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番外編 ザイードの婚活キッチン
第二話 恋の味は、鉄の味
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「――いいですか、ザイード将軍。まず『頭蓋』は論外です。そして『漬物石サイズの鉱石』も、貰って嬉しいのは鍛冶職人くらいです」
城の小さな一室で、リリアナはホワイトボード代わりの石板を叩きながら、まるでダメな生徒を諭す教師のように言った。
その前で、巨体の将軍ザイードは巨大な体を小さく縮こまらせ、シュンとうなだれている。
「そ、そうであったか……。俺はてっきり、強い男の証として……」
「リコは人間です。それに女の子です。彼女が求めているのは、『強さ』ではなく『優しさ』や『気遣い』なんです」
リリアナはため息をつき、しかしすぐにニッコリと微笑んだ。
「そこで、作戦変更です。将軍、貴方が彼女のために『お弁当』を作るのです」
「弁当……? あの、戦場へ持っていく兵糧のことか?」
「ええ。ただし、ただの兵糧ではありません。『愛妻弁当』ならぬ『愛夫弁当』です! 不器用でも、貴方が一生懸命作った料理なら、きっと彼女の心に届くはずです」
料理。
ザイードは自分のゴツゴツした手を見つめた。この手は敵を粉砕し、岩を砕くためにある。包丁など握ったこともない。
「……できるだろうか。俺のような無骨者に」
「大丈夫です! わたくしがスパルタで指導しますから!」
その日の深夜。厨房の灯りが消えた後、秘密の特訓が始まった。
「まずは基本の『卵焼き』です。卵を割ってください」
「うむ! とりゃあっ!」
バチュッ!!!
ザイードが気合を入れて卵を握りしめた瞬間、殻ごと中身が粉砕され、黄色い液体が手の中で爆発した。
「……将軍」
「す、すまん! つい、敵の頭を握りつぶす感覚で……」
「素晴らしいです! 卵の殻は貴重な栄養源! じゃんじゃん入れていきましょう!」
リリアナは長きにわたるドラゴニア生活によって、完全に壊れていた。日頃、イグニスのために堅い料理を作り続けたせいで、また、レオンの妊娠中に堅いものばかりを食べていたせいで、人並みの感性が麻痺していたのである。
次は野菜のカットだ。
「この人参を、食べやすい大きさに切ってください」
「承知!」
ドゴォォォォンッ!!!
ザイードが包丁を振り下ろした瞬間、まな板はおろか、その下の頑丈な調理台まで真っ二つに両断された。
(ヤバい……)
ザイードは恐る恐るといった様子で、リリアナに共感を求める視線を向けた。
「切れ味の良い包丁だな……?」
「え、なんで調理台まで切るんですか。力の加減をしてくださいよ。普通に考えたら分かりますよね?」
(普通とは一体……)
そんなことを考えながら、悪戦苦闘すること数時間。リリアナの根気強い指導と、何度かの調理器具破壊の末、ザイードは少しずつ手加減を学んでいった。
そして、空が白み始めた頃。ついに、ザイード将軍特製・渾身の『愛の激硬弁当』が完成した。
「で、できた……」
ザイードは額の汗を拭い、目の前の重箱を見つめた。その中身は――まさに男の料理だった。
『超圧縮・おにぎり』→お米を一粒一粒、指先のプレスで極限まで圧縮したおにぎり。大理石のような光沢を放っており、その硬度はミスリルに勝るとも劣らない。表面には、不器用に海苔で「スキ」の二文字が。
『バーニング・唐揚げ』→高火力すぎる炎で一気に揚げたため、表面が炭化……ではなく、鋼鉄のようにクリスピーになった鶏肉。
『アイアン・ハート卵焼き』→どうしても四角く巻けなかったため、力技でハート型に圧縮された卵焼き。甘い味付けだが、フォークが刺さらない密度を誇る。
「……どうだ、リリアナ様」
「う、うん……見た目はちょっとあれですけど……」
リリアナは思った。
(あれ、リコが食べるのに硬い料理って、駄目なのでは?)
だが、今さら引き返すことなど出来るわけもなかった。リリアナは引きつった笑みを浮かべつつ、親指を立てた。
「でも、愛は詰まっています! 何より、貴方が徹夜で、傷だらけになりながら作ったという事実が一番のスパイスです!」
ザイードの指先は、慣れない包丁――ミスリル包丁によって切ってしまった際の傷がたくさん出来ていた。
最強の将軍が、たった一人の女性のために負った、小さな名誉の負傷だ。
「よし……! 行ってくる!」
ザイードは重箱――総重量五キロを大切に抱え、朝の準備を始めているリコの元へと向かった。
その背中は、どんな激戦地に向かう時よりも緊張に震えていた。
城の小さな一室で、リリアナはホワイトボード代わりの石板を叩きながら、まるでダメな生徒を諭す教師のように言った。
その前で、巨体の将軍ザイードは巨大な体を小さく縮こまらせ、シュンとうなだれている。
「そ、そうであったか……。俺はてっきり、強い男の証として……」
「リコは人間です。それに女の子です。彼女が求めているのは、『強さ』ではなく『優しさ』や『気遣い』なんです」
リリアナはため息をつき、しかしすぐにニッコリと微笑んだ。
「そこで、作戦変更です。将軍、貴方が彼女のために『お弁当』を作るのです」
「弁当……? あの、戦場へ持っていく兵糧のことか?」
「ええ。ただし、ただの兵糧ではありません。『愛妻弁当』ならぬ『愛夫弁当』です! 不器用でも、貴方が一生懸命作った料理なら、きっと彼女の心に届くはずです」
料理。
ザイードは自分のゴツゴツした手を見つめた。この手は敵を粉砕し、岩を砕くためにある。包丁など握ったこともない。
「……できるだろうか。俺のような無骨者に」
「大丈夫です! わたくしがスパルタで指導しますから!」
その日の深夜。厨房の灯りが消えた後、秘密の特訓が始まった。
「まずは基本の『卵焼き』です。卵を割ってください」
「うむ! とりゃあっ!」
バチュッ!!!
ザイードが気合を入れて卵を握りしめた瞬間、殻ごと中身が粉砕され、黄色い液体が手の中で爆発した。
「……将軍」
「す、すまん! つい、敵の頭を握りつぶす感覚で……」
「素晴らしいです! 卵の殻は貴重な栄養源! じゃんじゃん入れていきましょう!」
リリアナは長きにわたるドラゴニア生活によって、完全に壊れていた。日頃、イグニスのために堅い料理を作り続けたせいで、また、レオンの妊娠中に堅いものばかりを食べていたせいで、人並みの感性が麻痺していたのである。
次は野菜のカットだ。
「この人参を、食べやすい大きさに切ってください」
「承知!」
ドゴォォォォンッ!!!
ザイードが包丁を振り下ろした瞬間、まな板はおろか、その下の頑丈な調理台まで真っ二つに両断された。
(ヤバい……)
ザイードは恐る恐るといった様子で、リリアナに共感を求める視線を向けた。
「切れ味の良い包丁だな……?」
「え、なんで調理台まで切るんですか。力の加減をしてくださいよ。普通に考えたら分かりますよね?」
(普通とは一体……)
そんなことを考えながら、悪戦苦闘すること数時間。リリアナの根気強い指導と、何度かの調理器具破壊の末、ザイードは少しずつ手加減を学んでいった。
そして、空が白み始めた頃。ついに、ザイード将軍特製・渾身の『愛の激硬弁当』が完成した。
「で、できた……」
ザイードは額の汗を拭い、目の前の重箱を見つめた。その中身は――まさに男の料理だった。
『超圧縮・おにぎり』→お米を一粒一粒、指先のプレスで極限まで圧縮したおにぎり。大理石のような光沢を放っており、その硬度はミスリルに勝るとも劣らない。表面には、不器用に海苔で「スキ」の二文字が。
『バーニング・唐揚げ』→高火力すぎる炎で一気に揚げたため、表面が炭化……ではなく、鋼鉄のようにクリスピーになった鶏肉。
『アイアン・ハート卵焼き』→どうしても四角く巻けなかったため、力技でハート型に圧縮された卵焼き。甘い味付けだが、フォークが刺さらない密度を誇る。
「……どうだ、リリアナ様」
「う、うん……見た目はちょっとあれですけど……」
リリアナは思った。
(あれ、リコが食べるのに硬い料理って、駄目なのでは?)
だが、今さら引き返すことなど出来るわけもなかった。リリアナは引きつった笑みを浮かべつつ、親指を立てた。
「でも、愛は詰まっています! 何より、貴方が徹夜で、傷だらけになりながら作ったという事実が一番のスパイスです!」
ザイードの指先は、慣れない包丁――ミスリル包丁によって切ってしまった際の傷がたくさん出来ていた。
最強の将軍が、たった一人の女性のために負った、小さな名誉の負傷だ。
「よし……! 行ってくる!」
ザイードは重箱――総重量五キロを大切に抱え、朝の準備を始めているリコの元へと向かった。
その背中は、どんな激戦地に向かう時よりも緊張に震えていた。
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