陽葵の笑顔に僕は夢中だ。

そら

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5章 日月

佐藤さん

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 業者が到着して鍵を開け、僕はついに警察官と共に陽葵の家へと足を踏み入れた。

 かつて何度も遊びに来た、明るくて温かかったあの家の面影はどこにもなかった。ライトに照らされた光景に、僕は唖然と立ち尽くす。

「……ひどいな」

「入った当初から酷かったな。急いで荷物をまとめたのか、衣服もそこら中に散乱していてな。それに、うちの鑑識が事件性を洗うためにあちこち調べ回ったから、余計にぐちゃぐちゃだ」

 警察官は階段を上りながら淡々と説明を続けた。

「結局、この家の中に事件に直結するような痕跡は発見されなかった。容疑者が戻る可能性を考えて警戒していたが、死亡が確認されたから解除になった……というわけだ」

 陽葵の部屋の前につき、警察官が静かにドアを開けた。

 そこも他の部屋と同じように捜査の跡で散らかっていたが、ふわりと、かすかに陽葵の匂いがした。彼女が確かにここで生活し、笑い、過ごしていたのだという実感が込み上げ、僕は堪えきれずに涙を流した。

 警察官はそんな僕を気遣うように少し視線を外しながら、窓際にあったクマのぬいぐるみを手に取り、僕に差し出してくれた。

「ほら。……今回許可が降りているのは、そのぬいぐるみだけだ。他は一切持ち出せないからな、分かってるな?」

「……はい。ありがとうございます」

 僕は陽葵の分身を抱きしめるように受け取り、警察官と一緒に家を出た。外の冷たい空気に触れ、僕は改めて彼に向き直り、深く頭を下げた。

「本当に、ありがとうございました」

 警察官は僕をじっと見つめていたが、やがてポケットから一枚のカードを取り出し、僕に差し出した。

「……困ったことがあったら、俺に連絡しろ。これは俺の直通だ」

「えっ……」

「頼りないかもしれないが、そこらの大人よりは役に立つはずだ。いいな、無茶はするなよ」

 受け取った名刺の名前を確認して、僕はもう一度頭を下げた。

「佐藤さん、ありがとうございます。本当にお世話になりました」

 僕は名刺を大切にポケットにしまい、ぬいぐるみを抱えて走り出した。暗い夜道を、陽葵が待つあの場所へ。今の僕には、このぬいぐるみが未来への唯一の架け橋だった。
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