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本編
第二十五話 必殺の激硬クッキー
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極寒の風が吹き荒れる練兵場に、数多の視線が集まっていた。
中央で対峙するのは、黒竜城の守護者であるザイード将軍。そして、白いエプロンドレスの上に防寒用のケープを羽織っただけの、小柄な王妃リリアナ。
体格差は歴然だった。身長二メートル、岩盤のような筋肉を鎧で固めたザイードに対し、リリアナは華奢で、風が吹けば飛んでいきそうだ。
見守る兵士たちの顔には、「いくらなんでも無茶だ」「怪我をされる前に止めるべきでは」という不安がありありと浮かんでいる。
唯一、観覧席の最前列で腕を組むイグニスだけが、楽しげな笑みを浮かべていた。
彼の手には、ポップコーン代わりの『アダマント・クッキー』が握られている。
「武器あり、魔術あり。時間は無制限。相手に『参った』と言わせれば勝ちだ。ただし、これは殺し合いではないことを忘れないように。双方、準備はいいか?」
「もちろん」
「いつでも」
「――始め!!」
バルガス将軍の合図が響き渡った。
「手加減はせんぞ! 怪我をしたくなければ即座に降伏しろ!」
ザイードが咆哮と共に大地を踏み砕いた。
ズドォン!!
彼が突進を開始する。その速度は巨体に似合わず俊敏で、高速で迫りくる馬車のようだった。彼は右手に魔力を集中させ、岩石でできた巨大な篭手を形成する。
直撃すれば、城壁すら粉砕する一撃だ。
リリアナは冷静に右手を掲げた。展開したのは、『聖盾』。
ガギンッ!!!
ザイードの拳が光の壁に衝突し、凄まじい衝撃波が周囲に拡散する。
リリアナは一歩も退かない。聖女としての防御力は、ドラゴニアの将軍相手でも十分に通用する。
「ほう、防ぐか! だが、守っているだけでは勝てんぞ!」
ザイードは追撃の手を緩めない。連続する拳の雨あられ。防戦一方に見えるリリアナの姿に、兵士たちが息を呑む。
だが、リリアナの狙いは防御ではない。
「ええ、おっしゃる通りですわ。ですから――反撃させていただきます」
リリアナはバスケットから、それを取り出した。
可愛らしい星の形をした、一口サイズのクッキー。しかし、その生地には、今のリリアナが持ちうる筋力と魔力で極限まで圧縮された質量と硬度が封じ込められている。
「おらぁっ!!」
乙女も恥じらうドスの効いた一声。身体強化の魔術で腕力を底上げし、ザイードの眉間めがけてクッキーを投擲した。
ヒュンッ!!!
空気を切り裂く鋭い音が鳴る。
「ぶははッ! そのような豆粒で――」
ザイードは鼻で笑い、避けようともせずに額で受け止めようとした。竜人の鱗は鋼鉄よりも硬い。小石程度なら弾き返して終わりだ。そう思ったのだろう。
カァァァンッ!!!!
練兵場に、巨大な鐘を叩いたような、あるいは金属同士が高速で衝突したような、甲高い音が響き渡った。
「ぐ、おぉっ……!?」
ザイードの巨体が、仰け反った。
彼はよろめきながら数歩後退し、信じられないという顔で自分の額を触った。そこには、自慢の鱗がひび割れ、赤い血が滲んでいた。
そして、足元に転がっているのは――傷一つ付いていない、星型のクッキー。
「な、なんだこれは……!?」
「クッキーです」
リリアナは微笑み、次なるクッキーを手に取った。今度はハート型と花型の二枚持ちだ。
「何を馬鹿な! 焼き菓子如きで俺の鱗が……!」
「次、いきますよ!」
シュババッ!!
リリアナが放ったクッキーは、もはやお菓子ではない。立派な兵器だ。
ザイードは慌てて岩の篭手でガードするが、
バキンッ! ボガンッ!
クッキーが着弾するたびに、岩の篭手が砕け散り、破片が飛び散る。しかも、着弾した瞬間、クッキーに込められた魔術が炸裂し、衝撃を内部へと浸透させる。
「ぬおおおおおっ!?」
ザイードは防戦一方に追い込まれた。距離を取ろうとするが、リリアナの連射速度は落ちない。バスケットの中には、まだ大量のおやつがある。
「逃しませんわ!」
リリアナが投げたクッキーが空中で軌道を変え、逃げるザイードの背中、膝の裏、脇腹へと正確に突き刺さる。
ドカッ! バキッ! グシャッ!
「くッ! この、程度、ッぐはァ!!」
ついに、ザイードが膝をついた。
全身を打撲し、自慢の鎧もボロボロ。地面には、無傷で転がる大量のクッキーが散乱している。
静寂が、練兵場を包み込んだ。誰もが言葉を失っていた。竜騎士団最強の一角が、お菓子によって沈められたのだ。
リリアナはザイードの前に歩み寄り、最後の一枚――焼きたてのクッキーを差し出した。
「……食べてみてください。毒など入っていませんから」
ザイードは荒い息を吐きながらリリアナを見上げ、そして震える手でクッキーを受け取った。
彼はそれを恐る恐る口に運び、ガリッ、と噛んだ。
「ぐっ……!!」
あまりの硬さに、彼の顔が歪む。だが、噛み砕いた中から溢れる濃厚な魔力と甘みが、疲弊した彼の身体を駆け巡った。
「……硬い。だが、とてつもない力が宿っている……」
ザイードは呆然と呟き、そしてハッとして観覧席を見た。そこには、同じクッキーを平然と、バリバリと軽快な音を立てて咀嚼しているイグニスの姿があった。
(陛下は、毎日これを……いや、これ以上のものを食らっているというのか……?)
ザイードの脳裏に、戦慄と理解が同時に走った。
竜王の圧倒的な回復。その源はこの凶器だ。そして、この凶器を涼しい顔で量産し、王に食わせ、あまつさえ武器として使いこなすこの女。見た目こそ人の娘だが、恐らく別の何か。あるいは、竜人の突然変異でもなければ説明がつかない。そうか、だから陛下は、この女を王妃に迎えたのか。
ザイードは盛大な勘違いをしながら、己の無知を恥じた。
「……参った」
ザイードはその場に平伏し、頭を垂れた。
わぁぁぁぁぁっ!!
練兵場に割れんばかりの歓声が上がった。こうして、リリアナは物理で、ドラゴニアの猛者たちをねじ伏せたのだった。
中央で対峙するのは、黒竜城の守護者であるザイード将軍。そして、白いエプロンドレスの上に防寒用のケープを羽織っただけの、小柄な王妃リリアナ。
体格差は歴然だった。身長二メートル、岩盤のような筋肉を鎧で固めたザイードに対し、リリアナは華奢で、風が吹けば飛んでいきそうだ。
見守る兵士たちの顔には、「いくらなんでも無茶だ」「怪我をされる前に止めるべきでは」という不安がありありと浮かんでいる。
唯一、観覧席の最前列で腕を組むイグニスだけが、楽しげな笑みを浮かべていた。
彼の手には、ポップコーン代わりの『アダマント・クッキー』が握られている。
「武器あり、魔術あり。時間は無制限。相手に『参った』と言わせれば勝ちだ。ただし、これは殺し合いではないことを忘れないように。双方、準備はいいか?」
「もちろん」
「いつでも」
「――始め!!」
バルガス将軍の合図が響き渡った。
「手加減はせんぞ! 怪我をしたくなければ即座に降伏しろ!」
ザイードが咆哮と共に大地を踏み砕いた。
ズドォン!!
彼が突進を開始する。その速度は巨体に似合わず俊敏で、高速で迫りくる馬車のようだった。彼は右手に魔力を集中させ、岩石でできた巨大な篭手を形成する。
直撃すれば、城壁すら粉砕する一撃だ。
リリアナは冷静に右手を掲げた。展開したのは、『聖盾』。
ガギンッ!!!
ザイードの拳が光の壁に衝突し、凄まじい衝撃波が周囲に拡散する。
リリアナは一歩も退かない。聖女としての防御力は、ドラゴニアの将軍相手でも十分に通用する。
「ほう、防ぐか! だが、守っているだけでは勝てんぞ!」
ザイードは追撃の手を緩めない。連続する拳の雨あられ。防戦一方に見えるリリアナの姿に、兵士たちが息を呑む。
だが、リリアナの狙いは防御ではない。
「ええ、おっしゃる通りですわ。ですから――反撃させていただきます」
リリアナはバスケットから、それを取り出した。
可愛らしい星の形をした、一口サイズのクッキー。しかし、その生地には、今のリリアナが持ちうる筋力と魔力で極限まで圧縮された質量と硬度が封じ込められている。
「おらぁっ!!」
乙女も恥じらうドスの効いた一声。身体強化の魔術で腕力を底上げし、ザイードの眉間めがけてクッキーを投擲した。
ヒュンッ!!!
空気を切り裂く鋭い音が鳴る。
「ぶははッ! そのような豆粒で――」
ザイードは鼻で笑い、避けようともせずに額で受け止めようとした。竜人の鱗は鋼鉄よりも硬い。小石程度なら弾き返して終わりだ。そう思ったのだろう。
カァァァンッ!!!!
練兵場に、巨大な鐘を叩いたような、あるいは金属同士が高速で衝突したような、甲高い音が響き渡った。
「ぐ、おぉっ……!?」
ザイードの巨体が、仰け反った。
彼はよろめきながら数歩後退し、信じられないという顔で自分の額を触った。そこには、自慢の鱗がひび割れ、赤い血が滲んでいた。
そして、足元に転がっているのは――傷一つ付いていない、星型のクッキー。
「な、なんだこれは……!?」
「クッキーです」
リリアナは微笑み、次なるクッキーを手に取った。今度はハート型と花型の二枚持ちだ。
「何を馬鹿な! 焼き菓子如きで俺の鱗が……!」
「次、いきますよ!」
シュババッ!!
リリアナが放ったクッキーは、もはやお菓子ではない。立派な兵器だ。
ザイードは慌てて岩の篭手でガードするが、
バキンッ! ボガンッ!
クッキーが着弾するたびに、岩の篭手が砕け散り、破片が飛び散る。しかも、着弾した瞬間、クッキーに込められた魔術が炸裂し、衝撃を内部へと浸透させる。
「ぬおおおおおっ!?」
ザイードは防戦一方に追い込まれた。距離を取ろうとするが、リリアナの連射速度は落ちない。バスケットの中には、まだ大量のおやつがある。
「逃しませんわ!」
リリアナが投げたクッキーが空中で軌道を変え、逃げるザイードの背中、膝の裏、脇腹へと正確に突き刺さる。
ドカッ! バキッ! グシャッ!
「くッ! この、程度、ッぐはァ!!」
ついに、ザイードが膝をついた。
全身を打撲し、自慢の鎧もボロボロ。地面には、無傷で転がる大量のクッキーが散乱している。
静寂が、練兵場を包み込んだ。誰もが言葉を失っていた。竜騎士団最強の一角が、お菓子によって沈められたのだ。
リリアナはザイードの前に歩み寄り、最後の一枚――焼きたてのクッキーを差し出した。
「……食べてみてください。毒など入っていませんから」
ザイードは荒い息を吐きながらリリアナを見上げ、そして震える手でクッキーを受け取った。
彼はそれを恐る恐る口に運び、ガリッ、と噛んだ。
「ぐっ……!!」
あまりの硬さに、彼の顔が歪む。だが、噛み砕いた中から溢れる濃厚な魔力と甘みが、疲弊した彼の身体を駆け巡った。
「……硬い。だが、とてつもない力が宿っている……」
ザイードは呆然と呟き、そしてハッとして観覧席を見た。そこには、同じクッキーを平然と、バリバリと軽快な音を立てて咀嚼しているイグニスの姿があった。
(陛下は、毎日これを……いや、これ以上のものを食らっているというのか……?)
ザイードの脳裏に、戦慄と理解が同時に走った。
竜王の圧倒的な回復。その源はこの凶器だ。そして、この凶器を涼しい顔で量産し、王に食わせ、あまつさえ武器として使いこなすこの女。見た目こそ人の娘だが、恐らく別の何か。あるいは、竜人の突然変異でもなければ説明がつかない。そうか、だから陛下は、この女を王妃に迎えたのか。
ザイードは盛大な勘違いをしながら、己の無知を恥じた。
「……参った」
ザイードはその場に平伏し、頭を垂れた。
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