞き出すようなことはしていません。
 あまり聞かれたくない内容だった。確かに両親は事件のことを伝えるときに話しにくいことは伏せても構わないと言っていた。被告が身元引受人に全てを打ち明けないということは度々起こる事なのだろうか。そう思うくらいにピンポイントだった。
 「これからサポートしていく上では話しにくいことであってもしっかりと情報共有をすることが必要だと思うので、そのようにしてください。お願いできますか。」
 ――はい。
 「では次にストレスをため込んだことが今回の事件の原因ということでしたね。それに関してストレスと今回の犯行が結びつかないように思えるのですがいかがお考えでしょうか。」
 母が私のせいで辛い質問攻めにされている。なぜ母をこんな目に遭わせなければならないんだ。その質問は私にするべきことではないか。悲愴感が増してきた。お願いだから質問は自分に答えさせてくれ。
 ――そのことに関しては本人とも話したのですが、今回の行動がストレス発散の一環として行ったことだと聞いています。詳しくは本人の方からお話しするのがいいかと思います。
 母に想いが通じたようで回答もそこそこに私へボールを回してくれた。因みにこの質問は2日前の夜に両親と話し合った時に私への質問として想定していたものだった。そのため母も回答することができたのだ。本当に幸いなことではあったが、証人として呼ばれただけの母が受けている仕打ちは私の心を確実に抉っていた。
 「わかりました。では、ストレスを溜め込み過ぎないように相談の場を設けるということでしたが、そのような予兆をどのように把握するつもりでしょうか。」
 ――現在は一緒に住んでいるので日頃の様子を観察し、ストレスに早く気づいてあげて話しやすい環境を作ることに努めていきます。
 「それでは本人から話がないと解決が難しいですよね。先ほども話しにくいことは無理に聞き出さない方がいいと仰っておりましたがそれでは不十分だと思います。そこで今後はスマートフォンやパソコンの情報を定期的に見て監視することを約束してもらえますか。」
 ――わかりました。そのように努めます。
 確かに検察官の言う通り、家族からのサポートは私からアクションを起こすということを前提としている。鋭い指摘ではあるが、今まで私は極力他人へ相談することが無いように暮らしてきた。それが今回の結果を生んだのだとすればそのような処置は仕方のないことなのかもしれない。
 「以上で検察側からの質疑は終了します。」
 その後裁判官からの質疑はなかったため、これで証人尋問は終了となった。いくつか鋭い質問があったが母は誠心誠意答えてくれた。そこには私への慈愛が感じ取れた。犯罪をしでかし、さらに親を法廷で尋問させるような子供に何故まだ手を差し伸べてくれるのだろう。なんで私は今までこのような無償の愛に気が付かなかったのだろう。
 「被告人は証言台の前に移動してください」
 母と入れ替わる形で証言台に移動した。人定質問の時とは異なり着席するように促される。今度は私の番だ。針の筵になろうが構わない。今日まで支えてくれた両親の為にも傍聴していると思われる被害者家族の為にも、貴重な時間と人手を使って今回の事件にあたった方たちの為にも真摯に臨もう。
 最初は弁護人との答弁だが、先生との質疑応答は事前に準備していたこともあり滞りなく切り抜けられたと思う。ここまでは予行演習通りだ。しかし、本番はここから先だ。未知の領域ではあるが難しく考えすぎず、ただ答えられる質問に精一杯答えよう。そのように決意し身構える。
 「検察から質問です。弁護人との質疑中に再犯を犯さないために、ストレスとの向き合い方として身近な方への相談やカウンセリングを受けるという話がありました。仮にそのようなことを行っても抑えられそうもない場合はどうしますか。」
 ――先程質疑の中で触れた内容なので繰り返しになるかもしれませんが、犯行を行う原因となったのはストレスを溜め込み過ぎたことだと考えております。それにはストレスをうまく発散できなかったことのみではなく、ストレスを感じやすいという私自身の性格にも要因があると思います。そのため、そのような性格を直すということも併せて行うことで再発防止に努めようと思います。
 「わかりました。では今回は住居に侵入しましたが、本件住居は一般的にセキュリティが高い場所だと考えられます。犯行時にはそのように高いセキュリティを突破することに関してどのように考えていましたか。」
 正直に言えば困った質問だ。そのような第一印象だった。何故かというと私の考えは全く逆であったからだ。前提条件が違うのだ。むしろ私はセキュリティが杜撰な住居であると認識していた。そのため答えを持ち合わせていない類の質問であった。そのため正直にわからないと伝えることにした。
 ――セキュリティに関してですが、セキュリティが高さ低さについて特に何かを感じるようなことはなかったです。そのような視点で物事を考えていなかったからだと思います。ですので申し訳ありませんがよくわかりません。
 嘘ではない。視点がそもそも異なるのであるからこのようにしか答えようがない。それに検察官の発言に感化されセキュリティが高いと言ってしまえば、今度はその高いと感じているハードルを乗り越える執着心の高さを指摘されるだろう。だからこの回答で構わない。
 「わかりました。検察からは以上です。」
 検察からの質疑は思ったよりも早く終わった。大抵のことは事前に練っていた想定問答の範囲に収まった故だろうか。それとも何回か顔を合わせていてある程度私の事情が分かっていたからだろうか。いずれにせよもうひと踏ん張りで審理は終了する。すると裁判官から声が上がった。
 「裁判官から被告人に質問です。犯行を行うまでにいくつかステップを踏んだようですけど踏み止まろうとは考えなかったのでしょうか。普通ならどこかで歯止めがかかると思いますが。」
 ――犯行当時はそのような考えを抱いたかもしれません。犯罪行為であるということは自覚しておりましたので。仰る通り普通の人なら自身が逮捕された時のことや家族への影響等リスクを考えて踏み止まると思います。私自身その不利益は考えていたと記憶しています。何故そのリスクを承知しておきながらこのような犯行に及んだのかうまく説明できませんが、今にして思えば自分自身の事さえどうでもいいと思い自暴自棄になってしまった結果だと思います。
 ちゃんと日本語になっていただろうか。逮捕されてから考える時間は多分にあった。だがあの時の自分が途中で引き返すという選択を取れるとは思えなかった。犯行当時の私は目的を達成しようと言わば諸突猛進の状態であった。確かに裁判官の言う通りいずれかのタイミングで冷静になれば犯罪を犯さないという可能性もあったのではないだろうか。私は引き返せなかった人間だがそのような状況で引き返す人間もいるだろう。その差はどこにあるのか。これもまたアクラシアにより説明できるのだろうか。なんにせよ何かがあった時、引き返すという判断に至ることができる考えを持つことも再犯防止のために必要なことだと肝に銘じておこうと思ったのである。
 「わかりました。それでは今の気持ちを聞かせていただけますか。」
 ――取り返しのつかないことをしてしまったと思います。償いのために私ができることは精一杯やろうと思います。また、母をこのような場所に立たせてしまったことに対し胸が張り裂けそうな思いです。
 「その思いを決して忘れないようにしてください。裁判官からは以上です。被告人は席に戻ってください。」
 被告人質問は想定問答以外には上記のような内容が質問された。私なりによく考えて回答したつもりだ。検察官や裁判官からは答えに窮するような問いもあったが、検察官でさえ不思議と被疑者である私と敵対している感じはしなかった。純粋に私のことを質問していたという印象であった。
 「以上で証拠調べ手続は終了です。続けて検察官、意見をどうぞ」
 「提出した証拠から被告人の犯行は明らかであります。動機は身勝手極まりないものであり、被害者の精神的苦痛は甚大、窃盗もしているため懲役2年が相当と思います。」
 「弁護人はいかがでしょうか。」
 「犯行そのものについては争いません。動機に関しても検察官の意見に同じです。被害者の精神的苦痛は甚大ですが、窃盗そのものは軽微である点と被告人は十分反省しており初犯であるという点を考慮し社会で更生するのが妥当かと考えます。」
 「最後に被告人から言いたいことがあれば言ってください。」
 ――私は今回のことで多くの人を傷つけてしまいました。私が大切に思っていた両親や自分自身さえも傷つけました。これからは二度とこのような事をしないよう真っ当に生きたいと思います。
 「それでは以上をもって閉廷とさせていただきます。判決の日ですが10日後の午後から行いますので忘れずにお越しください。」
 これで運命の1時間に終止符が打たれた。緊張して証言台で足が震えたが全力は尽くせたと思う。思えば人生で何かに本気で取り組んだことなどほとんどなかった。今回のように保身のために全力を注ぐというのは、あまり褒められることではないだろうが、今後は惰性で生きるということを改めたいと思うきっかけになった。いずれにせよ刑事裁判において私のやるべきことは終わった。神様、後は全てあなたに委ねます。


 「判決、被告人を懲役2年の刑に処する」
 後日、求刑通り懲役2年の判決が言い渡された。
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