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第二章 見え始めた悪意
悪魔の微笑
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「おいしい」
鴨肉のソテーを口に運んだ麗子が笑みを浮かべた。
拓海は微笑み返し、ワイングラスを口元に寄せる。
二人が訪れたフレンチレストランは、夕食時ということもあってほぼ満席だ。ここは麗子のお気に入りの店で、結婚してから何度も足を運んでいた。
「拓海さん、稽古のほうはどう?」
「順調だよ」
「よかった。次の舞台も楽しみにしているわ」
拓海は食事の手を止め、居住まいを少し正して口を開いた。
「麗子、こうやって稽古に打ち込めるのも、全部君のおかげだよ。本当に感謝してる」
「夫を応援するのは妻の務めでしょ? これからも、わたしにできることがあったら何でも言ってね」
「ありがとう」
麗子に頼めば、不思議と叶わぬことなどないのではと思えてしまう。拓海は強力な庇護のもとにいることを実感しながら、切り分けたステーキを口に運んだ。
拓海は次の舞台の概要を語って聞かせた。話題は自然と映画へと移り、いつものように会話は弾んだ。麗子が気になる新作映画があるというので、後日二人で見にいく約束をした。
メインディッシュのあと、麗子の前にはパンナコッタと紅茶が置かれ、拓海はブラックコーヒーに砂糖を加えながらかき混ぜた。
「拓海さん」
「ん?」
「わたし、やっぱり精密検査を受けてみようと思うの」
以前から体調不良を訴えていたため、拓海は精密検査を勧めていたのだ。
「それがいいよ。きっと何の問題もないと思うけど、調べておいて損はないからね。不安を解消するための検査だと思えばいい」
「そうね」
再び映画の話題に戻り、今度はホラー映画について語り合った。最近のハリウッドのホラー映画は映像が綺麗になり過ぎていて恐怖感が薄い、という点で二人の意見が一致した。
「ごちそうさまでした」
麗子がパンナコッタをきれいに食べ終え、満足そうに手を合わせた。拓海はその仕草に一瞬目を奪われる。いつ見ても品のある所作だ。麗子は食事のときだけでなく、すべての振る舞いに気品が宿っていた。拓海はそんな姿を見るたびに、その育ちの良さに感心せずにいられなくなる。もし自分に子どもができたならば、彼女のように品のある大人に育ってほしいと願った。
ハーブティーを飲み終えた麗子に、拓海は声をかけた。
「そろそろ出る?」
「ええ、そうね」
* * *
並び立って人通りの少ない裏道を歩いていた。
周囲は閑静な住宅街で、低層のデザイナーズマンションが薄暗がりの中に静かに佇んでいる。
「なあ、麗子。まだ早いし、もう少し飲んでかないか?」
そう問いかけた瞬間、麗子がふいに崩れ落ちた。
拓海は慌てて彼女を抱きかかえる。
「麗子、だいじょうぶか!?」
「え、ええ……」
だが、麗子は自分の足で立つことができないらしく、拓海に体重を預けたままだ。
「麗子、どうした!?」
「だいじょうぶ……。ちょっと、立ちくらみがしただけだから……」
「とりあえず座ろう」
二人で歩道沿いのレンガ造りの花壇の端に腰を下ろした。
拓海は彼女の肩に手を置いて言う。
「ここで、少し休んでいこう」
「ええ、そうね……。でも、ただの立ちくらみだから、あまり心配しないで」
麗子はそう言って、ぎこちない笑みを浮かべた。
「少し肌寒くなってきたね」
拓海はそう言って、麗子を優しく抱き寄せた。そして目を細めると、彼女に気づかれぬように口元に笑みを浮かべた。
◈
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鴨肉のソテーを口に運んだ麗子が笑みを浮かべた。
拓海は微笑み返し、ワイングラスを口元に寄せる。
二人が訪れたフレンチレストランは、夕食時ということもあってほぼ満席だ。ここは麗子のお気に入りの店で、結婚してから何度も足を運んでいた。
「拓海さん、稽古のほうはどう?」
「順調だよ」
「よかった。次の舞台も楽しみにしているわ」
拓海は食事の手を止め、居住まいを少し正して口を開いた。
「麗子、こうやって稽古に打ち込めるのも、全部君のおかげだよ。本当に感謝してる」
「夫を応援するのは妻の務めでしょ? これからも、わたしにできることがあったら何でも言ってね」
「ありがとう」
麗子に頼めば、不思議と叶わぬことなどないのではと思えてしまう。拓海は強力な庇護のもとにいることを実感しながら、切り分けたステーキを口に運んだ。
拓海は次の舞台の概要を語って聞かせた。話題は自然と映画へと移り、いつものように会話は弾んだ。麗子が気になる新作映画があるというので、後日二人で見にいく約束をした。
メインディッシュのあと、麗子の前にはパンナコッタと紅茶が置かれ、拓海はブラックコーヒーに砂糖を加えながらかき混ぜた。
「拓海さん」
「ん?」
「わたし、やっぱり精密検査を受けてみようと思うの」
以前から体調不良を訴えていたため、拓海は精密検査を勧めていたのだ。
「それがいいよ。きっと何の問題もないと思うけど、調べておいて損はないからね。不安を解消するための検査だと思えばいい」
「そうね」
再び映画の話題に戻り、今度はホラー映画について語り合った。最近のハリウッドのホラー映画は映像が綺麗になり過ぎていて恐怖感が薄い、という点で二人の意見が一致した。
「ごちそうさまでした」
麗子がパンナコッタをきれいに食べ終え、満足そうに手を合わせた。拓海はその仕草に一瞬目を奪われる。いつ見ても品のある所作だ。麗子は食事のときだけでなく、すべての振る舞いに気品が宿っていた。拓海はそんな姿を見るたびに、その育ちの良さに感心せずにいられなくなる。もし自分に子どもができたならば、彼女のように品のある大人に育ってほしいと願った。
ハーブティーを飲み終えた麗子に、拓海は声をかけた。
「そろそろ出る?」
「ええ、そうね」
* * *
並び立って人通りの少ない裏道を歩いていた。
周囲は閑静な住宅街で、低層のデザイナーズマンションが薄暗がりの中に静かに佇んでいる。
「なあ、麗子。まだ早いし、もう少し飲んでかないか?」
そう問いかけた瞬間、麗子がふいに崩れ落ちた。
拓海は慌てて彼女を抱きかかえる。
「麗子、だいじょうぶか!?」
「え、ええ……」
だが、麗子は自分の足で立つことができないらしく、拓海に体重を預けたままだ。
「麗子、どうした!?」
「だいじょうぶ……。ちょっと、立ちくらみがしただけだから……」
「とりあえず座ろう」
二人で歩道沿いのレンガ造りの花壇の端に腰を下ろした。
拓海は彼女の肩に手を置いて言う。
「ここで、少し休んでいこう」
「ええ、そうね……。でも、ただの立ちくらみだから、あまり心配しないで」
麗子はそう言って、ぎこちない笑みを浮かべた。
「少し肌寒くなってきたね」
拓海はそう言って、麗子を優しく抱き寄せた。そして目を細めると、彼女に気づかれぬように口元に笑みを浮かべた。
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