陽葵の笑顔に僕は夢中だ。

そら

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1章 日常って大事だね。

これが僕たちの選択。

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 深夜の公園でようやく僕たち三人が揃った。

 駆けつけた栞は、ボロボロになった陽葵の姿を目にした瞬間、言葉を失って彼女を強く抱きしめた。陽葵は栞の胸の中で、堰を切ったように再び泣き出した。

「陽葵……! ごめん、ごめんね……。あんなに近くにいたのに、私、何もしてあげられなくて……気づいてたのに、踏み込めなくて……本当にごめんなさい……!」
 
 栞は陽葵を宝物を扱うように優しく抱きしめ、自分のことのように涙を流した。その細い肩を震わせる栞の姿に、陽葵も震える手で栞の背中を抱きしめ返した。

「ううん、私のほうこそ……ごめんなさい……。栞が、あんなに優しくしてくれたのに……私、嘘ばっかりついて、隠してて……。こんな自分を見られるのが、怖かったの……っ」
 
 二人は夜の闇の中で、互いを確かめるように強く抱きしめ、積もり積もった後悔と悲しみを涙と一緒に吐き出した。それは、これまでお互いに踏み込まなかった関係から、本当の意味で二人の心が重なった瞬間だった。
 
 しばらくして、二人の激しい泣き声が小さく、重い呼吸へと変わった頃。栞は陽葵の涙を指で拭い、意を決したように僕のほうを振り向いた。

「……悠真くん。このまま陽葵を帰すわけにはいかないわ」

 本当は僕らで解決したかったけど、たぶん僕らじゃ…。

「……警察に行こう、陽葵。あざもあるし、事情を話せば保護してくれるはずだ」
僕の言葉に、陽葵は栞の腕の中で激しく首を振った。
「嫌……嫌だよ、悠真くん。警察なんて呼んだら、大ごとになっちゃう……。それに、もしお母さんが捕まらなかったら? 事情聴取だけで帰されたら、私はもっと酷いことをされる……。あの男の人だって、何をするか分からない……!」

「じゃあ、僕の親や栞の親に……」

「それもダメ! 誰かに知られたら、学校にもいられなくなる。近所の人に指を差されて、『可哀想な子』って目で見られるのは耐えられない……。お願い、誰にも言わないで……っ」

 陽葵の訴えは、切実で、そして絶望的だ。

 高校生の僕たちにとって、大人や社会というシステムは、自分を守ってくれる盾ではなく、自分たちを「異常な日常」へと引き戻す檻にしか見えなかった。

 沈黙が流れる中、陽葵を抱きしめていた栞が、静かに、けれど確かな強さを持った声で口を開いた。

「……逃げましょう」

「え……?」

「警察も、親も、今は頼れない。だったら、三人で逃げるしかないわ。一時凌ぎかもしれないけれど、陽葵があの家にいなくて済む場所へ。誰にも見つからない場所へ」

 栞は僕を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、これまでの穏やかな彼女からは想像もつかないような、鋭い覚悟が宿っていた。

「私の家の別荘があるの。もう数年も使っていなくて、管理もたまに見に行くだけ。あそこなら、私の両親だって当分は気づかないわ」

 栞はカバンから、使い込まれたキーホルダーのついた鍵を取り出した。

「陽葵を守るためには、これしかないわ。……悠真くん、あなたも来てくれる?」

 栞の言葉に、僕は陽葵の震える手を取った。僕がここで行かなければ、陽葵は今度こそ本当に壊れてしまう。

「……行こう、陽葵。そこなら、誰も君を傷つけない。僕と栞で、絶対に君を守るから」

「悠真くん……栞……」

 陽葵が、震える声で僕たちの名前を呼んだ。それは、平穏な日常を捨て、社会からドロップアウトすることを意味していました。僕たちは今、ただの同級生から、一つの秘密を共有する「共犯者」になった。

「……うん。行きたい。二人と一緒に、遠くへ行きたい……」

 陽葵の小さな決意を聞き、僕は深く頷いた。暗闇の中、僕たちは一度も振り返ることなく、公園を後にした。
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