魔王の俺が伯爵家の無能になったんだが!?〜魔界で疲れたので今世では好き勝手に過ごそうと思います〜

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第二十二話『再会と正体、そして選択』

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「クロ様っ……!」

 

ミレイアは叫ぶようにして身を起こした。
けれど身体はまだ重く、よろめきながら、目を見開く。

 

「っ……よかった、本当によかった……!」
「でも、えっ、顔は!? あなたの顔、あのとき潰れて……!? え、今、治ってる? え?」
「腕も無事で、え? どうして? っていうか、あの魔獣は!? あれ、どうやって倒したんですか!? 私……死んだんですよね!? でも、生きてるし……!」

 

クロは沈黙したまま、ゆっくりと手を上げる。
「落ち着け」のジェスチャー。

だが、ミレイアは止まらない。

 

「それとこれ、私の服じゃないですよね!? えっ、誰が着替えを!? え、まさかクロ様が……!」
「あとこれ、森の中ですよね!? え!? え!? もう夜!? そんなに時間経ってるんですか!?」

 

「……ようやく起きたかと思えば、質問が爆撃みてぇだな」

 

クロが小さく笑った。
その顔は、確かに以前と同じ“クロ様”だった。

どこか困ったような表情を浮かべながらも、目は優しかった。

 

「順番に答えてやるよ。まず顔と腕は治った。あの魔獣は、倒して、喰った」
「お前の服は俺が着替えさせたわけじゃねぇ。魔人化の過程で勝手に変わった。気にすんな」
「今は日が暮れたとこだ。ほぼ一日寝てたってことになるな」

 

「…………」

 

ミレイアは目を瞬かせ、それからしばらく沈黙した。

 

「……は、はぁ……なるほど、ですね。はぁ……なるほど……」

 

深く息を吐いて、肩の力を抜く。

だが、次の瞬間——

 

「……やっぱりおかしいですよね!? なんですか“喰った”って!!」

 

「今さらそこかよ……」

 

クロは呆れつつも笑い、ミレイアはついに感情が限界に達したようにぽろぽろと涙をこぼした。

 

「だって……だって、本当に……死んだと思ったんです……」
「クロ様の顔が潰れて、私も、もう駄目で……っ」

 

「……そうだな」

 

クロは目を細め、森の闇を見つめた。
その表情は、ほんの少しだけ寂しげだった。

 

「お前は死んだよ、確かに」

 

「……はい」

 

ミレイアは膝に手を置き、深く俯く。

「私……何が起きたのか、全部覚えてます」
「死んだことも、その後も……あの、暗いところも」

 

「……俺が、お前を魔人にした」

 

その言葉に、ミレイアの肩がぴくりと動く。

 

「魔人……って、私……」
「もう、人間じゃないってことですよね……?」

 

クロは、無言で頷いた。

しばらく重たい沈黙が流れた。

 

ミレイアは顔を上げ、真っ直ぐにクロを見つめる。

 

「それでも、あなたが“呼んでくれた”から、私は戻って来られたんだと思います」
「私、ずっと考えてたんです。戻れるのかどうかなんてわからなかった。でも、それでも——あなたが、“呼んでくれた”から」

 

「…………」

 

クロは、少し視線を逸らした。
それでも何かを決意したように、再び彼女の目を見る。

 

「お前には、知らなきゃならねぇことがある」
「俺の正体……本当は、“クロード”じゃない」

 

ミレイアは驚いたように目を見開いたが、口を挟まなかった。
ただ、静かに彼の話を待っていた。

 

「俺は、前世……魔王だった」
「魔界で悪魔どもを束ねて、殺して、支配して……そういう生き方をしてた」
「けど、もう疲れた。全部投げ出して、この世界に来た。転移魔法でな。で、たまたま憑いたのがこの体だ」

 

「…………」

 

「前の“クロード”は、多分、死んだ。俺がその体に入ったことでな。どこに行ったのかは分からない。俺が食ったのかもしれねぇ」
「だから、お前が俺に仕える理由は、どこにもねぇんだよ。お前の主は——もういないかもしれねぇ」

 

そう言い終えると、クロは静かに口を閉じた。

ミレイアは黙ったまま、拳をぎゅっと握りしめていた。

 

やがて——

 

「……でも、あの人は“あの時”、確かに私を守ってくれました」

 

「……あ?」

 

「前の坊ちゃんがどうだったのか……もう思い出せないくらい、今の“クロ様”しか、私には見えてなかったんです」

 

ミレイアはそっと膝をついた。
胸に手を当て、ゆっくりと頭を垂れる。

 

「あなたが誰であっても、私にとっての“クロ様”は……今ここにいる、あなたです」
「この命を、もう一度……あなたにお預けします」

 

クロは何も言わなかった。
ただ風が吹いた。赤黒い光が、空に舞う。

 

やがて、彼は苦笑して、ぼそっと呟いた。

 

「……お前、ほんとバカだな」

 

「ええ。バカですよ。でも、仕えるってそういうことですから」

 

笑い合う二人の間に、ようやく“本当の主従”が生まれた。
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