月雨記2 〜紅焔玉魔〜

天王晴風

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第ニ話

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光堂の前階段を登り切りると、重厚な扉がある

「いい?」
「ええ、開けてください」
立廈が扉に触れた

光堂の扉は資格がある者にしか反応しない
同行者でも資格が無ければ入る事が出来ないのだ

開いた扉の中に二人は入った

光堂は喧騒で溢れていた
二人が中に入るとしん、と静まった
一階にいる者達が二手に分かれると
月詠と立廈は進んでいく

正面、十段の階段の上に光王が座る椅子があり、光王は渋面だった
階段の下まで来ると、立廈は階段を上り、五段目で左手に進んだ

組級は五段上の立場に立てるのだ
組級の段は整列して立っている
一階にごちゃごちゃと居るのはただの光界びとだった

光王と対面し、月詠は礼をする
「只今戻りました」
「この日を待っていた。千年行を成し遂げて誇りに思うぞ」
朗々とした声
月詠は失笑した

かの日魔獣だった子兎を浄土に送ろうとして触れてしまった
初級の浄化の術で解消出来たものを
誰一人として行ってくれなかった
穢れるの一点張りだったのだ
呆れて此処にはもう未練もないと思い、出帆したのだ
人を追い出しておいて、追放の筈が千年行に変わっているとは
勝手にしろ

「何が千年行だ」
月詠の背後から声が上がった

「光王よ、この者は殺人を犯したのだぞ。千年行など完了したというのはおかしいではないか」

「そうです、この愚か者は私達を誘き寄せて一方的に暴力を振るった。雷の矢の跡が今でも痛むのですぞ」

「谷に落とされた一人は穢れに飲み込まれてしまった。何と残酷な」

それはきっと若い光界びとだったのだろう
だとしたら残りの五人は無事に帰って来たのだ
ここ、光界に
要は見殺しにしたのだ
何故その事には触れないのだろう

「わたしは谷に落とされて右手が穢れてしまった。同志の浄化の術を唱えてくれなかったらこの手は失っていたかもしれない」

「そうだそうだ」
一緒に落ちた者達か煽った

自分の時とは随分と違う
月詠の口元に皮肉な笑みが浮かんでいた

「月詠よ、弁明はあるか」
段上の光王が口を開いた

月詠は凛とした様子を保つように自分に言い聞かせていた

「弁明とは何の事でしょう」

「なっ 穢れ者が罪を認めんとはっ」

「確かに」
月詠は一旦言葉を切った
「わたしは四人に雷罰の縄で縛り上げました」

「罪を認めたぞ!」
一斉に怒号が飛び交った

「静粛に。月詠よ、真相を話してくれ」
光王の声に場が静まった

「罪人はあなた方です。高徳を勝ち取った腐界びとを嬲り消滅させましたね。何人も」


「腐界びとだと、腐獣だ!」

「違います。腐界で勝ち抜いた勝者で私達と同じ存在に成った者達です」

「私達と同列にするな!」

「静粛に」
月詠が一言言う度に野次が飛ぶ
「月詠だけが話すように」
光王の言葉に反発出来ずに、苦々しい表情の者ばかりだ

「そこの者達は、聖獣王を鎖で宙吊りにしました。そして、聖獣王に蹴落とされたのです。先に落とされた者を助けずに自分達だけここに帰って来たのでしょう。これが真相です」

「では、雷罰の刑はどうしたのだ」
「わたしを拘束しようとしたからです。わたしは暴行を受けましたから」
「それも真相か」
「はい。以上です」

「出鱈目を言うな!」
月詠は振り返った
「どこが出鱈目なんですか?」
「全部だ!」
「わたしは真相を話しましたよ。あなたこそあの場で見ていたのですか? わたしには覚えがありませんけれど」

すると一人が月詠を指差した
「知ってるぞ、この者は腐獣と寝ているんだ」
「何と汚らわしい」
「何故聖堂に入れたのか。まさか邪術使い?!」
「捕えろっ」
「追放しろっ」

再び怒声が月詠を襲う
しかし、月詠を冷静だった
そこで行動に出た

「なんとっ」
月詠が階段を上り始めたのだ
一段二段...五段
ここで右手に逸れると思いきや
月詠は六段めに立った
また一段、もう一段登って振り返った

「ここです。わたしの今の立ち位置です。どなたか此処まで来られますか?」
感情の無い声だ

光堂内が騒めいた
これには立廈も驚いていた
次期光王候補と言われているが、まさか自分で存在を示してしまうとは

また厄介な事になりそうだ...
立廈は溜息をついた

騒めく光堂内に向けて月詠は言った
「腐獣から高徳を勝ち取った腐界びとは私達と同じ立ち位置となったのです。残虐行為などもっての外、差別も許せません。彼らも必死で己の存在を保っているのですから」

まだ暴言を言おうと口を開きかけた者を視線で制した
「文献庫から足が遠のいているようですね。しっかり書かれている事実です。聖獣は私達より位が上だとしっかり書かれているのですよ」

場内が騒めいた
「くだらないお喋りをする時間が有るのなら、文献庫で読書されたらいいでしょう」

「何だとっ 侮辱するか」
「滅相も。ただ、階段数だけ劣っているのだと何故気がつかないのですか?」

「劣っているなどと馬鹿にするなっ」
「誰が引き摺り下ろせ!」
「そうだそうだ」
と野次るのに誰も動こうとはしなかった
いや、動けないのだ
階段一段も登れないのだから

それから面白い事が起きた
何人かが光王の足元まで来て階段に足を掛けたのだ
また一人、また一人と

「一段目に立った!」
「わたしは二段目だ」
「わたしは四段目!」

次々と試す者が出た
例の事件に係った者達も意気揚々と階段の前に立ったのだが
上げた足が下ろせない
何度試しても階段を登れないのだ
「邪術か?!」
「何か仕掛けをしたのだろう」
「おい我らに掛けた術を解け!」

月詠は笑った
「わたしは何もしていませんよ」
「嘘をつけ!」
「失礼な。おや」

月詠が目を見張ると階段をは登れない例の九人の姿が揺らぎ出した
「何だっ」
「意識が引っ張られる!」
姿が大きく揺らいで薄くなり、消えた

「うわっ」
階段を登れなかった、残った者達は驚いて自分の体を摩り出す

「判決は下された」
そう光王が宣言した

「降りましょうか」
月詠の呼び掛けにぞろぞろと階段を降りていく
月詠は最後に降りると光王に向かって叩頭した

「勝手な真似を致し、不敬を働きました。千年行の罰をお与えください」
場内がどよめく

段上の光王は瞑目して考え込んだ
しばしして目を開けると厳かな声で言った
「千年行は一度しか科せられない。月詠は無罪」

「なんとっ」
「ご英断だ」
「光王さま、万歳!」

何やら先程までの態度と違っている
月詠だけでなく見守っていた立廈も呆れていた

「月詠よ、どうするか」
「お許しがあらば、今の生活を送りたいと思います」
「犀形屋か」
「はい」
光王は渋い表情だ
だが、否とは言わなかった

「これにて閉会とする」
「光王に栄光あれ」
一同が唱和して、査問会は終わった

何やら興奮気味の者達はぞろぞろと光堂を出ていく
消えた九人の消息には興味が無いらしい

月詠が立ち上がると立廈が降りて来た
「どうなっている?」
「さあ、わたしにも分かりません」
そこに光王も降りて来た
「無事に浄土に着けたならいいが」
「と、おっしゃると」
立廈は驚いた顔をする
「腐界に落とされたかもしれませんね」
「その可能性もある。月詠よ」

名を呼ばれて月詠は顔を上げた
長身の光王と視線を合わせる
もう慣れてしまった
「どうしても犀形屋か」
「はい。わたしの存在の恩人ですから。何か役に立たないといけません」
「そうか。くれぐれも気をつけるように」
「はい。ご理解いただき感謝致します」

月詠は一礼し、階段を登っていく光王の姿を見送った

「さて、何だかお腹が空きましたね」
「食べなくても平気だろう」
「いやいや、人間はお茶の時間を楽しんでいますよ。急いで帰って伽奈にお菓子を焼いて貰いましょう」
そう言ってはしゃぐ様に光堂を出ていく
その後を立廈も追った
たまには人間ごっこも面白そうだ








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