【R18】セーフワード 狂気、増殖。

てっぺーさま

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第一部

避暑地へ ⑦

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 アサミはオフィスの前でクライアントを見送った。クライアントの背中をしばらく見つめてから踵を返して中に戻る。
 その瞬間、自分の顔からすっと笑みが消えたことを感じ取る。今は極端に冷淡な顔が、浮かび上がっているに違いなかった。
 アサミはデザイナーズチェアに腰を下ろすと、デスク上の写真を手に取る。先ほどのクライアントが用意したものだ。写真の男たちが待ち受ける悲劇を思うと、自然と口元がほころんでしまう。

 ここでの仕事は、サディスティックな性質を十二分に備えている必要があった。アサミの嗜虐しぎゃく性は母親ゆずりのものだ。幼少のころから、いじめられるくらいなら、いじめる側に回りなさいと諭され続け、その言いつけを忠実に守ってきた。常にいじめグループの中心的存在となっては、生来的な弱者を見つけて徹底的にいじめ抜く。標的はクラスメートだけでなく、気の弱い教師も対象となった。弱っているクラスメートや教師らをさらに痛めつけていく行為は、常に性的な興奮を伴った。常に加害者側にいるというライフスタイルは、学生時代も今も変わっていない。学生時代との唯一の違いは、今は人を痛めつけて報酬をもらえるということだ。

 この施設に送り込まれてくる者の中には、まっとうな生活を送っていた者も少なくなかった。運悪く金持ちの怒りを買ってしまったばかりに、地獄の苦しみを味わいながら死んでいくのだ。また、子どもや孫をいじめたという理由で、小学生や中学生といった若年者が送り込まれてくることもあった。相手が子どもとあっては、さすがのアサミも同情を禁じ得なくもなかったが、子どもへの拷問は、成人を相手にするとき以上の興奮をもたらすのも事実だった。
 アサミ自身も、今の立場を利用して個人的な恨みを果たしていた。大学時代に陰でアサミのことを罵っていた女は、およそ三年前からこの施設に収監され、生き地獄を味わっている。
 最近では、著名人からの依頼も増えつつあった。おもに彼らのSNSに誹謗中傷めいた書き込みをした者たちが送り込まれてきた。顔と上半身の皮膚を剥ぎ取られた男もそのうちの一人だ。ベストセラー作家の依頼によるものだったが、「冒頭の数行で駄作とわかる。読む価値なし。時間の無駄」と書き込み、作家の逆鱗に触れたのだ。ちなみに、その作品は受賞こそ逃したが、直木賞にノミネートされている。
 皮膚を剥がされた男が少しでも相手を思いやれる人間であったならば、地獄を経験することもなかったはずだ。たった数行の書き込みで、人生を大きく狂わせた。しかし、おそらくあの男はそれまでさんざん悪意をまき散らしてきたのだろう。小心者が匿名性をいいことに好き勝手やってきた結果があれだ。因果応報の法則が正確に作用したともいえる。

 悪名高きナチスの高官——アイヒマンは、いかに強制収容所へ効率よくユダヤ人を移送するかに尽力したといわれているが、アサミはいかに大きな苦痛を与えるかに尽力してきた。顔と上半身の皮膚を剥ぎ取りその姿を鏡で見せつける方法などは好例だ。死ぬに死ねない状態がまだあと何年と続くのだ、当人が味わう苦痛は計り知れない。『マーターズ』という映画の一場面からアイデアを得たのだが、あれには問題もあった。皮膚を剥ぎ取ったことによる感染症防止のため、二十四時間無菌状態を保つ必要が生じたからだ。それは他の方法に比べてコストと手間がかかるため理想的とはいえない。しかし、アサミが何気なく口にした提案をクライアントがえらく気に入ったため、感染症による早期死亡のリスクも了承の上で実行に移された。
 長期に渡る拷問は、さまざまなことに配慮する必要があった。とくに苦痛の強度には細心の注意が求められた。早く死なれてはクライアントの不興を買うため、苦しめつつも生かし続けなければならない。衰弱した者にあまり無茶はできない。免疫力が低下しているため、死亡のリスクが総じて高まるからだ。とはいえ、アサミはそれを考慮に入れながらも常にギリギリのところを攻めていった。それがこの仕事の醍醐味だと感じていた。
 拷問を受ける者たちの苦痛にあえぐ姿は、いつ見てもアサミに強度の性的興奮をもたらした。そんなとき下腹部は、あふれんばかりの分泌液でうるおい、立つのもやっとの状態になる。そこで耳に息でも吹きかけられようものなら、声を上げて膝から崩れ落ちてしまうことだろう。だからこそ、アサミは自分の欲望をさらに充たしていくためにも、究極の苦痛を貪欲に目指していくつもりだった。
 アサミは、デスク上に並べられた写真を見つめながら目を細めた。
「さてさて、この四人にはどんな苦しみを与えてあげましょうかね」



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