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幕間1
追う者
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夜の帳が下りた大都市。その頂点の一つ、超高層ビルの屋上ヘリポートに、場違いな人影が一つ佇んでいた。
男の名はゼノス。その身に纏うのは、黒曜石のように鈍く輝く、骨と金属が融合したかのような異形の鎧。人間社会の喧騒などまるで意に介さず、彼はただ静かに眼下に広がる光の海を見下ろしていた。
『……痕跡なし、か』
ゼノスは誰に言うでもなく呟く。数日前、この世界に逃げ込んだ敗残者、ダリア。彼女が時空を渡る際に放った強大な力の残滓は、ここで完全に途絶えていた。
『力尽きたか……?』
ゼノスは一瞬、その可能性を思考する。瀕死の身で、慣れぬ世界へ次元を超える負荷。エネルギーが尽き果て、消滅したとしても不思議ではない。
だが、彼は即座にその仮説を打ち消した。
『いや、違う。あのダリアが、この程度のことで跡形もなく消滅するなどあり得ない。もし朽ちていれば、その魂が霧散する際の、膨大なエネルギーの痕跡が残るはずだ』
では、どうやって。
いかに瀕死とはいえ、あれほどの存在の気配が、何の痕跡もなく消えるなど……。
ゼノスの思考に、ひとつの答えが浮かび上がる。
『……なるほど。まさか、あの禁忌の術を使ったというのか。この世界の土着の生命体にその身を隠し、その脆弱な生命力に紛れるとは。あの気位の高さも地に落ちたものだな』
確証はない。だが、それ以外に、あれほどの存在が気配を完全に消し去る方法を彼は知らなかった。
『あの気高いダリアが、下等生物の感覚や感情に思考を乱される瞬間が必ず来る。どれほど強大な力でその身を隠そうと、精神に綻びが生じた一瞬、必ず気配は漏れる』
ゼノスは、まるで獲物を前にした爬虫類のように、ゆっくりと首を巡らせた。
彼は、ダリアが弱っているとは考えていない。むしろ、いつ牙を剥くか分からない猛獣が、狭い檻に隠れているようなものだと捉えていた。その檻が、脆く、感情的な「人間」であるということが、唯一にして最大の好機だった。
『その一瞬の揺らぎ、この俺が見逃すはずもない』
ゼノスは再び、無限に広がる街の光に視線を戻した。無数の生命が蠢くこの広大な狩場で、彼はただ待つ。辛抱強く、冷徹に。
猛獣が、自らの檻である「器」の感情に引きずられ、その居場所を自ら知らせてしまう瞬間を。
『狩りの好機は、必ず訪れる』
男の名はゼノス。その身に纏うのは、黒曜石のように鈍く輝く、骨と金属が融合したかのような異形の鎧。人間社会の喧騒などまるで意に介さず、彼はただ静かに眼下に広がる光の海を見下ろしていた。
『……痕跡なし、か』
ゼノスは誰に言うでもなく呟く。数日前、この世界に逃げ込んだ敗残者、ダリア。彼女が時空を渡る際に放った強大な力の残滓は、ここで完全に途絶えていた。
『力尽きたか……?』
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だが、彼は即座にその仮説を打ち消した。
『いや、違う。あのダリアが、この程度のことで跡形もなく消滅するなどあり得ない。もし朽ちていれば、その魂が霧散する際の、膨大なエネルギーの痕跡が残るはずだ』
では、どうやって。
いかに瀕死とはいえ、あれほどの存在の気配が、何の痕跡もなく消えるなど……。
ゼノスの思考に、ひとつの答えが浮かび上がる。
『……なるほど。まさか、あの禁忌の術を使ったというのか。この世界の土着の生命体にその身を隠し、その脆弱な生命力に紛れるとは。あの気位の高さも地に落ちたものだな』
確証はない。だが、それ以外に、あれほどの存在が気配を完全に消し去る方法を彼は知らなかった。
『あの気高いダリアが、下等生物の感覚や感情に思考を乱される瞬間が必ず来る。どれほど強大な力でその身を隠そうと、精神に綻びが生じた一瞬、必ず気配は漏れる』
ゼノスは、まるで獲物を前にした爬虫類のように、ゆっくりと首を巡らせた。
彼は、ダリアが弱っているとは考えていない。むしろ、いつ牙を剥くか分からない猛獣が、狭い檻に隠れているようなものだと捉えていた。その檻が、脆く、感情的な「人間」であるということが、唯一にして最大の好機だった。
『その一瞬の揺らぎ、この俺が見逃すはずもない』
ゼノスは再び、無限に広がる街の光に視線を戻した。無数の生命が蠢くこの広大な狩場で、彼はただ待つ。辛抱強く、冷徹に。
猛獣が、自らの檻である「器」の感情に引きずられ、その居場所を自ら知らせてしまう瞬間を。
『狩りの好機は、必ず訪れる』
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