【R18】セーフワード 狂気、増殖。

てっぺーさま

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第二部

発端 ①

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 男女の笑い声が耳に届き、藤原は教室の窓際に目をやった。こちらの視線に気づいたのか、勝野かつの小百合さゆりが顔を向けてきた。コンマ数秒目が合ったあと、向こうから先に視線を外した。
 昼休みの教室は、同級生たちの話し声でいくらか騒々しかった。藤原は廊下側の席に一人座り、喧騒の時間をやり過ごす。退屈で仕方がない。誰と話すでもなく、時が過ぎるのをただ待つだけの時間は——。
 入学してすぐに、学校での勉強についていけなくなった藤原は、異端児のレッテルを貼られてしまう。。実に不名誉な烙印だ。しかし、能力に問題があったわけではない。ただ単に、出だしでつまずいてしまっただけだ。
 藤原は元来の頭のよさから、さほど受験勉強に時間をかけることなく、都内でも有数の進学校に入学することができた。ところが、学力レベルの近い者が集められる高等学校では、中学時代と同じようにはいかなかった。最初の学力テストで平均を大きく下回り、藤原は愕然とさせられた。これまで成績上位が自分の指定席であったため、簡単には受け入れ難い現実だった。
 とはいえ、当初は負けず嫌いな性格もあって、次回のテストで挽回するつもりでいた。ところが、母親が成績についてとやかく言ってきたため、それが原因で学業とうまく向き合えなくなってしまう。口やかましく勉強しろと言われ、素直に勉強する子どもなどいまい。母親を喜ばすことになるかと思うと、もう勉強する気も起きなくなってしまい、気づけば三流大学に合格するのがやっとというドロップアウト組の一人となっていた。生来の能力を考えると、実にもったいない結末であった。
 ただ、校内では居心地の悪さを感じてはいたものの、プライベートではそれなりに充実した生活を送っていた。中学時代の友人たちからはリーダー的な存在として認められていたし、私立の女子高に通う年下の恋人との関係も良好だ。
 交際相手の麻里子は、長期休暇に家族で海外旅行に行くくらい家が裕福で、信じられないような小遣いを親からもらっていた。だからデート代はすべて彼女持ち。ファミレスに行くならワンランク上のロイヤルホストを選んだし、ファーストフードならマックではなく迷わずモスバーバーを選ぶなど贅沢を味わっていた。人の金で飲み食いするのは格別に気分が良かった。
 また、交際費を担うだけでなく、麻里子はあらゆる面で藤原に従順だった。何をしてもたいがいのことは許された。彼女自身も無茶な要求を受け入れることを喜んでいるふしがあった。童貞で悩んでいた友人の相手も二つ返事で引き受けてくれたし、複数人とのプレイも躊躇ちゅうちょなく許可してくれた。ある目的のために適当に選んだ女だったが、当たりを引いたことは間違いなかった。
 しかし、放課後の活動がいくら充実していようとも、一日の大半を占める学校内での生活がそうでなければ楽しい高校生活とは呼べなかった。
 藤原は、勝野小百合と窓際で談笑している男子生徒を苦々しげに見つめた。

 ——田島純一。

 藤原と違い、一流大学への進学を控え、さらに、恋人は他校の生徒からも注目されるような女子生徒だ。まさに、高校生活を誰よりも謳歌しているように見えた。置かれた立場のあまりの違いに、憎しみ以外の感情は湧いてこない。くしくも、三年間同じ教室で過ごしたことも、憎しみを強固なものにしていた。
 一年生のときの何気ない会話を思い出す。
「藤原は夏休み、どっか行った?」
「いやどこも。お前は?」
「うちは家族で韓国に行ってきた。本場の焼き肉って、やっぱうまかったね。あとキムチも、日本で売ってるのと違って、味がしっかりしてるっていうか——」
 藤原の家庭は、家族で海外旅行に行けるほど裕福ではなかったし、家族仲もさほど良くはなかった。それもあって、そのころから自然と田島を妬むようになり、妬みはいつしか憎しみに変わっていった。
 決定的だったのは、田島が勝野小百合と付き合いはじめたことを知ったときだ。そのときは激しい嫉妬で身体は震え、こんなことだったら無理にでも彼女を口説き落としておけばよかったと後悔したほどだ。入学時から勝野小百合には目をつけていたのだが、劣等生のレッテルを貼られたことで気後れしてしまい、積極的な行動に移せなかったのだ。
「あいつは、おれにないものを全部持ってやがる……」
 ルックスでも能力でも劣っていないという自負が、同級生に対する歪んだ憎悪を駆り立てる。
 藤原は再び、窓際の恋人たちに視線を向けた。勝野小百合とまた目が合う。今度もまた、すぐに彼女のほうから視線を外した。
 計画通りにいけば、三年分の鬱憤うっぷんを一気に晴らせるはずだった。
 藤原は二人の落ちた姿を想像しては、口元がにやけるのをどうしても抑えられなかった。



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