31 / 84
4章 日食
再会?
しおりを挟む
陽葵がいなくなってから十日が過ぎた。
父さんも、警察も、学校の大人たちも。誰も信じられない。誰も僕の叫びを聞いてはくれなかった。唯一、隣にいて僕の崩壊を繋ぎ止めてくれているのは、献身的に支えてくれる栞だけだ。
その日、僕は慢性的な寝不足の中でも、重い足取りで誰よりも早く学校へ向かった。
静まり返った早朝の校舎。廊下を歩く自分の足音が響く…。
ガラリ、と教室の扉を開けた。
眩しい朝日の中、僕はいつものように、自分の斜め前にある「主のいない席」を、無意識に確認した。
「……え?」
そこには、誰かが座っていた。
窓の外を眺め、退屈そうに指で机を叩いている少女。あの誕生日で過ごした時と同じ、白いワンピースを着た陽葵だった。
「陽葵……!?」
叫び声が、無人の教室に広がる。
陽葵は驚いたように肩を揺らし、ゆっくりとこちらを振り返った。そして、僕の顔を見た瞬間、あの日々と変わらない、太陽のような眩しい笑顔を見せた。
「あ、悠真くん。おはよう! 今日は早いんだね?」
「陽葵! お前、どこにいたんだよ! 探したんだぞ、みんな、俺も、栞も……!」
溢れ出す感情を抑えきれず、僕は彼女の元へ駆け寄った。
生きていた!無事だったんだ。どこかに閉じ込められていたけれど、自力で逃げてきたんだ。
そんな都合のいい正解を予想した僕は、彼女の細い肩を力いっぱい抱きしめようと、両手を伸ばした。
「陽葵!!」
けれど──。
僕の両手は、確かな手応えを何一つ掴むことなく、虚空を泳いだ。
勢い余って陽葵の体を通り抜け、僕は机に手をついた…。
「……え?」
振り返ると、陽葵は座ったまま、驚いたように自分の体を見つめていた。
僕の腕がすり抜けた場所を、彼女は不思議そうに何度も手で払い、それから、朝日の光が自分の体を透過していることに気づいたようだった。
「……あれ。私、悠真くんに触れないよ?」
陽葵は、自分の透き通った両手で何度も僕に触れようとする。
「あの雨の夜のこと、あんまり覚えてないの。お母さんに追いかけられて、怖くて、必死に走って……。ふと気づいたら、この教室にいたんだ。だから、ずっと長い夢でも見ていたのかなって思ってたんだけど……」
陽葵は、ようやくすべてを悟ったように、弱々しく、けれど僕を元気づけるように無理に笑ってみせた。
「そっか……。私、死んじゃったのかな……?」
困ったように笑う彼女の背後にある黒板の文字が、白いワンピース越しにはっきりと透けて見えていた。
「ねえ…泣かないで?悠真くん。私、幽霊になっちゃったみたいだけど、こうしてまた…会えたんだから。」
彼女の指が、僕の頬に触れようとした。
けれど、その指先は僕の肌をすり抜け、ただひんやりとした不自然な冷気だけを残していった。
「嫌だよ……そんなの、嫌だ……!」
僕はその場に崩れ落ち、声を上げて泣いた。生きていてほしかった。幽霊になっても会えたなんて、そんなことで納得できるわけがない。
あんなに温かかった…陽葵の体温の温もりさえ2度と感じることができない…。
誰もいない教室で、朝日の光に溶けてしまいそうな少女が、嗚咽(おえつ)する僕の頭を優しくなでる「動作」を、何度も、何度も繰り返していた。
父さんも、警察も、学校の大人たちも。誰も信じられない。誰も僕の叫びを聞いてはくれなかった。唯一、隣にいて僕の崩壊を繋ぎ止めてくれているのは、献身的に支えてくれる栞だけだ。
その日、僕は慢性的な寝不足の中でも、重い足取りで誰よりも早く学校へ向かった。
静まり返った早朝の校舎。廊下を歩く自分の足音が響く…。
ガラリ、と教室の扉を開けた。
眩しい朝日の中、僕はいつものように、自分の斜め前にある「主のいない席」を、無意識に確認した。
「……え?」
そこには、誰かが座っていた。
窓の外を眺め、退屈そうに指で机を叩いている少女。あの誕生日で過ごした時と同じ、白いワンピースを着た陽葵だった。
「陽葵……!?」
叫び声が、無人の教室に広がる。
陽葵は驚いたように肩を揺らし、ゆっくりとこちらを振り返った。そして、僕の顔を見た瞬間、あの日々と変わらない、太陽のような眩しい笑顔を見せた。
「あ、悠真くん。おはよう! 今日は早いんだね?」
「陽葵! お前、どこにいたんだよ! 探したんだぞ、みんな、俺も、栞も……!」
溢れ出す感情を抑えきれず、僕は彼女の元へ駆け寄った。
生きていた!無事だったんだ。どこかに閉じ込められていたけれど、自力で逃げてきたんだ。
そんな都合のいい正解を予想した僕は、彼女の細い肩を力いっぱい抱きしめようと、両手を伸ばした。
「陽葵!!」
けれど──。
僕の両手は、確かな手応えを何一つ掴むことなく、虚空を泳いだ。
勢い余って陽葵の体を通り抜け、僕は机に手をついた…。
「……え?」
振り返ると、陽葵は座ったまま、驚いたように自分の体を見つめていた。
僕の腕がすり抜けた場所を、彼女は不思議そうに何度も手で払い、それから、朝日の光が自分の体を透過していることに気づいたようだった。
「……あれ。私、悠真くんに触れないよ?」
陽葵は、自分の透き通った両手で何度も僕に触れようとする。
「あの雨の夜のこと、あんまり覚えてないの。お母さんに追いかけられて、怖くて、必死に走って……。ふと気づいたら、この教室にいたんだ。だから、ずっと長い夢でも見ていたのかなって思ってたんだけど……」
陽葵は、ようやくすべてを悟ったように、弱々しく、けれど僕を元気づけるように無理に笑ってみせた。
「そっか……。私、死んじゃったのかな……?」
困ったように笑う彼女の背後にある黒板の文字が、白いワンピース越しにはっきりと透けて見えていた。
「ねえ…泣かないで?悠真くん。私、幽霊になっちゃったみたいだけど、こうしてまた…会えたんだから。」
彼女の指が、僕の頬に触れようとした。
けれど、その指先は僕の肌をすり抜け、ただひんやりとした不自然な冷気だけを残していった。
「嫌だよ……そんなの、嫌だ……!」
僕はその場に崩れ落ち、声を上げて泣いた。生きていてほしかった。幽霊になっても会えたなんて、そんなことで納得できるわけがない。
あんなに温かかった…陽葵の体温の温もりさえ2度と感じることができない…。
誰もいない教室で、朝日の光に溶けてしまいそうな少女が、嗚咽(おえつ)する僕の頭を優しくなでる「動作」を、何度も、何度も繰り返していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる