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競売の幕開け
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引きずられるようにして、私は兄上と一緒に廊下を進んだ。
歩いている間も、心臓がバクバクとうるさい。
これから、競りにかけられる。
そんな言葉が頭を何度もよぎるたびに、胃の奥がギュッと締めつけられる感覚がした。
「いやいやいや、普通にヤバくない?」
「これ、潜入調査どころか、普通に売られて終わる未来もあるんじゃない?」
そんな不安が頭を駆け巡る中、ついに私たちはオークション会場の壇上へと連れてこられた。
◆
「さて、諸君!」
壇上に立った途端、甲高い声が響き渡った。
目の前には、異様な熱気を帯びた会場が広がっている。
「……うわ、めっちゃ人いる」
豪奢な衣装をまとった貴族風の男、鋭い目つきの商人、明らかに裏社会の人間としか思えない顔つきの男たち──
ここにいる全員が、「人間を買うため」に集まった連中だ。
背筋がゾッとする。
「さあ、本日も素晴らしい“商品”がそろっております!」
壇上の横に立つ司会らしき男が、誇張した動作で両手を広げた。
「まずご紹介するのは──この美しい兄妹!!」
あぁ、やっぱり兄妹枠なんですね。
知ってたけど!!!
「彼らは、どこぞの名家の落ちぶれた子息たちで──」
いやいやいや、待って待って、そんな話聞いてないから!?!?
「幼いながらも教育を受けており、さらに美しい容姿!!」
めっちゃホラ吹いてるやん!!!
どこの名家の話!? 誰が落ちぶれた子息!?!?
「どこぞの貴族に拾われたが、その家が没落し──」
「最終的にここに流れ着いた不運な兄妹!!」
いや、盛りすぎだろ!!! 設定めっちゃ作り込まれてるんだけど!?!?
もはや、今ここで初めて知ったんだけど、私たちそんな背景だったんだ!?
っていうか、もうここまで来ると「よくこんな話考えたな」って感心するレベル。
「さて、それでは入札を開始いたしましょう!!」
そう言った瞬間、
「ほぉ、これはなかなか」
「見た目も良いし、これは高値がつくな……」
「坊主の方はどうだ? 戦闘向きか?」
「女の方は、十分鑑賞用になるな」
……うわぁ。
嫌な言葉が、あちこちから聞こえてくる。
「これ、普通に“人間として”見られてないよね?」
確かに、ここにいる連中からしたら、私たちはただの商品。
売り買いされるための、金で手に入る「モノ」。
そんな考えがこの場に充満しているのが、嫌というほど伝わってくる。
「さあ、どなたが最初に値をつけてくださるのか……?」
司会の男が嬉々として話していると、
「500万」
「600万」
「650万!!」
……え、もう始まってる!?!?
いやいや、ちょっと待って!!!
私、まだ心の準備できてないんだけど!?!?!?
考えてる間にも、どんどん値段は上がっていく。
「おぉ、なかなかの盛り上がりですねぇ!」
司会の声が、熱気をさらに煽る。
「さあ、他にいませんか!? こんな優れた兄妹、二度と手に入りませんよ!?」
「うわぁ……こんな感じで値段つけられてくの、マジで最悪なんですけど……」
「っていうか、兄上!? お前、こんな状況で何ニヤついてんの!?」
横を見ると、兄上は余裕の笑みを浮かべていた。
「いや、絶対こいつ、なんかやる気じゃん……」
「ていうか、私たち、このまま本当に売られるんじゃない!?」
そんな最悪の予感が、ひしひしと迫ってきていた。
オークションの熱気が最高潮に達しようとしていた、その瞬間。
──ダンッ!!
壇上に響いたのは、兄上の足が床を踏み鳴らす音。
その音が、まるで空気を切り裂く合図のようだった。
会場のざわめきが、一瞬だけピタリと止まる。
そして次の瞬間、
シュンッ──!!
光が弧を描くように閃いた。
司会の男が切り裂かれた。
「…………は?」
何が起こったのか、私の脳が理解するよりも先に、会場全体が静まり返る。
壇上には、血を噴き出して倒れる司会の姿。
そして、兄上の手には、いつの間にかナイフが握られていた。
「いや、待って待って、どこから出したそれ!?!? さっきまで絶対持ってなかったよね!?!?!?」
目の錯覚じゃない。
さっきまで兄上の手は空っぽだったはずなのに、今はしっかりと両手にナイフを持っている。
どこから出したんだ!?!?!?
◆
「…………」
「………………」
「…………………」
静寂。
誰も動かない。
誰も、声を出さない。
「……え、もしかしてこれ、皆“何が起こったのか”まだ理解できてない?」
あの司会の男が突然倒れ、血を流している。
でも、それを認識するには、あまりにも突発的すぎた。
状況が理解できず、時間が止まったかのような空気。
けれど、そんなものはほんの一瞬の間だけだった。
やがて、会場のどこかから、ざわ……ざわ……と、低いどよめきが響き始める。
「……なんだ?」
「何が起きた?」
「まさか、殺されたのか……?」
最初は、ただの疑問だった。
だが、すぐにそれが、怒号と野次に変わる。
「おいおい、なんの騒ぎだよ!」
「早くなんとかしろ!」
「なんだ、余興か!? つまらねぇな!」
「……え、ちょっと待って」
なんかみんな普通に見てるんだけど!?!?
いや、確かに今ここで競売されてるのは違法奴隷だよ!?!?
でも、普通に司会が切られたんだよ!?!?
ちょっとくらいパニックになってもよくない!?!?
「……あぁ、そうか」
わかった。
この人たち、まだ**“傍観者”**のつもりなんだ。
「どうせオークションの護衛が対処するだろう」
「自分たちはただの観客」
「何かの手違いだ」
そう思ってる。
だから、今はまだ余裕がある。
「……いやいや、違うから! ここからが本番だから!!!」
そして、次の瞬間。
──ズザッ!!
護衛が動いた。
20人近い武装した男たちが、壇上に向かって一斉に駆け寄る。
「さすがに即対処か……まあ、そりゃそうだよね……」
兄上もここで終わる──
そう思った、その時だった。
ヒュンッ──!!!
「は?」
人間とは思えない速さで兄上が消えた。
いや、消えたわけじゃない。
目で追えないほどの速度で、一瞬で敵陣の中に飛び込んでいた。
そして、閃く刃。
「ッ──ガッ!!」
「ぐあぁぁぁ!!」
「ヒィィ……!!」
次々と、護衛たちの首や喉が裂かれる。
「え、え、え!? もう終わったの!? さっき駆け寄ってきた護衛たち、もう全滅してない!?」
しかも兄上の顔……
満面の笑み。
完全に楽しんでる。
「やっぱりお前、最初からこれ狙ってたよね!?!?」
そう思った瞬間。
兄上は突然、狂ったように笑い始めた。
「アハハハハハハハハハ!!!!!!」
「もっと来いよ!! せっかくの舞台じゃねぇか!!!」
「俺が主役なんだろう!? だったらもっと血を流せよ!!!!」
「…………」
「………………」
「……終わった」
もうダメだ。
これはもう、どうしようもない。
こいつは止まらない。
この状況を打破するどころか、楽しみ始めている。
観客席の方から、ガタガタと椅子を引く音が聞こえた。
「お、おい……」
「まさか、あいつ……」
空気が変わった。
ここまでは、ただの騒ぎだった。
観客は「どうせすぐに片付くだろう」とタカをくくっていた。
でも、もう違う。
壇上で笑う兄上の姿を見て、ある者が震えながら言った。
「……まさか、あいつ──」
「“血染めの童子(ブラッディ・チャイルド)”なんじゃ……」
その言葉を聞いた瞬間、会場の空気が凍りついた。
「え?」
「なにそれ?」
「兄上、そんなかっこいい二つ名持ってたの???」
「っていうか、初耳なんだけど!?!?」
いやいや、なんでそんなのが今ここで明かされるの!?!?
これ、絶対ヤバいやつじゃん!!!
ざわざわと騒ぎ出す会場。
兄上は、それを楽しむようにニヤァと笑った。
「お前ら、やっと気づいたか?」
「もうここは、オークション会場じゃねぇ」
「処刑場だろうがよ!!!!!」
──狂気が、会場を支配した。
会場のどこかで、誰かが小さく息を呑んだ。
最初はただのざわめきだった。
けれど、一人が言葉を発した途端、その動揺は瞬く間に広がっていく。
「あれ……まさか、本当に……」
「いや、まさか……そんな……」
「“血染めの童子”……!!」
その言葉が出た瞬間、空気が変わった。
さっきまで「なんだ、ただの騒ぎか」と高をくくっていた観客たちが、途端にざわつき始める。
「待て待て待て、なんかヤバい名前出てきたんだけど!? 兄上、なんでそんなイカれた異名持ってるの!?」
っていうか、初耳なんですけど!?!?
周囲では、まるで怪談話をするように小声でささやき合う声が聞こえる。
「あの名前を知ってるか?」
「ああ……知ってるとも」
「数年前、貴族街で連続殺人事件があっただろう……?」
「そう、それだ。あの事件、犯人は見つかっていないが、目撃証言があった……」
「“子供の姿をした悪魔が、笑いながら人を切り裂いていた”」
「……それが“血染めの童子”だ」
「うわああああああああああ!?!?!? 兄上、過去にそんな物騒なことしてたの!?!?!? いや、正直ありそうだとは思ってたけど、マジで!?!?」
「っていうか、なんで今まで誰も教えてくれなかったの!?!?!? ヴァルムント家、情報共有どうなってんの!?!?」
パニックになりかける私をよそに、兄上はというと──
「クックック……」
めっちゃ楽しそうに笑ってる。
いやいやいや、これもう絶対確信犯(?)だよね!?!?!?
「さてと……」
兄上は、血まみれのナイフをくるくると回しながら、ニヤリと笑った。
「次は、誰が俺の遊び相手になってくれるんだ?」
◆
「囲め!! 奴を逃がすな!!」
「死んでも止めろ!! いや、殺せ!!!」
オークション側の護衛が、次々と兄上へと襲いかかる。
総勢10人以上。
全員が武装しているし、経験もそれなりにあるはず。
でも、兄上の前では何の意味もなかった。
「……え、ちょっと待って、なにあの動き」
護衛の一人が、大剣を振り下ろした。
しかし、兄上は軽く後ろに跳ねるだけでそれをかわす。
別の男が、横から槍を突き出す。
でも、兄上はその槍の柄を掴んで勢いを利用し、宙に跳ぶ。
その動きは、まるで体操選手のような滑らかさ。
普通の人間なら絶対にできないレベルの柔軟性と瞬発力。
そして、空中で体をひねった次の瞬間。
スパァァッッ!!
「グ……ア……」
護衛の喉が裂け、血が噴き出す。
「は、速すぎる……!!」
「くそっ!! 落ち着け!! たかが子供じゃないか!!」
「……たかが子供……?」
いやいや、違うでしょ。
もう完全に「人間の動きじゃない」んだけど!?!?
バク転しながら剣を避けるって何!?!?!?!?
っていうか、今の空中での回転どうなってた!?!?!?!?
「あっ、また飛んだ!!」
兄上は、次の攻撃を受けるどころか、敵の肩を足場にして跳び上がる。
そして、そのまま頭上からナイフを突き立てる。
「ぎゃああああ!!!」
「バカな……こんな……!」
「ははっ、まだまだだな!」
「いや、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
周りがどんどん騒がしくなってくる。
観客席の方からは、もはや叫び声すら聞こえ始めた。
「や、やばい……本物だ……!」
「“血染めの童子”が、本当にいたなんて……!!」
「殺せ!! 殺せ!!!」
「バカ!! そう簡単に殺せる相手じゃない!!」
「でも、このままだと俺たちまで……!!!」
ざわざわと、観客席全体が混乱していく。
兄上は、それを楽しむようにニヤリと笑い、ナイフを舐める仕草をした。
「さぁ、次はどいつが死にたい?」
──これは、もうただの競売じゃない。
ここにいる全員が、処刑場の観客になりつつあった。
歩いている間も、心臓がバクバクとうるさい。
これから、競りにかけられる。
そんな言葉が頭を何度もよぎるたびに、胃の奥がギュッと締めつけられる感覚がした。
「いやいやいや、普通にヤバくない?」
「これ、潜入調査どころか、普通に売られて終わる未来もあるんじゃない?」
そんな不安が頭を駆け巡る中、ついに私たちはオークション会場の壇上へと連れてこられた。
◆
「さて、諸君!」
壇上に立った途端、甲高い声が響き渡った。
目の前には、異様な熱気を帯びた会場が広がっている。
「……うわ、めっちゃ人いる」
豪奢な衣装をまとった貴族風の男、鋭い目つきの商人、明らかに裏社会の人間としか思えない顔つきの男たち──
ここにいる全員が、「人間を買うため」に集まった連中だ。
背筋がゾッとする。
「さあ、本日も素晴らしい“商品”がそろっております!」
壇上の横に立つ司会らしき男が、誇張した動作で両手を広げた。
「まずご紹介するのは──この美しい兄妹!!」
あぁ、やっぱり兄妹枠なんですね。
知ってたけど!!!
「彼らは、どこぞの名家の落ちぶれた子息たちで──」
いやいやいや、待って待って、そんな話聞いてないから!?!?
「幼いながらも教育を受けており、さらに美しい容姿!!」
めっちゃホラ吹いてるやん!!!
どこの名家の話!? 誰が落ちぶれた子息!?!?
「どこぞの貴族に拾われたが、その家が没落し──」
「最終的にここに流れ着いた不運な兄妹!!」
いや、盛りすぎだろ!!! 設定めっちゃ作り込まれてるんだけど!?!?
もはや、今ここで初めて知ったんだけど、私たちそんな背景だったんだ!?
っていうか、もうここまで来ると「よくこんな話考えたな」って感心するレベル。
「さて、それでは入札を開始いたしましょう!!」
そう言った瞬間、
「ほぉ、これはなかなか」
「見た目も良いし、これは高値がつくな……」
「坊主の方はどうだ? 戦闘向きか?」
「女の方は、十分鑑賞用になるな」
……うわぁ。
嫌な言葉が、あちこちから聞こえてくる。
「これ、普通に“人間として”見られてないよね?」
確かに、ここにいる連中からしたら、私たちはただの商品。
売り買いされるための、金で手に入る「モノ」。
そんな考えがこの場に充満しているのが、嫌というほど伝わってくる。
「さあ、どなたが最初に値をつけてくださるのか……?」
司会の男が嬉々として話していると、
「500万」
「600万」
「650万!!」
……え、もう始まってる!?!?
いやいや、ちょっと待って!!!
私、まだ心の準備できてないんだけど!?!?!?
考えてる間にも、どんどん値段は上がっていく。
「おぉ、なかなかの盛り上がりですねぇ!」
司会の声が、熱気をさらに煽る。
「さあ、他にいませんか!? こんな優れた兄妹、二度と手に入りませんよ!?」
「うわぁ……こんな感じで値段つけられてくの、マジで最悪なんですけど……」
「っていうか、兄上!? お前、こんな状況で何ニヤついてんの!?」
横を見ると、兄上は余裕の笑みを浮かべていた。
「いや、絶対こいつ、なんかやる気じゃん……」
「ていうか、私たち、このまま本当に売られるんじゃない!?」
そんな最悪の予感が、ひしひしと迫ってきていた。
オークションの熱気が最高潮に達しようとしていた、その瞬間。
──ダンッ!!
壇上に響いたのは、兄上の足が床を踏み鳴らす音。
その音が、まるで空気を切り裂く合図のようだった。
会場のざわめきが、一瞬だけピタリと止まる。
そして次の瞬間、
シュンッ──!!
光が弧を描くように閃いた。
司会の男が切り裂かれた。
「…………は?」
何が起こったのか、私の脳が理解するよりも先に、会場全体が静まり返る。
壇上には、血を噴き出して倒れる司会の姿。
そして、兄上の手には、いつの間にかナイフが握られていた。
「いや、待って待って、どこから出したそれ!?!? さっきまで絶対持ってなかったよね!?!?!?」
目の錯覚じゃない。
さっきまで兄上の手は空っぽだったはずなのに、今はしっかりと両手にナイフを持っている。
どこから出したんだ!?!?!?
◆
「…………」
「………………」
「…………………」
静寂。
誰も動かない。
誰も、声を出さない。
「……え、もしかしてこれ、皆“何が起こったのか”まだ理解できてない?」
あの司会の男が突然倒れ、血を流している。
でも、それを認識するには、あまりにも突発的すぎた。
状況が理解できず、時間が止まったかのような空気。
けれど、そんなものはほんの一瞬の間だけだった。
やがて、会場のどこかから、ざわ……ざわ……と、低いどよめきが響き始める。
「……なんだ?」
「何が起きた?」
「まさか、殺されたのか……?」
最初は、ただの疑問だった。
だが、すぐにそれが、怒号と野次に変わる。
「おいおい、なんの騒ぎだよ!」
「早くなんとかしろ!」
「なんだ、余興か!? つまらねぇな!」
「……え、ちょっと待って」
なんかみんな普通に見てるんだけど!?!?
いや、確かに今ここで競売されてるのは違法奴隷だよ!?!?
でも、普通に司会が切られたんだよ!?!?
ちょっとくらいパニックになってもよくない!?!?
「……あぁ、そうか」
わかった。
この人たち、まだ**“傍観者”**のつもりなんだ。
「どうせオークションの護衛が対処するだろう」
「自分たちはただの観客」
「何かの手違いだ」
そう思ってる。
だから、今はまだ余裕がある。
「……いやいや、違うから! ここからが本番だから!!!」
そして、次の瞬間。
──ズザッ!!
護衛が動いた。
20人近い武装した男たちが、壇上に向かって一斉に駆け寄る。
「さすがに即対処か……まあ、そりゃそうだよね……」
兄上もここで終わる──
そう思った、その時だった。
ヒュンッ──!!!
「は?」
人間とは思えない速さで兄上が消えた。
いや、消えたわけじゃない。
目で追えないほどの速度で、一瞬で敵陣の中に飛び込んでいた。
そして、閃く刃。
「ッ──ガッ!!」
「ぐあぁぁぁ!!」
「ヒィィ……!!」
次々と、護衛たちの首や喉が裂かれる。
「え、え、え!? もう終わったの!? さっき駆け寄ってきた護衛たち、もう全滅してない!?」
しかも兄上の顔……
満面の笑み。
完全に楽しんでる。
「やっぱりお前、最初からこれ狙ってたよね!?!?」
そう思った瞬間。
兄上は突然、狂ったように笑い始めた。
「アハハハハハハハハハ!!!!!!」
「もっと来いよ!! せっかくの舞台じゃねぇか!!!」
「俺が主役なんだろう!? だったらもっと血を流せよ!!!!」
「…………」
「………………」
「……終わった」
もうダメだ。
これはもう、どうしようもない。
こいつは止まらない。
この状況を打破するどころか、楽しみ始めている。
観客席の方から、ガタガタと椅子を引く音が聞こえた。
「お、おい……」
「まさか、あいつ……」
空気が変わった。
ここまでは、ただの騒ぎだった。
観客は「どうせすぐに片付くだろう」とタカをくくっていた。
でも、もう違う。
壇上で笑う兄上の姿を見て、ある者が震えながら言った。
「……まさか、あいつ──」
「“血染めの童子(ブラッディ・チャイルド)”なんじゃ……」
その言葉を聞いた瞬間、会場の空気が凍りついた。
「え?」
「なにそれ?」
「兄上、そんなかっこいい二つ名持ってたの???」
「っていうか、初耳なんだけど!?!?」
いやいや、なんでそんなのが今ここで明かされるの!?!?
これ、絶対ヤバいやつじゃん!!!
ざわざわと騒ぎ出す会場。
兄上は、それを楽しむようにニヤァと笑った。
「お前ら、やっと気づいたか?」
「もうここは、オークション会場じゃねぇ」
「処刑場だろうがよ!!!!!」
──狂気が、会場を支配した。
会場のどこかで、誰かが小さく息を呑んだ。
最初はただのざわめきだった。
けれど、一人が言葉を発した途端、その動揺は瞬く間に広がっていく。
「あれ……まさか、本当に……」
「いや、まさか……そんな……」
「“血染めの童子”……!!」
その言葉が出た瞬間、空気が変わった。
さっきまで「なんだ、ただの騒ぎか」と高をくくっていた観客たちが、途端にざわつき始める。
「待て待て待て、なんかヤバい名前出てきたんだけど!? 兄上、なんでそんなイカれた異名持ってるの!?」
っていうか、初耳なんですけど!?!?
周囲では、まるで怪談話をするように小声でささやき合う声が聞こえる。
「あの名前を知ってるか?」
「ああ……知ってるとも」
「数年前、貴族街で連続殺人事件があっただろう……?」
「そう、それだ。あの事件、犯人は見つかっていないが、目撃証言があった……」
「“子供の姿をした悪魔が、笑いながら人を切り裂いていた”」
「……それが“血染めの童子”だ」
「うわああああああああああ!?!?!? 兄上、過去にそんな物騒なことしてたの!?!?!? いや、正直ありそうだとは思ってたけど、マジで!?!?」
「っていうか、なんで今まで誰も教えてくれなかったの!?!?!? ヴァルムント家、情報共有どうなってんの!?!?」
パニックになりかける私をよそに、兄上はというと──
「クックック……」
めっちゃ楽しそうに笑ってる。
いやいやいや、これもう絶対確信犯(?)だよね!?!?!?
「さてと……」
兄上は、血まみれのナイフをくるくると回しながら、ニヤリと笑った。
「次は、誰が俺の遊び相手になってくれるんだ?」
◆
「囲め!! 奴を逃がすな!!」
「死んでも止めろ!! いや、殺せ!!!」
オークション側の護衛が、次々と兄上へと襲いかかる。
総勢10人以上。
全員が武装しているし、経験もそれなりにあるはず。
でも、兄上の前では何の意味もなかった。
「……え、ちょっと待って、なにあの動き」
護衛の一人が、大剣を振り下ろした。
しかし、兄上は軽く後ろに跳ねるだけでそれをかわす。
別の男が、横から槍を突き出す。
でも、兄上はその槍の柄を掴んで勢いを利用し、宙に跳ぶ。
その動きは、まるで体操選手のような滑らかさ。
普通の人間なら絶対にできないレベルの柔軟性と瞬発力。
そして、空中で体をひねった次の瞬間。
スパァァッッ!!
「グ……ア……」
護衛の喉が裂け、血が噴き出す。
「は、速すぎる……!!」
「くそっ!! 落ち着け!! たかが子供じゃないか!!」
「……たかが子供……?」
いやいや、違うでしょ。
もう完全に「人間の動きじゃない」んだけど!?!?
バク転しながら剣を避けるって何!?!?!?!?
っていうか、今の空中での回転どうなってた!?!?!?!?
「あっ、また飛んだ!!」
兄上は、次の攻撃を受けるどころか、敵の肩を足場にして跳び上がる。
そして、そのまま頭上からナイフを突き立てる。
「ぎゃああああ!!!」
「バカな……こんな……!」
「ははっ、まだまだだな!」
「いや、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
周りがどんどん騒がしくなってくる。
観客席の方からは、もはや叫び声すら聞こえ始めた。
「や、やばい……本物だ……!」
「“血染めの童子”が、本当にいたなんて……!!」
「殺せ!! 殺せ!!!」
「バカ!! そう簡単に殺せる相手じゃない!!」
「でも、このままだと俺たちまで……!!!」
ざわざわと、観客席全体が混乱していく。
兄上は、それを楽しむようにニヤリと笑い、ナイフを舐める仕草をした。
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