転生先がサイコパス一家だったので悪役令嬢になりきってみせます!

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“血染めの童子” vs. 護衛長

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「チッ……仕方ないな」

その声が響いた瞬間、混乱していた護衛たちの動きがピタリと止まった。

まるで蜘蛛の巣に絡め取られた虫のように、全員がその場に凍りつく。

オークション会場の奥から、一人の男がゆっくりと壇上へと歩み出る。

「……うわ、なんかすごいの出てきた」

その男は、明らかに他の護衛とは違う雰囲気をまとっていた。

鍛え上げられた筋肉が無駄なく鎧の下に収まり、腰には見るからに高級そうな剣が二本。

他の護衛とは比べ物にならないほどの威圧感。

そして、何より──

「おい、あれって……」

「まさか、元王国騎士団の……?」

「くそっ、なんでこんなところに……!」

観客席の方でも、ざわつく声が広がっていく。

──あぁ、なるほどね。

この男、ただの護衛じゃない。

たぶん、本職の剣士か、それに準ずる実力者。

オークション側も、さすがに万が一のために相応の戦力を抱えてたってことか。

「まさか、“血染めの童子”が本物とはな……」

護衛長らしき男は、鋭い目で兄上を見据えながら剣をゆっくりと抜いた。

「だが、ここで好き勝手に暴れられると思うなよ、小僧」

「……」

兄上は、その言葉を聞いても何の反応も示さない。

ただ、目を細め、

「へぇ……お前、強いのか?」

ニヤリと笑った。

「……おいおい、やめろ、やめろ。お前、そういうこと言う時マジで楽しそうじゃん……」

そして、次の瞬間──

──ガキンッ!!

空気が一瞬にして張り詰めた。

兄上のナイフと護衛長の剣が、交差した。



兄上は、護衛長の懐に飛び込むようにして切りかかった。

それを、護衛長は見事な剣捌きで弾いた。

「ッ……!」

「ふん……なかなか速いな」

護衛長の言葉通り、兄上の動きは異常なまでに速かった。

体勢を崩されるどころか、すぐさま空中で身をひねり、次の一手を繰り出す。

だが──

「遅い」

護衛長は、一歩も引かずにその攻撃を流した。

「……おいおい、今のを受け流せるのかよ!? 他の護衛は一瞬で切り刻まれてたのに!!!」

兄上の戦い方は、圧倒的な速さと柔軟な体捌きが特徴だった。

一撃必殺ではなく、何度も切り刻むような連撃。

普通の相手なら、彼の攻撃をまともに捉えることすらできない。

……でも、護衛長は違った。

「どうした? その程度か?」

余裕すらある。

兄上の攻撃を最小限の動きでいなし、必要な時だけ剣を振る。

「え、マジで強くない……?」

兄上が初めて、自分より“上”の相手に当たったような気がした。

でも、兄上は……

「アハハハハハ!!!!!」

狂ったように笑いながら、さらに速く動き出す。



「こっちこそ……もっと見せてみろよ、おっさん!!!」

刹那、兄上の動きがさらに加速する。

「今のでも十分速かったのに、まだ上があるの!?」

まるで影のように消え、次の瞬間には護衛長の背後に回り込んでいた。

護衛長はすぐさま振り向きざまに剣を振る。

「だが──遅い」

いやいや、兄上の動きが異常すぎるんだって!!

またしても、護衛長の懐へと潜り込む。

そして、兄上は狙いすましたように──

スパッ!!

護衛長の左肩を切り裂いた。

「くっ……!!」

血が飛び散る。

でも、護衛長は怯まなかった。

「……ふん、上等だ」

次の瞬間、兄上の足元が**ガキンッ!!!**と鳴った。

護衛長の剣が、兄上の足元の床を砕いていた。

「え、待って待って、それどんな戦い方!?!?」

兄上の動きが尋常じゃないほど速いなら、それを活かせない状況を作ればいい。

まさかの「足場崩し」。

その一瞬のスキを突き、護衛長は兄上の腹に剣の柄を叩き込んだ。

「ぐっ……!」

「やっと捕えたぞ……!」

初めて、兄上の動きが止まった。

会場が、一瞬の静寂に包まれる。

「……え?」

もしかして、これ……兄上、負け──

そう思った、その時。

「……アハハ……ハハハハハッ!!」

兄上が、笑った。

護衛長が、一瞬だけ動きを止めた、その瞬間。

ザシュッ!!!

「ッ……!?」

兄上のナイフが、護衛長の腹に突き刺さっていた。

「……なっ」

護衛長が、目を見開く。

「やっぱり、お前強いわ……」

兄上は楽しそうに微笑んだ。

「だからこそ、俺も楽しませてもらったぜ……!!」

──バキンッ!!!

そのまま兄上は、護衛長の喉を切り裂いた。

「が……ッ……!!!」

護衛長が、ゆっくりと崩れ落ちる。

そして、

「……決着、か」

再び、会場が沈黙に包まれた。

兄上は、血に濡れたナイフを振り払いながら、ゆっくりと周囲を見渡す。

「さて……」

「次は、誰が俺の遊び相手になってくれるんだ?」

この瞬間、会場全体が本当の恐怖に飲み込まれた。

会場全体が、沈黙に支配されていた。

兄上の狂気に、恐怖し、誰もが息を呑んでいた。

誰もが、この地獄の光景を前にして、動けずにいた。

──その時。

ドボッ……!!

不吉な音がした。

「……ッ!?」

兄上の口から、鮮血が噴き出る。

「え?」

今、何が起こった?

兄上は確かに、勝ったはずだった。

護衛長の喉を切り裂き、息の根を止めたはずだった。

なのに──

兄上の脇腹には、深々と剣が突き立てられていた。

「……嘘、でしょ」

恐る恐る視線を向ける。

そこには、死んだはずの護衛長がいた。

いや、明らかに殺したはずだった。

喉を掻っ切られ、確実に血を失い、息絶えたはずだった。

それなのに、護衛長はまるで何事もなかったかのように剣を握りしめ、兄上を刺していた。

「いやいやいやいやいやいやいや!!! 首掻っ切られてましたやん!?!?!?!?」

「普通死んでるでしょ!? なんで動けるの!?!? もしかして人間じゃない!? ねぇ、もしかしてゾンビ!?」

混乱する私をよそに、護衛長は剣を引き抜いた。

兄上は、すぐに後ろへ跳び、致命傷を避ける。

だが、確実にダメージは受けていた。

「くっ……!」

兄上が歯を食いしばり、脇腹を押さえる。

血が滴る。

「……やっべぇ、兄上が初めて“ダメージを受けた”!!!」

それまで、一方的に敵を切り刻んできた兄上が、初めて傷を負った瞬間。

場の空気が、少しだけ変わった。

恐怖の支配が、ほんのわずかに揺らぐ。

その隙を突くように、護衛長が低く笑った。

「……甘いな」

そして、傷だらけの体をゆっくりと起こすと──

「ヒール」

光が、護衛長の体を包む。

「………………は?」

光が消えた時には、護衛長の傷がすべて消えていた。

喉を掻っ切られ、出血多量で死ぬはずだったのに、何事もなかったかのように立ち上がる。

傷一つない、完全な姿で。

「……いやいやいやいやいや!!! 首掻っ切られてたよね!? なんで回復してるの!?!? それもうヒールとかいうレベルじゃなくない!?!?!?」

護衛長は、ニヤリと笑った。

「俺はな……数少ない“癒しの魔法”を使える魔法剣士だ。」

「ちょっとやそっとの傷は、すぐに治せるぜ?」

堂々と言い放つ護衛長。

「……いや、ちょっとやそっとの傷の話じゃなくない!?!?!?」

「普通は、首を切られたら終わりでしょ!? なんで回復してんの!? それもう別の能力でしょ!?!?」

もう、完全に私の理解を超えていた。

そんな私の混乱なんてお構いなしに、護衛長は剣を構える。

兄上も、ニヤリと笑いながら構えを取った。

そして──

再び、激戦が始まる。



護衛長が、一歩踏み込む。

その瞬間、兄上がナイフを振るった。

しかし、護衛長はその動きを読んでいたかのように剣を振り下ろし、弾き飛ばす。

金属音が響き、兄上のナイフが宙を舞う。

「くっ……!」

兄上は即座に距離を取るが、護衛長はその隙を見逃さなかった。

「遅い」

一気に間合いを詰める。

「やばい!! 兄上が押されてる!!!」

護衛長の剣が横薙ぎに振るわれる。

兄上は、ギリギリのところでそれをかわし、カウンターでナイフを突き出す。

「……ッ!!」

護衛長は、剣の腹でそれを弾き、即座に反撃。

剣が兄上の頬をかすめ、血が散る。

「初めて……本気で兄上が追い詰められてる……!!!」

兄上は確かに強い。

今まで、どんな敵にも圧倒的な力でねじ伏せてきた。

でも、相手が回復できる魔法剣士だった場合、戦い方が根本的に変わる。

兄上の戦法は、「相手を切り刻んで倒す」ことが前提。

でも、何度斬りつけても回復されるなら、その戦法は意味をなさない。

「じゃあ、どうするの……?」

「兄上がこのまま押し切られる……?」

「いや、でも……」

兄上は、まだ笑っている。

楽しそうに。

まるで、この状況さえも「遊びの延長」とでも言うかのように。

何か策がある……?

その答えが、もうすぐ明かされる気がした。
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