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本編
第四十八話 ただいまのキスと、最高に甘いフレンチトースト
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クローデル侯爵領での滞在はわずか数時間。「もう行ってしまうのか!?」という侯爵閣下をさりげなく流し、エレナはベアトリスから「とっておきの早馬」を持たされ、二日後の夜には王都へ帰還した。
北の塔の前に立った時には、すでにあたりは真っ暗になっていた。
「……帰ってきました」
たった数日の不在。けれど、永遠のように長く感じた時間。エレナは深呼吸をし、重厚な扉を開けた。
「ただいま戻りました」
リビングに入ると、そこにはソファで膝を抱え、どんよりとしたオーラを放つシルヴィスの姿があった。
テーブルの上には、事前に作り置きしていた日持ちする料理が手つかずのまま残っている。シフォンも心配そうに彼を見上げている。
「……シルヴィス様」
「……エレナ?」
声に反応し、シルヴィスが顔を上げた。エレナの姿を認めた瞬間、彼が目を見開き、弾かれたように立ち上がった。
「お前、なぜここに……いや、まさか幻覚か?」
「幻覚ではありません。……答えを出しに、戻ってまいりました」
エレナは彼に歩み寄る。シルヴィスは身構えた。断られるかもしれないという恐怖が、その表情に張り付いている。
エレナは彼の目の前で立ち止まり、左手を差し出した。
「シルヴィス様。……私の覚悟は決まりました」
「……」
「私は欲張りです。侍女としてお仕えするだけでは満足できません。貴方様の妻として、生涯、美味しいご飯を作り続け、貴方様の健康と幸せを管理させていただきたいのです」
エレナは、かつてないほど甘く、愛おしげに微笑んだ。
「私を、シルヴィス様のお嫁さんにしていただけますか?」
その言葉を聞いた瞬間、シルヴィスの糸が切れた。彼は無言でエレナを引き寄せ、力強く抱きしめた。
「……当たり前だ。お前以外、考えられない」
震える声が、耳元で響く。
シルヴィスはエレナの顔を覗き込み、そして、誓いのキスを落とした。それは、この世界のどんなキスよりも深く、甘く、そしてこれからの未来を約束するものだった。
「キュ~ッ!!」
足元でシフォンが歓喜の声を上げ、二人の周りを跳ね回る。長い口づけの後、シルヴィスは少し照れくさそうに、けれど幸せそうに笑った。
「……腹が減った」
「ふふ、そう仰ると思いました」
エレナはエプロンをつけた。
厚切りにしたブリオッシュを、卵と牛乳、控えめな砂糖、そしてバニラエッセンスを混ぜた液にたっぷりと浸す。中まで染み込んだら、バターを溶かしたフライパンでじっくりと焼く。
香ばしい匂いが部屋を満たす。表面はカリッと、中はプリンのようにトロトロに。皿に盛り付ける。
「お待たせいたしました。『とびきりのフレンチトースト』です」
シルヴィスの前に置かれたそれは、黄金色に輝いていた。一口食べたシルヴィスが、愛おしそうに目を細め、そしてとろけるような笑顔を見せる。
「……美味い。最高に」
「はい。愛をたっぷり込めましたから」
二人は見つめ合い、笑い合った。北の塔の窓から、一番星が見える。王宮の万能侍女改め、万能妻と、偏屈な天才魔術師。二人の甘く騒がしい、そして美味しい生活は、これからもずっと続いていく。
北の塔の前に立った時には、すでにあたりは真っ暗になっていた。
「……帰ってきました」
たった数日の不在。けれど、永遠のように長く感じた時間。エレナは深呼吸をし、重厚な扉を開けた。
「ただいま戻りました」
リビングに入ると、そこにはソファで膝を抱え、どんよりとしたオーラを放つシルヴィスの姿があった。
テーブルの上には、事前に作り置きしていた日持ちする料理が手つかずのまま残っている。シフォンも心配そうに彼を見上げている。
「……シルヴィス様」
「……エレナ?」
声に反応し、シルヴィスが顔を上げた。エレナの姿を認めた瞬間、彼が目を見開き、弾かれたように立ち上がった。
「お前、なぜここに……いや、まさか幻覚か?」
「幻覚ではありません。……答えを出しに、戻ってまいりました」
エレナは彼に歩み寄る。シルヴィスは身構えた。断られるかもしれないという恐怖が、その表情に張り付いている。
エレナは彼の目の前で立ち止まり、左手を差し出した。
「シルヴィス様。……私の覚悟は決まりました」
「……」
「私は欲張りです。侍女としてお仕えするだけでは満足できません。貴方様の妻として、生涯、美味しいご飯を作り続け、貴方様の健康と幸せを管理させていただきたいのです」
エレナは、かつてないほど甘く、愛おしげに微笑んだ。
「私を、シルヴィス様のお嫁さんにしていただけますか?」
その言葉を聞いた瞬間、シルヴィスの糸が切れた。彼は無言でエレナを引き寄せ、力強く抱きしめた。
「……当たり前だ。お前以外、考えられない」
震える声が、耳元で響く。
シルヴィスはエレナの顔を覗き込み、そして、誓いのキスを落とした。それは、この世界のどんなキスよりも深く、甘く、そしてこれからの未来を約束するものだった。
「キュ~ッ!!」
足元でシフォンが歓喜の声を上げ、二人の周りを跳ね回る。長い口づけの後、シルヴィスは少し照れくさそうに、けれど幸せそうに笑った。
「……腹が減った」
「ふふ、そう仰ると思いました」
エレナはエプロンをつけた。
厚切りにしたブリオッシュを、卵と牛乳、控えめな砂糖、そしてバニラエッセンスを混ぜた液にたっぷりと浸す。中まで染み込んだら、バターを溶かしたフライパンでじっくりと焼く。
香ばしい匂いが部屋を満たす。表面はカリッと、中はプリンのようにトロトロに。皿に盛り付ける。
「お待たせいたしました。『とびきりのフレンチトースト』です」
シルヴィスの前に置かれたそれは、黄金色に輝いていた。一口食べたシルヴィスが、愛おしそうに目を細め、そしてとろけるような笑顔を見せる。
「……美味い。最高に」
「はい。愛をたっぷり込めましたから」
二人は見つめ合い、笑い合った。北の塔の窓から、一番星が見える。王宮の万能侍女改め、万能妻と、偏屈な天才魔術師。二人の甘く騒がしい、そして美味しい生活は、これからもずっと続いていく。
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