月雨記2 〜紅焔玉魔〜

天王晴風

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第五話

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「くっ」
襲い来る腐界びとは浄剣を扱っていた
戦士から取り上げたのだろう

光界特製の浄剣だ
持てば火傷くらいはするだろう

顔には意思が見えない
狂気の狭間、目が赤い

剣術を教え込まれたのか、腕が立つ
打ち合いながら冷は考えていた
数が多すぎる

何度も刀風を打ち込んだ
距離を取っても直ぐに詰められた
ここは街中だ
下手に攻撃術が使えないから刀で戦うしかない
困った事になった

その様子を上から見ていた月詠が気づいた
冷と戦っている腐界びと以外は店や家屋を襲っていた

そう、先程の戦士達みたいに
月詠はその内の一人に浄化の術を掛けてみた
だが、効果がない?!

いったいどういう事だろうか
何度試しても効果がない
どうしてだ?!

一人ずつ引き剥がして作った空間に閉じ込めた
息があがる
術力を使いすぎた
空間の術の修練のツケがここで出た

月詠は肩で息をして呼吸を整える
冷に相談したくとも状況が許さない

何故浄術が効かないのか?
考えても答えが見つからない

ふと、気になった
どうして剣を持つ者と持たない者がいるのか

そうか!
月詠は閃きを実行した
「解呪、傀儡の術」
唱えて閉ざした空間に打ち込んだ

グシャ
蠢いていた腐界びとたちが崩れた
いや腐界びとに模して作られた泥人形だったのだ

もしかして...

「冷っ 距離を保って!」
叫んで鱗線を描く準備をする

冷が刀風を起こして、飛び退いた

いまだ!
剣を振り回す腐界びとを全員、描いた鱗線で閉じ込めた
さらに結界を張った

直ぐに傀儡の解呪の術を其々に掛けた

正気に戻った腐界びと達は呆然としている
冷は肩で息をしていた

「正気に帰ったか?」
「ここ...」
目が黒くなった
傀儡の術が解けたのだ
しかし、腐界びとは言い終わる前にまた暴れ出した

「何度でも試せばいい。根気合戦だね」
そう言った若い男の声

月詠は突然現れた若い男の姿に驚いていた
ラメで覆われた上衣
下衣は膨らみを持った短衣で脚は白いピッタリとした布で覆われている
肩も膨らみがあり腕も白い布の袖だった
首には大きな蝶締めも
頭は癖っ毛の短髪で目が赤い
顔は何故か真っ白だ

何て派手なんだろう
それが感想だった

「久しぶりだな聖獣王」
「貴様、紅焔玉魔か」

「覚えていてくれたんだね。嬉しいよ」
そう笑って月詠が作った結界をぞんざいに蹴り飛ばした
結界が崩れた
解放された腐界びと達が一気に冷を襲った

「なっ?!」
月詠は目を見張った
結界が破られた
自分でも信じられなかった

紅焔玉魔と言われた派手男はわざわざ額に手を当てて浮かんでいる月詠を見上げた

「下手くそな結界でしたよ」
クツクツと笑った
「いいんですか、彼を放っておいても?」

嫌味を言いながら笑っている

ダメだ、高徳の腐界びとだ
しかも字を持っている強者だ
今戦えば負けると察した

どうすればいい
焦りが募る

「月詠、浄化してくれ」
「でも...」
「そいつの相手は無理だ。こっちを頼む」

そう言われても操られているだけなのに
いや、あの男がいる限り傀儡とされて冷を襲わせる
躊躇いは禁物だ
今だけ、心を強くした

「縛!」
杖から雷が放たれる
雷は二十本の矢になった
冷を襲う腐界びとに巻き付いた
再度結界を張り、腐界びとの群れの上まで移動すると、飛び込むように浄術を放った

うおおおー

月詠は全員が浄化されるまで術を放ち続けた
力が抜けそうになる
歯を噛み締めて、集中した
意識を失いそうになったが耐えた

最後の一人が浄化されると、月詠は結界の中に落ちた

「ハハハ、お見事だよ。俺が手塩にかけて強化した傀儡達なのに」
紅焔玉魔がニヤリと笑った

ボッ
結界の中に火が放たれた

「月詠っ!」
「本気を出せよ」
紅焔玉魔は炎に包まれた月詠を荊棘の綱で縛り上げた
宙に浮かせて火炙りにしようとしている

クォォォン...
聖獣の姿になった冷が紅焔玉魔に襲いかかった

「なんの」
ふらりふらりと攻撃を躱している
まるで舞踊を踊っているかのように

冷が渾身の不動術を放った
紅焔玉魔の動きが止まった

冷は瞬間で紅焔玉魔に詰め寄り喰らい付く
すると笑顔の紅焔玉魔の姿が散り散りなった
「また会おう」
そう言い残して塵となった消えた

同時に炎が消えて、宙吊りにされていた月詠の体が地面に落ちた

冷は結界を壊して月詠に寄り添う
「大丈夫だよ」
弱い声でそう言った

「力を使い過ぎただけだよ。帰って休むから」
そう言うと聖獣姿の冷は月詠の手の甲をぺろりと舐めた

冷は力尽きている月詠を動術を使って背に乗せて旅館に運んだ
解放術を使って窓を開けて中に入る
寝台に寝かせて顔色を見た

唇が青くなっている
どうすればいいのか

「一緒にいて」
掠れた声で月詠が言った
冷は寝台に乗り、月詠の横にうつ伏せた

どの位経ったのか
部屋の中が明るい
月詠は体を起こそうとしてやめた

冷が気持ちよさそうに寝ていたのだ
まだ聖獣の姿のままだった
それだけ力を使ったのだろう

月詠はポンポンと頭を叩いた 
「何だ」
気がついたらしい
月詠は聖獣の冷に抱きついた
「もふもふして気持ちいい」
「抱きつくのなら人形の時にしてくれ」
「やだ」
そうして聖獣の冷に触りまくった

黒毛なのに頭の後ろから背中にかけて赤いたてがみがある
目は金色になっている
力が回復してきたのだろう

思う存分触っていると、不意に姿が変わった

「好きにやってくれたな」
「やだっ」
人形に戻った冷は月詠の体にのしかかった
体格差で抑え込まれてどうにもならない

「月咏(ユエユー)だけを抱くと誓約する」
「いやだ」
冷は月詠のこめかみに。額に、目尻に、口付けた
唇を頬に滑らせて口付けようと...

トントントン
扉が叩かれた
「お客さん、お取り込み中の所悪いんだけどね、お勘定頼みますよ。料理と部屋代ね」

「は、はーい」
月詠が返事すると、番頭が戻っていくのが分かった

「ほらどいて」
「取り込み中だ」
「もう、触らないで」
「月詠は俺を触りまくっただろう」
「犬相手のようなものでしょ」
「なら人間のやり方でお返ししよう」
「ちょっと、どこ触って、嫌だったら!」
そこで冷の動きが止まった
誓約が発動したのだ
「なんてことだ」

ガックリしている冷を押し除けて、月詠は寝台から降りた
「お湯使いたいなー」
勝手に背負い籠から財布を取り出すと、嬉々として部屋から出て行った

月詠に続いて冷も湯を使わせてもらった
月詠はしっかり料理も頼んでいた
着替えがないので元の戦士の服を着ている

食べながら月詠が口を開いた
「紅焔玉魔? 強かったですね」
「ああ」
冷はやけ酒をあおっていた
「知り合いですか?」
「タチの悪い知り合いだ」

月詠は箸を止めた
「分類で言うと上級腐界びとだ。悪趣味で何でも嬲り遊ぶことが好きなやつだ」

「じゃあ...」
「俺を呼び寄せる罠だったってことだ」
苦々しげに言う
「邪術が得意で、今回は自身も傀儡で作っていた」
「傀儡だったんですか? 傀儡であんな術力だなんて」

言って月詠は微かに体を震わせた
「たまに仕掛けてくるんだが、今回は大掛かりだった。月詠がいてくれて助かったな」

「わたしはまだまだです。もっと鍛錬しないといけません」
「月詠は十分強いだろう」

月詠は弱く頭を振る
「冷が無事でよかった」






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