魔王の俺が伯爵家の無能になったんだが!?〜魔界で疲れたので今世では好き勝手に過ごそうと思います〜

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第二十七話『そして、静寂の街路で』

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血の臭いがまだ風に乗っていた。
路地裏は、崩れ落ちた死体たちの残骸と、生き残ったたった一人の暗殺者の痙攣だけが動いていた。

 

クロは周囲をゆっくりと見渡しながら、
一呼吸だけ深く吸い込んだ。

 

(……とりあえず、片付いたか)

 

油断せず、感覚を広げてみる。
だが、他に気配はない。残党も、追撃の兆しも、ない。

 

「クロ様ッ!!」

 

鋭く、だがどこか掠れた声が背後から響く。
ミレイアだった。まるで風より早く走ったのではと思うほどの勢いでクロのもとへ駆け寄ってくる。

 

「ご無事ですか!? 怪我は!? 血が……!」

 

「おいおい、落ち着けって。俺がこのくらいで死ぬわけねぇだろ」

 

クロは片眉を上げ、いつもの調子で笑う。
しかしミレイアは肩を上下させて呼吸を乱し、顔色を青ざめさせたままだった。

 

「さ、さっきまで串刺しになってたじゃないですか……!」

 

「だから言ってるだろ。平気なんだよ。……まぁ、若干痛ぇけど」

 

それでもクロの口調は軽い。
それが逆に、ミレイアの混乱を深めた。

 

「……ほんと、悪魔って何なんですか……」

 

そのとき──まだ地面に倒れていた最後の暗殺者が、
震えながら何かを呟いた。

 

「た……すけて……や、やめ……」

 

クロは鬱陶しそうに肩を竦め、歩み寄った。
そして、しゃがみ込むと──

 

「静かにしとけ」

 

コツン、と暗殺者の首筋に軽く手刀を打ち込む。
目を剥いた男は、そのまま泡を吹いて失神した。

 

「……で、こいつどうする?」

 

クロは失神した男を片手で担ぎ上げた。
軽々と肩にかつぎながら、ミレイアの方へ顔を向ける。

 

「どこか人目のつかねぇとこに運ぶか? それとも……屋敷まで直帰か」

 

「そ、その前に……死体の処理はどうするんですか……!?」

 

ミレイアが恐る恐る視線を周囲の無惨な死体へと向ける。
腹を裂かれた者、顔を潰された者──その惨状に、彼女の表情が引きつる。

 

「……さすがに、道端にこれだけの死体転がして戻るのは、まずいですよね……?」

 

「だな。どうせ屋敷に報告すんだから、ついでに片付けの手間も押しつけるか」

 

「……報告って、当主様に……?」

 

「ああ。こんな派手なことしたら、黙っててもそのうちバレるしな」

 

クロはそう言いながら、歩き出す。

 

「それに……こいつから、しっかり話を聞き出さねぇと」

 

そう言って、肩の上で失神している暗殺者の顔をポン、と軽く叩く。

 

「……拷問……ですか?」

 

ミレイアは躊躇いがちに尋ねた。
クロの横顔は、それに少しだけ笑みを含ませながら答えた。

 

「ああ。聞きたいことは山ほどある。痛い目見りゃ、口も軽くなるだろ」

 

「そ、そんな冷静に言わなくても……っ」

 

ミレイアがぞわっと震える。
その反応に、クロはふっと笑った。

 

「冗談だよ。……まぁ、お前の金的よりはマシだろ?」

 

「な──っ!」

 

ミレイアの顔が赤くなる。

 

「そ、それは……っ、あの時は緊急事態で、私だって……っ!」

 

「はいはい、あの暗殺者には黙っておいてやるよ。金的されて死にかけたってな」

 

「うぅ……っ!」

 

ミレイアは涙目で頬を膨らませながら、クロの後ろをついて歩き出す。

 

路地裏を離れ、二人の足音が徐々に遠ざかっていく。
血の匂いと死体の残る通りに、再び静寂が戻った。

 

──それでも。
彼らが見上げた空だけは、まるで何事もなかったように晴れていた。
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