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第五章 破滅へのカウントダウン
新たな標的 ②
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「あぁん?」
佐藤が目の色を変え、野太い声で威嚇する。足がすくんだ。
「お前なぁ、あの女を片付けたら、おれに一億寄越せ」
「い、一億って……。三千万の約束だったじゃないですか!」
拓海は思わず声を荒げて反論したが、佐藤は威圧的な態度を崩さなかった。
「事情が変わったんだよ。いいか、その薬を用意したのはおれだ。おれだって危ない橋を渡ってるんだ。お前は一人で動いてる気でいるようだが、おれがこの計画を立てなけりゃ、いまだに売れない役者のままだったんだぞ。わかってんのか? このおれが何者でもないお前を選んでやったんだ。このおれが一獲千金のチャンスをくれてやったんだ。そのおれに向かって調子に乗るなだぁ? 舐めんのいい加減にしろよ」
拓海は迂闊な一言で相手の機嫌を損ねたことを悔いた。弁解の言葉を探すが、佐藤の怒りは収まる気配がない。
「それにお前のほうこそ、調子に乗ってんじゃねえのか? 全部おれがお膳立てしてやったっていうのに、会うたびに不機嫌そうな面しやがって。おれにちっとも感謝してねえだろ? まあ、それはいい。感謝なんぞされても一円にもならねえからな。だから一億な。一億で決定な。あいつが死ねば莫大な遺産が手に入るんだ。それくらい安いもんだろ?」
「だからって、一億なんて……」
「おれの機嫌をこれ以上損ねないほうがいいぜ。おれがあの女に全部ばらせば、今までの苦労は水の泡になるんだからな」
拓海は絶句した。怒りで頭が沸騰しそうになった。荒れる感情を必死に抑え込んで口を開く。
「脅す……つもりですか?」
「おいおい、脅すなんて人聞きが悪いな。おれはただ事実を言ったまでだ」
佐藤は茶化すような調子で言ってのける。
いまだ身体は怒りで震えていたが、拓海はそれを押し殺して言葉を絞り出す。
「どれだけの金が入るかわからないんだ……。だから今は、一億は約束できない……」
佐藤が含みのあるような目を向けてきた。
「まあいい。おれが受け取る金は、いずれゆっくり相談しようや。だが、来月から毎月三十万な」
「何だって!?」拓海は思わず声を荒げた。「佐藤さん、いい加減にしてください! なんでぼくが、毎月三十万も払わなきゃいけないんだ!」
佐藤は動じる様子もなく、ギネスビールをうまそうに喉へと流し込む。そしてグラスを置くと、勝ち誇った顔で言った。
「いいか。お前はあの女から月に百万もらってる。それもこれも、おれがお膳立てしてやったおかげだ。ならおれも、その恩恵にあずかってもいいんじゃないのか? それに、おれに三十万渡しても、お前には七十万も残る。七十万だぞ。その辺の課長や部長クラスでも、そんな金もらってねえぞ。お前もさっき自分で言ってたじゃねえか、バイト二つ掛け持ちしても三十万にも満たなかったって。それがあの女の機嫌をとるだけで七十万もの金を自由にできるんだ。さっきも言ったが、もしおれがお前との関係をばらしたら、その七十万も消えてなくなる。また惨めな貧乏役者に逆戻りだ。それでもいいのか?」
拓海はテーブルの下で拳を強く握りしめる。悔しくて身体が震えた。だが、ここで感情的になってはすべてが終わってしまう。悔しいが佐藤の言う通りだった。彼と決裂したら、また生活費の不安に日々怯える地獄のような生活が待っているだけだ。それだけは絶対に避けたかった。
佐藤が不敵に鼻を鳴らす。
「だいぶ不服そうだな。でもよく考えてみろよ。おれだって危ない橋を渡ってるんだ。それに、あの薬だって簡単に手に入る代物じゃない。だから、三十万くらいでガタガタ言うな。情報料? 必要経費? 呼び方は何でもいい。三十万は計画を円滑に進めるためのマネジメント料だと思え。今の立場はお前一人の力で手に入れたもんじゃねえんだからな」
当然納得できなかったが、佐藤の要求を飲むしかなさそうだ。彼の機嫌一つで計画は簡単に破綻するのだから。だが、これ以上搾取されぬよう予防線を張る必要があった。
「わかりました。でも、三十万までですよ。それ以上要求されたら、ぼくはこの計画から手を引きます」
「わかったよ。おれもそこまで強欲じゃない。だが、例の薬代は別途請求させてもらうぞ」
拓海は反論しかけたが、ぐっとこらえた。これ以上揉めて関係をさらに悪化させたくなかった。
「……わかりました」
佐藤は満足げにビールジョッキを口に運んだ。
「桜井、これだけは覚えとけ。お前の命運は、このおれが握ってるってことを。だから、これ以上おれを怒らせるな。わかったな?」
佐藤が目の色を変え、野太い声で威嚇する。足がすくんだ。
「お前なぁ、あの女を片付けたら、おれに一億寄越せ」
「い、一億って……。三千万の約束だったじゃないですか!」
拓海は思わず声を荒げて反論したが、佐藤は威圧的な態度を崩さなかった。
「事情が変わったんだよ。いいか、その薬を用意したのはおれだ。おれだって危ない橋を渡ってるんだ。お前は一人で動いてる気でいるようだが、おれがこの計画を立てなけりゃ、いまだに売れない役者のままだったんだぞ。わかってんのか? このおれが何者でもないお前を選んでやったんだ。このおれが一獲千金のチャンスをくれてやったんだ。そのおれに向かって調子に乗るなだぁ? 舐めんのいい加減にしろよ」
拓海は迂闊な一言で相手の機嫌を損ねたことを悔いた。弁解の言葉を探すが、佐藤の怒りは収まる気配がない。
「それにお前のほうこそ、調子に乗ってんじゃねえのか? 全部おれがお膳立てしてやったっていうのに、会うたびに不機嫌そうな面しやがって。おれにちっとも感謝してねえだろ? まあ、それはいい。感謝なんぞされても一円にもならねえからな。だから一億な。一億で決定な。あいつが死ねば莫大な遺産が手に入るんだ。それくらい安いもんだろ?」
「だからって、一億なんて……」
「おれの機嫌をこれ以上損ねないほうがいいぜ。おれがあの女に全部ばらせば、今までの苦労は水の泡になるんだからな」
拓海は絶句した。怒りで頭が沸騰しそうになった。荒れる感情を必死に抑え込んで口を開く。
「脅す……つもりですか?」
「おいおい、脅すなんて人聞きが悪いな。おれはただ事実を言ったまでだ」
佐藤は茶化すような調子で言ってのける。
いまだ身体は怒りで震えていたが、拓海はそれを押し殺して言葉を絞り出す。
「どれだけの金が入るかわからないんだ……。だから今は、一億は約束できない……」
佐藤が含みのあるような目を向けてきた。
「まあいい。おれが受け取る金は、いずれゆっくり相談しようや。だが、来月から毎月三十万な」
「何だって!?」拓海は思わず声を荒げた。「佐藤さん、いい加減にしてください! なんでぼくが、毎月三十万も払わなきゃいけないんだ!」
佐藤は動じる様子もなく、ギネスビールをうまそうに喉へと流し込む。そしてグラスを置くと、勝ち誇った顔で言った。
「いいか。お前はあの女から月に百万もらってる。それもこれも、おれがお膳立てしてやったおかげだ。ならおれも、その恩恵にあずかってもいいんじゃないのか? それに、おれに三十万渡しても、お前には七十万も残る。七十万だぞ。その辺の課長や部長クラスでも、そんな金もらってねえぞ。お前もさっき自分で言ってたじゃねえか、バイト二つ掛け持ちしても三十万にも満たなかったって。それがあの女の機嫌をとるだけで七十万もの金を自由にできるんだ。さっきも言ったが、もしおれがお前との関係をばらしたら、その七十万も消えてなくなる。また惨めな貧乏役者に逆戻りだ。それでもいいのか?」
拓海はテーブルの下で拳を強く握りしめる。悔しくて身体が震えた。だが、ここで感情的になってはすべてが終わってしまう。悔しいが佐藤の言う通りだった。彼と決裂したら、また生活費の不安に日々怯える地獄のような生活が待っているだけだ。それだけは絶対に避けたかった。
佐藤が不敵に鼻を鳴らす。
「だいぶ不服そうだな。でもよく考えてみろよ。おれだって危ない橋を渡ってるんだ。それに、あの薬だって簡単に手に入る代物じゃない。だから、三十万くらいでガタガタ言うな。情報料? 必要経費? 呼び方は何でもいい。三十万は計画を円滑に進めるためのマネジメント料だと思え。今の立場はお前一人の力で手に入れたもんじゃねえんだからな」
当然納得できなかったが、佐藤の要求を飲むしかなさそうだ。彼の機嫌一つで計画は簡単に破綻するのだから。だが、これ以上搾取されぬよう予防線を張る必要があった。
「わかりました。でも、三十万までですよ。それ以上要求されたら、ぼくはこの計画から手を引きます」
「わかったよ。おれもそこまで強欲じゃない。だが、例の薬代は別途請求させてもらうぞ」
拓海は反論しかけたが、ぐっとこらえた。これ以上揉めて関係をさらに悪化させたくなかった。
「……わかりました」
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